
家族でできる着替え介助|立位・座位・寝たまま・片麻痺の手順と自立支援
在宅で家族が着替え介助を行う方法を、立位・座位・寝たまま・片麻痺の状態別に解説。脱健着患の原則、ワンタッチ介護服や自助具、洗濯と腰痛対策、訪問介護・OT連携まで、本人の自立と尊厳を守る実践ガイド。
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この記事のポイント
着替え(更衣)介助の基本は、「脱ぐときは健側から、着るときは患側から」の脱健着患(だっけんちゃっかん)。室温を23〜25度に整え、本人ができる動作は残し、関節を支えながらゆっくり進めるのが原則です。立位・座位・寝たままで手順は変わり、片麻痺・拘縮・認知症がある場合はワンタッチテープ式の介護服や前開き衣類が負担を大きく減らします。訪問介護では身体介護として算定され、家族だけで抱え込まず、ケアマネジャー・作業療法士(OT)・福祉用具専門相談員と連携することが本人の自立とご家族の腰を守る近道です。
目次
「親の右半身に麻痺が出てから、着替えを手伝うたびに痛いと言われる」「寝たきりの母のパジャマ交換に毎晩30分もかかって、自分の腰がもたない」——着替え介助は、在宅介護のなかでも毎日複数回必要になる地味で重い負担です。一方で、着替えは皮膚の状態や体温の変化を観察できる大切なケアの場面でもあり、本人にとっては季節を感じ生活リズムを保つ大切な時間でもあります。
このページでは、在宅で家族が安全に着替え介助を行うための手順を、立位がとれる方・座位の方・寝たきりの方・片麻痺がある方・関節の動きに制限がある方・認知症の方と状態別に整理しました。脱健着患の原則、ワンタッチテープ式の介護服や前開き衣類の選び方、洗濯量増加への対応、介助者自身の腰痛予防まで、家族目線でカバーします。訪問介護・訪問入浴・作業療法士(OT)・福祉用具専門相談員といった在宅で頼れる職種の活用法もあわせて解説するので、ひとりで抱え込まず長く続けられる介護を組み立てる参考にしてください。
着替え介助は「清潔」だけが目的ではない|5つの意味と自立度別レベル
家族が「ただ服を替えるだけ」と思って向き合うと、着替え介助は単純作業になりがちです。しかし在宅介護の現場で着替え介助が大切にされているのは、次の5つの意味があるからです。
- 清潔と皮膚トラブル予防:汗・尿・便で汚れた衣類を着続けると、湿潤環境で皮膚炎・褥瘡(じょくそう=床ずれ)・感染症のリスクが高まります。1日数回着替える機会は、皮膚の発赤・乾燥・むくみ・あざを観察する貴重なタイミングです。
- 体温調節と循環の促進:寝間着・室内着・外出着の切り替えは、体温調節の基本。寝たままの方でも衣類を替える動作で関節を動かすことで血流が促進されます。
- 生活リズムとQOLの維持:朝に部屋着、夜にパジャマと切り替えるだけで「朝が来た」「夜が来た」のリズムが生まれ、認知症の進行予防にもつながります。
- 社会性と尊厳の維持:「今日は何を着ようか」と選ぶこと、デイサービスに行く日にお気に入りの服を着ることは、本人の自尊心を支えます。
- 自立支援とリハビリ効果:袖を通す・ボタンを留める動作は、肩・肘・指のリハビリそのもの。本人ができる部分を残すことで、関節可動域(ROM)と筋力の維持につながります。
自立度別の介助レベル
同じ「着替え介助」でも、本人の状態によって関わり方は大きく変わります。家族はまず「どこまでが本人の力でできるか」を見極めることが大切です。
- 自立(見守り・声かけのみ):服を選んで自分で着脱できる。家族は「ボタンが裏返っていますよ」と気づきを伝える程度。
