着衣失行とは

着衣失行とは

着衣失行とは、麻痺がないのに服の前後・裏表・袖の通し方がわからず着られなくなる失行の一種。認知症や頭頂葉障害との関係、ボタンや袖通しの具体例、更衣介助の工夫を解説します。

ポイント

着衣失行の定義(着衣失行とは)

着衣失行(ちゃくいしっこう)とは、手足の麻痺や運動機能の障害がないのに、服の前後・裏表・上下や袖の通し方がわからなくなり、衣服をうまく着られなくなる失行の一種です。指示は理解できているのに動作だけが組み立てられないのが特徴で、認知症(とくにアルツハイマー型)や頭頂葉の障害でみられます。

目次

着衣失行の概要と原因

着衣失行とはどういう状態か

失行とは、運動麻痺や感覚障害、言葉の理解の問題がないにもかかわらず、これまで普通に行えていた動作がうまくできなくなる状態をいいます。着衣失行はその一種で、服を着るという日常動作に限って障害があらわれます。手は問題なく動き、本人も「服を着よう」とする意思はあるのに、衣服と自分の身体の位置関係をうまく把握できず、袖に頭を入れてしまう、前後や裏表を逆にして着る、片方の袖に両腕を通そうとするといったことが起こります。

原因となる脳の部位としては、頭頂葉の障害が関係すると考えられています。とくに右側(劣位半球)の頭頂葉が損なわれると、自分の身体と空間の関係を組み立てる力が低下し、着衣失行があらわれやすいとされます。アルツハイマー型認知症では頭頂葉が広く障害されるため、着衣失行や、図形の模写・積み木がうまくできなくなる構成失行が比較的多くみられます。

着衣失行は、単独で起こるよりも、空間や身体のイメージにかかわる構成失行や身体失認などと重なって生じることが多いと指摘されています。そのため「服が着られない」という見え方は同じでも、背景には複数の認知の問題が組み合わさっていることがあります。

着衣失行でみられる具体的な症状

着衣失行は、次のような形で日常の更衣場面にあらわれます。麻痺による「動かしにくさ」ではなく、「どう着ればよいかが組み立てられない」のがポイントです。

  • シャツやズボンの前後・裏表を逆にして着てしまう
  • 袖に頭を入れる、襟ぐりに腕を通すなど、通す場所を取り違える
  • 片方の袖に両腕を通そうとする、左右をまちがえる
  • ボタンやファスナーの位置・順番がわからず、留め違える・最後まで留められない
  • 着る順番がわからず、下着の上に着る物・羽織る物の順序が入れ替わる
  • 途中まで着て手が止まり、次にどうすればよいか進められなくなる

これらは本人がふざけているわけでも、やる気がないわけでもありません。脳が「身体と衣服の位置関係を組み立てる」処理でつまずいているために起こります。叱責は混乱や不安を強め、更衣への拒否につながりやすいので避けます。

着衣失行と混同しやすい状態の違い

着衣失行と混同しやすい状態との違い

「服が着られない」という見え方は、原因が違っても似て見えます。介護現場では原因を取り違えると対応もずれるため、次の違いを押さえておきます。

  • 麻痺(運動障害)との違い:脳卒中などの片麻痺は手足が動かしにくく「動かせない」のが問題です。着衣失行は手足は動くのに「どう着るか組み立てられない」のが問題で、麻痺はありません。
  • 失行全体との違い:失行は道具の使用や動作全般がうまくできなくなる状態の総称で、着衣失行はそのうち「服を着る動作」に特化したタイプです。失行の全体像は失行の用語解説で整理しています。
  • 身体失認・構成失認との関係:自分の身体の位置や空間関係をつかみにくい状態が重なると、着衣の困難が強くなります。着衣失行はこれらと併発することが多いとされます。
  • 意欲低下・拒否との違い:「着たくない」という意思の問題ではなく、着ようとしても動作が組み立てられない点が異なります。叱るのではなく、手順を補う支援が必要です。

着衣失行への更衣介助の工夫

介護現場での更衣介助の工夫

着衣失行は「組み立て」のつまずきなので、本人が判断する負担を減らし、迷う場所をなくす支援が有効です。次のような工夫が現場で使われます。

  • 順番に1つずつ手渡す:すべての衣類を一度に置くと混乱します。着る順に1枚ずつ手渡し、終わったら次を渡します。
  • 短く具体的な声かけ:「右手をここに通しましょう」「次はボタンを上から留めます」と、今やる動作だけを一区切りずつ伝えます。一度に複数を指示しません。
  • 前後・裏表の目印:襟元や前面にワンポイントの目印(タグ・刺しゅう・色違いのテープ)をつけると、向きの判断が楽になります。
  • 着やすい衣類を選ぶ:前開き、大きめのボタンやマジックテープ、伸縮性のある素材にすると、ボタンやファスナーのつまずきが減ります。
  • 動作のきっかけを添える:袖口を広げて手を入れる場所を見せる、最初の一動作だけ一緒に行うと、その先を続けやすくなります。
  • できる部分は任せる:すべてを介助せず、本人ができる工程は見守り、つまずく工程だけ補うと、自立と意欲を保てます。
  • 落ち着ける環境:急がせず、寒くない室温と十分な明るさを整え、鏡で混乱する場合は鏡を外すなど環境側を調整します。

着衣失行のよくある質問

着衣失行は麻痺とは違うのですか

違います。麻痺は手足が動かしにくい運動の障害ですが、着衣失行は手足が問題なく動くのに「どう着るか」を組み立てられない状態です。麻痺はありません。

どんな病気でみられますか

認知症、とくにアルツハイマー型認知症でみられやすく、頭頂葉(とくに右側)の障害が関係すると考えられています。脳卒中など頭頂葉が損なわれる病気でも生じることがあります。

本人が服を着られないとき、叱ってもよいですか

叱責は避けます。本人はやる気がないのではなく、脳の処理がつまずいています。叱ると不安や混乱が強まり、更衣を拒否しやすくなります。手順を補い、落ち着いて支援します。

家庭でできる工夫はありますか

着る順に1枚ずつ手渡す、今やる動作だけを短く伝える、前後や裏表に目印をつける、前開きで留め具が簡単な衣類を選ぶ、といった工夫が役立ちます。

着衣失行は治りますか

原因となる病気によります。認知症が背景の場合は完治を目指すより、環境調整や手順の工夫で着替えを続けやすくする支援が中心になります。リハビリで写真付き手順書や目印を活用することもあります。

着衣失行の参考資料

着衣失行のまとめ

まとめ

着衣失行は、麻痺がないのに服の前後・裏表・袖の通し方がわからず着られなくなる失行の一種で、認知症(とくにアルツハイマー型)や頭頂葉の障害でみられます。本人のやる気の問題ではなく脳の処理のつまずきなので、叱らずに、着る順に手渡す・短く声かけする・前後に目印をつける・着やすい衣類を選ぶといった工夫で、着替えを続けやすく支えることが大切です。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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