
成年後見制度の仕組みと手続き|介護現場で知っておきたい高齢者の権利擁護
成年後見制度の3類型(後見・保佐・補助)と任意後見の違い、家庭裁判所への申立て手続き、後見人の選任、市民後見人の役割までを介護職目線でまとめました。認知症高齢者の契約能力や権利擁護に関わる介護職員向けの実務ガイドです。
はじめに:介護現場で成年後見制度の知識がなぜ必要か
介護の現場で働いていると、「認知症が進んでしまった利用者さんの預貯金の管理を誰が行うのか」「身寄りがない高齢者の施設入所契約の署名を誰に依頼すべきか」「家族間でお金のやり取りが不透明で利用者さん本人が不利益を被っているのではないか」といった場面に直面することが少なくありません。こうした場面で登場するのが成年後見制度です。
成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が十分でない方の財産管理や身上保護を、法律的に支援する仕組みです。厚生労働省の資料によると、2024年(令和6年)12月末時点での成年後見制度の利用者数は約25万3,941人にのぼり、年々増加傾向にあります。一方、認知症高齢者数の推計(2025年に約700万人、65歳以上の約5人に1人)と比較するとまだ利用者は少なく、本来支援が必要な高齢者に制度が届いていない現状も指摘されています。
介護職員は直接「後見人」になるわけではありませんが、制度を利用する利用者に日々接する立場にあり、申立ての必要性に最初に気づくキーパーソンでもあります。家庭裁判所に提出される「本人情報シート」は、ケアマネジャーなどの福祉関係者が作成するよう求められており、介護現場の観察記録や生活状況の情報が、類型判定や後見人選任の判断材料として活用されます。つまり、介護職の「気づき」と「記録」が、高齢者の権利擁護の出発点になっているのです。
本記事では、法定後見の3類型(後見・保佐・補助)の違い、任意後見契約の仕組み、家庭裁判所への申立て手続きの流れ、後見人の選任基準、市民後見人の役割、さらに介護職が知っておくべき契約能力と権利擁護の視点までを、厚生労働省・裁判所・法務省などの公的資料に基づいて整理します。施設長・サービス提供責任者・生活相談員・ケアマネジャーはもちろん、現場の介護職員にとっても、利用者を守るための基礎知識として押さえておきたい内容です。制度の全体像を理解したうえで、日々のケアに活かしていただければと思います。
なお、2024年2月に法務省から法制審議会への諮問が行われ、現在、成年後見制度そのものの見直し議論が進んでいます。2025年6月には中間試案が取りまとめられ、パブリックコメントも実施されました。後見の期間制限や類型の在り方など、制度の根幹に関わる改正が検討されている最中であり、介護業界としても動向を注視する必要があります。
成年後見制度の全体像:法定後見と任意後見の2本柱
成年後見制度は、大きく「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに分かれます。両者の最大の違いは「本人の判断能力が低下する前か後か」、そして「誰が後見人を選ぶか」という点にあります。
法定後見制度:判断能力が低下した後に家庭裁判所が選任
法定後見制度は、すでに認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が不十分になった方について、家庭裁判所に審判の申立てを行い、家庭裁判所が後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)を選ぶ仕組みです。厚生労働省の資料によると、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型に分けられ、それぞれ後見人の権限や本人の行為能力の制限範囲が異なります。
法定後見は「事後対応」の制度であり、本人がすでに契約などの法律行為を一人で行うことが困難になっている状況で利用されます。申立てができる人は、本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長などに限られており、後見人の候補者を申立人が推薦することはできますが、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。
任意後見制度:元気なうちに自分で後見人を決めておく
一方、任意後見制度は、本人が十分な判断能力を有しているうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて「誰に」「どのような事務を委任するか」をあらかじめ契約で決めておく制度です。公正証書で任意後見契約を結び、実際に判断能力が低下した段階で家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立て、監督人が選任されると契約の効力が発生します。
任意後見は「事前対応」の制度であり、本人の自己決定権を最大限に尊重できる点が特徴です。後見人を自分で選べること、委任する事務の範囲を契約で自由に設計できることから、近年「終活」の文脈で注目されていますが、実際の利用件数は年間800件台と、法定後見に比べて大幅に少ないのが実情です。
制度利用の現状と課題
最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況—令和6年1月〜12月—」によると、2024年の申立件数は合計4万1,841件で前年比約2.2%増。内訳は、後見開始2万8,785件、保佐開始9,156件、補助開始3,026件、任意後見監督人選任874件です。後見類型が全体の約7割近くを占めており、判断能力がほとんどなくなってから制度を利用する「後手後手」のパターンが大多数であることがわかります。
