認知症とは

認知症とは

認知症とは脳の病気や障害により認知機能が低下し日常生活に支障が出る状態。アルツハイマー型・血管性・レビー小体型・前頭側頭型の4大原因疾患、中核症状とBPSDの違い、診断方法、2024年施行の認知症基本法と共生社会、介護現場でのケア基本姿勢まで用語集形式でやさしく解説します。

ポイント

この記事のポイント

認知症とは、脳の病気や障害により認知機能(記憶・判断・言語など)が低下し、日常生活に支障が出ている状態の総称です。アルツハイマー型・血管性・レビー小体型・前頭側頭型の4大原因疾患があり、2024年1月には「認知症基本法」が施行され、共生社会の実現に向けた施策が進んでいます。

目次

認知症の定義

認知症とは、いったん正常に発達した認知機能が、後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を指します。特定の病気の名前ではなく、さまざまな原因疾患によって引き起こされる「症候群」として位置づけられています。

認知機能には、記憶・見当識(時間・場所・人の認識)・判断力・言語・実行機能などが含まれます。これらが脳の障害によって低下することで、買い物や金銭管理、服薬、家事、仕事といった日常の活動が一人では難しくなっていきます。

「もの忘れ」と認知症の違い

加齢によるもの忘れは「体験の一部」を忘れる(朝食のメニューを思い出せない)のに対し、認知症のもの忘れは「体験そのもの」が抜け落ちる(朝食を食べたこと自体を忘れる)のが特徴です。また、本人にもの忘れの自覚があるかどうか、日常生活に支障があるかどうかも重要な見極めポイントになります。

誰もが当事者になり得る

厚生労働省の推計によれば、2025年時点で65歳以上の高齢者のうち約5人に1人が認知症またはその予備群(軽度認知障害=MCI)に該当するとされ、認知症は「特別な人の病気」ではなく、誰にとっても身近な状態となっています。

認知症の4大原因疾患

認知症を引き起こす原因疾患は数十種類ありますが、なかでも頻度が高い4つを「4大認知症」と呼びます。それぞれ脳に蓄積する異常タンパク質や障害される部位が異なり、症状の出方や進行速度にも特徴があります。

1. アルツハイマー型認知症(全体の約5〜6割)

脳内にアミロイドβやタウタンパクといった異常タンパク質が長期間かけて蓄積し、神経細胞が変性・脱落することで発症します。海馬を中心に萎縮が進むため、近時記憶(数分前〜数日前の出来事)の障害から始まるのが典型的です。緩やかに進行し、徐々に見当識障害や判断力低下に広がります。

2. 血管性認知症(全体の約2割)

脳梗塞・脳出血・慢性的な脳の血流不足など、脳血管障害が原因で起こる認知症です。障害された部位の機能だけが低下するため「まだら認知症」と呼ばれ、できることとできないことの差が大きいのが特徴。発症は突然で、再発のたびに階段状に悪化することが多く、感情失禁(笑い泣きの抑制困難)も見られます。

3. レビー小体型認知症(全体の約1割)

αシヌクレインを主成分とする「レビー小体」が大脳皮質に広く出現することで発症します。具体的でありありとした幻視(人や動物が見える)、認知機能の動揺、パーキンソン症状(手の震え・小刻み歩行)が三大特徴です。レム睡眠行動障害を伴うことが多く、抗精神病薬への過敏反応も特徴的です。

4. 前頭側頭型認知症(全体の数%)

前頭葉と側頭葉が選択的に萎縮するタイプで、初老期(40〜60代)の発症も少なくありません。記憶障害よりも人格変化・社会性の低下・常同行動(同じ時刻に同じ行動を繰り返す)・脱抑制(万引きや無遠慮な発言)が前面に出ます。指定難病として医療費助成の対象になる場合があります。

そのほかの原因

正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏など、治療によって改善しうる「治療可能な認知症」もあるため、早期受診による鑑別が重要です。

中核症状とBPSDの違い

認知症の症状は、脳の障害そのものが直接引き起こす「中核症状」と、本人の性格・環境・人間関係などが絡み合って二次的に現れる「BPSD(行動・心理症状)」の2つに大きく分けられます。介護現場では、この区別を理解することがケアの質を決定します。

中核症状BPSD(行動・心理症状)
原因脳細胞の障害そのもの中核症状+環境・身体・心理要因
主な症状記憶障害、見当識障害、判断力低下、言語障害、実行機能障害、失行・失認不安、抑うつ、興奮、徘徊、暴言・暴力、幻覚・妄想、不穏、介護拒否
出現する人認知症の人ほぼ全員個人差が大きい(出ない人もいる)
変化のしやすさ進行性で改善は難しい環境調整・ケアで軽減・消失する
対応の基本残された機能を活かす支援背景要因の除去・非薬物的ケア

