フレイル(虚弱)とは
フレイル(虚弱)とは、健康と要介護の中間にある可逆的な状態です。身体的・精神心理的・社会的フレイルの3要素、改定J-CHS基準(2020)の評価項目、サルコペニア・ロコモとの違い、栄養・運動・社会参加の予防3本柱、フレイル健診と介護予防・日常生活支援総合事業の関係まで、用語の意味と仕組みをやさしく解説します。
この記事のポイント
フレイル(虚弱)とは、加齢に伴い心身の予備能力が低下し、健康な状態と要介護状態の中間にある段階を指す概念です。語源は英語の「Frailty」で、日本老年医学会が2014年に「フレイル」と訳しました。身体的フレイル・精神心理的フレイル・社会的フレイルの3要素から構成され、適切な介入によって健常な状態へ戻れる可逆性を持つことが最大の特徴です。厚生労働省は75歳以上の後期高齢者を対象に「フレイル健診」を実施し、栄養・運動・社会参加の3本柱で予防を進めています。
目次
フレイルの定義と「可逆性」という最大の特徴
フレイルは、加齢に伴って筋力・認知機能・社会とのつながりなど多面的な機能が低下し、ストレス(病気・転倒・引きこもりなど)への抵抗力が弱まった状態を指します。日本老年医学会は2014年に、それまで「老衰」「虚弱」などと訳されてきた英語「Frailty」を「フレイル」と統一して提唱しました。
最大の特徴は、要介護状態と異なり「可逆性(戻れる)」を持つ点です。早期に気づいて栄養・運動・社会参加に取り組めば、健常な状態に戻ることが可能です。逆に放置すると、要支援・要介護へと進行していきます。
健常→プレフレイル→フレイル→要介護の連続体
フレイルは「健康か病気か」という二分論ではなく、次のような連続的な段階で捉えられます。
- 健常(ロバスト):体力・気力ともに低下なし。
- プレフレイル(前虚弱):1〜2項目で衰えがみられる、フレイル予備軍の状態。
- フレイル:3項目以上に該当。日常生活に影響が出始めるが、まだ可逆。
- 要介護状態:日常生活動作(ADL)に介助が必要な段階。可逆性は低下。
介護現場・地域包括ケアでは、プレフレイルやフレイル段階で介入し、要介護への移行を防ぐことが最大のミッションです。
フレイルの3要素(身体的・精神心理的・社会的)
フレイルは身体的な衰えだけを指すのではなく、身体的フレイル・精神心理的フレイル・社会的フレイルという3つの要素が相互に関わり合う多面的な概念として整理されています。1つの要素の悪化が他の要素を引き起こし、ドミノ倒しのように進行することが知られています。
1. 身体的フレイル
筋力低下・歩行速度低下・転倒リスクの増加など、身体面の衰え。背景にはサルコペニア(加齢性筋肉減少症)やロコモティブシンドローム(運動器症候群)があります。低栄養や運動不足が引き金となり、転倒・骨折から寝たきりに至るリスクが高まります。
2. 精神心理的フレイル
退職・配偶者の死別などをきっかけに生じるうつ症状・軽度認知障害(MCI)・意欲低下。「外出が億劫になる」「食欲が湧かない」「人と話すのが疲れる」などの兆候から始まり、認知症の発症リスクを高める要因にもなります。
3. 社会的フレイル
地域・家族・友人とのつながりが薄れ、独居・閉じこもり・経済的困窮が常態化した状態。社会参加の減少は精神心理的フレイルを誘発し、外出機会の減少が身体的フレイルを加速させます。「コロナ禍で通いの場が止まりフレイルが急増した」と各自治体が指摘した背景にも、この社会的フレイルがあります。
3要素は独立して進むのではなく、相互に作用しながら進行します。例えば「社会参加が減る → 食事が単調になり低栄養 → 筋力低下 → 外出が億劫 → さらに社会参加が減る」という悪循環が代表例です。予防は1つの入口だけでなく、3要素を同時に意識することが重要です。
評価指標:改定J-CHS基準(2020)の5項目
身体的フレイルの代表的な評価指標は、米国Friedらが提唱したCHS基準(Cardiovascular Health Study基準)と、それを日本人向けに改定したJ-CHS基準です。国立長寿医療研究センターが2020年に改定した「改定J-CHS基準」が、現在の日本における標準的な評価ツールとして用いられています。
改定J-CHS基準(2020)の5項目とカットオフ値
| 項目 | 評価内容 | カットオフ値(該当) |
|---|---|---|