また、開始原因として最も多いのは認知症(約61.9%)で、次いで知的障害(約9.7%)、統合失調症(約9.2%)の順となっています。申立ての動機としては「預貯金等の管理・解約」が最多で、金融機関で高齢の利用者が預金を引き出せなくなった場面で初めて制度利用を検討するケースが多いという実態を示しています。介護現場でも、金融機関から「ご家族では手続きできません、成年後見人を立ててください」と言われて困惑する家族に相談を受けることは珍しくありません。
国は2022年3月に「第二期成年後見制度利用促進基本計画」(対象期間:令和4年度〜令和8年度)を閣議決定し、市民後見人の育成や中核機関の整備などを推進していますが、KPI(重要業績評価指標)の達成状況は分野によって差があり、任意後見制度の利用者数は微増にとどまっているのが現状です。
法定後見の3類型(後見・保佐・補助)の違い
法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれています。類型ごとに後見人等の権限や本人の行為能力の制限範囲が大きく異なるため、介護現場でも利用者がどの類型に該当するかを把握しておくことは重要です。
後見類型:判断能力が欠けた状態にある方が対象
「後見」類型は、民法第7条に規定される「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」を対象とします。簡単に言えば、日常的な判断能力がほとんど失われている状態です。重度の認知症で自分の名前や家族が誰かも理解できない、金銭の価値がわからない、日常の買い物すら一人では困難といった段階がこれに該当します。
後見類型では、家庭裁判所から選任された成年後見人が、成年被後見人を法的に広範囲に保護します。成年後見人には包括的な代理権(本人に代わって契約などの法律行為を行う権利)と取消権(本人が単独で行った法律行為を取り消す権利)が付与されます。ただし同意権はありません。これは、後見類型の本人がそもそも有効に単独で法律行為ができないため、事前に「同意」しても意味をなさないからです。
成年被後見人が行った法律行為は、日用品の購入など日常生活に関する行為を除き、原則として取り消すことができます。消費者被害や悪質商法にあった場合でも、契約を取り消して被害を回復できるため、本人保護の観点から非常に強力な仕組みです。一方で、行為能力が大きく制限されるデメリットもあり、本人の自己決定権が必要以上に制限される場合があることが、近年の制度見直し議論のきっかけとなっています。後見類型は成年後見制度の中で最も利用者が多く、全体の約7〜8割を占めます。
保佐類型:判断能力が著しく不十分な方が対象
「保佐」類型は、民法第11条の規定により「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」を対象とします。日常的な買い物程度はできるものの、不動産の売買、借金、保証契約など、重要な財産行為については一人で判断することが難しい段階です。中等度の認知症や知的障害の方がこの類型に該当することが多いとされています。
保佐人には、民法第13条第1項に列挙された特定の重要行為(借財、保証、不動産等の重要な財産の得喪、訴訟行為、贈与、相続の承認・放棄、遺産分割、家屋の新築・改築・増築・大修繕、長期の賃貸借など)について同意権と取消権が付与されます。代理権は原則ありませんが、申立てにより家庭裁判所が個別に定める行為について代理権を付与することができます。
保佐類型の特徴は、本人の自己決定を尊重しつつ、重要行為についてのみ保護をかける点です。被保佐人は保佐人の同意があれば自ら法律行為を行うことができ、日常生活の自立度をある程度保ったまま制度を利用できます。2024年の保佐開始申立件数は9,156件で、後見開始の約3分の1の水準です。
補助類型:判断能力が不十分な方が対象
「補助」類型は、民法第15条の規定により「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」を対象とします。判断能力の低下が比較的軽度で、自分で物事を決められる場面も多いものの、重要な手続きや契約を一人で決めるには不安がある、という段階です。軽度認知障害(MCI)や軽度認知症、軽度の知的障害、比較的軽い精神障害の方が対象として想定されています。
補助人に付与される権限は、申立てにより家庭裁判所が定める特定の行為に限られます。同意権・取消権・代理権のうち、本人と申立人が必要と考える範囲だけをオーダーメイドで設定できるのが補助類型の特徴です。また、補助開始の審判、補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合には、必ず本人の同意が必要となります。これは、補助類型の対象者が自己決定能力を一定程度保持していることを前提としているためです。
しかし補助類型の利用は伸び悩んでおり、2024年の申立件数は3,026件で前年比9.2%増と伸び率は高いものの、全体に占める割合はわずか約7%にとどまります。第二期基本計画でも「補助・保佐類型が利用されるための取組を進めること」が優先事項として掲げられています。
3類型の比較表
3類型の違いを整理すると以下のようになります。
- 後見:判断能力を欠く常況/代理権・取消権(包括)/本人同意不要
- 保佐:判断能力が著しく不十分/特定の重要行為に同意権・取消権/代理権付与には本人同意必要
- 補助:判断能力が不十分/特定行為に限定(オーダーメイド)/補助開始・権限付与に本人同意必須
介護現場では、利用者の認知機能評価(HDS-RやMMSEなど)だけでなく、日常の意思疎通、金銭管理の実態、契約場面での理解度などを総合的に観察して記録することが、適切な類型判定につながります。
任意後見制度の仕組みと活用のポイント
