
フィジカルアセスメントとは
フィジカルアセスメントは問診・視診・触診・打診・聴診の5技法で身体所見を系統的に評価する手法。介護職の観察範囲、医療行為との境界、SBAR連携、高齢者の非典型サインまで解説。
この記事のポイント
フィジカルアセスメントとは、問診・視診・触診・打診・聴診の5技法を組み合わせて、利用者の身体所見を系統的に観察・評価する手法です。看護師は「根拠ある看護ケアの選択」のために実施しますが、介護現場では介護職が初動の「観察」を担い、看護師が「評価と判断」を担うという分業が成立します。バイタルサインの変化や食欲低下・傾眠といった高齢者特有の非典型サインを早期に察知し、SBARで看護師に報告することが、誤嚥性肺炎・脱水・転倒急変の防止につながります。
目次
フィジカルアセスメントの定義と介護現場での位置づけ
フィジカルアセスメント(physical assessment)は、医療職が利用者の身体から直接情報を収集し、健康状態を系統的に評価する技術の総称です。問診で主観的情報(subjective data)を、視診・触診・打診・聴診で客観的情報(objective data)を集め、両者を統合して「いま何が起きているか」「次に何をすべきか」を判断します。
医師の診察との違い
医師が行う身体診察は「診断を確定する」ことを目的にしますが、看護師のフィジカルアセスメントは看護診断=必要なケアの根拠づけを目的にする点で異なります。介護現場ではさらに性格が変わり、介護職が行うのは「観察と異変察知」であって診断ではありません。判断は配置看護師・訪問看護師・医師が担うため、介護職は「いつもと違う」を言語化して伝えることが最重要任務になります。
なぜ介護現場でも必須なのか
高齢者は症状が非典型化しやすく、肺炎でも発熱が出ない、脱水でも口渇を訴えない、心筋梗塞でも胸痛が軽いといった「症状の鈍麻」が起こります。食欲低下・傾眠傾向・意欲低下・尿量減少といった生活面のサインこそが急変の前触れになることが多く、利用者を日常的に観察している介護職の気づきが、救命と入院回避の分岐点になります。これがフィジカルアセスメントの知識を介護職が学ぶ理由です。
介護福祉士養成課程での扱い
2017年度以降の介護福祉士養成課程では「人間とからだのしくみ」「医療的ケア」が必修化され、バイタル測定・呼吸状態の観察・意識レベル確認といったフィジカルアセスメントの基礎が教育内容に組み込まれました。実地研修付きの喀痰吸引・経管栄養が介護福祉士の業務として認められた制度変更とも連動しており、医療と介護の境界線上で動ける専門職が制度的に求められています。
5技法の役割と具体的な観察項目
フィジカルアセスメントは下表の5技法を組み合わせて実施します。介護職が単独で完結させる必要はなく、「日常で気づける範囲」を意識的に拾うことが目的です。
| 技法 | 方法 | 主な観察項目 | 介護職が日常で拾えるサイン |
|---|---|---|---|
| ① 問診 | 本人・家族への聴取(OPQRST/SAMPLE法) | 発症時刻・性状・部位・既往・服薬 | 「いつから」「どこが」「どう違うか」を言葉にできる |
| ② 視診 | 目で観察(明るい場所で) | 顔色・皮膚色・浮腫・呼吸の仕方・歩行 | 顔色のチアノーゼ、肩で息をする努力呼吸、ふらつき |
| ③ 触診 | 手のひら・指腹で触れる | 体温感・湿潤・腫脹・圧痛・脈の強さ | 手足の冷感、皮膚のツルゴール低下(脱水サイン) |
| ④ 打診 | 指で軽く叩いて反響音を聞く | 胸郭・腹部の含気・液体貯留 | 原則として看護師の領域。介護職は実施しない |
| ⑤ 聴診 | 聴診器で内部音を聞く | 呼吸音・心音・腸蠕動音・血圧 | 原則として看護師の領域。介護職は実施しない |
問診の枠組み:OPQRSTとSAMPLE
救急現場で標準化されている問診の枠組みが、介護現場でも応用できます。OPQRSTは「Onset(発症)/Provocation(誘因)/Quality(性状)/Region(部位)/Severity(程度)/Time(経過)」、SAMPLEは「Symptoms(症状)/Allergy(アレルギー)/Medication(服薬)/Past history(既往)/Last meal(最終食事)/Event(出来事)」の頭文字です。利用者本人が答えられない場合でも、家族・前シフトの介護職・記録から情報を集めればこの枠組みで埋められます。
バイタルサイン6項目の正常範囲(高齢者目安)
| 項目 | 正常範囲 | 注意すべき値 |
|---|---|---|
| 体温 | 36.0〜37.0℃ | 37.5℃以上、または平熱より1℃以上の上昇 |
| 脈拍 | 60〜80回/分 | 50回未満/100回以上、不整脈 |
| 呼吸 | 12〜20回/分 | 10回未満/24回以上、努力呼吸 |
| 血圧 | 収縮期100〜140mmHg | 収縮期90未満/180以上、いつもより30以上の変動 |
| SpO2(経皮的酸素飽和度) | 96〜100% | 93%未満で要報告、90%未満は緊急 |
| 意識レベル | JCSで0(清明) | JCS I-1以上、傾眠・呼びかけ反応低下 |
