デイサービスのICTの事例です。今回は、広島県広島市にある、社会福祉法人IGL学園福祉会でのモデル事例の紹介になります。IGLが運営している事業としては、デイサービス以外にも、訪問介護、訪問看護、居宅、ショートステイ、福祉用具、サ付住、地域包括センター、介護老人保健施設と幅広く展開しております。どう連携したのか、見てみましょう。
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ICT活用の概要
職員が、タブレットを用いて、サービスの提供内容などの基本的情報を入力し、いつでも、どこでも一覧できるアプリケーションを活用。複数の職員で日々の業務記録をタブレットを用いて行い、記録作業の効率化や、利用者家族・行政への報告書作成における転機作業の省略を可能にすることができました(※音声入力に関しては、現場ではまだ活用できるレベルではなかった)。結果として業務の大幅な削減、データをもとにした的確サービスの提供による、ケアの向上に貢献が見られました。
ICT化への課題
中年経営者の固定観念:従業員のリテラシーがない
IGLのような時代の変化に適応できる企業は多くないですね。インターネットが認知され初めた頃、『インターネットは怪しい。インターネットで買い物をするなんてとんでもない。』『電気屋で買い物をしないと、保証が効かない』『インターネットは偽物ばかりだ』といった、知らないものへの恐怖を口にしませんでしたか?同じような現象が介護の経営者にも起きています。理解のない経営者、変化に対応のできない経営者は口を揃えて次のように言っています。『ICT化はうちの従業員には無理です。』と。
しかし、50代、60代でもタブレットを活用し、サービスの記録を行う事業所は数多くあります。やってみて慣れるまでは、なにをやっても大変ですよね。しかし、慣れれば誰でもできるのだから、早期にとりかかり、一刻も早く慣れることが必要です。それを介護事業所に理解してもらうのが一苦労なんですが。
セキュリティーの観点
『クラウドサービスだと、セキュリティーが怖い。』という声も耳にします。しかし、これは大きな間違い。紙で管理すれば、落としてしまう可能性や、ファックスを送り間違えてしまう可能性があります。人を介せば介すほどミスは多発するものです。どんなに優秀な人でも間違いは起こすのだから、極力人を介す必要がないところは、省いたほうが良いですよね。しかし、こういった認識の誤りは広くはびこっています。
ICTの活用事例
日常の記録作業
主に、入浴・排泄・食事・バイタルデータ等に基本的な利用者の日々の情報を入力し、入浴の際に”熱があったため、入浴を控えた”、”排泄が3日でていないため、下剤が必要かもしれない”等の特記事項は紙で記録を行なっていました。(※他社ソフトであれば、特記事項の入力も可能)
職員間でのデータの共有
このデータをもとに、利用者の日常生活における各種生活リズムの把握、職員のバイタルデータは職員間の申し送り・カンファレンスの際にも活用しており、また医師に経過観察を指示されている利用者の状態を報告する際にも活用しています。そうすることで、サービスを提供する現場では、ファイルを取りに行く手間の省略や、伝達ミスを減らすことによるケアの質向上に影響を与えています。特に過去のデータを、必要に応じていつでもみることができるのは業務効率をグッと引き上げたのです。すごいですね。
利用者の家族、ケアマネージャーへの報告
加えて、日々の記録をタブレットで行なっているため、普段接点の低いケアマネージャーや、利用者の家族へ報告をしようと試みるときに、データベースから情報をそのまま引っ張ってくることができ、より具体的な情報を確認してもらえるようになりました。そうすることで提供する介護サービスへの、家族や、ケアマネの満足感も高まっています。デイサービスでは、送迎の際に口頭で状況を伝えることができるため、入所系で更なる価値を発揮します。
ICT導入の効果
職員における記録業務の効率化
日々記録する利用者情報の入力手間が削減されます。具体的には、業務の30%-40%が削減されたと出ています。今回の実験では、一人一人にタブレットを渡すのではなく、複数の職員で利用しました。ストレスなく入力はできるものの、職員一人あたりに1つタブレットがあるとさらに効率化ができるとのことでした。改善できたのはすごいですが、逆にここまでアナログで事業が運営できるビジネスモデルだったことがすごいですね。
ケアの質の向上
今まで所管で決めることが多かったケアの方向性を決める際、職員間で入力したデータを元に検討することで、早期に改善を行うことができました。今回の検証の中では、通称介護のデータをチェックしたところ尿失禁が続き、夜ちゃんと眠れていないのではないと推測されており、ショートステイを2週間つかって生活のリズムを整えて、在宅の生活に戻ってもらうというケアにつなげることができました。
実際に利用した従業員の声
従業員Aの声
導入以前は毎日の業務として、入退館・リハビリ・バイタルなどそれぞれの担当が各現場で各用紙に記入したものを、一覧の名簿に記入。それをまた日報、機能訓練計画書など様々な書類に転記していました。どうしても書類作成に集中できる時間はご利用者様の帰った後なので毎日残業でした。導入後は残業が減り、みんな喜んでいます。
従業員Bの声
リアルタイムなバイタルの結果をお風呂から確認できるので、入浴、再検の方がすぐに分かります。また、帰宅時間の早い順に並び変わるので、誘導する順番が誰でも一目瞭然です。情報の一元化、これにより職員も現場を飛び回ることなく対応ができます。記録や書類を大量の書類から探す手間と時間もかからなくなりました。
最後に
サービスによって負担の変わる業務は、様々ですが、介護のサービスに直接関わらないノンコアな業務については、突き詰めれば全てICT化を進めていく必要があります。ただ効率化の行き過ぎはよくありません。介護サービスは、人にしか行うことの出来ないものだからです。どこまでいっても、人から人へ行うサービスである以上、コアとなる業務までICT化を促進することは現実的には不可能でしょう。そこで、介護本来の業務に集中するための環境を作ることを、経営者や管理者は、利益の観点以上に真剣に考えるべきではないでしょうか。そうすることで、報酬が下がるから業務削減が必要だ、というよりも、利用者への良質な介護サービスの提供を可能にすることでしょう。
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