BPSDは「困った行動」と捉えられがちですが、本人なりの理由(不安・痛み・寂しさ・トイレに行きたい等)が必ず存在するのが介護現場での前提です。声かけや環境整備で多くは軽減できるため、薬よりまず非薬物的アプローチが基本とされています。

認知症の人口・推計データ

厚生労働省と日本老年医学会のデータをもとに、認知症をめぐる現状を数値で整理します。

2025年の推計

  • 認知症の高齢者:約471万6,000人(65歳以上の約12.9%)
  • 軽度認知障害(MCI)の高齢者:約564万4,000人(65歳以上の約15.5%)
  • 合計すると65歳以上の3.6人に1人が認知症またはMCI

2040年・2060年の将来推計

  • 2040年:認知症高齢者 約584万人(65歳以上の15.0%)/MCI 612万人
  • 2060年:認知症高齢者 約645万人(65歳以上の17.7%)/MCI 632万人

診断の状況

厚生労働省の「認知症施策推進大綱」関連資料によれば、認知症と診断されている人のうち、かかりつけ医のみで診療を受けている割合は約6割。専門医療機関である認知症疾患医療センターは全国に約500カ所設置されています(2024年時点)。

出典: 厚生労働省「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(令和6年度)

認知症の診断方法

認知症の診断は、問診と認知機能検査を中心に、画像検査や血液検査を組み合わせて行われます。原因疾患を特定することで、治療方針や進行予測、利用できる支援サービスが変わるため、「何の認知症か」までしっかり鑑別することが重要です。

1. 認知機能検査(スクリーニング)

  • HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール):30点満点・20点以下で認知症の疑い。日本で最も広く使われる。
  • MMSE(ミニメンタルステート検査):30点満点・23点以下で認知症の疑い。国際的に使われ、空間認知の評価も含む。
  • MoCA-J:MCIの検出感度が高く、初期診断に有用。

2. 画像診断

  • MRI・CT:脳萎縮の部位・程度、脳血管障害、慢性硬膜下血腫などを確認。
  • SPECT(脳血流シンチ):脳の血流低下パターンから疾患タイプを鑑別。
  • アミロイドPET:アルツハイマー型認知症の確定診断に有用(保険適用は限定的)。

3. 血液検査・その他

甲状腺機能、ビタミンB12、葉酸、梅毒・HIV、肝腎機能などを確認し、「治療可能な認知症」を見落とさないようにします。最近では血液中のアミロイド関連バイオマーカーによる早期スクリーニングも実用化が進んでいます。

受診先

まずはかかりつけ医に相談するのが基本です。専門的な鑑別が必要な場合は、認知症疾患医療センター・もの忘れ外来・神経内科・精神科・脳神経外科などを紹介してもらえます。

国の施策|認知症基本法と共生社会

2024年1月1日、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行されました。これは認知症の人とその家族が尊厳を保ち、希望を持って暮らせる社会の実現を国の責務として明文化した法律です。

認知症基本法の3つのポイント

  • 当事者主体:認知症の人本人を「支援される対象」ではなく「権利の主体」と位置づけ、政策決定の場への参画を促進。
  • 共生社会:認知症の有無にかかわらず、すべての人が個性と能力を発揮し、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の構築を目指す。
  • 切れ目のない支援:医療・介護・就労・社会参加・家族支援を一体的に提供する基盤整備を国・自治体に義務づけ。

認知症施策推進基本計画

基本法に基づき、2024年12月に「認知症施策推進基本計画」が閣議決定されました。「新しい認知症観」として、「誰もが認知症になり得る」「認知症になっても希望を持って自分らしく暮らせる」という考え方を社会全体で共有することを掲げています。

2025年問題と認知症

団塊の世代が全員75歳以上になる2025年は、認知症高齢者が急増する転換点として「2025年問題」と呼ばれてきました。基本法は、医療モデルから本人主体の生活モデルへと政策の重心を移す象徴的な制度改革と位置づけられています。

認知症サポーターと地域基盤

厚生労働省は「認知症サポーター」を全国で養成しており、2024年時点で累計約1,500万人が受講。商業施設・金融機関・交通機関でも認知症の人にやさしい対応が広がっています。各市町村には「認知症地域支援推進員」「認知症初期集中支援チーム」が配置され、相談窓口として機能しています。

介護現場での認知症ケア基本姿勢

介護職員が認知症の方と関わるときに踏まえるべき基本原則を整理します。これらはユマニチュード、パーソン・センタード・ケア、バリデーションといった国際的な認知症ケア手法に共通する考え方です。