任意後見制度は、法定後見制度と対をなすもう一つの柱です。本人が十分な判断能力を有しているうちに、信頼できる人を「任意後見受任者」として選び、将来判断能力が低下したときに後見事務を委任する内容を契約で定めておく仕組みです。自己決定権の尊重という観点から、理念的には非常に優れた制度ですが、実際の利用は限定的にとどまっています。
任意後見契約の基本構造
任意後見契約は、「任意後見契約に関する法律」に基づき、必ず公正証書で作成する必要があります。同法第3条には「任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない」と明記されており、当事者間で書面を作成しただけでは効力を持ちません。公証人が契約書作成に関与することで、適法かつ有効な契約が締結されることが担保されます。
契約書に記載する委任事項は、日本公証人連合会の標準的な例では以下のような項目があります。
- 不動産・動産等すべての財産の保存、管理、処分に関する事項
- 金融機関、証券会社とのすべての取引に関する事項
- 保険契約に関する事項
- 定期的な収入の受領、定期的な支出の費用の支払いに関する事項
- 生活費の送金、生活に必要な財産の取得、日常生活関連取引
- 医療契約、入院契約、介護契約、福祉サービス利用契約、福祉関係施設入退所契約
- 要介護認定の申請、福祉関係措置の申請、審査請求
- 登記済権利証、印鑑、預貯金通帳、マイナンバーカード、年金関係書類、健康保険証、介護保険証などの重要書類の保管
- 居住用不動産の購入・賃貸借・新築・増改築
- 登記・供託の申請、税務申告
- 遺産分割の協議、遺留分侵害額の請求、相続放棄、限定承認
これらの委任事項は包括的に定めることもできますし、個別に限定することも可能です。本人の意向と生活状況に応じて、オーダーメイドで設計できるのが任意後見制度の大きなメリットです。
契約から効力発生までの流れ
任意後見制度の利用は、以下の3段階で進みます。
第1段階:任意後見受任者を選ぶ。特別な資格は不要で、家族・親族・友人のほか、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職に依頼することも可能です。信頼性と継続的に後見事務を担える見込みがあることが重要です。
第2段階:公正証書で任意後見契約を締結。公証役場で公証人に依頼し、公正証書として契約書を作成します。契約書作成の基本手数料は11,000円、登記嘱託手数料1,400円、登記所に納付する印紙代2,600円が基本的な費用となります。契約締結後、公証人が法務局に登記を嘱託し、任意後見契約の登記がなされます。
第3段階:判断能力低下後に任意後見監督人の選任申立て。本人の判断能力が不十分になったタイミングで、本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者のいずれかが家庭裁判所に「任意後見監督人の選任」を申し立てます。申立手数料は収入印紙800円分、登記手数料は収入印紙1,400円分です。任意後見監督人が選任されると任意後見契約の効力が発生し、受任者は正式に「任意後見人」として後見事務を開始します。
任意後見監督人の役割
任意後見制度では、任意後見監督人の選任が必須です。法定後見では後見監督人の選任は必ずしも必要ではありませんが、任意後見では例外なく家庭裁判所が監督人を選任します。これは、任意後見人が本人の信頼で選ばれた人物であり、家庭裁判所が直接選んだ専門職ではないため、第三者によるチェック機能を制度的に組み込んでいるからです。
監督人の主な役割は、任意後見人の事務の監督、定期的な事務報告の受領、急迫の事情への対応、利益相反行為における本人代表などです。任意後見人は監督人に対して定期的に財産状況などを報告する義務があり、監督人は家庭裁判所に報告を上げる役割を担います。
任意後見制度の利用が伸びない理由
任意後見制度は理念的には優れた仕組みですが、2024年の任意後見監督人選任申立件数は874件と、制度利用全体のわずか2%程度にすぎません。第二期基本計画でも「任意後見制度の利用促進」は優先的取組事項として掲げられていますが、厚生労働省の中間検証報告書(第18回成年後見制度利用促進専門家会議、2024年12月)では「任意後見制度の利用者数は微増傾向にとどまる」と評価されており、目標達成は困難な見込みとされています。
利用が伸びない背景には、制度の認知不足、判断能力がある段階で将来の後見を考える心理的ハードル、公正証書作成の手間と費用、任意後見監督人の選任申立てが適切な時機になされないリスクなどが指摘されています。特に最後の点は、本人の判断能力が低下しても受任者が申立てをしないまま放置される「塩漬け」のケースが問題視されており、現在の制度見直し議論でも「新たな申立権者を設ける案」などが検討されています。
介護施設の相談員やケアマネジャーは、元気なうちから利用者や家族に任意後見制度の存在を伝え、必要に応じて弁護士・司法書士・社会福祉協議会などの専門相談窓口を紹介することが、将来の権利擁護につながります。
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家庭裁判所への申立て手続きの流れ
法定後見制度を利用するには、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に「後見(保佐・補助)開始の審判」を申し立てる必要があります。裁判所「成年後見はやわかり」(厚生労働省運営)の案内や家庭裁判所の公表資料に基づき、標準的な手続きの流れを整理します。
申立てができる人(申立権者)
法定後見の開始申立てができるのは、次の人です。
- 本人
- 配偶者
- 四親等内の親族(子、孫、父母、祖父母、兄弟姉妹、叔父叔母、甥姪、従兄弟姉妹など)
- 検察官
- 市町村長
