
コグニサイズとは
コグニサイズは国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防プログラム。運動と認知課題を同時に行うことでMCIからの回復・認知症発症遅延が期待でき、介護予防教室や通所介護でも導入が進む。
コグニサイズとは|要点
コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防プログラムで、足踏みやステップなどの軽い有酸素運動と、計算・しりとりといった認知課題を同時に行う「デュアルタスク(二重課題)」運動の総称です。英語の Cognition(認知)と Exercise(運動)を組み合わせた造語で、軽度認知障害(MCI)からの認知機能改善や認知症発症の遅延が期待でき、介護予防教室や通所介護のレクリエーションとして全国で導入が進んでいます。
目次
国立長寿医療研究センターが開発した背景
コグニサイズは、愛知県大府市にある国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが、島田裕之氏(予防老年学研究部部長)らを中心に開発した認知症予防プログラムです。日本の65歳以上の認知症有病率は2025年に約20%(5人に1人)に達すると推計されており、発症遅延や軽度認知障害(MCI)段階での介入が国の介護予防政策上の重要テーマとなっています。
運動と頭を使う課題を同時に行う「デュアルタスク(二重課題)」によって脳の前頭前野を強く活性化させる発想は、海外の認知症予防研究でも裏付けられており、コグニサイズはそれを日本の高齢者が自宅・地域サロン・通所介護でも継続できるよう体系化した点に独自性があります。介護予防マニュアル(厚生労働省)でも紹介され、各自治体の介護予防事業や、通所介護・地域包括支援センター主催の介護予防教室で広く活用されています。
名称は Cognition(認知)+ Exercise(運動) の合成語で、「ながら運動」では脳負荷が足りないため、少し間違うくらいの認知課題と軽く息がはずむ程度の有酸素運動を組み合わせる、というのが基本コンセプトです。
代表的なメニュー
コグニサイズには複数のバリエーションがあり、参加者の体力・認知機能・場所の制約に応じて選択できます。介護施設で導入しやすい順に主要メニューを紹介します。
- コグニステップ:その場で前後左右にステップしながら、3の倍数で手を叩く・100から3ずつ引き算するなどの認知課題を行う。椅子に座ったままでも実施可能で、虚弱高齢者や通所介護でも導入しやすい代表メニュー。
- コグニウォーキング(コグニウォーク):2人以上で歩きながら、しりとり・連想ゲーム・引き算リレーなどを行う。屋外散歩や廊下歩行訓練に組み込め、有酸素運動の量を確保しやすい。
- コグニラダー:床に置いたラダー(はしご状の用具)の中をステップしながら、しりとりや計算を加える。スポーツ施設や介護予防教室でよく使われ、運動強度を高めたい層に向く。
- コグニダンス:音楽に合わせて簡単な振り付けをしながら、歌詞の一部を変える・拍手回数を変える等の課題を組み合わせる。集団レクリエーションに適する。
- コグニバイク:固定式エルゴメーターをこぎながらタブレットの認知課題に回答する専用機器を用いる方法。デイサービスや病院のリハビリ場面で導入が進む。
どのメニューにも共通するのは、「課題が時々間違える程度の難易度」に調整する点です。慣れて間違えなくなったら、課題内容を変えるか難度を上げ、常に脳に負荷をかけ続けます。
エビデンスと効果
コグニサイズの効果は、国立長寿医療研究センターが自治体と連携して進めた大規模研究で確認されています。代表的な知見を整理します。
- MCI(軽度認知障害)の認知機能低下を抑制:MCI段階の高齢者を対象とした介入研究で、コグニサイズを実施した群は、対照群と比較して論理的記憶や全般的認知機能の低下が抑えられることが示されている(国立長寿医療研究センター予防老年学研究部)。
- 脳の海馬萎縮の抑制:運動と認知課題を組み合わせた介入により、認知症発症と関連する海馬の容積減少が緩やかになったと報告されている。これは記憶機能の維持に直結する重要な指標。
- 身体機能・歩行能力の改善:定期的に取り組むことで、下肢筋力・歩行速度・バランス能力の向上が報告されており、転倒予防・フレイル予防の効果も得られる。
- 抑うつ症状の軽減:集団で実施するコグニサイズは、社会的交流の機会となり、高齢者の孤立感や抑うつ気分の改善にも寄与する。
