摂食機能療法とは

摂食機能療法とは

摂食機能療法は摂食嚥下障害患者へのリハビリで医療保険診療報酬185点(30分以上・月4回)を算定。対象患者、実施者、評価ツール、口腔機能向上加算との違い、多職種連携までを公的資料ベースで解説します。

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この記事のポイント

摂食機能療法とは、摂食嚥下障害のある患者に対して医師・歯科医師の指示のもと、言語聴覚士・看護師・歯科衛生士などが30分以上の訓練指導を行う医療保険のリハビリテーションです。診療報酬は185点(30分以上・月4回まで、治療開始日から3か月以内は1日1回算定可)で、脳卒中後遺症や神経筋疾患・認知症などによる嚥下障害患者に対して、経口摂取の維持・回復を多職種チームで支援します。

目次

摂食機能療法の定義と医療保険上の位置づけ

摂食機能療法(H004)は、医療保険診療報酬点数表に位置づけられたリハビリテーションの一種で、摂食機能障害を有する患者に対し、個別の診療計画書に基づいて訓練指導を行う行為を指します。算定は「1日につき」で行われ、1回30分以上の訓練を実施した場合に185点、30分未満の場合は130点(脳卒中患者で発症後14日以内に限る)が算定されます。

厚生労働省告示の算定対象は「発達遅滞、顎切除及び舌切除の手術又は脳卒中等による後遺症により摂食機能に障害があるもの」または「内視鏡下嚥下機能検査又は嚥下造影によって他覚的に嚥下機能の低下が確認できるもの」で、かつ「医学的に摂食機能療法の有効性が期待できるもの」とされています。つまり主観的な「むせやすい」だけでは算定対象にならず、VF(嚥下造影)やVE(嚥下内視鏡)による他覚的所見が必要です。

介護保険サービスの「口腔機能向上加算」と混同されやすいですが、摂食機能療法は医療保険・診療行為であり、介護報酬とは別建てです。歯科診療を受診中で医療保険の摂食機能療法を算定している期間は、原則として介護保険の口腔機能向上加算は算定できません(後述「比較」セクションで整理します)。

実施場所は急性期病院・回復期リハ病棟・地域包括ケア病棟・療養病棟のほか、訪問診療・訪問看護経由でも医師の指示があれば在宅でも提供可能です。介護老人保健施設・介護医療院など医療提供を併設する施設でも算定実績が多い一方、特別養護老人ホームでは原則として算定されません。

算定要件・実施者・対象患者の整理

令和6年度診療報酬改定(H004)における要件を表で整理します。

項目内容
診療報酬点数30分以上:185点/30分未満:130点(脳卒中患者・発症後14日以内のみ)
算定単位1日につき
算定回数原則 月4回まで/治療開始日から3か月以内は1日1回算定可
指示者医師または歯科医師
実施者言語聴覚士(ST)/看護師/准看護師/歯科衛生士/理学療法士(PT)/作業療法士(OT)
対象患者発達遅滞・顎切除・舌切除術後・脳卒中後遺症等で摂食機能障害がある者/VF・VEで客観的に嚥下機能低下が確認された者
必須評価VF(嚥下造影)またはVE(嚥下内視鏡)等による他覚的所見
記録要件診療計画書/毎回の訓練内容・開始終了時刻/月1回以上の効果判定

看護師は摂食機能療法の実施者として明記されており、医師の包括的指示があれば看護師主体での介入も可能です。療養病棟・回復期リハ病棟・在宅では、ST配置が限られるため看護師が嚥下訓練の中核を担う場面も少なくありません。摂食嚥下障害看護認定看護師(DCN:摂食嚥下障害看護分野)はその代表的なキャリアパスです。

主な対象疾患

  • 脳血管疾患(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)後の仮性球麻痺・球麻痺
  • パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)・脊髄小脳変性症などの神経筋疾患
  • 認知症(特にレビー小体型・進行期アルツハイマー型)
  • 頭頸部がん術後(舌切除・喉頭摘出・咽頭再建後)
  • サルコペニア・廃用症候群による嚥下筋萎縮
  • 気管切開・人工呼吸器離脱後の嚥下機能再獲得