- 一部介助:袖を通す・ボタンを留めるなど一部の動作が難しい。家族はその部分だけ手伝い、できる動作は本人に任せる。
- 全介助:座位の保持が難しい、麻痺や拘縮が強く本人での着脱が困難。家族が全行程を支援するが、それでも「腕を上げますね」「腰を浮かせてもらえますか」と声かけし、本人の協力を引き出す。
厚生労働省の老計第10号(訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について)でも、更衣介助は「身体介護」に位置づけられており、訪問ヘルパーが利用者の身体に直接触れて行うケアの代表例とされています。家族介護もこの考え方を踏襲し、「過介助にならず、本人ができる動作は残す」を意識すると、長く続けられる介護になります。
介助前の準備|室温・物品・着替えの順番で安全度が9割決まる
着替え介助で起きやすい事故は、転倒・低体温・皮膚剥離(はくり)の3つ。これらの大半は「準備不足」が原因です。手順に入る前に、次の5つを必ず整えてください。
1. 室温と環境を整える
着替えで衣類を脱いだ瞬間、高齢者は急激に体温を奪われます。室温は23〜25度を目安に、エアコン・暖房で寒暖差をなくしてから始めましょう。冬場はあらかじめ衣類を温めておく、夏場でも肩掛けを準備しておくと低体温・ヒートショックを防げます。窓を閉め、扇風機・サーキュレーターの風が直接当たらない位置に本人を移動するのも大切です。
2. プライバシーに配慮する
カーテン・障子を閉める、リビングなら家族の動線をいったん止める、来客があれば玄関で対応するなど、本人の露出を最小限にする工夫を。バスタオルを膝・胸に掛けて、脱いだ部位以外は隠す「タオルがけ」は施設介護でも基本のマナーです。可能であれば同性の家族が介助するのが望ましいですが、難しい場合は「タオルを掛けますね」と声かけし配慮を示すだけでも本人の安心感は変わります。
3. 物品を手元にそろえる
着替えの最中に「あの下着を忘れた」と席を立つと、本人が転倒・転落するリスクが上がります。次のものを手の届く場所にすべて並べてから始めましょう。
- 新しい上衣・下衣・下着・靴下
- 清拭用の蒸しタオル・乾いたタオル
- 必要に応じておむつ・パッド・ビニール袋(汚れた衣類用)
- 塗り薬・保湿剤(皮膚観察ついでに塗布する場合)
- クシ・整髪料など整容用品
4. 着替える順番を決める
原則は「上着→下衣→靴下」の順。上着脱衣中は下半身にバスタオルを掛けて隠し、下衣に移るときは上半身に新しい上衣を着せておく、というように「裸の時間を最小化」する段取りを意識してください。失禁時はおむつ交換と合わせて行い、皮膚保護クリームを塗布してから新しい衣類を着せます。
5. 排泄を済ませてから始める
着替えの途中で「トイレに行きたい」となると、せっかく着せた服を脱ぎ直すことになります。事前にトイレ・ポータブルトイレに誘導するか、おむつの方は新しいおむつに交換してから着替えに入ります。寝たきりの方の場合、着替え前に必ず「お通じは大丈夫ですか」と確認するだけでもムダな作業を減らせます。
介助前のチェックリスト
- □ 室温23〜25度に調整した
- □ 窓・カーテンを閉めた
- □ 物品を手の届く位置にすべて並べた
- □ 排泄を済ませた/おむつを新しいものに交換した
- □ 「これから着替えます」と本人に声かけし同意を得た
着替え介助の5つの基本原則|脱健着患・自立支援・尊厳
