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介護現場の緊急時対応|急変・転倒・誤嚥・窒息・意識消失の判断と初動フロー

介護現場の緊急時対応|急変・転倒・誤嚥・窒息・意識消失の判断と初動フロー

介護現場で起こる急変・転倒・誤嚥・窒息・意識消失への対応を、バイタル観察、119番通報、AED、救急搬送時の情報提供、BCP連動まで公的資料をもとに整理しました。

介護現場の「緊急時」は一刻を争う

介護現場における「緊急時」とは、利用者の生命や身体に直結するアクシデントが発生し、迅速な判断と初動が求められる状況全般を指します。具体的には、急な心肺停止や意識レベルの低下、食事中の誤嚥・窒息、車椅子やベッドからの転倒・転落、入浴中のヒートショック、急性の心不全・脳血管障害の疑いなど、いずれも数分単位の対応遅れが予後を大きく左右するものです。総務省消防庁「救急蘇生法の指針」でも、心停止から電気ショックまでの時間が1分遅れるごとに救命率は約7〜10%ずつ低下するとされ、現場職員の初動が社会復帰率に直結することが示されています。

特に介護施設の利用者は、加齢による心肺機能や嚥下機能の低下、高血圧・糖尿病・心疾患などの慢性疾患、複数薬剤の併用といった背景を持つため、健常者と比べて容態が急変しやすい集団です。厚生労働省が令和7年11月に公表した「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」でも、転倒・転落、誤嚥・窒息、誤薬、医療処置に関する事故が代表的な事故類型として整理され、事業所ごとの予防策と初動対応の標準化が求められています。

本記事では、介護現場で遭遇頻度が高い「急変」「転倒」「誤嚥・窒息」「意識消失」の5類型を軸に、バイタル観察のポイント、119番通報で伝えるべき情報、AEDを含む一次救命処置の手順、救急搬送時の情報提供シートの使い方、そして事業所の業務継続計画(BCP)と緊急時対応をどう連動させるかまでを、公的資料を根拠に解説します。あわせて、夜勤・少人数体制における役割分担、日常の訓練・記録、家族連絡と事故報告の整理まで踏み込み、現場で「次に何をするか」がすぐに判断できる実践的な内容を目指します。

この記事で扱う範囲と前提

扱う場面は、介護老人福祉施設(特養)・介護老人保健施設・介護医療院などの入所系、特定施設・グループホーム・サービス付き高齢者向け住宅などの居住系、通所介護・通所リハビリ、訪問介護・訪問看護、居宅介護支援まで、介護保険サービス全般です。根拠資料は厚生労働省「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」(令和7年11月)、厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」、総務省消防庁「救急蘇生法の指針2020」、日本医師会「救急蘇生法」サイトなど、公的機関・職能団体が公開している資料を中心に用います。本記事は医療行為そのものを指示するものではなく、現場職員が主治医・協力医療機関・看護職の指示体制のもと、適切な初動を取れるようにするための参考情報です。

緊急時対応の5ステップ:発見から記録までの流れ

介護現場で急変・事故を発見した際の初動は、経験年数にかかわらず同じ流れで実施できるよう標準化されていることが重要です。厚生労働省のガイドラインや自治体発行のマニュアル(川越市福祉部「事故発生時・緊急時対応マニュアル」、浜松市消防局「高齢者福祉施設等における救急対応ガイドブック」など)で示されている共通手順を整理すると、大きく次の5ステップになります。

ステップ1:状況の把握と安全確保

最初に行うのは、利用者と自分自身、そして周囲の安全確保です。転倒であれば本人を無理に動かさず、頭部・頸椎の打撲を疑って体位を崩さないようにします。入浴中であれば湯を抜いて溺水を防ぐ、食事中であれば食事介助を中断してテーブル周りを片づけるなど、二次被害を防止します。同時に、意識の有無、呼びかけへの反応、呼吸の有無、顔色、明らかな外傷・出血の有無を短時間で観察します。

ステップ2:応援要請と役割分担

異変を発見したら一人で抱え込まず、大声で応援を呼びます。浜松市のガイドブックでも「緊急事態が発生したことを施設内職員に知らせ、事前に決めた役割に応じて対応する」ことが明記されています。代表的な役割は、①傷病者対応(応急手当)、②119番通報、③AED・救急バッグの搬送、④看護職・管理者・協力医療機関への連絡、⑤他利用者の安全確保、⑥家族連絡、⑦記録です。夜勤など少人数時は一人が複数役割を担うため、「通報しながら応急手当を行う」ことを前提にフロー表を整備しておきます。

ステップ3:応急手当と指示受け

看護職が常駐している場合は看護職の指示下で応急手当を行います。不在の場合は、主治医や協力医療機関・オンコール看護師へ速やかに連絡し指示を受けます。意識消失・心停止・気道閉塞など生命の危険が切迫している場合は、指示を待たずに胸骨圧迫・AEDの使用・異物除去などの一次救命処置を開始し、並行して119番通報を行います。総務省消防庁は、119番通報後に通信指令員が口頭指導を行うことを明示しており、迷った段階で通報するのが原則です。