口腔機能向上加算との違い

現場では「摂食機能療法」と介護報酬の「口腔機能向上加算」が混同されがちですが、保険制度・実施目的・点数体系がまったく異なります。

比較項目摂食機能療法(H004)口腔機能向上加算(Ⅰ)
保険制度医療保険(診療報酬)介護保険(介護報酬)
報酬185点/回(30分以上)150単位/回(月2回まで)
主な目的摂食嚥下障害の機能回復・リハビリ口腔機能の維持・低下予防
対象VF/VEで他覚的に嚥下障害が確認された患者口腔機能低下・嚥下や食事摂取で見守り以上の介助が必要な利用者
実施者医師指示下のST・看護師・歯科衛生士・PT・OT等言語聴覚士・歯科衛生士・看護職員
実施場所医療機関、在宅(訪問診療経由)、介護医療院、老健等通所介護、通所リハ、特養、認知症対応型通所等
計画書診療計画書(医師作成)口腔機能改善管理指導計画
同時算定同一月に摂食機能療法を算定中の場合、原則として口腔機能向上加算は算定不可

使い分けの目安:脳卒中急性期〜回復期で経口摂取の再獲得を目指す段階は摂食機能療法、症状が安定して在宅・施設で「維持」のフェーズに移ったら口腔機能向上加算、と理解すると整理しやすいです。在宅では同一利用者でも「訪問診療+訪問看護で摂食機能療法」と「通所介護で口腔機能向上加算」を時期を分けて使い分けるケアプランが現実的です。

関連加算として、医療保険には摂食嚥下機能回復体制加算(多職種チーム配置・週1回以上のカンファレンス・FIM/FOIS測定が要件、加算1〜3で210〜120点)もあり、急性期病院での経口摂取回復を後押ししています。

評価ツールと介入内容(実務での進め方)

嚥下機能の評価ツール

摂食機能療法の算定には他覚的所見が求められるため、以下の評価が組み合わせて使われます。

  • VF(嚥下造影検査):バリウムを含む検査食をX線透視下で観察。誤嚥の有無・タイミング・残留部位を確認できるゴールドスタンダード。
  • VE(嚥下内視鏡検査):鼻から内視鏡を入れ咽頭・喉頭を観察。被ばくがなくベッドサイドで実施できるため在宅や療養病棟でも使われる。
  • RSST(反復唾液嚥下テスト):30秒間に何回唾液を嚥下できるかを計測(3回未満で嚥下障害疑い)。看護師がスクリーニングに使う。
  • MWST(改訂水飲みテスト):3mlの冷水嚥下を観察し5段階で評価。
  • フードテスト(FT):ゼリーや粥を一口摂取し評価。
  • 舌圧測定:JMS舌圧測定器などで舌の押し付け力を kPa で計測。サルコペニア嚥下障害の指標。
  • FOIS(経口摂取機能スケール):1(経管栄養のみ)〜7(制限のない経口摂取)の7段階で経口摂取レベルを評価。

介入の2本柱:間接訓練と直接訓練

摂食機能療法の内容は大きく分けて2種類あります。

  • 間接訓練(基礎訓練):食物を使わない訓練。口唇・舌・頬の運動、開口訓練、舌圧訓練、ブローイング、頸部可動域訓練、メンデルソン手技、シャキア法、嚥下おでこ体操など。
  • 直接訓練(摂取訓練):実際の食物・水分を使う訓練。嚥下調整食(学会分類2021コード0〜4)やとろみ調整食品を段階的に進め、姿勢調整(30度ギャッチアップ、頸部前屈)と一口量調整を組み合わせる。

経管栄養(経鼻胃管・胃瘻)からの離脱を目指すケースでは、間接訓練 → 嚥下調整食コード0j(ゼリー)→ コード1j → コード2 → 全粥 → 常食、と段階を上げていきます。誤嚥性肺炎の既往がある場合は不顕性誤嚥(むせない誤嚥)に注意し、VE・パルスオキシメーター・聴診を組み合わせて安全性を確認します。

