FAB(前頭葉機能検査)とは

FAB(前頭葉機能検査)とは

FAB(Frontal Assessment Battery)は6課題18点満点の前頭葉機能スクリーニング検査。カットオフ12点で前頭葉障害を疑い、前頭側頭型認知症(FTD)の早期発見に有用。所要時間10分。MMSE/HDS-Rとの違いと介護現場での読み解き方を解説。

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この記事のポイント

FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)は、Dubois博士らが2000年に開発した6課題18点満点の前頭葉機能スクリーニング検査です。所要時間は約10分。カットオフ値は12点以下で前頭葉機能障害が疑われ、MMSEやHDS-Rでは捉えにくい前頭側頭型認知症(FTD)の早期発見に有用です。医師・公認心理師・神経心理士などが実施します。

目次

FABとは何か:6課題で前頭葉機能を測る短時間スクリーニング

FAB(Frontal Assessment Battery)は、フランスの神経学者 Bruno Dubois 博士らが2000年に発表した、前頭葉機能を簡便に評価するためのベッドサイド検査です。原著論文(Dubois et al., Neurology, 2000)では「短時間で前頭葉機能を網羅的にスクリーニングできる」点が強調されており、現在では日本国内でも認知症診療ガイドラインや神経心理学領域で広く用いられています。

FABが評価するのは、いわゆる「前頭葉機能(前頭前野の実行機能)」です。具体的には、概念形成、思考の柔軟性、運動プログラミング、干渉刺激への耐性、抑制制御、環境依存性の抑制という6つの側面を、6つの簡単な課題で測定します。各課題は0〜3点で採点され、合計18点満点。所要時間は約10分で、紙とペン、検者の手だけで実施できる手軽さが最大の特長です。

FABが臨床現場で重宝される理由は、「MMSE・HDS-Rでは捉えにくい前頭葉症状」を可視化できる点にあります。アルツハイマー型認知症(AD)は記憶障害が主軸で、MMSEで早期から減点が出ます。一方、前頭側頭型認知症(FTD)は記憶は保たれるが人格変化・脱抑制・常同行動が出るため、MMSE/HDS-Rが満点近くでも実は前頭葉機能が大きく低下しているケースがあります。FABはこの「見逃されやすい前頭葉障害」を拾い上げるための補完検査として位置づけられています。

FABの6課題と配点

FABの6課題と配点(合計18点満点)

FABは以下の6つのサブテストで構成され、各課題が0〜3点で採点されます。1つの課題に複数の小問が含まれ、検者は手順書に沿ってスコアリングします。

No.課題名評価対象配点
1類似性(概念化)抽象的な概念形成(例:「バナナとオレンジ」は何が同じか?)0〜3点
2語の流暢性(知的柔軟性)制限時間60秒で「か」で始まる単語をできるだけ多く列挙0〜3点
3運動系列(プログラミング)「グー・チョキ・パー」の手の運動系列を検者の模倣後に連続実施0〜3点
4葛藤指示(干渉刺激への耐性)検者が1回叩いたら2回、2回叩いたら1回叩く課題0〜3点
5GO/NO-GO(抑制制御)1回叩いたら1回、2回叩いたら叩かない課題0〜3点
6把握行動(環境依存性の抑制)検者が患者の手のひらに触れても握り返さない0〜3点

合計:18点満点

カットオフ値の読み方

  • 12点以下:前頭葉機能障害が疑われる(一般的なカットオフ)
  • 10点以下:前頭葉機能障害の可能性が高い
  • 15点以下:若年層(65歳未満)では低下を疑う水準

カットオフ値は研究によって若干のばらつきがありますが、原著および日本国内の主要研究では「11/12点」を健常者と認知症の境界とする報告が多く、現場では「12点以下=要精査」と覚えておけば実務に十分対応できます。

FABとMMSE・HDS-Rの違い

FABとMMSE・HDS-Rの違い:なぜ「FAB併用」が推奨されるのか

認知症スクリーニングといえばMMSE(Mini-Mental State Examination)とHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)が代表ですが、これらは主に「記憶・見当識・計算」を評価する検査で、前頭葉機能(実行機能・抑制・概念化)は十分に測れません。臨床現場では3つの検査の役割を以下のように整理して使い分けます。

検査主な評価領域満点所要時間得意な認知症タイプ
MMSE見当識・記憶・計算・言語・構成30点10〜15分アルツハイマー型(AD)
HDS-R見当識・記憶・計算・語想起30点6〜10分アルツハイマー型(AD)
FAB概念化・柔軟性・運動系列・抑制・把握行動18点約10分前頭側頭型(FTD)・進行性核上性麻痺・パーキンソン病性認知症

前頭側頭型認知症(FTD)の見逃し問題

FTDは脳の前頭葉・側頭葉が選択的に萎縮するタイプで、初期は「物忘れ」よりも「性格変化・社会的逸脱・脱抑制・常同行動」が前面に出ます。家族から「最近、人格が変わった」「万引きをした」「同じ行動を繰り返す」といった訴えがあっても、MMSEを実施すると26〜28点と高得点を取ってしまい、「年齢相応」と判断されがちです。

FABを併用すると、こうした症例で前頭葉機能のスコアが低く出ることが多く、FTDを早期に疑うきっかけになります。日本神経学会の認知症診療ガイドラインでも、行動異常型FTDを疑う場合はMMSEだけでなくFAB等の前頭葉機能検査を組み合わせることが推奨されています。