ステップ4:救急搬送と付き添い

救急車を要請した場合は、救急隊の誘導要員を玄関や道路際に配置し、到着までに「救急情報基本シート」等を用意します。搬送時には、本人情報・既往歴・内服薬・かかりつけ医・発生時の状況・行った応急手当を書面で渡せるようにします。可能な限り家族へ連絡し、搬送先医療機関が決まり次第、介護職員または看護職員が付き添うか、情報提供書を持参して合流します。

ステップ5:記録・報告・振り返り

対応終了後は、発生日時、発見者、状況、症状、行った処置、連絡先、搬送先などを時系列で記録します。厚生労働省のガイドラインでは、事故発生時の事業所から市町村への報告、家族への説明、原因分析と再発防止策の検討を一連のプロセスとして位置付けており、ヒヤリハット・事故報告書の書式を事業所内で統一しておくことが求められます。対応後のデブリーフィング(振り返り)も、職員の心理的負担の軽減と次回対応の改善に有効です。

「迷ったら通報」を組織の合言葉に

多くの事業所マニュアルに共通する原則が、「迷ったら119番通報、迷ったら救急搬送」です。高齢者は症状が非典型的で、軽症に見えて急激に悪化することがあります。通報をためらって時間を失うより、通報後に「救急車を断る」選択肢のほうが、結果として利用者の不利益を小さくするケースが多いといえます。管理者は、職員が通報判断を躊躇しないよう、事後に通報の是非を責める文化を作らないこと、通報・搬送に関する家族合意と本人の意思(DNARの有無を含む)を事前に確認しておくことが重要です。

バイタルサインと一般状態の観察ポイント

急変対応の入口は、「いつもと違う」に気づくことです。大阪府が発行する高齢者向け運動指導マニュアルや山梨県峡東地域の「高齢者施設のための救急対応マニュアル」では、急変時の確認事項として①意識状態、②呼吸状態、③誤飲・異食の有無、④転倒・転落の有無、⑤発熱・発汗、⑥嘔吐、⑦吐血・下血、⑧頭痛・麻痺、⑨胸痛・腹痛、⑩皮膚所見などが挙げられています。観察項目を体系的に覚えておくと、短時間でも必要情報を漏らさず把握できます。

意識レベルの評価

意識状態は、呼びかけへの応答・開眼・会話の成立で段階的に評価します。現場ではJCS(Japan Coma Scale)が広く用いられ、0(清明)→1・2・3(覚醒している)→10・20・30(刺激で覚醒)→100・200・300(刺激しても覚醒しない)と数字が大きくなるほど重篤です。普段のやりとりとの差、呂律が回らない・左右の麻痺・視線が合わないといった所見は、脳卒中や低血糖などの緊急疾患を示すサインになります。

呼吸の確認

呼吸数は成人の正常値が1分あたりおよそ12〜20回とされ、25回以上の頻呼吸、9回以下の徐呼吸は異常です。胸郭の動き、胸を押したり引いたりするような努力呼吸、肩で息をする様子、喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒュー)、チアノーゼ(口唇・爪床の紫色)も重要な所見です。総務省消防庁「救急蘇生法の指針」では、心停止の判定で「ふだんどおりの呼吸」がないこと(死戦期呼吸も含む)を10秒以内で確認することが推奨されています。

循環・皮膚・体温

脈拍は手首(橈骨動脈)で触知し、頻脈(成人で100回/分以上)、徐脈(50回/分以下)、不整脈に注意します。血圧が測れる環境なら、普段値からの大きな乖離(収縮期で±30mmHg以上)に注意します。皮膚は冷感・湿潤・蒼白が進んでいればショックを、温かく紅潮していれば発熱や熱中症を疑います。体温は、感染症・敗血症・熱中症の早期発見に有用です。SpO2(パルスオキシメーター)を持つ施設では、平常値との差、特に90%未満への低下に注意します。

急変の予兆:MEWS・早期警告サインの考え方

急変は突然起こるように見えて、実は数時間前から呼吸数の上昇、意識の微細な変化、血圧低下などの「早期警告サイン」を伴うことが多いと報告されています。医療機関で使われるMEWS(Modified Early Warning Score)は、収縮期血圧、脈拍、呼吸数、体温、意識レベルの5項目にスコアを付け、合計点で急変リスクを評価する簡便な指標です。介護現場でも、施設看護師と連携してバイタル基準値を決め、「呼吸数24回/分以上で看護職コール」「SpO2 92%未満で受診検討」のようにルール化しておくと、夜勤帯でも判断がぶれにくくなります。

具体的な危険サイン

  • 呼びかけに反応しない/呼びかけても目を開けない
  • 呂律が回らない、片側の手足が動かない、顔の左右差がある
  • 胸をおさえて冷汗をかいている、強い胸痛を訴える
  • 呼吸が浅く速い、あるいは10秒以上呼吸が止まっているように見える
  • 唇・爪・耳たぶが青紫色(チアノーゼ)
  • 大量の吐血・下血・鮮紅色の便
  • けいれんが5分以上続く、けいれん後に意識が戻らない
  • 強い頭痛を急に訴え、嘔吐を伴う