注目すべきは「市町村長申立て」の件数が年々増加している点です。2024年の概況によると、市区町村長による申立件数は9,980件で、申立人全体の約23.9%を占め、最も多い申立人類型となっています。これは、身寄りのない高齢者や親族が申立てに協力してくれないケース、親族間で対立があり合意形成が困難なケースが増えていることを示しています。介護施設に入所している利用者の場合、施設所在地の市町村長が申立てを行うケースも少なくありません。
申立てに必要な書類
家庭裁判所への申立てに必要な標準的な添付書類は次のとおりです。
- 申立書(家庭裁判所の書式)
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 相続財産目録(該当する場合)
- 収支予定表
- 本人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 本人の住民票または戸籍附票
- 成年後見等に関する登記事項証明書(東京法務局で取得)
- 本人の診断書(家庭裁判所が定める様式)
- 本人情報シート(福祉関係者が作成)
- 本人の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金通帳の写し、残高証明書、有価証券の残高証明書、ローン契約書の写しなど)
- 本人の収入に関する資料(年金額決定通知書、給与明細、確定申告書など)
- 本人の支出に関する資料(施設利用料、入院費、納税証明書、国民健康保険料決定通知書など)
- 後見人候補者がいる場合はその住民票または戸籍附票
特に重要なのが「本人情報シート」と「診断書」です。本人情報シートは、ケアマネジャー・地域包括支援センターの社会福祉士・相談員など、本人の福祉関係者が作成する書類で、生活状況や支援の必要性、判断能力の実態などを記載します。診断書は主治医が作成しますが、医師が医学的に判断能力を評価する際の参考資料としても本人情報シートが活用されます。家庭裁判所への本人情報シートの提出割合はおおむね9割前後で推移しており、全国的に定着している重要書類です。
申立て費用
法定後見開始の申立てに必要な費用の目安は次のとおりです。
- 申立手数料:収入印紙800円分(類型ごと)
- 登記手数料:収入印紙2,600円分
- 連絡用郵便切手:数千円程度(家庭裁判所により異なる)
- 鑑定費用:必要な場合、申立人が負担(数万円〜10万円程度)
- 診断書作成料:数千円〜1万円程度(医療機関により異なる)
- 各種証明書取得費:戸籍謄本・住民票・登記事項証明書など合計数千円
低所得の方については、各市町村が実施する「成年後見制度利用支援事業」により、申立費用や後見人報酬の助成を受けられる場合があります。厚生労働省の令和6年度調査によると、障害者関係では申立費用・報酬両助成ありの自治体が全国1,741自治体中1,645自治体(94.5%)にのぼります。高齢者関係でも同様の助成制度を多くの自治体が実施しています。
審理の流れ
申立書類を提出した後、家庭裁判所での審理は概ね次の順序で進みます。
①申立書類の受付・形式審査:家庭裁判所が書類の不備をチェックします。
②調査官による事情聴取:申立人、本人、後見人候補者などが呼ばれ、家庭裁判所の調査官と面談します。申立ての経緯、本人の病歴・生活状況・財産状況、候補者の適格性などが確認されます。
③親族への照会:本人の家族・親族に対して、事実関係や後見人候補者の適格性について照会書が送られます。親族間の紛争の有無なども確認されます。
④本人調査:調査官が本人と面談し、申立内容への意見や後見人候補者への希望などを確認します。後見類型で意思疎通が困難な場合は省略されることもあります。
⑤鑑定:必要に応じて、家庭裁判所が指定した専門医による医学鑑定が行われます。判断能力の程度(3類型のどれに該当するか)を医学的に判定します。ただし鑑定が実施される割合は全体の1割以下と低く、多くの場合は診断書のみで判定されます。
⑥審判:家庭裁判所が後見等開始の審判を下し、同時に後見人等を選任します。
⑦審判書の送付と確定:本人、申立人、後見人等に審判書が送付されます。法定後見の場合、審判書受領から2週間を経過すると審判が確定します。
⑧後見登記:確定後、家庭裁判所の嘱託により東京法務局で成年後見の登記がなされます。後見人は登記事項証明書の交付を受けることで、自らが後見人であることを証明できます。
申立てから審判確定までの期間は、標準的には2〜4か月程度とされますが、親族間の対立や鑑定の必要性がある場合はさらに長期化することがあります。
後見人の選任基準と専門職後見人・親族後見人
家庭裁判所が後見人等を選任する際には、本人の利益を最優先に、さまざまな事情を総合的に考慮して決定します。申立人が候補者を推薦することはできますが、必ずしもその候補者が選任されるとは限らず、家庭裁判所の裁量で第三者の専門職が選任されることも少なくありません。
選任の判断要素
最高裁判所の運用指針によると、後見人選任の判断では次のような要素が考慮されます。
- 本人の生活・財産の状況(財産額、収入、支出、不動産の有無)
- 本人の身上監護上のニーズ(認知症の程度、医療・介護の必要性)
- 候補者と本人との関係(親族関係、信頼関係の有無)
- 候補者の年齢・健康状態・職業・経済状況
- 候補者の後見事務を遂行する能力
- 親族間の紛争の有無・程度
- 本人の意思・希望
- 後見事務の専門性(相続手続き、訴訟対応など)
2019年3月、最高裁判所は「身近な親族を後見人に選任することが望ましい」との方針を示し、それ以前の「原則として専門職を選任する」運用から一定の転換が図られました。しかし実際のデータを見ると、現在でも専門職後見人が選任される割合は高く、2024年の概況では親族以外(弁護士・司法書士・社会福祉士・法人後見・市民後見人など)が後見人等に選任されたケースは全体の約82.9%を占めています。親族が選任されたケースは約17.1%にとどまります。
