動物介在療法(AAT)とは

動物介在療法(AAT)とは

動物介在療法(AAT)はセラピー犬などを介し医療従事者が計画的に行う補完療法。認知症のBPSDや抑うつ軽減効果、AAA・AAEとの違い、感染管理・アレルギー対応・施設導入の要点を解説します。

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この記事のポイント

動物介在療法(AAT:Animal-Assisted Therapy)は、医師・看護師・作業療法士・臨床心理士など医療従事者が主導し、計画・記録・効果測定を伴って動物(主にセラピー犬や馬)を治療に組み込む補完療法です。認知症のBPSD(行動・心理症状)軽減、抑うつ・不安の緩和、社会的交流の促進を目的に、介護施設や病院で導入が進んでいます。

目次

動物介在療法(AAT)の定義と歴史

動物介在療法(AAT)は、IAHAIO(国際人と動物の関係学会連合)が2014年の白書(2018年改訂)で「治療過程の不可欠な一部として動物を組み込む、目標指向型の介入」と定義しています。医療・教育・福祉の専門資格者が主導し、対象者ごとに治療目標(運動機能・認知機能・心理・社会性など)を設定したうえで実施し、その経過と効果を専門的に記録・評価することが要件です。

起源は18世紀の英国York Retreat(精神療養施設)まで遡り、20世紀後半に米国の児童精神科医ボリス・レビンソンが偶然の臨床経験から「ペットセラピー」を体系化したのが現代AATの出発点とされます。日本では1986年に日本動物病院協会(JAHA)がCAPP(Companion Animal Partnership Program/人と動物のふれあい活動)を開始し、特別養護老人ホーム・病院・小児病棟への訪問活動が広まりました。

AATは医学的な治療行為に位置づけられる点で、後述するAAA(動物介在活動)やAAE(動物介在教育)とは明確に区別される、補完代替医療(CAM)の一形態です。

AAT・AAA・AAEの違い

AAT・AAA・AAEの違い(IAHAIO定義)

「アニマルセラピー」と一括りで呼ばれることが多いものの、IAHAIO白書では介入の目的・実施主体・記録要件によって3つに分類されます。介護現場で導入を検討する際、自施設の活動がどれに該当するのか正しく区別することが、医療安全と保険適用範囲の理解に直結します。

分類正式名称主な目的実施主体記録
AAT動物介在療法
(Animal-Assisted Therapy)
BPSD軽減・運動機能改善など個別治療目標の達成医師・看護師・OT/PT・心理士など有資格者必須(治療経過を専門記録)
AAA動物介在活動
(Animal-Assisted Activity)
QOL向上・癒し・交流(治療目標なし)訓練を受けたボランティア+ハンドラー任意
AAE動物介在教育
(Animal-Assisted Education)
情操教育・命の学び・学習支援教員・教育専門家教育記録に準ずる

介護施設での月1〜2回のセラピー犬訪問は多くがAAA(活動)に分類されます。AATを名乗るには、利用者ごとの治療計画書、評価指標(NPI-NHやMMSE等)、医療職の関与、IAHAIO準拠の動物選定基準を満たす必要があります。

AATで用いられる動物

AATで用いられる動物と選定基準

IAHAIOが推奨する家畜化された伴侶動物に限定するのが世界基準です。野生動物・エキゾチックアニマル(爬虫類等)は人獣共通感染症リスクと福祉の観点から除外されます。

  • 犬(セラピードッグ):最も汎用的。性格安定性・服従訓練・他者許容のスクリーニングを経た認定犬を使用。ゴールデンレトリバー・ラブラドール・キャバリアなど穏やかな大型・中型犬が多い。
  • :在宅・施設の常駐型に向く。抱きやすさ・撫でやすさで触覚刺激を提供。ただし社会化・移動耐性に個体差が大きい。
  • ウサギ・モルモット:座位での触れ合いに適し、リハビリ訓練の動機付け(リーチング動作)に活用。
  • 馬(ホースセラピー/乗馬療法):体幹バランス・筋緊張改善・姿勢制御の身体機能リハに用いられる。
  • イルカ:海外では自閉症児への報告例があるが、動物福祉の観点からIAHAIOは野生種の利用を推奨しない。

