
成年後見人とは
成年後見人とは、認知症などで判断能力が不十分な方の財産管理や身上保護を担う支援者。法定後見と任意後見の違い、家庭裁判所への申立て手続き、費用・報酬、介護現場との関わり、2026年の制度改正ポイントまで用語集としてやさしく解説します。
この記事のポイント
成年後見人とは、認知症や知的障害・精神障害などで判断能力が不十分になった方を、法律面から支援するために家庭裁判所が選任する人のことです。本人に代わって預貯金や不動産などの財産管理を行い、介護サービスや医療の利用契約を結ぶなど、本人の権利と生活を守る役割を担います。2026年には26年ぶりの大改正が予定され、3類型の一本化や有効期間の設定など、より柔軟な制度へと生まれ変わります。
目次
成年後見人の定義と制度の目的
成年後見人は、民法および「成年後見制度」(2000年4月施行)に基づき、判断能力が不十分な人の権利擁護を担う立場の人を指します。介護現場では「身寄りのない高齢者」「認知症が進行した利用者」の代理人として登場することが多く、ケアプランや施設入居契約、医療同意の場面で密接に関わります。
成年後見人が必要になる場面
- 認知症の親が悪質な訪問販売で高額契約をしてしまい取消したい
- 身寄りのない高齢者が特別養護老人ホームに入居する際の契約代理
- 判断能力が低下した本人に代わって介護保険サービスを契約する
- 本人名義の不動産を売却して介護費用に充てたい
- 遺産分割協議に判断能力が不十分な相続人がいる
制度の3つの基本理念
成年後見制度は次の3つを基本理念として設計されています。
- ノーマライゼーション:障害や認知機能が低下しても、地域で当たり前の生活を続けられるよう支援する
- 自己決定権の尊重:本人の意思や希望を最大限尊重し、できることは本人に委ねる
- 身上保護の重視:財産管理だけでなく、生活・医療・介護の側面からも本人を守る
つまり成年後見人は単なる「財産管理人」ではなく、本人の人生をトータルに支える伴走者と位置づけられています。
法定後見と任意後見の違い/後見・保佐・補助の3類型
成年後見制度は大きく「法定後見」と「任意後見」の2つに分かれます。さらに法定後見は本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型があります。
法定後見と任意後見の違い
| 項目 | 法定後見 | 任意後見 |
|---|---|---|
| 利用タイミング | 判断能力が低下してから(事後対応) | 判断能力があるうちに準備(事前対応) |
| 後見人を選ぶ人 | 家庭裁判所 | 本人が自由に選ぶ |
| 権限の範囲 | 類型ごとに法律で定められる | 契約で自由に設定 |
| 監督 | 家庭裁判所+必要に応じて監督人 | 必ず任意後見監督人が選任される |
| 主な利用層 | すでに認知症が進んだ高齢者 | 将来に備えたい高齢者・障害のある方の親 |
法定後見の3類型(後見・保佐・補助)
| 類型 | 本人の判断能力 | 支援者の名称 | 主な権限 |
|---|---|---|---|
| 後見 | 欠けているのが通常の状態(重度の認知症など) | 成年後見人 | 包括的な代理権・取消権 |
| 保佐 | 著しく不十分(重要な財産行為が困難) | 保佐人 | 同意権・取消権、申立てによる代理権 |
| 補助 | 不十分(一部の支援が必要) | 補助人 | 申立て範囲内の同意権・代理権 |
具体的な状態の目安
- 後見:日常的な会話やコミュニケーションすら難しく、自分で意思を表明できない
- 保佐:日常会話はできるが、物忘れがひどく、財産管理や契約手続きを1人ではできない
- 補助:家事の失敗が増え、判断に不安があるが、基本的な意思表示はできる
類型が進むほど後見人の権限は強くなりますが、その分本人の自己決定の余地は狭くなります。後述の2026年改正では、この3類型構造が大きく見直されます。
成年後見人の選任プロセス(家庭裁判所への申立て)
成年後見人は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所への申立てによって選任されます。介護現場では、地域包括支援センターやケアマネジャーが申立ての相談窓口になることが多く、流れを知っておくと利用者支援に役立ちます。
申立てから選任までのステップ
- 相談・準備(1〜2か月):地域包括支援センターや市区町村の高齢福祉課、社会福祉協議会で相談。必要書類(戸籍謄本、診断書、財産目録など)を準備します。
- 家庭裁判所へ申立て:本人・配偶者・四親等内の親族、市区町村長などが申立人になれます。身寄りがない場合は市区町村長申立てが活用されます。
- 審理・調査:家庭裁判所の調査官が本人や申立人と面談し、必要に応じて医師による鑑定を実施します。
- 審判(後見開始決定):家庭裁判所が後見等の開始と同時に成年後見人を選任。申立てから審判まではおおむね1〜2か月が目安です。
- 登記・職務開始:審判確定後、東京法務局で成年後見登記が行われ、後見人としての職務がスタートします。
誰が後見人に選ばれるのか