親族後見人の現状
親族後見人は、配偶者・親・子・兄弟姉妹などが本人の後見人に選任されるケースです。最高裁の方針転換後も親族後見の選任割合は大きくは伸びていませんが、これは「そもそも親族を候補者とする申立て自体が少ない」という構造的な問題が背景にあります。データから逆算すると、親族を後見人候補者として申し立てた場合の認容率は約85.6%と高く、候補者として推薦されれば相当高い確率で選任されることがわかります。
親族後見人のメリットは、本人の生活状況や価値観を熟知している、報酬が不要または低額で済む、きめ細かい身上監護が期待できるといった点です。一方、デメリットとして、財産の使い込みなどの不正リスク、事務処理能力の不足、親族間の紛争激化などが挙げられます。このため、親族後見の場合は後見監督人の選任や後見制度支援信託・支援預貯金の利用が推奨されており、親族後見における後見制度支援信託等の利用率は約36.9%にのぼります。
専門職後見人
専門職後見人として選任されるのは、主に弁護士・司法書士・社会福祉士の3職種です。2024年の選任内訳は次のとおりです。
- 弁護士:8,794件
- 司法書士:11,875件
- 社会福祉士:6,873件
- 市民後見人:331件
- その他(行政書士、税理士、法人後見など)
司法書士が最も多く選任されており、これは成年後見の受任に積極的な「リーガルサポート」という公益社団法人の組織が全国展開していることが背景にあります。弁護士は、親族間の紛争がある事案や訴訟対応が予想される事案で選任されることが多く、社会福祉士は身上保護のニーズが高い事案で選任される傾向があります。
専門職後見人の報酬は、家庭裁判所の審判により本人の財産から支払われます。標準的な月額報酬は、管理財産額に応じて2万円〜6万円程度が目安とされていますが、事案の複雑さや後見事務の量によって変動します。
法人後見:組織として後見事務を担う
近年注目されているのが法人後見です。社会福祉協議会、NPO法人、公益社団法人などが法人として後見人に選任される形態で、個人後見人と異なり、担当者の交代があっても継続的・安定的に後見事務を担えるメリットがあります。また、困難ケース(重度の行動障害、精神疾患、虐待被害、多重債務など)にチームで対応できる強みもあります。
厚生労働省は「成年後見制度利用促進体制整備推進事業」や「権利擁護人材育成事業」を通じて法人後見の担い手確保を推進しており、第二期基本計画でも重要な施策と位置付けられています。
後見監督人の選任
家庭裁判所は、必要に応じて後見監督人を選任することができます。特に親族後見人が選任される場合や、管理財産額が高額な場合に、専門職による監督を加えることで不正防止を図るケースが増えています。親族後見における後見監督人の選任率は約18.7%となっています。
後見監督人の主な職務は、後見人の事務監督、後見人が欠けたときの選任請求、急迫の事情への対応、利益相反行為における本人代表などで、任意後見監督人と類似した機能を持ちます。
市民後見人の役割と地域による権利擁護支援
成年後見制度の担い手として近年期待が高まっているのが市民後見人です。弁護士・司法書士などの専門職後見人ではなく、同じ地域に暮らす一般市民が、所定の養成研修を修了したうえで後見人に選任される仕組みで、介護施設・地域包括支援センターと深い連携で動くケースも多く、介護職としても知っておきたい存在です。
市民後見人とは
市民後見人とは、弁護士や司法書士などの資格を持たない一般市民が、市町村や社会福祉協議会などが実施する養成研修を修了し、家庭裁判所によって成年後見人等に選任された人のことを指します。2011年の最高裁判所事務総局家庭局の集計で初めて「市民後見人(92件)」という区分が現れ、以降その数は徐々に増加しています。2024年の概況では市民後見人の選任件数は331件となっています。
市民後見人が制度的に位置付けられたのは、2012年4月施行の改正老人福祉法(第32条の2)です。同条は市町村に対し、後見等業務を適正に行うことができる人材の育成・活用を図るための体制整備を努力義務として課しています。これを受けて、全国の市町村で市民後見人養成研修や活動支援事業が展開されてきました。
市民後見人が必要とされる背景
市民後見人の養成・活用が推進される背景には、次の事情があります。
- 認知症高齢者数の急増:厚生労働省推計では、2012年に約462万人だった認知症高齢者数は、2025年には約700万人(65歳以上の約5人に1人)に達する見込みです。
- 専門職後見人の不足:弁護士・司法書士などの専門職だけでは増大するニーズに対応しきれない見通しです。
- 親族後見人の減少:核家族化・単身世帯化により、親族による後見が難しい高齢者が増加しています。2015年時点で65歳以上の単独世帯は26.3%に達し、今後も増加が予測されます。
- 報酬負担の問題:専門職後見人の報酬を負担できない低所得の高齢者にとって、無報酬またはボランティア活動費程度の実費で活動する市民後見人は重要な選択肢です。
- 地域密着の支援:同じ地域に暮らす住民として、本人と同じ目線で継続的に相談し合える関係性が、身上保護の質を高めます。
市民後見人養成研修の内容
市民後見人養成研修は、市町村または社会福祉協議会・NPO法人などの委託団体が実施します。標準的なカリキュラムには次の内容が含まれます。
- 成年後見制度の概要と理念(ノーマライゼーション、自己決定の尊重、残存能力の活用)
- 民法・家事事件手続法などの法律知識
- 認知症・知的障害・精神障害などに関する医学・心理学の基礎知識
- 財産管理・身上保護の実務
- 家庭裁判所への報告・記録の作成
- 福祉サービス・介護保険制度の知識
- 実習(先輩後見人への同行、ロールプレイなど)
研修時間は自治体により異なりますが、基礎課程50時間程度+実習課程20時間程度が一般的です。研修修了後、市町村または社会福祉協議会が後見人候補者名簿に登録し、家庭裁判所からの要請に応じて候補者を推薦する仕組みになっています。