意識レベルはJCS(Japan Coma Scale)またはGCS(Glasgow Coma Scale)で評価しますが、介護現場では「呼びかけに応じるか」「目を開けるか」「会話の辻褄が合うか」を確認できれば十分です。
介護職が押さえるべき観察ポイントと連携の型
① 高齢者の非典型サインを「いつもと違う」で拾う
高齢者の急変は教科書通りの症状で来ません。以下は介護現場で頻出する「非典型サイン」の例です。
- 食欲低下・水分摂取量の減少:感染症・脱水・心不全悪化の初期サイン
- 傾眠傾向・呼名反応の鈍化:低血糖・電解質異常・脳血管障害の可能性
- 意欲低下・無気力:肺炎・尿路感染・うつ・薬剤副作用の幅広い鑑別が必要
- 歩行のふらつき・転倒の増加:起立性低血圧・薬剤性ふらつき・脱水
- 失禁回数の増加・尿臭の変化:尿路感染症の前駆症状
これらは検査値や体温に出る前から表れることが多く、普段の様子を知る介護職にしか拾えません。「なんとなく違う」を放置せず記録に残し、看護師に共有することが急変防止の第一歩です。
② SBARで報告する(伝達ロスを減らす型)
看護師・医師への連絡では、SBARという4要素の型を使うと情報が漏れません。
- S(Situation/状況):何が起きているか。「A様が30分前から呼吸が荒く、SpO2が92%です」
- B(Background/背景):これまでの経緯。「3日前から食事量が半分以下、昨日37.5℃の微熱」
- A(Assessment/評価):自分の見立て。「誤嚥性肺炎の可能性が高いと感じます」
- R(Recommendation/提案):希望する対応。「至急、訪問してバイタル確認をお願いします」
③ 医療行為との境界を理解する
介護職が単独で行えるのは「観察と日常的なバイタル測定(体温・脈拍・血圧・SpO2)」までです。聴診器による呼吸音聴取・打診・浣腸・褥瘡処置などは医療行為にあたり、原則として看護師または研修を修了した者が行います。喀痰吸引・経管栄養は実地研修修了者のみが実施可能です。境界を曖昧にせず、「観察して報告するまで」を自分の責任範囲と明確に持つことが、利用者の安全と介護職自身の身を守ります。
④ 認知症の方を観察する工夫
認知症の方は「痛い」「苦しい」を言語化できないことが多いため、非言語情報を読み取る必要があります。表情の硬さ、呼吸の浅さ、特定の動作(お腹を押さえる、頭を振る)、食事中の咽せ、行動・心理症状(BPSD)の悪化などが体調不良のサインになり得ます。日々のケア記録に「いつもと同じか/違うか」を1行でも残しておくと、変化に気づきやすくなります。
フィジカルアセスメントに関するよくある質問
Q1. 介護職が聴診器を使って呼吸音を聞いてもいいですか?
聴診による呼吸音・心音・腸蠕動音の評価は医療行為に該当すると一般に整理されており、介護職が単独で行うべきではありません。SpO2測定や視診による呼吸状態の観察(胸の動き・呼吸数・努力呼吸の有無)までが介護職の役割で、聴診は配置看護師や訪問看護師に依頼します。
Q2. 介護福祉士の養成課程でフィジカルアセスメントは学びますか?
はい。2017年度以降の介護福祉士養成課程では「人間とからだのしくみ」「医療的ケア」が必修化され、バイタルサインの基礎、呼吸状態の観察、意識レベル確認、急変時の対応などが学習内容に含まれています。実地研修を修了すれば喀痰吸引・経管栄養も実施可能になります。
Q3. 在宅介護でも家族がフィジカルアセスメントを学んだほうがいいですか?
家族が体温計・パルスオキシメーター・血圧計を使って数値を記録できると、訪問看護師や主治医への情報共有が圧倒的にスムーズになります。「いつから・どのくらい・どんな様子か」をメモする習慣をつけるだけでも、緊急時の判断が早くなります。地域包括支援センターや訪問看護ステーションが家族向け勉強会を開催している場合もあるので相談してみてください。
Q4. SpO2が93%でした。すぐ救急車を呼ぶべきですか?
機器の当て方や末梢循環で値はぶれるため、まず正しく測り直します。93%未満が続く・90%未満まで下がる・チアノーゼや努力呼吸が出る場合は緊急性が高く、看護師に至急報告のうえ救急要請を検討します。ふだんの値(COPD等で常時94%前後の方もいる)との比較が重要です。
Q5. 認知症の方の急変サインはどこを見ればいいですか?
言語化が難しいため、非言語サインと普段との変化を重視します。具体的には、表情のこわばり、食事中の咽せの増加、急な傾眠、BPSDの悪化、特定部位を押さえる仕草、歩行のふらつき増加などです。「いつもと違う」を毎日1行記録に残しておくと、後から看護師が経過を追えます。
参考資料
- 厚生労働省「介護福祉士養成課程における教育内容の見直しについて」(カリキュラム改定資料)
- 厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(医療行為と介護の境界整理)
- 日本看護協会「看護に活かすフィジカルアセスメント」関連教材
- 日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業」報告書(SBARを活用した急変対応事例)
- 公益社団法人日本介護福祉士会「医療的ケアに関する研修教材」
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。