家庭裁判所は「本人にとって最も適任と思われる人」を選任します。近年は専門職後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士)の割合が増えており、最高裁判所の統計によると、親族以外が選ばれるケースが約8割を占めています。財産が複雑、親族間で意見が対立しているなどの事情があると専門職が選ばれやすくなります。
市町村長申立てが介護現場で重要な理由
身寄りのない高齢者で施設入居や医療契約が必要なのに後見人を申立てる人がいない場合、市区町村長が申立人となる「市町村長申立て」が活用されます。介護施設職員やケアマネは、必要に応じて市区町村に情報提供し、利用者の権利擁護を後押しします。
成年後見人の費用・報酬の目安
成年後見人の費用は「申立て費用」と「就任後の報酬」に分けて考えます。介護費用の見通しを立てるうえで欠かせない情報です。
申立て時にかかる費用
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円〜(保佐・補助で同意権付与等を求める場合は加算) |
| 登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
| 郵便切手(連絡用) | 3,000〜5,000円程度 |
| 診断書作成料 | 5,000〜1万円程度(医療機関による) |
| 鑑定料(必要な場合) | 10万〜20万円程度 |
合計でおおむね1〜3万円程度、鑑定が必要な場合は10〜20万円が追加でかかります。
就任後の報酬(家庭裁判所が決定)
後見人の報酬は本人の財産から支払われ、家庭裁判所が業務内容と財産規模に応じて決定します。東京家庭裁判所などの「報酬付与の目安」では、以下が標準的な相場です。
| 本人の管理財産額 | 基本報酬(月額) |
|---|---|
| 1,000万円以下 | 2万円 |
| 1,000万〜5,000万円 | 3〜4万円 |
| 5,000万円超 | 5〜6万円 |
不動産売却などの特別な事務を行った場合は、別途付加報酬が認められることがあります。
費用負担が難しい場合の支援
- 成年後見制度利用支援事業:市区町村が低所得者の申立費用や報酬を助成する制度。生活保護受給者などが対象。
- 日本司法支援センター(法テラス):収入要件を満たせば申立費用の立替払いが利用可能。
後見人の権限と義務/介護現場との関わり
成年後見人の主な権限
- 財産管理権:本人名義の預貯金、不動産、年金などの管理。日常的な支払いから資産運用まで対応。
- 代理権:本人に代わって介護サービス契約、施設入居契約、医療費支払い、行政手続きを行う。
- 取消権:本人が判断能力を欠いた状態で結んだ不利益な契約を取り消せる(悪質訪問販売等への対抗手段)。
成年後見人の主な義務
- 善管注意義務:専門家として注意を尽くして職務を行う義務。
- 身上配慮義務:本人の生活・健康・福祉に配慮し、可能な限り意思を尊重する。
- 定期報告義務:原則として年1回、家庭裁判所へ事務報告書・財産目録を提出。
- 誠実義務:本人の財産を流用すれば業務上横領罪に問われ、解任・損害賠償の対象になる。
後見人がやらないこと(誤解されやすい範囲)
- 食事や排泄など、実際の身体介護は職務外(介護はホームヘルパーや施設職員が担う)。
- 原則として医療同意(手術同意など)はできないとされ、家族に代わる役割は限定的。
- 本人の死後の葬儀や納骨は原則として職務外(一部、緊急対応として認められるケースあり)。
介護現場との関わりかた
介護職員・ケアマネジャー・相談員が後見人と関わる主な場面は次のとおりです。
- ケアプラン作成時の本人意向確認と契約締結
- サービス利用料・施設利用料の支払い窓口としての連絡
- 入院・転居・看取りに関する情報共有
- 金銭トラブル(無断引き出し・契約違反など)が起きた際の通報
後見人は介護スタッフと「役割が違うが目的は同じ」パートナー。日々の様子を丁寧に伝えることが、本人の権利擁護につながります。
法人後見・市民後見人とは|担い手の多様化
後見人は個人だけでなく、法人や地域住民も担うことができます。専門職後見人の不足や報酬負担の問題を補う仕組みとして、近年急速に注目を集めています。
法人後見
社会福祉協議会、NPO法人、社会福祉法人などが法人として後見人になる仕組みです。
- メリット:担当者が交代しても法人として継続支援できる。複数のスタッフでチーム対応可能。
- 主な担い手:各市区町村の社会福祉協議会、地域の権利擁護NPO、リーガルサポート(司法書士法人)など。
- こんなケースに:身寄りがない高齢者で長期にわたる支援が必要、財産は少ないが見守りが必要な方。
市民後見人
市区町村や社会福祉協議会が実施する養成研修を修了した一般市民が、家庭裁判所から選任されて後見人を務める仕組みです。
- 養成研修:50〜100時間程度の座学+実習。修了後に名簿に登録される。
- 特徴:低額な報酬で対応するため、財産が少ない高齢者にも利用しやすい。地域住民として日常的に寄り添える。
- 適しているケース:財産管理が比較的シンプルで、見守りや日常生活の支援が中心の方。
介護職員のキャリアとしての後見人
介護福祉士や社会福祉士として働く人の中には、市民後見人の養成研修を受けて副業的に活動する人もいます。地域包括支援センター・特養相談員・居宅介護支援事業所のソーシャルワーカーが後見実務の知識を持つことで、利用者支援の質が高まり、キャリアの幅も広がります。