これらが1つでも該当すれば、迷わず119番通報し、並行して応急手当と連絡を進めます。不顕性誤嚥や無症候性の低血糖、敗血症など「見た目は普通だが内部で重症化している」ケースもあるため、普段より食事量が明らかに少ない、傾眠が強い、尿量が激減しているなどの変化も、看護職・主治医への相談材料にします。

観察を記録につなげる

観察結果は、時間・観察項目・数値・行った対応・報告先をセットで記録します。電子記録システムを活用している場合は、入力フォームにあらかじめバイタルの「赤信号」閾値を設定し、逸脱時にアラートが出る仕組みにするとヒューマンエラーを防げます。観察と記録を連動させることで、主治医への報告や救急搬送時の情報提供もスムーズになります。

119番通報で伝えるべき情報

119番通報は、救急隊が現場に到着するまでの時間を短縮し、通信指令員からの口頭指導を受けて応急手当の質を高めるための生命線です。大阪府が公開する通報例では、①救急か火事か、②どうしたのか(氏名・年齢・性別・状況・既往歴)、③場所・住所、④通報者の電話番号、⑤通報者の氏名、⑥誘導者の準備、の順で聞かれることが整理されています。介護現場ではこれを踏まえ、事前にフォーマット化した「通報カード」を電話機の脇に貼っておくのが基本です。

通報例(デイサービスで意識低下が発生した場合)

  • 「救急です。」
  • 「〇〇〇〇様、85歳男性、デイサービス利用中に意識レベルが低下し、呼吸が弱くなっています。既往歴は心房細動と高血圧です。」
  • 「場所は〇〇市〇〇町〇丁目〇番の〇〇デイサービスセンターです。近くに〇〇小学校があります。」
  • 「施設の電話は〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇、施設長の〇〇が対応しています。」
  • 「サイレンが聞こえたら玄関前に職員が誘導に出ます。」

浜松市消防局のガイドブックでは、可能な限り傷病者の近くから通報することが推奨されています。これにより、通信指令員からの口頭指導を受けながら胸骨圧迫やAED準備を進められます。携帯電話のハンズフリー機能(スピーカーホン)を日頃から確認しておくと、両手を使って応急手当をしながら会話できます。

119番以外の緊急連絡先

救急要請と並行して、事業所の連絡体制に従って次の連絡を行います。

  • 看護職(オンコール含む):医療的判断の支援、医師との橋渡し。
  • 主治医・協力医療機関:既往歴の把握、搬送先調整、受診指示。
  • 管理者・施設長:意思決定支援、家族連絡、報告対応。
  • 家族・キーパーソン:搬送の合意、DNARの確認、搬送先への合流。
  • 居宅介護支援事業者・ケアマネジャー:在宅サービスでは必須。
  • 市町村・保健所:重大事故・感染症発生時に。

これらの連絡先は一枚のA4シート(緊急連絡網)にまとめ、事務室電話の近くと、夜勤者が携行するクリップボードの両方に配置するのが実務的です。利用者個別の「かかりつけ医」「延命処置に関する本人・家族の意向」なども同じシートで参照できるようにしておくと、夜間の判断が速くなります。

「映像通報119」と新しい通報手段

近年、スマートフォンで現場の映像を消防指令センターに送れる「映像通報119(Live119)」が全国で導入拡大しています。浜松市消防局のガイドブックでも活用が推奨されており、通信指令員が現場の状況を直接確認できることで、口頭指導の精度が上がります。また、NET119緊急通報システムは、聴覚・言語機能障害者向けの通報手段として整備されていますが、介護現場でも「誰がどの端末からかけるか」を平時に決めておくと混乱を防げます。

通報を早める判断基準

「どの段階で119番するか」は現場が最も迷うポイントです。次のいずれかに該当すれば、看護職の到着を待たずに通報するのが原則です。

  • 呼びかけに反応しない、または死戦期呼吸(しゃくりあげるような呼吸)がある
  • 窒息のサイン(両手で喉をつかむチョークサイン、声が出せない)
  • けいれんが5分以上続く
  • 強い胸痛・冷汗・呼吸困難を伴う
  • 大量出血(動脈性の拍動する出血、止血しても止まらない)
  • 頭部を強打し意識障害・嘔吐を伴う
  • 明らかな片麻痺・構語障害(脳卒中疑い)

通報後、救急隊の到着までは「通報者は電話を切らずに指示を受け続ける」ことが望ましく、家族には別の職員から連絡します。通報中でも、通信指令員の指示のもと胸骨圧迫など必要な処置を並行して行います。

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誤嚥と窒息の違いを見極める

誤嚥とは、飲食物や唾液が気道に入り込んだ状態を指し、むせや咳反射が起これば自力で喀出できることがあります。一方、窒息は気道が完全または大きく閉塞し、呼吸自体ができない状態で、数分以内の対応がなければ心停止に至る可能性がある生命危機です。厚生労働省のガイドラインでは、誤嚥・窒息を介護現場の代表的事故類型として挙げ、食事姿勢、食形態、見守り体制の整備を求めています。高齢者は嚥下機能と咳反射が低下しているため、むせない誤嚥(不顕性誤嚥)が繰り返され、誤嚥性肺炎に進展することも少なくありません。

