
病識とは
病識とは「自分が病気である」という認識のこと。認知症や精神疾患で低下しやすく、受診拒否やケア拒否の背景になります。病識低下(病態失認)の意味と現場での関わり方を解説します。
病識の定義(要約)
病識(びょうしき)とは、「自分が病気である」「いまの自分の状態が以前とは異なる」と本人が認識していることを指します。この認識が乏しくなった状態を病識の低下(医学的には病態失認/アノソグノジアとも呼ばれます)といい、認知症や統合失調症などの精神疾患で生じやすく、受診拒否やケア拒否の背景になることが知られています。
目次
病識の概要と病態失認との関係
病識とは何か
病識とは、自分が病気にかかっているという「自覚」のことです。たとえば「最近もの忘れが増えた」「以前のように家事ができない」と自分の変化に気づき、それを病気や不調と結びつけて理解できている状態を「病識がある」と表現します。
反対に、明らかに症状があるにもかかわらず本人がそれを病気だと認識していない、あるいは「自分はどこも悪くない」と感じている状態を病識の低下(病識欠如)といいます。神経学・精神医学の領域では、病気そのものに気づけない状態を病態失認(びょうたいしつにん/anosognosia・アノソグノジア)と呼びます。アノソグノジアという用語は、もともと脳卒中後の片麻痺を本人が否認する症例などに対して用いられてきた概念で、認知症に限らず幅広い疾患でみられます。
病識は「ある/ない」の二択ではなく、グラデーションがあります。「症状があること自体は薄々わかっているが、病気だと認めたくない」段階から、「症状の存在そのものを認識できない」段階まで、程度はさまざまです。この違いを理解しておくと、本人が受診やケアを拒む理由を読み解きやすくなります。
病識が低下しやすい疾患・場面(病識)
病識が低下しやすい疾患と、現場で問題になる場面
病識の低下は、次のような疾患や状態でみられやすいといわれています。
- 認知症(アルツハイマー型など):もの忘れや生活上の失敗を自覚しにくくなり、「自分は困っていない」と感じることがあります。病態失認は軽度認知障害(MCI)からアルツハイマー病への進行と関連する所見としても報告されています。
- 統合失調症などの精神疾患:症状を病気として捉えにくく、治療の必要性を感じにくいことがあります。これが服薬中断・治療中断につながる要因の一つとされています。
- 脳卒中後(高次脳機能障害):麻痺や障害そのものを認識できない病態失認がみられることがあります。
介護・看護の現場では、病識の低下が次のような形で表れます。
- 認知症の診断のための受診を拒む
- 介護保険サービスやデイサービスの利用を拒否する
- 入浴・食事・服薬などの介助を「必要ない」と拒む
- 自分の失敗を認めず、家族や職員を責める(否認)
これらは本人の「わがまま」ではなく、病識が低下していることで起きている可能性があります。背景を理解することが、適切な関わりの出発点になります。
病識をめぐる類似用語の違い(病識・否認・病態失認)
病識・否認・病態失認の違い
「病識がない」と一括りにされがちですが、背景にあるメカニズムは異なります。混同しやすい用語を整理します。
| 用語 | 意味 | 本人の状態 |
|---|---|---|
| 病識の低下・欠如 | 自分が病気だという認識が乏しい状態の総称 | 「病気だと思っていない」「困っていない」 |
| 否認(ひにん) | うすうす気づいているが、認めたくない心理的防衛 | 不安や恐れから「認めたくない」 |
| 病態失認(anosognosia) | 脳の障害により症状の存在自体を認識できない状態 | 「症状そのものに気づけない」 |
たとえば認知症の受診拒否では、「認知症だと確定するのが怖い」という否認が働いている人もいれば、もの忘れの存在自体を認識できない病態失認に近い人もいます。否認が強い場合は不安を和らげる関わりが、病態失認が強い場合は無理に説得せず安全と生活を支える関わりが中心になります。本人がどの状態に近いかを見極めることが、対応を選ぶうえで役立ちます。
病識が低下した人への現場での関わり方(病識)
病識が低下した人への関わり方
病識が低下している本人に「あなたは病気だ」と正面から説得しても、納得が得られないばかりか、不信感や拒否を強めてしまうことがあります。現場では、本人を否定しないことが基本とされています。
- 否定・訂正から入らない:「違う」「忘れている」と指摘するより、まず本人の言い分や気持ちを受け止めます。
- 拒否の背景にある感情を察する:受診やサービスの拒否には「知らない場所が怖い」「自分が変だと思われたくない」といった不安が隠れていることがあります。不安を和らげる言葉かけが、気持ちの変化につながることがあります。
- 病名ではなく目的を伝える:受診を勧めるときは「認知症の検査」と言わず、「健康診断」「血圧をみてもらう」など、本人が受け入れやすい目的で誘うと応じやすくなる場合があります。
- 本人の自尊心を守る:失敗を責めず、できていることに目を向けることで、関係性が保たれます。
- 多職種・家族と連携する:服薬中断や受診拒否が続く場合は、医師・ケアマネジャー・家族と情報を共有し、無理のないタイミングを一緒に探します。
これらは医療行為や診断ではなく、あくまで日常の関わりの工夫です。医療的な判断が必要な場合は、必ず主治医や専門職に相談してください。
病識のよくある質問
病識に関するよくある質問
病識と病感はどう違いますか?
「病識」は自分が病気であると明確に認識している状態を指すのに対し、「病感(びょうかん)」は「なんとなく調子が悪い」と漠然と感じている状態を指すことがあります。病感はあっても病識まで至らない、という段階もあります。
病識がないと診断や治療はできないのですか?
病識がなくても診断や治療は可能ですが、本人が必要性を感じにくいため、受診や服薬の継続が難しくなる傾向があります。家族や専門職が橋渡しをし、本人が受け入れやすい形で支援することが大切です。
病識は回復することがありますか?
原因や疾患によって異なります。統合失調症などでは治療を通じて病識が得られていくことがある一方、認知症のように進行に伴って病識が低下していく場合もあります。一律には言えないため、主治医に確認してください。
家族が「病気だと認めてくれない」場合、どうすればよいですか?
本人を説得しようとするより、不安を和らげ、本人が応じやすい目的(健康チェックなど)で受診につなげる工夫が有効なことがあります。対応に迷うときは、地域包括支援センターやかかりつけ医に相談するとよいでしょう。
病識の参考資料・出典
- [1]
- [2]アルツハイマー病の病態失認:患者属性,精神症状および認知機能障害との関連について- 精神神経学雑誌(日本精神神経学会)
アルツハイマー病における病態失認(anosognosia)と精神症状・認知機能障害の関連を検討した論文。
- [3]
- [4]
病識のまとめ
まとめ
病識とは「自分が病気である」という認識のことで、認知症や統合失調症などの精神疾患で低下しやすく、医学的には病態失認(アノソグノジア)とも呼ばれます。病識の低下は受診拒否・ケア拒否・服薬中断の背景になり、介護負担にもつながります。現場では本人を否定せず、不安を和らげながら受け入れやすい形で支援することが大切です。判断に迷う場合は主治医や地域包括支援センターなどの専門職に相談してください。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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