訪問介護でのICT化の導入事例、3選

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訪問介護のICT化の事例です。ICTというと堅苦しくてわかりづらいですが、一言で言えば、インターネット化と捉えて問題ありません。今回はICT化を進めるにあたって生じる課題から、実際にどのように課題を解決していくのか考えていきます。

訪問介護における課題

直行・直帰ができない移動の非効率なサービス提供など、抱えている課題は数多くあります。

課題1:帳票類の作成

あなたも経験があるのではないでしょうか。ヘルパーは、介護記録を始めとした数多くの帳票を作成しなければならず、職員の残業の一因になっています。介護は本来業務でない事務作業が多いのです。例えば、同じ内容の記述を異なる帳票間で重複して行なっています。業界の慣習として、転記作業は根深く残っています。なんと無駄の多いことでしょう。

課題2:ヘルパーの移動効率の悪さ

特定事業所加算の取得のためか、ヘルパーが事業所に来て、その日の支援指示書をファイルで受け取ってから利用者のお宅へ訪問し、事業所に帰ってきてから、報告書を作成しており、残業を誘発しています。移動の時間も賃金を払わなければならないのですが、ヘルパーの移動は介護報酬の対象にはならないのです。悲惨ですね。システムを使っても特定事業所加算はとれるので、うまく活用しましょう。一人当たりの生産性大事ですよ!

課題3:記録が属人的でバラバラ

これは想いの強い事業所にありがちな事例です。利用者への想いがあふれて、記録がいっぱいになってしまいます。介護記録が手書きで、フォーマットがあるようで無いため、結果として読みにくいものになってしまいます。また、記録内容がヘルパーによってまちまちであるため、モニタリング表や支援経過表の作成に時間がかかり、サ責の負担が大きくなっています。

課題4:サービスの記録の品質管理が難しい

ただ何をした、どうなったというだけの記録では、介護の成果や効果がわからないので介護方法の改善もできず、ヘルパーのスキルを評価することもできないのです。

課題5: 情報共有が口頭のため、ミスが生じる

人間を介せば介すほどミスが生じるのは至極真当なことです。利用者に関する情報共有が電話を中心に口頭やメモで行われており、伝達のもれや間違いが起こりやすく、クレームになることもあります。伝達はヘルパー同士ではなく、サ責を通して行われます。

課題6: ヘルパーは、サ責に頼りづらい

電話では、忙しいサ責に遠慮して必要な報告や相談を控えてしまうヘルパーがいます。特に登録ヘルパーは、言ってしまえばパートのため、正社員に遠慮しがちな傾向にあるのです。

ICT化導入による活用事例1: サービス提供表から、サービスの実施、請求の一元化

通常、サービスを記録してから、事業書にもどって入力していた作業を削減。サービスの提供をするだけで、保険の請求までの一元管理を実現されている事業所の事例です。

STEP1: 利用者の情報を登録

保険証の内容、年齢、性別、病状といった基本情報を確認できます。利用者の住所もわかるため、訪問の際に困ることがありません。

STEP2: 介護指示書を携帯端末でチェック(※スマホ、タブレット)

携帯端末で、指示書の内容や、これまでの経過支援記録、利用者がうけてきた介護業務を見ることができるため、訪問の都度、事業所に戻る必要がなくなり、利用者のお宅へ直行が可能となるため、移動効率が改善されます。

STEP3: サービスの記録は、利用者宅でそのまま入力

利用者のお宅へ訪問時、携帯端末でサービス実施後、その場で記録を入力します。スマートフォンから入力した内容は、介護記録日誌や介護支援経過表、実績に自動的に反映されます。そのため、実地指導のために、新たに介護記録や、業務日誌を残す手間を省くことができます。また、介護記録は、モバイルプリンタを使って印刷し、利用者の家に置くことができます。