窒息のサイン

日本医師会・総務省消防庁が示す窒息のサインは次のとおりです。これらを一つでも確認したら、直ちに異物除去と119番通報を同時並行で開始します。

  • 声が出せない、話せない、咳ができない
  • 両手で喉をつかむ仕草(チョークサイン)
  • 顔面蒼白、唇・爪床のチアノーゼ
  • 苦しそうに口をパクパクさせる、よだれをたらす
  • 意識がもうろうとする、反応が鈍くなる

気道異物除去の手順

意識がある場合:まず咳を促す

日本医師会「救急蘇生法」サイトでは、意識があり咳ができる間は、本人の咳による排出を優先することが示されています。強い咳ができなくなった時点で窒息と判断し、応援を呼びつつ以下の手技に移ります。

背部叩打法

片方の手で傷病者の胸か顎を支え、上体を前かがみにします。もう一方の手のひらの付け根(手掌基部)で、左右の肩甲骨の間を力強く連続して叩きます。座位でも立位でも、車椅子に乗ったままでも実施可能です。妊婦や乳児、意識の有無にかかわらず実施できる基本手技として位置付けられています。

腹部突き上げ法(ハイムリック法)

背部叩打法で異物が取れない場合、成人・1歳以上の小児に対して実施します。傷病者の背後に立ち、両腕を脇から前に回し、片手でこぶしを作り、親指側をへそとみぞおちの中間に当てます。もう一方の手でこぶしを包み、素早く内側かつ上方向へ突き上げます。異物が出るか意識がなくなるまで繰り返します。実施後は内臓損傷の可能性があるため、救急隊にハイムリック法を行った旨を必ず伝え、医療機関を受診させます。

実施してはいけない対象

腹部突き上げ法は、乳児、妊婦、高度肥満者、腹部手術直後の利用者には行いません。これらの場合は胸部突き上げ法と背部叩打法を組み合わせます。車椅子利用者に対しては、無理に立たせず座ったまま背後から実施します。

意識がなくなった場合

反応がなくなったら、直ちに心肺蘇生(胸骨圧迫)を開始し、119番通報とAEDの手配を並行して行います。胸骨圧迫によって気道内圧が上昇し、異物が口腔内に押し出されることもあります。口を開けて異物が見える場合だけ取り除き、見えない場合は指を入れて探らないことが総務省消防庁の指針で明確に示されています。

介護現場での予防策

食形態と姿勢

嚥下機能評価(反復唾液嚥下テスト、改訂水飲みテストなど)を看護職・言語聴覚士と連携して行い、ペースト食・ソフト食・とろみ調整食など個別の食形態を設定します。姿勢は90度の座位を基本とし、顎を軽く引いた位置で介助します。顎が上がると誤嚥リスクが高まるため、車椅子の高さやテーブル位置を適切に調整します。

危険な食品と対応

消費者庁の公表資料では、高齢者の餅による死亡事故の43%が1月に集中し、正月三が日に多発することが示されています。餅・団子・パン・ご飯・こんにゃく・肉類・繊維質の野菜などは特に注意が必要な食品です。小さく切る、先にお茶や汁物で喉を潤す、一口量を少なくする、よく噛んでから飲み込むことを支援し、パン食い競争のような急いで食べる状況は作らないようにします。

見守り体制と覚醒状態

食事前に覚醒を確認し、傾眠が強い場合は食事を遅らせます。職員配置を厚くする時間帯を明確にし、食堂内に全員を視野に入れられる動線を確保します。特に夕食時や夜勤帯は、人員が手薄になりがちなので、座席配置や食事開始時刻をずらして見守りを確実にします。食事中のむせや顔色変化をチェックシートで記録し、変化の早期発見につなげます。

転倒・転落は介護事故の最頻値

厚生労働省「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」でも、転倒・転落は最も発生頻度の高い事故類型として整理されています。高齢者は骨粗鬆症や抗凝固薬(ワーファリン、DOAC)の使用により、軽微な転倒でも大腿骨頸部骨折・頭蓋内出血などの重症化リスクがあり、初動の観察が重要になります。

転倒発見時の初動

ステップ1:動かさず観察する

転倒を発見したら、まず本人を無理に起こさないこと。頭部打撲や頸椎損傷の可能性があるため、救護者は声かけを行いながら、意識・呼吸・出血・外傷変形・痛みの部位と程度・手足の動きを観察します。頭部を強打している可能性がある場合は、頸部を動かさず、仰臥位を保ったまま毛布等で保温します。

ステップ2:応援要請と連絡

応援を呼び、役割分担で看護職・管理者・主治医に連絡します。明らかな骨折変形(下肢の短縮・外旋)、頭部打撲後の意識障害・嘔吐・けいれん、抗凝固薬服用者の頭部打撲、大量出血、強い痛みなどがあれば、救急要請の対象です。抗凝固薬を服用している利用者の頭部打撲は、受傷直後に無症状でも遅発性の頭蓋内出血を起こすことがあるため、原則として受診させる運用が安全です。

ステップ3:応急手当

出血があれば清潔なガーゼで圧迫止血、骨折疑いの部位は動かさず副子等で固定、開放骨折は露出した骨を押し戻さず清潔に覆います。嘔吐している場合は、頸椎保護に配慮しつつ側臥位(回復体位)にして誤嚥を防ぎます。体温低下を防ぐため毛布で保温します。

