認知症行動・心理症状緊急対応加算とは

認知症行動・心理症状緊急対応加算とは

認知症のBPSDが急性増悪し在宅介護が限界となった際に、医師判断で短期入所等を緊急受入した施設で算定できる加算。200単位/日・最大7日間の単位数、算定要件、対象6サービス、医師判断と記録、Q&Aまで実務目線で整理。

ポイント

この記事のポイント

認知症行動・心理症状緊急対応加算とは、在宅で生活する認知症高齢者のBPSD(行動・心理症状)が急性増悪し家族介護が限界となった際、医師が緊急の入所を必要と判断した場合に、受け入れた施設で算定できる介護報酬の加算です。200単位/日を最大7日間算定でき、対象は短期入所生活介護・短期入所療養介護・介護老人福祉施設・介護老人保健施設・小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護の6サービス。「予定された入所」では算定不可で、医師判断当日またはその翌日に利用を開始したケースに限られます。

目次

加算の制度的位置づけと趣旨

認知症行動・心理症状緊急対応加算(通称:BPSD緊急対応加算)は、厚生労働省「指定居宅サービス介護給付費単位数表」および「指定施設サービス等介護給付費単位数表」に定められた共通加算のひとつです。介護報酬告示の本文と、平成12年老企第40号(解釈通知)の留意事項により運用ルールが規定されています。

趣旨は、在宅生活を続けてきた認知症高齢者にBPSD(暴言・暴力・幻覚・徘徊・興奮など)が急性増悪し、家族や訪問系サービスでは在宅介護の継続が困難になった「緊急時」に、医師の判断のもと短期入所等で受け入れた施設の対応負担を評価することにあります。BPSDの背景には身体疾患の急性増悪や環境要因(家族の疲弊・服薬変更・季節要因)が絡むことが多く、入所直後は症状アセスメント・薬剤調整・環境調整に通常以上の人手と時間を要します。この「予定外受入れの手間」を加算で補填する設計です。

令和3年度介護報酬改定で対象サービスが拡大され、小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護も短期利用居宅介護費の算定者に限り対象となりました。地域包括ケアの枠組みのなかで「最後の砦」となる緊急受入機能を、地域密着型サービスにも広げた形です。

類似加算に「緊急短期入所受入加算(90単位/日)」がありますが、こちらは居宅サービス計画に位置づけられていない短期入所を緊急で受け入れたケースが対象で、BPSDの有無は要件に含まれません。両加算は同一日には同時算定できません

算定要件チェックリスト

本加算を算定するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。ひとつでも欠けると返戻・自主返還の対象になります。

  • ① BPSDの存在:妄想・幻覚・興奮・暴力・不安・焦燥・徘徊など、日常生活への適応を著しく困難にする症状が認められること。
  • ② 医師による緊急性の判断:在宅生活が困難で、緊急に入所が必要と医師が判断していること。診療録に症状・判断内容・日付を明記する。
  • ③ 入所開始のタイミング:医師が判断した当該日、またはその翌日に利用を開始した場合に限る。後日入所では算定不可。
  • ④ 連携と同意:介護支援専門員(ケアマネジャー)および受入事業所の職員と連携し、利用者または家族の同意を得ていること。
  • ⑤ 過去の利用歴がないこと:入所前1か月間に、当該施設を利用していないこと。
  • ⑥ 過去の加算算定歴がないこと:過去1か月間に他事業所で本加算を算定していないこと。
  • ⑦ 対象外ケースの除外:病院・診療所に入院中、介護保険施設に入所中、他の短期入所サービス利用中の者は対象外。
  • ⑧ 予定された入所でないこと:あらかじめケアプランで予定されていた入所は対象外(趣旨が「緊急受入の手間の評価」のため)。

単位数と対象サービス(令和6年度時点)

本加算の単位数と対象サービスは以下の通りです。単位数自体は対象サービスごとに違いはありません。

項目内容
単位数200単位/日
算定期間サービス利用開始日から7日間を限度
区分支給限度基準額区分支給限度基準額管理の対象外(枠を消費しない)
対象サービス(6種類)① 短期入所生活介護
② 短期入所療養介護
③ 介護老人福祉施設(特養)
④ 介護老人保健施設(老健)
⑤ 小規模多機能型居宅介護(短期利用居宅介護費)
⑥ 看護小規模多機能型居宅介護(短期利用居宅介護費)
届出不要
記録医師の診療録、介護サービス計画書(医師名・判断日・留意事項)、家族同意書(自治体による)
同時算定不可の加算緊急短期入所受入加算(同一日)

7日間×200単位=最大1,400単位の加算が見込めます。地域区分1級地(東京23区)であれば加算分は約1万6,000円の介護報酬増となり、緊急受入の人件費コストの一部を補えます。