中核機関と地域連携ネットワーク
第二期成年後見制度利用促進基本計画(2022年3月閣議決定)は、「権利擁護支援の地域連携ネットワーク」の構築を重要施策として位置付けています。その中核を担うのが「中核機関」で、2024年4月時点で全国1,741市町村のうち1,031市町村(約59%)で整備されています。
中核機関の主な機能は次のとおりです。
- 広報機能:制度の周知啓発
- 相談機能:本人・家族・介護事業者・金融機関などからの相談対応
- 成年後見制度利用促進機能:受任者調整、マッチング、申立て支援
- 後見人支援機能:市民後見人の養成・フォローアップ、チーム支援
中核機関は市町村が直接運営する場合のほか、社会福祉協議会や権利擁護支援センターに委託されるケースも多く、実務の担い手は社会福祉士・精神保健福祉士・社会福祉主事などの専門職です。介護事業者が利用者の権利擁護について相談したい場合の重要な窓口となります。
日常生活自立支援事業との役割分担
成年後見制度の手前で機能するのが、社会福祉協議会が実施する「日常生活自立支援事業」(通称「あんしんサポート」「福祉サービス利用援助事業」など自治体により名称が異なる)です。判断能力が不十分な高齢者・障害者に対し、福祉サービス利用援助、日常的な金銭管理、書類預かりなどの支援を契約に基づいて提供する仕組みです。
成年後見制度が「法律行為の代理」を中心とするのに対し、日常生活自立支援事業は「日常的な事実行為の援助」が中心で、契約段階で本人に一定の判断能力が残っていることが前提となります。判断能力がさらに低下した段階で成年後見制度へ移行するパターンが一般的で、両制度の切れ目のない連携が「権利擁護人材育成事業」のテーマとなっています。
介護職が知っておくべき契約能力と高齢者保護の視点
成年後見制度は法律家・行政・家庭裁判所が関与する仕組みですが、制度を実際に機能させるためには、日々高齢者と接する介護職の理解と協力が不可欠です。ここでは介護現場で押さえておきたい「契約能力」と「権利擁護」の視点を整理します。
契約能力とは何か
契約能力とは、法的には「意思能力」と「行為能力」の2つの概念に分けられます。
意思能力は、自分の行為の結果を判断できる能力のことで、民法第3条の2により「意思能力を有しないでした法律行為は、無効とする」と規定されています。重度の認知症などで意思能力を欠く状態で行われた契約は、仮に後見人が選任されていなくても、そもそも無効となります。
行為能力は、単独で確定的に有効な法律行為を行うことができる資格のことで、未成年者や成年被後見人・被保佐人・被補助人は「制限行為能力者」とされ、一定の行為が取り消し可能となります。
介護現場では、認知症の進行度合いに応じて意思疎通の質が変化するため、「この利用者は契約を理解できているか」という判断が常に求められます。例えば、入所契約・介護保険サービス契約・医療同意・金融取引・通信販売の申込み・施設の物販購入など、さまざまな場面で契約能力が問題になります。
認知症高齢者と契約トラブルの実例領域
認知症高齢者が巻き込まれやすい契約トラブルには次のような類型があります。
- 訪問販売・電話勧誘による不要な商品購入(健康食品、リフォーム、浄水器など)
- 投資詐欺・特殊詐欺被害(オレオレ詐欺、還付金詐欺、投資勧誘詐欺)
- 金融機関での高額商品購入(仕組債、外貨建て保険など)
- 消費者金融からの借入・クレジットカードの多額利用
- 家族・親族による預貯金の使い込み(経済的虐待)
- 不動産の不適切な処分(安値での売却、不要なリフォーム契約)
- 施設の物販やサービスでの過剰購入
成年後見制度が開始されていれば、これらの契約のうち日用品購入以外については取消権の行使により被害回復が可能です。しかし制度を利用していない段階で発生した場合、意思能力を欠いていたことを証明する必要があり、事後的な立証は容易ではありません。
介護職が発揮できる権利擁護の役割
介護職は直接「後見人」にはなりませんが、日常的に利用者と接する立場として、次のような場面で権利擁護の重要な役割を果たします。
①変化への気づき:利用者の金銭感覚の変化、身なりの乱れ、急な大量の荷物の到着、家族関係の変化などから、契約トラブルや虐待の兆候を早期に察知します。
②本人情報シートの作成協力:ケアマネジャーが本人情報シートを作成する際、介護現場の観察記録が基礎資料となります。日常生活動作、意思疎通の状況、金銭管理の実態、意思決定の支援ニーズなどを正確に記録・共有することが重要です。
③意思決定支援:成年後見制度は本人の意思を尊重する方向へと運用が変化しており、厚生労働省「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」(2020年)、「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」が整備されています。介護職はこれらのガイドラインに沿って、本人の意思表示を丁寧に引き出し、記録する役割を担います。
④不適切な金銭授受の回避:介護職自身が利用者から金銭や高価な物品を受け取ることは、職業倫理上厳に慎むべき行為です。また、同僚や他の利用者から不適切な金銭授受の兆候があれば、管理者や中核機関・地域包括支援センターに報告します。
⑤成年後見制度の情報提供:家族から金銭管理や財産処分の相談を受けた際に、成年後見制度や日常生活自立支援事業の存在を情報提供し、必要に応じて中核機関・社会福祉協議会・地域包括支援センターなどにつなぎます。
介護職員自身が後見人候補者になれるか
介護職員が勤務先の利用者の後見人になることは、法律上は禁じられていません。しかし、職務の延長としての関係性があることから利益相反の問題が生じやすく、家庭裁判所が選任することは極めて稀です。サービス提供者と後見人の役割は明確に分離することが望ましいとされています。