共通の選定要件は、(1)行動評価・健康診断にパスしている、(2)定期的な予防接種・駆虫を受けている、(3)ハンドラーとペアで訓練を完了している、(4)ストレスサインを示したら活動を中止できる体制があること、の4点です。

認知症・BPSDへの効果

認知症・BPSDへの効果(エビデンス)

AATが認知症のBPSDや抑うつに与える効果は、複数の介入研究で再現性ある結果が報告されています。

  • BPSDの軽減:介護施設での犬の存在により、攻撃性・焦燥(agitation)が減少し、笑顔・笑い・自発的発話が増加することがレビューで報告されている(Filan & Llewellyn-Jones, 2006)。
  • 抑うつ・不安の改善:高齢者を対象にした研究で、AAT実施群は対照群より抑うつ尺度のスコアが有意に低く、唾液アミラーゼ活性値(ストレス指標)も有意に低下した。
  • オキシトシン上昇:昭和大学・ヤマザキ動物看護大学・麻布大学による2024年の研究(高齢者37名)では、AATセッション後に唾液中オキシトシン濃度が有意に上昇し、コルチゾールは変化なしという結果が示された。「絆ホルモン」の上昇がストレス緩和機序の一つと考えられている。
  • 動物側への影響:同研究ではセラピー犬80頭の唾液でオキシトシン・コルチゾール双方の有意な変化が観察されており、動物福祉の継続的モニタリングの必要性も示された。
  • レビューの限界:効果の持続期間、用量反応関係(頻度・1回あたり時間)、長期予後への影響については、PubMedレビュー(2006)でも「さらなる検証が必要」とされ、RCTの蓄積は今も発展途上。

施設導入時の安全管理

施設導入時の安全管理チェックリスト

AATを介護施設で実施する際は、利用者・職員・動物の三者すべての安全と福祉を守る体制が前提です。以下は事前評価・実施中・事後評価の3段階で押さえるべき項目です。

事前評価

  • アレルギー確認:犬・猫アレルギーの既往、喘息、アトピーの状態を全利用者で確認。陽性者は別室待機や非接触型プログラム(窓越し観察)に変更。
  • 感染管理:免疫機能低下者(化学療法中、HIV感染、免疫抑制剤使用)、開放創を持つ利用者は原則対象外。
  • 動物トラウマの確認:過去の咬傷経験、動物への恐怖症がある利用者を除外。
  • 動物側の健康診断:参加犬は混合ワクチン・狂犬病ワクチン・フィラリア予防・ノミダニ駆除・糞便検査が直近で実施済みであること。

実施中の管理

  • ハンドラーが常時リードを保持し、動物の興奮・疲労サインをモニターする
  • 食事時間・服薬時間を避け、嘔吐・誤嚥リスクを下げる
  • 動物との接触前後で利用者・職員の手指消毒を徹底(人獣共通感染症対策)
  • 動物の活動は1回30〜45分以内、休憩・給水・排泄スペースを確保

事後評価

  • 利用者ごとに行動観察記録(笑顔・発話量・興奮・抵抗の有無)を残す
  • BPSD評価尺度(NPI-NH等)を月1回測定して効果を可視化
  • 動物のストレス徴候(あくび・舌なめずり・体を振る等のカーミングシグナル)を記録し、頻発する個体は活動から外す

施設での導入事例と実務ヒント

日本でAAT/AAAを継続している施設には共通する運用パターンがあります。これから導入を検討するなら次の点を押さえると失敗が少ないでしょう。

  • 外部団体との連携が現実的:日本動物病院協会(JAHA)のCAPP、認定NPO法人国際セラピードッグ協会、地域の動物セラピー協会など、認定済みのセラピー犬とハンドラーを派遣する団体と連携するのが一般的。施設で犬を飼育するより、外部派遣のほうが感染管理・動物福祉のコストが低く始めやすい。
  • 頻度は月1〜2回が標準:北里大学病院や国立病院機構宇都宮病院など医療機関の事例でも、月1〜2回・1回30〜60分のセッション形式が多い。週1回以上を目指すなら、施設常駐の認定動物を導入するモデル(ファシリティドッグ)を検討する。
  • 対象者を絞る:全員参加型ではなく、BPSDが顕著、抑うつ傾向、コミュニケーション低下といった「セラピー目標」が明確な利用者を中心に組む。AATの本来の定義に近づき、効果も測りやすい。
  • カンファレンスで情報共有:2024年の昭和大学らの研究でも、医療スタッフとハンドラーが利用者の状態を事前共有することが治療成果向上の鍵と指摘されている。動物だけでなく「人と人」の連携設計を忘れない。
  • 動物福祉の継続評価:効果が出ているからと頻度を増やすと、動物側の慢性ストレスにつながる。年1回の獣医による行動評価で、活動継続の可否を客観判断する仕組みを作る。

よくある質問

Q1. AATは介護保険でカバーされますか?