緊急受入の実務フロー

家族や訪問介護事業所からのSOS連絡から算定までの流れを、現場目線で整理します。受入施設の生活相談員・支援相談員・ケアマネジャーが押さえておきたい工程です。

  1. 家族・訪問系サービスからの相談受付:BPSDの具体的内容(症状・出現時期・頻度・家族の対応限界点)を聴取。
  2. 主治医への連絡と緊急判断の依頼:家族または居宅ケアマネが主治医に連絡し、「在宅生活困難・緊急入所が必要」との医学的判断を求める。診療録への記載を依頼。
  3. 居宅ケアマネと受入施設の連携:受入可能な空床確認、入所日程の調整、利用者・家族の同意取得。サービス担当者会議は緊急時のため事後でも可(自治体ルール要確認)。
  4. 入所日の確定:医師判断当日またはその翌日に入所することを厳守。後ろ倒しになると本加算は算定不可。
  5. 入所後のアセスメントとケア計画策定:BPSDの背景にある身体疾患・脱水・薬剤副作用・環境変化をスクリーニング。短期入所中に主治医・専門医と連携し非薬物的アプローチ(ユマニチュード、パーソン・センタード・ケア)を優先。
  6. 記録の整備:医師の診療録写し、介護サービス計画書への医師名・判断日・症状・留意事項の記載、家族同意書を施設内で保管。
  7. 請求事務:給付管理票で本加算(コード)を記載し、国保連請求。届出は不要だが、保険者からの実地指導で記録一式を提示できる状態にしておく。

現場で間違えやすいポイント

  • 「予定された入所での緊急対応」は算定不可:あらかじめショート利用の予定があった日にBPSDが悪化しても、本加算は算定できません。趣旨はあくまで「予定外の受入の手間の評価」です。
  • 家族の都合(疲弊・冠婚葬祭)だけでは不可:医師の医学的判断が必須。BPSDの存在と緊急性を診療録に記載してもらわないと、後日の実地指導で返戻リスクがあります。
  • 判断医は主治医に限らない:解釈通知上、必ずしも主治医である必要はなく、訪問診療医や認知症サポート医、施設の協力医療機関の医師による判断も認められます。
  • 「過去1か月」の起算は加算算定日基準:当該入所開始日から遡って1か月以内に同一施設利用歴・他事業所での本加算算定歴がないかを確認。
  • 緊急短期入所受入加算と日割りで使い分け:両者は同一日には併算不可ですが、要件を満たせば期間を分けて算定可能です。例:入所1〜3日目は緊急短期入所受入加算、4〜7日目は本加算、といった運用は不可(同一利用での切替は実務的に困難)。
  • 身体拘束は原則禁止:BPSDへの対応で安易な身体拘束を行うと、身体拘束廃止未実施減算(10%減算)の対象となり、本加算が吹き飛びます。非薬物療法・環境調整を優先。

よくある質問

Q1. 医師の判断は施設の協力医療機関の医師でも良いのですか?

はい。解釈通知では「医師の判断」とされており、必ずしも主治医に限定されません。施設の協力医療機関の医師、訪問診療医、認知症サポート医による判断も認められます。ただし診療録に症状・判断内容・日付の記載は必須です。

Q2. 7日間連続で算定する必要がありますか?

はい、原則として「サービス利用開始日から起算して7日間」が限度です。途中で在宅復帰すると、その後の利用には算定できません。再度BPSDが悪化しても、過去1か月以内に算定歴があるため再算定不可です。

Q3. 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)の短期利用でも算定できますか?

算定できます。グループホームの短期利用(短期利用認知症対応型共同生活介護費)も対象サービスに含まれます。本記事の冒頭に挙げた6サービスに加え、グループホームの短期利用も対象となります(令和3年度改定で整理)。

Q4. 介護給付費明細書(請求書)への記載方法は?

給付管理票および明細書のサービスコード欄に、本加算のサービスコード(事業所種別ごとに異なる)を記載します。コードはWAM NETの「介護給付費単位数等サービスコード表」で最新版を確認してください。

Q5. 算定後に家族が「やはり退所したい」と言って3日で退所した場合は?

実際に利用した日数分(この場合3日×200単位=600単位)のみ算定可能です。残りの4日分を遡って算定することはできません。

Q6. 認知症加算や認知症専門ケア加算と併算できますか?

併算可能です。要件を満たせば本加算と認知症専門ケア加算Ⅰ・Ⅱ、認知症加算は同時に算定できます(緊急短期入所受入加算のみ同一日併算不可)。

まとめ

認知症行動・心理症状緊急対応加算は、在宅介護が限界となった認知症高齢者を「医師判断のもと緊急で受け入れた施設」を評価する加算です。200単位/日×7日間で最大1,400単位(地域区分により約1.4〜1.6万円)と単価は控えめですが、緊急受入機能を担う特養・老健・短期入所・小多機・看多機にとっては、家族介護の崩壊を防ぐ地域包括ケアの要として算定機会を逃したくない加算といえます。医師判断のタイミング、入所開始日(判断当日または翌日)、過去1か月の利用歴・算定歴の確認の3点を押さえ、診療録と介護サービス計画書への記録を確実に残すことが、実地指導での返戻防止につながります。BPSDへの対応では身体拘束に頼らず、ユマニチュードやパーソン・センタード・ケアなど非薬物的アプローチで利用者の尊厳を守る視点も忘れずに。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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