| 1. 体重減少 | 6か月で意図しない体重減少 | 2kg以上の減少 |
| 2. 筋力低下 | 握力 | 男性28kg未満/女性18kg未満 |
| 3. 疲労感 | 「(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする」(基本チェックリスト#25) | 「はい」と回答 |
| 4. 歩行速度低下 | 通常歩行速度 | 1.0m/秒未満 |
| 5. 身体活動低下 | 「軽い運動・体操」「定期的な運動・スポーツ」 | 両方とも「していない」 |
判定区分
- 3項目以上に該当:フレイル
- 1〜2項目に該当:プレフレイル
- 該当なし:ロバスト(健常)
このほか、市区町村の介護予防事業で用いられる「基本チェックリスト」(25項目)や、後期高齢者医療制度で使われる「後期高齢者の質問票」(15項目)も、現場で広く使われる評価ツールです。質問票の3〜14番目(フレイル関連12項目)で「はい」が4項目以上ある場合、フレイル疑いと判定されます。
サルコペニア・ロコモとの違い
フレイルと混同されやすい概念にサルコペニアとロコモティブシンドローム(ロコモ)があります。3つは「加齢に伴う心身の衰え」という共通点を持ちますが、対象とする範囲と医学的な定義が異なります。
| 項目 | フレイル | サルコペニア | ロコモティブシンドローム |
|---|---|---|---|
| 提唱者 | 米国老年医学会/日本老年医学会(2014年提唱) | Rosenberg(1989年提唱) | 日本整形外科学会(2007年提唱) |
| 対象範囲 | 身体・精神心理・社会の3要素を含む包括概念 | 骨格筋量と筋力の低下に焦点 | 運動器(骨・関節・筋肉・神経)全般の障害 |
| 主な原因 | 加齢・低栄養・疾患・社会的孤立など多因子 | 加齢・低栄養・運動不足・疾患 | 加齢・運動不足・骨粗しょう症・変形性関節症など |
| 主な症状 | 倦怠感・歩行速度低下・体重減少・うつ・閉じこもり | 筋力低下・歩行困難・転倒 | 立つ・歩く・階段昇降の困難 |
| 関係性 | サルコペニア・ロコモを内包する上位概念 | 身体的フレイルの主な原因 | 身体的フレイルの主な原因 |
関係性を整理すると、「フレイル > ロコモ・サルコペニア」という包含関係になります。サルコペニア(筋肉量・筋力の低下)やロコモ(運動器の障害)が進むと身体的フレイルにつながり、それが精神心理的・社会的フレイルへと波及していくイメージです。介護現場では「サルコペニア対策=筋トレと栄養」「フレイル対策=それに加えて社会参加」と覚えておくと整理しやすいでしょう。
フレイル予防の3本柱:栄養・運動・社会参加
厚生労働省や東京大学・飯島勝矢教授らが提唱しているフレイル予防の基本は、「栄養」「運動」「社会参加」の3本柱を同時に意識することです。3要素は相互に関連するため、一つだけ突出して取り組むのではなく、3つを並行して継続するのが原則です。
1. 栄養(食事・口腔ケア)
- たんぱく質を意識:1日に体重1kgあたり1.0〜1.2gが目安。肉・魚・卵・大豆・乳製品をまんべんなく摂る。
- 多様な食品を摂る:10食品群(魚・肉・卵・大豆・牛乳・緑黄色野菜・海藻・いも・果物・油脂)のうち1日7品目以上を目標に。
- 口腔機能の維持:噛む・飲み込む力が落ちると食欲低下→低栄養に直結。歯科健診と口腔体操を習慣化。
2. 運動(身体活動)
- レジスタンス運動:スクワット・椅子からの立ち上がり・かかと上げなど、筋力に負荷をかける運動を週2〜3回。
- 有酸素運動:ウォーキングを1日30分・週150分以上。歩行速度1.0m/秒未満の人は、まず歩く時間を確保することが先決。
- バランス運動:片足立ち・タンデム歩行など。転倒予防に直結。
3. 社会参加
- 通いの場・サロン:地域の体操・カラオケ・趣味活動への参加を週1回以上。
- 共食:誰かと一緒に食べることで食事量・多様性が増える。
- 役割を持つ:ボランティア・町内会・孫の世話など、「人から頼られる場」が認知機能とうつ予防に有効。
東京大学高齢社会総合研究機構の調査では、運動・食事・社会参加の3つすべてに取り組む高齢者は、いずれも取り組まない高齢者と比べてフレイルの割合が約1/16と報告されており、3本柱を組み合わせる相乗効果は大きいとされています。