ステップ4:搬送・受診

救急搬送する場合は、後述の情報提供シートを準備し、内服薬リスト(抗凝固薬・抗血小板薬・降圧薬・ステロイドなど)を必ず持参します。搬送しない場合でも、主治医への報告と24〜48時間の慎重な経過観察を行います。意識変化、嘔吐、頭痛増悪、片麻痺の出現は遅発性頭蓋内出血のサインです。

転倒予防の環境整備

浜松市・山梨県峡東地域のマニュアルでは、施設内の段差、滑りやすい床、廊下や部屋の明るさ、電気コードの取り回しが転倒リスクとして挙げられています。以下の点検が基本です。

  • 居室・廊下・浴室・トイレの段差解消、滑り止めマット設置
  • 夜間の足元灯・センサーライト設置
  • ベッド高さを利用者の身体機能に合わせる
  • 手すりの位置と強度の定期点検
  • 床の水濡れを即座に拭き取るルール化
  • 履物の滑りやすさ・サイズ確認(靴下のみでの歩行を避ける)

個別リスク評価と生活支援

入所時・状態変化時に、転倒リスクアセスメント(既往の転倒歴、ふらつき、下肢筋力、認知機能、薬剤、視力、排泄パターン等)を行い、ケアプランに反映します。特に睡眠薬・向精神薬・降圧薬・利尿薬は転倒リスクを高めるため、主治医・薬剤師と服薬内容を定期レビューすることが有効です。排泄時の転倒が多いことから、排泄パターンに合わせた声かけ・誘導、夜間のポータブルトイレ設置も重要です。

身体拘束に頼らない転倒予防

転倒を恐れて身体拘束を行うと、廃用症候群やせん妄、筋力低下を招き、かえって転倒リスクを高めることが知られています。厚生労働省のガイドラインも、リスクマネジメントと尊厳保持・自立支援の両立を強調しています。拘束に頼らない代替策として、離床センサーや見守り機器の活用、動線の工夫、個別ケア計画の見直しを優先します。

意識消失を発見したら

意識消失は、一過性の失神から心停止まで幅広い病態を含みます。発見時の初動は、総務省消防庁「救急蘇生法の指針2020」で示された一次救命処置(BLS)の流れに従います。

1. 周囲の安全確認と反応確認

自分自身の安全を最優先に、周囲に危険がないか確認します。その後、両肩をたたきながら「〇〇さん、わかりますか」と大声で呼びかけ、反応の有無を確認します。

2. 応援要請と119番通報・AED手配

反応がなければ、大声で応援を呼び、119番通報とAEDの搬送を他の職員に依頼します。一人しかいない場合は、自分で119番通報し、スピーカーホンにして指令員の口頭指導を受けながら次の手順に進みます。

3. 呼吸の確認

胸と腹部の動きを10秒以内で観察します。「ふだんどおりの呼吸」がない、しゃくりあげるような途切れ途切れの呼吸(死戦期呼吸)がある、判断に迷う場合は、心停止とみなして胸骨圧迫を開始します。

4. 胸骨圧迫

胸の真ん中(胸骨の下半分)に両手のかかとを重ね、肘を伸ばして真上から押します。深さは成人で約5cm(ただし6cmを超えない)、テンポは1分間に100〜120回、1回ごとに胸壁を完全に戻します。中断を最小限にし、疲労する前(約2分ごと)に他の救助者と交代します。

5. 人工呼吸(可能な場合)

気道確保(頭部後屈・顎先挙上)を行い、口対口人工呼吸を1回1秒かけて2回行います。感染防護具がない、準備に時間がかかる、感染症流行期などで実施が難しい場合は人工呼吸を省略し、胸骨圧迫のみを絶え間なく続けます。日本医師会も、実施が困難な場合は胸骨圧迫のみを優先することを示しています。

AEDの使用手順

AED(自動体外式除細動器)は、心室細動に対する電気ショックで心拍を正常化する医療機器で、2004年7月以降、一般市民も使用できます。操作はすべて音声メッセージで案内されるため、以下の基本を押さえれば対応可能です。

1. 電源を入れる

ふたを開けると自動で電源が入るタイプと、電源ボタンを押すタイプがあります。電源を入れたら音声メッセージに従います。

2. 電極パッドを貼る

胸の衣服を取り除き(必要なら切る)、パッドを袋から取り出して、胸の右上(鎖骨の下)と左下側(脇の下から5〜8cm下)に直接貼ります。汗や水で濡れていれば拭き取り、貼付薬があれば剥がします。ペースメーカーの膨らみがあれば避けて貼付します。胸毛が濃い場合は、予備のパッドがあれば貼って剥がすことで除毛します。貼付中も胸骨圧迫を継続します。

3. 心電図解析

AEDが自動で心電図を解析します。「体に触れないでください」と音声が流れたら、全員が傷病者から離れます。

4. 電気ショック

「ショックが必要です」と案内が出たら、周囲の安全(誰も触れていないこと)を確認し、ショックボタンを押します。機種によっては自動的に通電するオートショックAEDもあります。ショック後は直ちに胸骨圧迫を再開します。