STEP4: 請求前のサービス実施内容のチェックと国保連に請求

管理者は、パソコンのデータベースを見ることができます。利用者一覧、日付一覧、従業員ごとにサービス内容を確認することができるため、効率良くダブルチェックを行うことができます。そのため忙しいと言われる請求時期でさえ、残業しなくていいのです。そして、そのまま伝送で国保連に請求することができます。

STEP5: 利用者への請求

国保連と合わせて、利用者の1割負担の請求を行う必要があります。(※人によって2割)しかし、保険請求ソフトウェアであれば、一括して利用者への保険内、保険外合わせた、利用者への請求書を発行することができます。ソフトによっては、口座振替の登録まで行うことができます。

STEP6: 職員への給与計算

サービス実績データをもとに、自動で職員の給与を計算することができます。この際、移動の費用も時間や、回数で計算することが可能です。

ICT化の活用事例2: グループチャット

医療・介護連携でよくいわれいてる。情報の共有。とりわけ難しいソフトを導入する必要はありません。LINEのように、グループで情報の共有させできればいいのです。

STEP1: 利用者ごとにグループを作る

訪問介護の利用者ごとに「ルーム」をつくり、担当するヘルパーとサ責がメンバーとして登録します。ヘルパーは、他のヘルパーへの引き継ぎ事項やサ責への質問を、その利用者のルームにスマートフォンから書き込みます。そうすることで、自分宛の内容でなくても確認できるため、円滑に情報共有を進めることができます。結果として、職員同士のコミュニケーションも活発化されます。

STEP2: TOPICを立てる

勉強会や、イベントについても簡単にグループを作ることができるので、用途によって職員のコミュニケーションを促進させることもできます。

STEP3: 困った時は、過去のやりとりを検索する

サービス提供や、社内ルールで、困った時は、過去の履歴を検索できるため、誰かに電話で聞きづらいことも自分で調べることができます。特に新しく入られた人は、気軽に調べることができます。結果、サ責もコミュニケーションコストが減るので、業務負荷が削減されます。

ICT化で人材の確保の推進

訪問介護においてICT化をすることが可能にできれば、人材の確保が用意になります。実際に私がコンサルをさせていただいている事業所では、登録ヘルパーが180%増、訪問件数1.5倍を実現しました。

短時間労働者の有効活用

世の中には、1日3時間ほど、週に1-4回働ける方がいます。しかし、事業所側からすれば週1勤務では、現場に出すヘルパーとして採用できていないのが実情でした。ここにICT化は大きな影響をだしています。スマホの導入(※ICT化)によって、登録ヘルパーの直行直帰が実現できるようになったため、採用条件を拡大することができるのです。結果として、登録ヘルパーの数は増え、訪問件数を1.5倍を実現可能にしたのです。いかに世の中の活用できていない資源を使うか。重要なテーマです。

売り上げの拡大と離職率の低下

訪問件数があがった結果。事業所としての売り上げは1.5倍になりました。加えてヘルパーさんも生活スタイルに合わせて働くことができるので、離職率も低下しました。いづれどこの事業所も変化してくるでしょうが、差別化するなら今がチャンスです!

最後に

現代では、LINEのようなチャットツールを使ってコミュニケーションをとるのが日常になってきています。その中で、ICT化に対応できない人はあまりいないでしょう。ICT化というと大げさに聞こえるかもしれませんが、『記録を電子化しましょう。無駄を省き人力によるミスを無くしましょう』という話なのです。枠組みが決まっていれば、ミスは減り、サービスの記録も均質化されるため、介護の質も向上していくのです。何事も、環境変えるのは一定抵抗を伴いますが、中長期的に、あなたへのメリットは計り知れないでしょう。

■参考

・医療・健康分野におけるICT化の今後の方向性
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/iryou/dai2/siryou3.pdf

・ASP・SaaS における情報セキュリティ対策ガイドライン
http://www.soumu.go.jp/main_content/000166465.pdf

・ASP・SaaS 事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン
http://www.soumu.go.jp/main_content/000166469.pdf

・介護現場におけるICTの利活用,日本政策金融公庫総合研究所主席研究員
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/ronbun1602_01.pdf