多職種チームでの役割分担

  • 医師:診療計画書作成、効果判定、栄養経路の最終判断
  • 歯科医師・歯科衛生士:義歯調整、口腔ケア、舌機能評価
  • 言語聴覚士(ST):嚥下評価、直接・間接訓練の中核
  • 看護師:日常の食事介助・観察、口腔ケア、夜間誤嚥の見守り、家族指導
  • 管理栄養士:嚥下調整食の献立設計、栄養量の調整
  • 理学療法士・作業療法士:姿勢保持・摂食動作の練習

在宅では訪問看護ステーションが摂食機能療法を担う中心となり、訪問歯科・訪問リハと連携します。看護師にとっては、急性期から在宅まで一貫して必要とされる「嚥下を診る目」が転職市場でも評価されやすいスキルです。

よくある質問

Q. 摂食機能療法は看護師だけでも算定できますか?

A. 医師または歯科医師の指示のもとであれば、看護師(准看護師含む)が訓練指導を実施した場合も算定可能です。ただし診療計画書の作成と効果判定は医師が行う必要があり、看護師単独で開始することはできません。回復期リハ病棟・療養病棟・訪問看護では、STが配置されていなくても医師の包括指示のもとで看護師が中核を担うケースが一般的です。

Q. 介護老人保健施設や特別養護老人ホームでも算定できますか?

A. 介護老人保健施設では併設医療機関を通じて算定する運用例がありますが、特別養護老人ホームでは医療保険のリハビリ算定そのものが原則できないため、摂食機能療法は算定しません。特養では介護報酬の口腔機能向上加算経口移行加算・経口維持加算を使うのが基本です。

Q. 1日に複数回算定できますか?

A. 摂食機能療法は「1日につき」算定するため、同一日に複数回の訓練を実施しても算定は1回分のみです。月の算定回数は4回までが原則ですが、治療開始日から起算して3か月以内は1日1回算定可能で実質的に毎日算定できます。

Q. リハビリ実施計画書とは別に計画書が必要ですか?

A. はい。摂食機能療法を算定する場合は、疾患別リハビリの計画書とは別に摂食機能療法の診療計画書を作成し、患者または家族に内容を説明・交付する必要があります。様式は医療機関ごとですが、目標・訓練内容・評価指標(FOIS、舌圧、RSST等)を含めるのが一般的です。

Q. 摂食嚥下障害看護認定看護師の資格は必要ですか?

A. 算定上は必須ではありません。ただし、摂食嚥下障害看護認定看護師(DCN)を配置すると、摂食嚥下機能回復体制加算1(210点)の要件を満たしやすくなります。資格取得には日本看護協会の認定看護師教育課程(B課程)で約800時間の研修と認定試験が必要で、認定後は転職市場でも嚥下チームのリーダーとして高く評価されます。

参考資料

  • 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定 H004 摂食機能療法」(医科診療報酬点数表)
  • 厚生労働省告示「特掲診療料の施設基準等」摂食嚥下機能回復体制加算
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食学会分類2021」
  • 日本看護協会「摂食嚥下障害看護認定看護師教育課程」(認定看護師B課程)
  • 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定 口腔機能向上加算」

まとめ

摂食機能療法は医療保険診療報酬H004で算定される嚥下リハビリで、30分以上の訓練で185点を月4回まで(治療開始3か月以内は1日1回)算定できます。実施には医師の指示と他覚的所見(VF/VE)が必要で、看護師・ST・歯科衛生士など多職種が訓練を担当します。介護保険の口腔機能向上加算とは制度・目的・実施場所が異なり、急性期から在宅まで患者の段階に応じて使い分けることが重要です。看護師にとって嚥下評価と摂食介助のスキルは、急性期・回復期・療養・在宅・介護施設のいずれでも需要が高い、汎用性の高い専門領域といえます。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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