5. 2分ごとの解析を継続

AEDは約2分ごとに自動で心電図を再解析します。救急隊が到着するか、傷病者が目を開け普段どおりの呼吸を始めるまで、胸骨圧迫とAEDの指示を繰り返します。「ショックは不要です」と出た場合も、胸骨圧迫は継続します。

事業所のAED整備ポイント

  • 全職員が5分以内に到達できる場所に設置する
  • 設置場所を玄関・事務所・廊下の分かりやすい位置にし、案内表示を掲示
  • 電極パッドとバッテリーの有効期限を毎月点検(期限切れは通電不能の原因)
  • 小児用パッド切替キー付きAEDを選ぶ(通所で小児利用の可能性がある場合)
  • 救命講習(普通救命講習)を全職員が3年に1回以上受講する
  • AEDの位置を「日本全国AEDマップ」(日本救急医療財団)に登録し地域貢献

救命の連鎖と成功率

総務省消防庁「令和6年版 救急救助の現況」によれば、心肺機能停止傷病者のうち一般市民による応急手当が実施された割合は令和5年で59.7%に達しています。心停止から電気ショックまで1分遅れるごとに救命率は約10%低下するとされ、バイスタンダー(居合わせた人)による早期の胸骨圧迫と早期除細動が社会復帰率を左右します。介護現場は職員と機器がその場にいる「バイスタンダーが整った環境」であり、訓練次第で救命率を大きく高められる場と言えます。

救急隊に渡すべき情報

救急隊が到着してからスムーズに搬送できるかどうかは、現場からの情報提供の質に左右されます。浜松市消防局のガイドブック、山梨県峡東地域の救急対応マニュアルでは、「救急情報基本シート」「情報提供シート」の整備が推奨されています。これらは、平時から利用者一人ひとりの基本情報を整理し、緊急時に当日の発生状況を追記して救急隊に渡す運用を想定した書式です。

平時から整備しておく「救急情報基本シート」項目

  • 氏名、生年月日、性別、住所、緊急連絡先(家族・キーパーソン)
  • かかりつけ医、協力医療機関、担当ケアマネジャー
  • 現病歴、既往歴(心疾患、脳血管疾患、糖尿病、呼吸器疾患など)
  • 内服薬リスト(処方内容、用量、服用時間、抗凝固薬・抗血小板薬の有無)
  • アレルギー(薬剤、食物、造影剤)
  • 医療的処置(在宅酸素、経管栄養、吸引、膀胱留置カテーテル、人工透析)
  • 感染症情報(MRSA、HBV、HCV、結核など)
  • ADL・コミュニケーション能力(認知症の有無、難聴、構語障害)
  • 意思確認済みの事項(DNAR、延命治療の希望、臓器提供意思)
  • 要介護度、障害高齢者の日常生活自立度、認知症高齢者の日常生活自立度

これらは「フェイスシート」として介護記録システムに登録し、緊急時にワンクリックで出力できる状態にしておくのが理想です。印刷版はケアステーション内の所定の場所(救急バッグの中など)に保管し、定期更新の担当者を決めます。

発生時に追記する「情報提供シート」項目

  • 発生日時、発見日時、発見場所
  • 発見時の状況(何をしていたか、最後に元気な様子が確認された時刻)
  • 発見時の症状(意識レベル、呼吸、脈拍、血圧、SpO2、体温、皮膚所見)
  • 経時的な変化(5分後・10分後のバイタル)
  • 行った応急手当(胸骨圧迫の時間、AEDショック回数、異物除去手技、止血、保温など)
  • 主治医・看護職・家族への連絡済みか
  • 直前24時間の食事量・水分量・排泄状況・睡眠の様子

本人の意思確認とDNAR

介護現場では、「どこまで救命処置を行うか」があらかじめ本人・家族と合意されているかが、当日の意思決定に大きく影響します。山梨県峡東地域のマニュアルでは、看取り期の意思確認プロセスとして、適応期・安定期・終末期の段階で繰り返し本人・家族に情報提供と意思確認を行うことが推奨されています。

ただし、「DNAR(心肺停止時に蘇生処置を行わない意思)」が事前指示として明確にあっても、急変時に救急隊が呼ばれた場合は原則として一次救命処置が開始されます。DNARは医療機関内での意思決定ツールで、救急隊が現場で中止できるものではありません。したがって、DNARを明確にしている利用者については、事前に主治医と「急変時に救急搬送するのか、看取りとして施設内で対応するのか」の運用を決め、家族とも合意しておく必要があります。厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」も、話し合いのプロセスを重視しています。

家族連絡の原則

家族連絡は、応急手当・通報と並行して速やかに行います。第一報は「いつ、どこで、何が起きたか、現在の状態、搬送先(決まっていれば)、誰が付き添うか」を簡潔に伝えます。感情的にならず事実のみを伝え、細部は後続連絡に委ねます。家族が遠方の場合はオンラインで状況共有できるよう、平時に連絡手段(電話、メール、LINE等)を確認しておきます。