一方、介護職員がプライベートな立場で市民後見人養成研修を受講し、勤務先とは無関係な地域住民の後見人として活動することは推奨されています。福祉分野の経験は市民後見人としての活動に非常に有効であり、地域の権利擁護の担い手としての広がりが期待されています。
高齢者虐待防止法との関係
成年後見制度は、高齢者虐待防止法(正式名称:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)とも深く関連します。経済的虐待(財産の不当処分、使い込みなど)が疑われるケースでは、市町村長による後見開始の申立てが行われ、後見人が財産を保全する対応がとられることがあります。
介護事業者・介護職員には高齢者虐待防止法による通報義務があり、虐待を発見した場合は速やかに市町村に通報しなければなりません。通報を契機に市町村が調査を行い、必要に応じて成年後見制度利用につなげる流れも確立されています。
制度の今後:見直し議論と介護業界への影響
成年後見制度は2000年の施行から四半世紀を経て、大きな節目を迎えています。2024年2月、法務大臣は法制審議会に対し「成年後見制度の見直し」を諮問し、法制審議会民法(成年後見等関係)部会において調査審議が進められてきました。2025年6月10日には中間試案が取りまとめられ、同月25日からパブリックコメントが実施されました。介護業界としても動向を注視すべき重要な議論です。
現行制度への主な指摘
厚生労働省や法制審議会の資料によると、現行の成年後見制度には次のような課題が指摘されています。
- 利用の硬直性:利用動機の課題(例:遺産分割手続きのため)が解決しても、判断能力が回復しない限り利用をやめることができない。結果として、必要性がなくなっても終身にわたり後見を継続し、報酬負担が続く。
- 過剰な権限集中:成年後見人には包括的な取消権・代理権があり、本人の自己決定が必要以上に制限される場面がある。
- 交代の困難:本人の状況の変化に応じた後見人の交代が実現せず、本人のニーズに合った保護を受けられない。
- 任意後見の機能不全:任意後見契約の本人の判断能力が低下した後も、適切な時機に任意後見監督人の選任申立てがされない「塩漬け」問題。
- 3類型の使い分けの硬直化:補助・保佐類型の利用が伸びず、後見類型に偏在している。
国連障害者権利委員会からの勧告
2022年9月、国連障害者権利委員会は日本の第1回対日審査に対する総括所見を公表し、現行の成年後見制度について代行決定体制の廃止と「支援付き意思決定」への転換を勧告しました。この勧告は、障害者権利条約第12条(法律の前にひとしく認められる権利)の理念に基づくもので、国内の制度見直し議論の重要な背景となっています。
中間試案に盛り込まれた主な検討事項
法制審議会の中間試案には、次のような見直し案が示されています。
- 法定後見の開始要件の見直し:必要性を開始の要件とし、必要性がなくなれば終了する案などを検討。
- 3類型の再編:現行の後見・保佐・補助の3類型を維持しつつ修正する「甲案」、特定の事項について代理権・取消権を個別付与する類型に統一する「乙1案」、さらに柔軟な「乙2案」などの複数案を提示。
- 後見人の交代事由の拡大:新たな解任事由を設ける案を検討。
- 任意後見監督人選任申立権者の拡大:新たな申立権者を設ける案を検討。
- 本人の同意・意思を反映する仕組みの強化:権限行使における本人同意を要件化する方向性。
介護業界・介護職への影響
制度見直しが実現すれば、介護現場にも次のような影響が及ぶ可能性があります。
①意思決定支援の重要性の増大:代行決定から支援付き意思決定への転換は、介護職が本人の意思を丁寧に引き出し、記録し、後見人やケア会議で共有する役割をさらに強めます。
②期間限定の後見利用の普及:必要性がなくなれば終了できる仕組みが導入されれば、遺産分割・施設入所契約などの特定目的で一時的に後見を利用するケースが増える可能性があります。介護職は、利用開始のタイミングと同様に、必要性解消後の「出口戦略」にも目を配る必要があります。
③後見人交代への対応:本人のニーズ変化に応じて後見人が交代する運用が広がれば、介護事業者側も引継ぎの体制整備が求められます。
④任意後見の利用促進:介護職・ケアマネジャーが元気なうちの高齢者に任意後見を含む将来の備えを情報提供する役割が重要になります。
認知症基本法との連動
2024年1月1日に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」は、認知症の人の意思決定の適切な支援と権利利益の保護を国・地方公共団体の責務として位置付けています。2024年には「認知症施策推進基本計画」も策定され、「認知症になっても個人としてできること、やりたいことがあり、希望を持って暮らし続けることができる」という「新しい認知症観」に立った施策が展開されています。成年後見制度の見直しも、この認知症基本法の理念と連動しながら進められていく見通しです。
中核機関・地域連携ネットワークのさらなる強化
厚生労働省は第二期基本計画のKPIとして、2026年度末までに全市町村で中核機関の整備を目指していますが、2024年4月時点の整備率は約59%で、目標達成は厳しい見込みです。中間検証報告書では「中核機関を法定の機関として位置付け、役割を明らかにする必要」が指摘されており、今後、中核機関の法定化が進む可能性があります。介護事業者にとっては、自地域の中核機関との連携が、権利擁護支援の実践においてますます重要な位置を占めるでしょう。
よくある質問(FAQ)と相談窓口
介護現場で利用者や家族から寄せられることの多い質問を整理し、最後に公的な相談窓口を紹介します。
Q1.成年後見制度を利用すると、本人は自分で何もできなくなるのですか?