2026年5月時点で、AATは介護保険・医療保険のいずれにも明確な算定区分はありません。施設の自費プログラムや、外部団体の寄付・ボランティアベースで実施されているのが実情です。ただしBPSD軽減効果が認知症ケア加算や認知症専門ケア加算の評価対象(ケアの質向上)として間接的に評価されることはあります。

Q2. アニマルセラピーとAATは同じ意味ですか?

日本語で「アニマルセラピー」と総称されているものの多くは、IAHAIO定義ではAAA(動物介在活動)に該当します。医療職が個別治療目標を立てて計画的に実施し、効果を記録するものだけがAAT(療法)です。施設パンフレットなどで両者が混在しがちなので、利用者向け説明では「動物とのふれあい活動」など実態に即した表現を選ぶと誤解が減ります。

Q3. 動物アレルギーの入居者がいる施設でも導入できますか?

導入可能ですが、フロア分けや時間帯分け、空調独立など物理的な隔離が必須です。アレルゲンは犬・猫の皮膚や唾液から空気中に拡散するため、共用空間で同時実施するのは避けるべきです。陽性者には窓越し観察・動画視聴・縫いぐるみセラピーなど代替プログラムを提供します。

Q4. 感染症の心配はありませんか?

適切に管理された認定セラピードッグからのズーノーシス(人獣共通感染症)報告は極めて稀です。ただし(1)定期ワクチン・駆虫、(2)接触前後の手指消毒、(3)免疫機能低下者の除外、(4)動物の体表面の清潔保持、を守らない場合はパスツレラ症・サルモネラ・カプノサイトファーガ等のリスクがあります。獣医師の関与は必須です。

Q5. 介護職員はどんな関わり方をしますか?

ハンドラーは外部派遣でも、現場の介護職員が「利用者の状態把握」「事前のリスクスクリーニング」「セッション後の行動観察記録」を担当します。AATが他の非薬物療法(回想法・ユマニチュード)と相乗効果を持つよう、ケアプランへの組み込みや評価尺度の運用に関与することが現場職員の重要な役割です。

参考文献

  • IAHAIO(国際人と動物の関係学会連合)「IAHAIO白書 2014(2018改訂)動物介在介入の定義とAAIに係る動物の福祉のガイドライン」PDF
  • 一般社団法人日本動物介在教育・療法学会(ASAET)「動物介在療法とは」公式サイト
  • 公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)「人と動物のふれあい活動(CAPP)」公式サイト
  • 公益社団法人 健康長寿ネット「認知症のアニマルセラピー」記事
  • 大谷ら「高齢者に対する動物介在療法における効果と医療従事者に関連したその考察」日本老年療法学会誌、2024J-STAGE
  • Filan SL, Llewellyn-Jones RH. "Animal-assisted therapy for dementia: a review of the literature." International Psychogeriatrics, 2006PubMed
  • 日本獣医師会雑誌「AAA(動物介在活動)/AAT(動物介在療法)と獣医師の役割」記事

まとめ

動物介在療法(AAT)は、医療従事者が主導し動物を治療の不可欠な一部として組み込む補完療法です。認知症のBPSD・抑うつ軽減、ストレス指標の改善、オキシトシン上昇によるリラックス効果など複数のエビデンスが報告されており、ユマニチュード・回想法と並ぶ非薬物療法の選択肢として注目されています。一方で、医療職主導の治療「AAT」と、ボランティアベースの「AAA」「アニマルセラピー」は厳密には別物で、混同されがちな点に注意が必要です。導入時はアレルギー・感染管理・動物福祉の3軸を必ず押さえ、外部認定団体との連携で安全に始めるのが現実的です。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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