搬送後のフォロー

搬送後は、家族・医療機関から情報を得て経過を記録し、利用者の状態を関係職員・ケアマネジャー・主治医と共有します。退院時には退院サマリーを受け取り、ケアプラン見直し、居室・食事・服薬の再設計を行います。医療機関への再搬送リスクが高い場合は、再発予防カンファレンスを開き、ヒヤリハット・事故報告書の集約と組織学習につなげます。

BCPと緊急時対応マニュアルの関係

2024年4月、すべての介護サービス事業所にBCP(業務継続計画)の策定が義務化されました。厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」「感染症発生時の業務継続ガイドライン」に基づき、自然災害編・感染症編の双方を整備することが求められ、2024年の介護報酬改定では「業務継続計画未策定減算」も創設されています。施設・居住系サービスでは基本報酬の3%、その他のサービスでは1%が減算対象で、令和7年4月からは訪問系・福祉用具貸与・居宅介護支援にも全面適用されています。

BCPは地震・水害・感染症といった「事業所全体に影響する危機」への備えで、利用者一人ひとりの急変対応とは別物に見えがちです。しかし、実際には両者は分かちがたく連動します。たとえば、地震発生直後に利用者が転倒して骨折した、水害で避難中に持病が悪化した、感染症のクラスター下で職員が不足しているなかで別の利用者が急変した、といった複合事態は現実に起こり得ます。緊急時対応マニュアルとBCPを同じ運用基盤で整備することが、現場の混乱を防ぎます。

BCPの基本構成と初動

厚生労働省が公開するBCPひな形(自然災害編・共通)では、次の構成が示されています。

  1. 総論(基本方針、推進体制、リスクの把握、優先業務の選定、研修・訓練)
  2. 平常時の対応(建物・設備の耐震・水害対策、ライフライン停止対策、衛生、備蓄、資金手当て)
  3. 緊急時の対応(BCP発動基準、行動基準、対応体制、対応拠点、安否確認、参集基準、避難、重要業務の継続、復旧)
  4. 他施設との連携
  5. 地域との連携(福祉避難所運営を含む)

ガイドラインでは「3日間の初動対応が重要」とされ、職員の安全確保、利用者の安否確認、重要業務の優先継続の3つがこの期間の最優先事項です。緊急時対応マニュアルが個別利用者への手順だとすれば、BCPは「職員が足りない」「ライフラインが止まっている」といった組織的制約の中でどう優先業務を回すかの設計図にあたります。

発動基準とトリガー

BCP発動基準の例としては「施設所在地の自治体で震度5強以上の地震が発生した場合」「大型台風の直撃が見込まれる場合」「職員の10%以上が感染症で同時に勤務できない場合」などが挙げられます。急変・救急搬送レベルの事象であっても、同時期に複数発生し通常の人員では対応しきれない状況であれば、BCP発動に準じた人員再編・応援要請を行います。

役割分担と参集基準

BCPでは平時から対応体制メンバーを決め、連絡網を整備します。夜間・休日に緊急事態が起きた場合、誰が現場指揮を執るか、誰が参集するかを明文化しておくことが重要です。浜松市のガイドブックでも、休日・夜間などの少人数対応時こそ事前準備が不可欠とされており、AED・吸引器・救急バッグの設置状況、連絡体制の確認が重要項目に挙げられています。

備蓄と設備

備蓄品は食料・水(利用者と職員の人数分×3日)、常備薬(経管栄養剤を含む)、衛生用品(マスク・手袋・エプロン・消毒液)、簡易トイレ、発電機の燃料、懐中電灯、毛布などが基本です。緊急時対応の観点では、救急バッグ・AED・酸素ボンベ・吸引器・血圧計・パルスオキシメーター・体温計・ペンライトを救急対応キットとしてまとめ、複数か所に配置すると停電時や移動制約下でも活用できます。

訓練とシミュレーション

BCPは作るだけでは意味がなく、年2回(入所系)または年1回(通所・訪問系)以上の研修・訓練が義務化されています。訓練は図上訓練(机上シミュレーション)と実地訓練の両方を計画し、急変対応・窒息除去・AED操作・119番通報を含むシナリオを盛り込みます。シナリオ例としては「夜勤帯に大地震が発生し、利用者が転倒して頭部を打撲、さらに別の利用者の呼吸状態が悪化した」といった複合事象を設定し、役割分担や優先順位付けを体感させるのが効果的です。

他施設・地域との連携

BCPガイドラインでは、単独の事業所で完結させず、近隣施設や法人グループとの連携協定、地域包括ケアシステム内での情報共有ネットワーク構築が推奨されています。職員応援派遣、物資融通、共同訓練などが具体的な連携対応の例です。福祉避難所指定を受けている施設は、地域住民の受け入れも想定した備えが必要で、平時の関係づくりが緊急時の対応力を左右します。

研修の体系化

緊急時対応のスキルは、一度学んでも使わなければ短期間で低下します。総務省の調査でも、AED使用の普及には定期的な訓練と繰り返しが不可欠とされ、心肺蘇生とAED操作にポイントを絞った短時間の入門講習が有効であると示されています。介護事業所では、以下の研修を年間計画に組み込むことが望まれます。