注意点として、コグニサイズは「すでに発症した認知症の治療法」ではなく、正常〜MCIの段階で発症リスクを下げる予防的介入として位置づけられています。短期間で劇的な効果が出るものではなく、週2〜3回×60分程度を半年〜1年継続することで効果が現れるとされています。
脳トレ・ロコトレとの違い
類似の予防プログラムと比較すると、コグニサイズの位置づけがより明確になります。
| プログラム | 主な狙い | 運動負荷 | 認知負荷 | 科学的裏付け |
|---|---|---|---|---|
| コグニサイズ | 認知症発症の予防・遅延 | 中強度の有酸素運動(軽く息がはずむ) | 計算・しりとりなど同時に課す | 国立長寿医療研究センターのRCTで効果報告 |
| 脳トレ(紙のドリル等) | 認知機能の維持 | ほぼなし(座位中心) | あり(単独課題) | 限定的(課題転移は弱いとの指摘) |
| ロコトレ(ロコモーショントレーニング) | 運動器症候群(ロコモ)予防 | 低〜中強度の筋トレ・バランス | なし | 日本整形外科学会推奨 |
| 一般的なウォーキング | 生活習慣病・体力維持 | 中強度の有酸素運動 | なし | 有酸素運動の効果あり |
最大の特徴は「運動と認知課題を同時に行う」点です。脳トレは認知課題のみ、ロコトレは身体課題のみであるのに対し、コグニサイズはデュアルタスクによって前頭前野と運動野を同時に活性化させる点で、より強い予防効果が期待できると考えられています。
実施手順と推奨頻度
コグニサイズを安全・効果的に行うための基本ステップを整理します。介護予防教室や通所介護での実施を想定した手順です。
- 体調確認とウォームアップ(5〜10分):血圧・脈拍を測定し、当日の体調を確認。首・肩・足首の関節を軽く動かしてから始める。
- 運動の選択:参加者の体力・認知レベルに合わせ、コグニステップ・コグニウォーク・コグニラダー等から選ぶ。座位で行うか立位で行うかも調整する。
- 認知課題の設定:「3の倍数で手拍子」「100から3ずつ引く」「しりとり」など、参加者にとって時々間違えるくらいの難度を設定。慣れて全問正解できるようなら課題を変える。
- 本運動(30〜40分):軽く息がはずみ、会話はできるが歌うのは難しい程度(中強度)の運動を継続。途中で水分補給と休憩を挟む。
- クールダウンと振り返り(5〜10分):呼吸を整え、参加者同士で「今日できたこと」を話し合うと社会的交流の効果も加わる。
推奨頻度
国立長寿医療研究センターの研究プロトコルでは、週2〜3回×1回あたり60分程度を半年〜1年継続することが推奨されています。家庭で行う場合は、テレビを見ながら椅子に座って足踏みしながら計算をするなど、毎日10〜15分の短時間でも実施可能です。
安全上の注意
- 転倒リスクのある利用者は座位で行うか、必ず付き添いをつける
- 高血圧・心疾患のある方は、主治医と相談のうえ運動強度を調整する
- 「課題が全くできない」状態が続くとモチベーションが下がるため、難度設定をこまめに見直す
介護現場での活用ポイント
通所介護・地域包括支援センター・介護予防教室での導入を想定した、現場目線の活用ポイントをまとめます。
- レクリエーションに組み込む:単独プログラムとして時間を確保するのが難しい場合、午前のラジオ体操の後半に「足踏みしながらしりとり」を5分追加するなど、既存メニューへの差し込み導入から始めると定着しやすい。
- 個別機能訓練加算の素材として活用:通所介護の個別機能訓練計画書に「歩行訓練+認知課題」として位置づけることで、生活機能向上を目的とする加算要件と整合性をとりやすい。
- 家族・利用者の理解を得る:「ただ歩くだけ・ただ計算するだけ」ではなく、組み合わせる意味(前頭前野の同時活性化)を説明することで、家族の納得が得られやすく在宅での継続にもつながる。
- 段階的な難度設計:初回はステップ+手拍子から始め、慣れたら計算→しりとり→引き算リレーと段階を上げる。利用者ごとに「ちょうど良い難しさ」を記録しておくとPDCAが回しやすい。
- 職員研修:国立長寿医療研究センターでは「コグニサイズ指導者養成研修」を実施しており、修了者を「コグニサイズ・スポーツインストラクター」「コグニサイズ・トレーナー」として認定している。デイサービスや介護予防事業の質を担保したい場合は派遣・受講を検討する価値がある。
よくある質問
Q1. コグニサイズはすでに認知症を発症した人にも効果がありますか?