いいえ、類型によって制限範囲は大きく異なります。補助類型では特定行為だけに制限がかかり、日常生活の自立度はほぼ保たれます。保佐類型でも日用品の購入や日常生活行為は自由です。後見類型でも、日用品の購入など日常生活に関する行為については取消しの対象になりません。本人の意思決定支援は、どの類型でも後見人の重要な職務です。
Q2.後見人の報酬はいくらかかりますか?
家庭裁判所の審判により、本人の財産から支払われます。標準的な目安は月額2万円程度ですが、管理財産額が多額(例:5,000万円超)の場合や、身上保護の負担が大きい場合は月額5〜6万円になることもあります。特別困難な事務(訴訟対応、不動産売却など)があった年度は付加報酬が発生します。低所得の方については、市町村の成年後見制度利用支援事業で報酬助成を受けられる場合があります。
Q3.家族が後見人になれますか?
家族・親族を後見人候補者として申し立てることは可能で、データ上、親族候補者の認容率は約85.6%と高い水準です。ただし家庭裁判所は事案の複雑性や親族間の対立状況などを総合的に判断し、専門職後見人を選任するケースも少なくありません。親族後見の場合は、後見監督人の選任や後見制度支援信託・支援預貯金の利用が求められることが多くなります。
Q4.一度後見が始まると途中でやめられないのですか?
現行制度では、本人の判断能力が回復しない限り、法定後見を途中で終了させることはできません。これが現行制度の大きな課題として指摘されており、前述のとおり現在進行中の制度見直し議論では、必要性がなくなれば終了できる仕組みの導入が検討されています。
Q5.後見人による不正が心配です。どんな防止策がありますか?
不正防止のために次のような仕組みが整備されています。
- 後見制度支援信託・支援預貯金:日常的な支出を超える金銭を信託銀行や金融機関に預け、家庭裁判所の指示書がないと払戻しができない仕組み。2023年12月末までの累計利用者数は後見制度支援信託29,821人、後見制度支援預貯金9,454人。
- 後見監督人の選任:専門職による監督を追加。
- 家庭裁判所への定期報告:後見人は毎年、財産状況や身上保護の状況を家庭裁判所に報告する義務があります。
- 専門職団体による監督・支援:弁護士会・司法書士会・社会福祉士会が会員後見人を監督・指導。
Q6.後見人に頼めないことはありますか?
次の行為は、成年後見人であっても本人に代わって行うことはできません。
- 一身専属的行為:婚姻、離婚、養子縁組、遺言など、本人の意思によってのみ決定できる行為。
- 医療同意:手術・侵襲的医療行為への同意は、後見人の代理権の範囲外とされるのが現在の実務上の整理です。現場では、家族や倫理委員会の判断と組み合わせて対応されています。
- 事実行為としての介護・看護:後見人は法律行為の代理を行う立場であり、実際の介護を提供することは職務外です。
相談窓口
成年後見制度について相談したい場合、次のような窓口があります。
- 市町村の中核機関・権利擁護支援センター:地域の相談・マッチングの総合窓口。社会福祉協議会に設置されることが多い。
- 地域包括支援センター:高齢者の相談総合窓口。制度利用の初期相談に対応。
- 社会福祉協議会:日常生活自立支援事業、市民後見人の養成・活動支援、法人後見の受任などを実施。
- 家庭裁判所:手続きの具体的な案内。各裁判所の「家事受付センター」で書式配布や案内を受けられる。
- リーガルサポート(公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート):司法書士による全国組織。電話相談・面談相談を実施。
- 日本弁護士連合会・各単位弁護士会の高齢者・障害者支援センター:弁護士による相談対応。
- 日本社会福祉士会・各都道府県社会福祉士会の権利擁護センター:社会福祉士による相談対応。
- 法テラス(日本司法支援センター):経済的に困難な方への民事法律扶助、情報提供。
- 厚生労働省運営「成年後見はやわかり」サイト:制度の解説、書式ダウンロード、相談窓口検索が可能。
まとめ
成年後見制度は、判断能力が不十分な高齢者・障害者の権利を守るための重要な仕組みですが、その利用は本来のニーズに対してまだ十分とは言えません。介護職は後見人そのものになる機会は少なくても、制度を理解し、利用者の変化に気づき、適切な窓口へつなぐ「入口の担い手」として欠かせない存在です。3類型の違い、任意後見の仕組み、申立ての流れ、後見人の選任基準、市民後見人の役割、そして現在進行中の制度見直しの方向性を押さえておくことで、日々のケアの質と権利擁護の実践力を一段高めることができるはずです。認知症基本法のもと、本人の尊厳と自己決定を軸にした新しい支援の形が模索されている今、介護現場からの声と実践の蓄積が、制度をより良いものに変える力になっていきます。
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