1. 「人」として向き合う(パーソン・センタード・ケア)

認知症の人を「症状の集合体」としてではなく、その人の人生・価値観・好みを持つ一人の人間として尊重する姿勢が出発点です。「何ができないか」ではなく「何ができるか・何を大切にしてきたか」に焦点を当てます。

2. 否定しない・訂正しない

記憶違いや事実と異なる発言があっても、その場で否定すると不安や混乱、BPSDの引き金になります。本人の世界観を受け入れ、感情に寄り添うことが基本です。「ここはどこ?」に対し「○○さんがいるところですよ、安心してくださいね」と存在を肯定する声かけが有効です。

3. 短く・ゆっくり・具体的に伝える

抽象的な指示や複数の情報を一度に伝えると処理が追いつきません。ひとつの動作につき一文、視線を合わせて、ゆっくり話すのが原則。「ご飯です」より「ここに座って、お箸を持ってください」のように具体的に。

4. 環境を整える

慣れない場所・大きな音・複雑な動線はBPSDの大きな誘因です。馴染みの物・写真・時計・カレンダーを見える位置に置き、トイレや居室への動線をシンプルに。照明も夕暮れ症候群の予防に重要です。

5. BPSDの背景を読む

「徘徊」「暴言」「介護拒否」といった行動は、必ず本人なりの理由があります。痛み・空腹・尿意・退屈・寂しさ・過去の役割の再現など、背景を観察するのが介護職の専門性です。

6. チームで情報を共有する

その人にとってどんな声かけや関わりが効果的だったかを記録し、チーム全体で再現することで、誰が対応しても安定したケアが可能になります。センター方式・ライフレビューなどのツールが活用されています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 認知症は治る病気ですか?

原因疾患によって異なります。アルツハイマー型・血管性・レビー小体型・前頭側頭型などの神経変性・血管性疾患による認知症は、現時点では完治は困難ですが、薬物療法や非薬物療法で進行を緩やかにしたり症状を改善したりできます。一方、正常圧水頭症・甲状腺機能低下症・ビタミン欠乏など「治療可能な認知症」は、原因治療で改善することがあります。

Q2. 認知症と物忘れの境界はどこですか?

「体験の一部を忘れる(朝食のメニューが思い出せない)」が加齢による物忘れ、「体験そのものを忘れる(朝食を食べたこと自体を忘れる)」が認知症の典型です。日常生活への支障の有無も大きな判断材料となります。気になる場合は早めにかかりつけ医や認知症疾患医療センターへ相談しましょう。

Q3. 認知症は予防できますか?

完全な予防法は確立されていませんが、有酸素運動・バランス食・社会的交流・知的活動・難聴ケア・生活習慣病管理がリスク低減に有効とされ、世界保健機関(WHO)の認知症予防ガイドラインでも推奨されています。

Q4. MCI(軽度認知障害)とは何ですか?

認知症の前段階で、認知機能の低下はあるが日常生活は自立している状態を指します。MCIの方の年間10〜30%が認知症に進行する一方、生活改善で正常域に戻る方もいるため、早期介入の大きなチャンスです。

Q5. 認知症の人にどんな介護施設が向いていますか?

認知症の方が少人数で共同生活するグループホーム、認知症対応型のユニット型特養、認知症対応型通所介護(認知症デイ)などが専門的な対応を行います。本人の症状や家族のニーズに合わせて選択できます。

Q6. 介護職に認知症ケアの専門資格はありますか?

はい。認知症介護基礎研修・実践者研修・実践リーダー研修のキャリアパス、民間資格の認知症ケア専門士などがあり、施設の加算要件にもなっています。

参考文献・出典

まとめ|認知症は「共に生きる」時代へ

認知症とは、脳の病気や障害により認知機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態の総称です。アルツハイマー型・血管性・レビー小体型・前頭側頭型の4大原因疾患があり、それぞれ症状や進行が異なります。脳の障害が直接引き起こす中核症状と、環境・心理要因が絡むBPSDを区別して理解することが、適切なケアの第一歩です。

2024年1月の認知症基本法施行と、それに基づく基本計画によって、日本は「認知症を予防・治療する」だけでなく「認知症になっても自分らしく暮らせる共生社会」を国の責務として進める段階に入りました。介護現場でも、症状を抑え込むケアから、本人の人生・尊厳・残された力を支えるケアへと重心が移っています。

介護職員にとって認知症ケアの専門性は、これからますます重要なキャリア資産となります。当サイトでは、BPSD対応・認知症ケアの基礎・認知症ケア専門士など、現場で役立つ実践記事を公開しています。あわせて参考にしてください。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

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