コグニサイズは主に正常〜MCI(軽度認知障害)段階での発症予防・遅延を目的としたプログラムです。すでに認知症を発症した方に対する治療効果のエビデンスは限定的ですが、安全に実施できる範囲であれば身体機能の維持や生活意欲の改善に寄与する可能性があります。実施可否は主治医や担当ケアマネジャーと相談してください。
Q2. 1人でも家で実施できますか?
可能です。テレビを見ながら椅子に座って足踏みし、CMの間に100から3ずつ引き算をする、といった「ながらコグニサイズ」でも認知負荷をかけられます。ただし、転倒リスクがある場合は立位での実施は避け、家族の見守りがある時間帯に行ってください。
Q3. どの程度の運動強度が必要ですか?
「軽く息がはずむが、会話はできる程度」の中強度が目安です。脈拍は安静時の1.5〜2倍程度。高齢者では脈拍計を用いて確認しながら行うと安心です。心疾患・高血圧のある方は事前に主治医と相談してください。
Q4. 課題が簡単すぎる/難しすぎる場合はどうすればよいですか?
「時々間違える程度」の難度が最適とされています。全問正解できるようなら、引き算の幅を変える(3→7)、しりとりに「2文字目で続ける」などの制約を加えるといった工夫で負荷を上げます。逆に難しすぎる場合は、手拍子の回数を減らすなど課題を単純化します。
Q5. 介護施設で導入するために特別な資格は必要ですか?
必須資格はありませんが、より体系的に導入したい場合は国立長寿医療研究センターが実施するコグニサイズ指導者養成研修を修了することで「コグニサイズ・スポーツインストラクター」「コグニサイズ・トレーナー」の認定を受けられます。職員研修や介護予防事業の質保証に活用できます。
参考文献
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「コグニサイズとは?」https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/gerontology/cognicise.html
- 国立長寿医療研究センター 病院「認知症予防運動プログラム コグニサイズ」https://www.ncgg.go.jp/hospital/kenshu/kenshu/27-4.html
- 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「コグニサイズ-認知症予防へ向けた運動-」https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/cognicise.html
- 厚生労働省「介護予防マニュアル(改訂版)」運動器の機能向上マニュアルhttps://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.html
- 神奈川県「運動による認知症未病改善の取組ーコグニサイズー」https://www.pref.kanagawa.jp/docs/u6s/cnt/f12651/index.html
まとめ
コグニサイズは国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防プログラムで、軽い有酸素運動と認知課題を同時に行うデュアルタスク方式が特徴です。週2〜3回×60分を半年〜1年継続することで、MCI段階での認知機能低下抑制や海馬萎縮の緩和が報告されており、介護予防教室・通所介護のレクリエーション・在宅でのながら運動として幅広く活用できます。介護現場の職員にとっても、利用者の家族にとっても、「楽しみながら脳と体を同時に鍛える」選択肢として知っておきたい用語です。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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