パーキンソン病・進行性核上性麻痺との関連

FABはパーキンソン病性認知症(PDD)や進行性核上性麻痺(PSP)でも低下しやすい検査です。これらの疾患は皮質下〜前頭葉ループの機能障害を伴うため、運動症状が先行しても認知面でFABスコアが低下します。介護現場で「歩行障害+転倒」がある利用者の認知面アセスメントに、FABの結果が参考になることがあります。

介護現場でFABの結果をどう活かすか

FABは医師や公認心理師が実施する検査ですが、介護職員もスコアの意味を理解しておくと、利用者の行動への対応力が大きく変わります。以下は施設・在宅介護で押さえておきたい活用視点です。

1. FABスコアが低い利用者には「抑制低下」を前提にしたケアを

FABが12点以下の利用者は、抑制制御(GO/NO-GO課題)や干渉刺激への耐性(葛藤指示課題)の低下が示唆されます。具体的には、「衝動的な発言」「順番が待てない」「目に入った物に手が出る」「同じ行動を繰り返す」といった行動が出やすくなります。これらは「わがまま」や「拒否」ではなく前頭葉機能低下の症状であると理解し、刺激の少ない環境設定や、行動を否定せず代替行動へ誘導する声かけが有効です。

2. 「記憶は保たれているのに困りごとがある」ケースはFABの結果を確認

家族から「物忘れはないのに人が変わった」「金銭管理が荒くなった」と相談された場合、医療連携時にFABの結果を確認するとケアプランの根拠になります。MMSEが高得点でもFABが低い場合は、前頭葉症状中心の介入(環境調整・行動置換・スケジュール固定化)を優先します。

3. 把握反射(課題6)が陽性の利用者は事故予防を強化

把握行動の課題で減点がある利用者は、目の前の物を反射的につかんでしまう傾向があります。食事介助の際にスプーンを離さない、点滴ルートを引き抜く、移乗中に手すり以外を握ってしまうといったリスクがあるため、視界からの刺激物の除去や、握りやすい代替物(タオルなど)を手に持たせる工夫が事故予防につながります。

4. 服薬・金銭管理の自立度評価に活用

FABは「判断・実行・抑制」を測るため、服薬管理や金銭管理を自分でできるかの判断材料になります。FABが10点以下の利用者は、原則として服薬・金銭の自己管理は困難と考え、家族や訪問看護・ヘルパーによる支援を組み込むのが安全です。

FABに関するよくある質問

Q1. FABは誰が実施できますか?

FABは医師、公認心理師、言語聴覚士、作業療法士、神経心理士など、神経心理学的検査の研修を受けた専門職が実施します。介護職員が検査そのものを実施することはありませんが、医療職と連携する立場として「どの検査が何を測るか」を理解しておくと、結果のフィードバックを受けたときにケア計画に反映しやすくなります。

Q2. FABは保険適用ですか?

FAB単独では診療報酬上の「認知機能検査その他の心理検査」として算定されることがあり、医療機関で実施される場合は健康保険の対象になります。施設・事業所内で介護職員が独自に実施するものではないため、検査が必要と判断された場合は主治医や認知症疾患医療センターへの紹介ルートを使います。

Q3. MMSE・HDS-Rと両方やる必要がありますか?

診療現場では「MMSEまたはHDS-R+FAB」の組み合わせが標準的です。MMSEで全般的認知機能を、FABで前頭葉機能を測ることで、認知症の原因疾患(AD型なのかFTD型なのか)を推定する材料が増えます。介護記録上は、両検査のスコアを並べて記録しておくと医療連携時に情報伝達がスムーズです。

Q4. FABが満点でも認知症ではないと言い切れますか?

言い切れません。FABは前頭葉機能のスクリーニングであり、海馬を中心とした記憶機能や視空間認知は別途評価が必要です。FAB単独で「認知症ではない」と判断するのは誤りで、必ずMMSEや画像検査と組み合わせて総合的に判断します。

Q5. 何点取れていれば「介護不要」と判断できますか?

FABはあくまで認知機能の一側面を測る検査であり、点数だけで「介護不要」を判断するものではありません。ADL(日常生活動作)、IADL(手段的日常生活動作)、社会的活動、家族の介護負担などを総合して支援の要否を考えます。FABが満点でも、生活上の困りごとがあれば介護保険サービスの利用相談を進めるのが適切です。

参考資料

まとめ:FABは「MMSEで見逃される認知症」を拾う鍵

FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)は、6課題18点満点で前頭葉機能を測る簡便なベッドサイド検査です。カットオフ12点を境に前頭葉障害を疑い、所要時間約10分で実施できる手軽さから、認知症疾患医療センターや一般内科でも普及しています。

MMSEやHDS-Rが「記憶」を主に評価するのに対し、FABは「概念化・抑制・運動系列・把握行動」を評価するため、前頭側頭型認知症(FTD)・進行性核上性麻痺(PSP)・パーキンソン病性認知症(PDD)のような前頭葉症状が前面に出る疾患を早期に拾い上げるのに有用です。介護現場では、MMSEが高得点でも「人格変化」「脱抑制」「常同行動」が目立つ利用者がいたら、医療連携でFABの実施・結果共有を依頼すると、より個別性の高いケアプランが組めます。

検査スコアそのものは医療職が出す数字ですが、その意味を理解して「行動の背景」を読み取れる介護職員は、医療連携の中核プレイヤーになれます。FABの理解を、認知症ケアの引き出しの一つに加えておきましょう。

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