  • 普通救命講習(消防本部主催、3時間〜):心肺蘇生・AED・異物除去・止血
  • 上級救命講習(消防本部主催、8時間):小児・乳児への対応、傷病者管理を含む
  • 施設内シミュレーション訓練:実際の居室・食堂・浴室で実施
  • 誤嚥・窒息対応訓練:食形態・姿勢・見守り体制と連動
  • 転倒時トリアージ訓練:抗凝固薬服用者や頭部打撲時の対応フロー
  • BCP机上訓練・実地訓練(自然災害編・感染症編)

研修計画は、新人・中堅・ベテランで内容を分けると効果的です。新人には基本手技を、中堅には判断・報告・家族対応を、管理職には組織運営・意思決定とBCPの発動判断を中心に組みます。

夜勤・少人数時の体制設計

介護現場の緊急時は夜勤帯に多く発生します。少人数のなかで応急手当・通報・家族連絡・他利用者の見守りを同時にこなすため、平時から「夜勤で急変が起きたらこう動く」という手順書を作成し、すべての夜勤者が身体で覚える訓練を行います。オンコール看護師、バックアップ職員(近隣職員の呼び出し)、協力医療機関の夜間対応窓口の連絡先をワンシートにまとめ、電話機・ナースステーションの壁に掲示します。

記録とヒヤリハット

緊急対応後の記録は、次の事故を防ぐための組織資産です。時系列での記述、バイタル値、行った処置、連絡時刻、救急隊への情報提供内容を残します。厚生労働省のガイドラインでは、事故報告とヒヤリハットを分離せず同一のPDCAサイクルで回し、原因分析と再発防止策をチームで検討することが推奨されています。SHELL分析(ソフトウエア、ハードウエア、環境、当事者、関係者)やなぜなぜ分析を用いて、個人の責任追及ではなく「なぜ起きたか」「次に防ぐには何を変えるか」を軸に振り返ります。

職員の心理的ケア

重篤な急変や看取りに立ち会った職員は、心的外傷後ストレス反応(急性ストレス反応)を起こすことがあります。対応直後のデブリーフィング、管理者との1on1、必要に応じて外部の産業医・心理職の活用を用意しておきます。「次の人員シフトに穴を開けないため」に感情を抑え込まずにすむ文化づくりが、離職防止と対応品質の維持につながります。

家族・地域への情報発信

緊急時対応の方針、BCPの概要、訓練実施状況は、入居説明会・家族会・広報誌・ホームページなどで家族や地域に周知します。透明性を高めることは、事故発生時の信頼関係維持と、DNAR・看取りなど繊細な意思決定の合意形成に寄与します。

デジタル化とICT活用

見守りセンサー、ナースコールログ、バイタル自動測定、電子記録システム、映像通報119など、ICTの活用は緊急時対応の質と速度を底上げします。ただし、停電・通信障害時のバックアップとしてアナログの紙媒体も必ず用意します。最終的には、「機器が使えなくても職員が判断できる」状態にしておくことが、現場力の本質です。

まとめ:現場力を支える4つの柱

介護現場の緊急時対応は、①標準化された初動フロー、②バイタル観察と早期警告サインの共有、③119番通報・AED・異物除去・止血といった一次救命処置の習熟、④BCPと連動した組織運営——の4つの柱で支えられます。利用者の命と尊厳を守るには、個人のスキル向上だけでなく、組織としての仕組みづくり、地域・医療機関との連携、そして訓練の継続的実施が不可欠です。

「迷ったら通報」「一人で抱え込まない」「記録と振り返りを次の備えに変える」という原則を、すべての職員が共通言語として持てる職場は、緊急時の初動が速く、事故後の学びも深くなります。日々の業務の延長線上に緊急対応が地続きでつながっていることを意識し、平時の観察・介助・記録・対話の一つひとつを丁寧に積み重ねることが、結局は最大の緊急時対策です。

参考にした公的・公式資料

  • 厚生労働省「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」(令和7年11月、老健局高齢者支援課)
  • 厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」および「業務継続計画(BCP)自然災害編(介護サービス類型:共通)」ひな形
  • 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修資料・動画」
  • 総務省消防庁「救急蘇生法の指針2020」(市民用・医療従事者用)
  • 総務省消防庁「令和6年版 救急救助の現況」
  • 日本医師会「救急蘇生法」サイト(心肺蘇生法の手順、気道異物除去の手順)
  • 浜松市消防局「高齢者福祉施設等における救急対応ガイドブック」
  • 山梨県峡東地域「高齢者施設のための救急対応マニュアル」
  • 大阪府「高齢者向け運動指導マニュアル 第4章 緊急時の対応」
  • 川越市福祉部介護保険課「事故発生時・緊急時 対応マニュアル」
  • 消費者庁「年末年始、餅による窒息事故に御注意ください!」公表資料

各ガイドラインや指針は改訂が行われるため、自施設のマニュアルは年1回以上、公表版と照合して更新することを推奨します。とくに厚生労働省のガイドラインはBCP義務化・未策定減算の動きと連動しており、介護報酬改定ごとに運用の前提が変わる可能性があります。最新版を常に確認し、事業所独自の運用に落とし込むプロセスを続けてください。

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公開日: 2026年4月14日最終更新: 2026年4月14日

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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