フレイルに関するよくある質問
Q. フレイル健診はいつ・誰が受けるのですか?
A. フレイル健診は、後期高齢者医療制度の対象である75歳以上を主な対象に、市区町村が実施する健診です。厚生労働省が2020年度に「後期高齢者の質問票(15項目)」を導入し、健康状態・心の状態・口腔機能・運動・社会参加など多面的にチェックします。健診結果はKDB(国保データベース)と連動し、フレイル疑いの方には保健指導や通いの場の紹介などが行われます。受診案内は市区町村から郵送されるため、対象年齢に達したら必ず確認しましょう。
Q. フレイルは介護保険のサービスを使えますか?
A. フレイル段階は基本的に要介護認定の対象前ですが、市区町村の介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の対象になります。基本チェックリストで「事業対象者」と判定されれば、要介護認定を受けなくても通所型・訪問型サービス、通いの場、配食サービスなどを利用可能です。要支援1・2の認定を受けた場合は、介護予防給付(介護予防訪問・通所など)を介護保険で利用できます。
Q. フレイルとサルコペニアは同じものですか?
A. 違います。サルコペニアは「骨格筋量と筋力の低下」に限定された医学的概念で、身体的フレイルの主要な原因の一つです。一方フレイルは身体・精神心理・社会の3要素を含む包括概念で、サルコペニアやロコモティブシンドロームを内包するより広い枠組みです。簡単にいえば「サルコペニアは筋肉、フレイルはそれを含めた心身全体」と整理できます。
Q. フレイルから健康な状態に戻れますか?
A. 戻れます。これがフレイル概念の最大のポイントです。要介護状態と異なり、フレイルは栄養・運動・社会参加の3本柱に取り組むことで改善が期待できる可逆的な状態です。「年齢のせいだから仕方ない」と諦めず、早期に気づいて行動することが重要です。介護職員や家族・地域包括支援センターは、本人が「面倒くさい」「外に出たくない」と感じる前にきっかけ作りを支援する役割を担います。
Q. 介護職員はフレイル予防にどう関わりますか?
A. 通所介護・訪問介護・グループホームなど、あらゆる介護現場でフレイル予防は重要なテーマです。具体的には、食事介助での低栄養チェック・口腔ケア・離床介助による身体活動の確保・レクリエーションでの社会参加促進など。要介護状態であっても、フレイルの3要素を意識した支援は「重度化防止」として介護報酬の加算(科学的介護推進体制加算など)にも反映されます。
参考文献・出典
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まとめ
フレイル(虚弱)は、健康と要介護の中間にあり適切な介入で健常へ戻れる可逆的な状態です。身体的・精神心理的・社会的の3要素が相互に関わり合うため、改定J-CHS基準(2020)の5項目評価で身体面の衰えを把握しつつ、精神心理・社会面のサインも見逃さないことが重要です。
サルコペニアは「筋肉量・筋力の低下」、ロコモは「運動器の障害」に焦点を当てた概念で、フレイルはそれらを内包する包括的な上位概念と整理できます。予防の基本は栄養・運動・社会参加の3本柱で、3つを同時に取り組むことで効果が大きく高まります。
制度面では、厚生労働省が後期高齢者を対象にフレイル健診を実施し、市区町村の介護予防・日常生活支援総合事業でフレイル予防の通いの場や保健指導を提供しています。介護職員にとっても、利用者の重度化を防ぐうえで「フレイル」という視点は欠かせない用語です。日常のケアの中で3要素を意識した支援を続けることが、要介護への移行を遅らせる最大の予防策になります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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