2026年成年後見制度改正の主なポイント
政府は2026年4月、約26年ぶりとなる成年後見制度の抜本改正を盛り込んだ民法改正案を閣議決定しました。介護現場が押さえるべき主要ポイントをまとめます。
1. 「後見・保佐・補助」の3類型を「補助」に一本化
これまで本人の判断能力に応じて3類型に振り分けていた制度を、「補助」型に一本化し、必要な行為だけ後見人が代理する「オーダーメード型」に転換します。本人の残存能力を最大限尊重する設計に変わります。
2. 「終わらない制度」から「終われる制度」へ
従来は本人が亡くなるまで原則継続だった制度に有効期間を導入。「不動産売却が終わったら終了」「相続手続きが完了したら終了」など目的限定的な利用が可能になります。
3. 後見人交代の柔軟化
これまで義務違反がない限り認められにくかった後見人の交代について、「本人の利益のために特に必要があるとき」という新たな要件が加わります。相性が合わない、支援方針の調整が難しいといった場面でも交代が可能に。
4. 特定補助制度の新設
判断能力を著しく欠く本人の重要な財産行為(高額な預金引き出し、不動産取引など)について、特定補助人が取消権を行使できる仕組みが導入されます。
5. 介護現場への影響
- 利用ハードルの低下:「困ったときの選択肢」として使いやすくなり、身寄りのない高齢者支援に活用しやすくなる見込み。
- 本人意思の尊重強化:介護スタッフが日々観察する本人の意向が、後見実務の中でより重視されるようになる。
- 申立て件数の増加:制度がコンパクトになることで、ケアマネ・包括の相談件数も増える可能性。
改正法は施行までに数年の準備期間が想定されており、関連通知や運用ルールが順次示される見込みです。
よくある質問(FAQ)
Q. 成年後見人は誰でもなれますか?
A. 未成年者、家庭裁判所で解任された人、破産者、本人に対して訴訟をした人などを除き、原則として成人なら親族・友人でもなれます。ただし家庭裁判所が「本人にとって最適」と判断した人が選ばれるため、必ずしも希望どおりにはなりません。専門職や法人が選ばれるケースが多数派です。
Q. 親族が後見人になる場合、報酬はもらえますか?
A. 親族でも家庭裁判所に「報酬付与の申立て」をすれば、本人の財産から報酬を受け取れます。実際には無報酬で務める親族も多いですが、業務負担を考えると申立てを検討する価値があります。
Q. 介護職員が利用者の後見人になることはできますか?
A. 利益相反のおそれがあるため、自分が担当している利用者の後見人を兼ねることは原則として避けるべきです。ただし市民後見人として養成研修を受け、別の利用者の後見人になることは可能です。
Q. 後見人がついたら本人の財産は自由に使えなくなりますか?
A. 法定後見の「後見」類型では、本人が単独で行った契約は日用品の購入などを除き取り消し対象になります。「保佐」「補助」では一定の同意が必要な範囲が決まります。2026年改正後はこの制限が必要最小限に絞られる見込みです。
Q. 認知症が進む前に準備できる方法はありますか?
A. 任意後見契約を公正証書で結んでおく方法があります。判断能力があるうちに信頼できる人を後見人候補に指定し、能力低下後に効力を発生させる仕組みです。家族信託と組み合わせるケースも増えています。
Q. 後見人を変更したい場合はどうすれば?
A. 現行制度では「義務違反」など限定的な事由でしか交代が認められませんでした。2026年改正で「本人の利益のために特に必要があるとき」という要件が追加され、相性が合わない場合の交代がしやすくなる見込みです。
Q. 後見人と家族・施設の間でトラブルが起きたらどこに相談?
A. まずは家庭裁判所の後見センター、地域包括支援センター、各都道府県社会福祉協議会の権利擁護センターに相談を。後見人による財産流用が疑われる場合は速やかに家庭裁判所への通報が必要です。
参考文献・出典
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まとめ|介護現場で知っておきたい成年後見人の基本
成年後見人とは、判断能力が不十分な方の権利と生活を法律的に守る支援者です。法定後見と任意後見、後見・保佐・補助の3類型、家庭裁判所への申立て手続き、月数万円程度の報酬体系を押さえることで、介護現場での連携がスムーズになります。
- 選任は家庭裁判所が決定し、近年は専門職や法人後見が約8割
- 介護施設での契約や入院時の意思決定など、介護現場と密接に関わる
- 身寄りのない高齢者支援では市町村長申立てや市民後見人が重要な役割
- 2026年改正で「補助」一本化・有効期間導入など、より柔軟な制度へ
介護職員・ケアマネ・相談員にとって、成年後見制度の知識は利用者の権利擁護と安心の暮らしを支える重要なスキルです。日々の関わりの中で疑問が生じたら、地域包括支援センターや社会福祉協議会の権利擁護センターに相談しましょう。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。
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