- 1. 脱健着患(だっけんちゃっかん):脱ぐときは健側(動かしやすい側)から、着るときは患側(麻痺・拘縮・痛みのある側)から行う。患側を無理に動かさずに済むため、痛みや関節への負担を最小化できる。片麻痺・骨折・関節リウマチ・肩関節周囲炎など、左右で動かしやすさに差がある場合は必ずこの順番を守る。
- 2. 関節は無理に動かさず「支える」:袖を通すときは、肩・肘・手首の3点を介助者の手のひらで包むように支えながら、本人の関節可動域を超えない範囲でゆっくり動かす。引っ張ると関節脱臼・骨折・皮膚剥離のリスクがあり、特に高齢者は皮膚が薄く骨が脆いため要注意。可動域が分からないときは、必ず作業療法士(OT)または訪問リハビリスタッフに範囲を確認してから行う。
- 3. 自立支援を最優先する:本人ができる動作(袖に手を入れる、ボタンを留める、靴下を引き上げる)は本人にやってもらい、家族は見守りに徹する。過介助は本人の残存機能を奪い、ADL(日常生活動作)低下を早める。「手伝った方が早い」と思っても、リハビリと考えて待つ姿勢を持つ。
- 4. 声かけと同意を必ず取る:「次は袖を通しますね」「肘を少し曲げます」など、動作の前に必ず予告する。突然身体に触れるのは認知症の方への驚きや拒否反応を招くだけでなく、健常な高齢者にとっても尊厳を損なう行為。同意が得られないときは時間を空ける、声のかけ方を変えるなど工夫する。
- 5. 皮膚観察と尊厳保護を同時に行う:着替えで衣類を脱いだ瞬間は、背中・腰・脇・お尻の皮膚を観察する絶好の機会。褥瘡の前兆(持続的な赤み)、湿疹、内出血、爪の傷などをチェックする。同時に、本人の前で「臭い」「汚い」など否定的な言葉を発しない、家族間で本人の身体について話さないなど、尊厳を傷つけない配慮を徹底する。
立位での着替え介助手順|手すり・椅子を活用して転倒を防ぐ
立位がとれる方の着替えは、本人の自立度を最も活かせる場面です。ただし、衣類を脱ぐときはバランスを崩しやすいため、必ず手すり・壁・安定した椅子の背につかまってもらう、または椅子に座って下衣だけ立ち上がって着脱する「立ち座り併用方式」が安全です。
上着(前開きシャツ・カーディガン)の着替え
- 準備姿勢:椅子に深く座ってもらい、足底を床にしっかりつける。前ボタンを外す(本人ができれば本人に)。
- 脱ぐ:健側から:健側の肩を抜き、健側の袖から腕を抜く。背中に回した袖を引き、患側の肩・肘・手首を支えながらゆっくり患側の腕を抜く。
- 着る:患側から:新しい上衣を患側の手・肘・肩の順にゆっくり通す。続いて健側の腕を袖に通し、襟元を整える。本人ができればボタンを留めてもらう。
下衣(ズボン・スカート)の着替え
- 椅子に座った状態でウエストまで下ろす:本人にズボンのウエストを持ってもらい、椅子に座ったまま膝まで下ろす。家族は腰回りのシワを整える役割。
- 立ち上がってもらう:手すり・歩行器・家族の肩につかまってもらい、ゆっくり立ち上がる。このとき家族は本人の正面ではなく斜め前から支えると、転倒時に受け止めやすい。
- 下まで脱がせる:膝から足首まで一気に脱がせ、片足ずつ抜く。座ってもらい、汚れたズボンを完全に抜く。
- 新しいズボンを足首まで通す:椅子に座った状態で、片足ずつ通す。患側がある場合は患側の足から通す。
- 立ち上がってウエストまで上げる:再度立ち上がってもらい、本人にウエストを引き上げてもらう。家族は背中側のシワ・食い込みを整える。
立位介助で家族が守るべきポイント
- 本人の足元には滑りやすいスリッパ・靴下を脱がせる(裸足または滑り止め付き靴下)
- カーペットの端・電源コードなど転倒の原因をすべて取り除く
- 本人の体格と家族の体格に差があるときは無理に支えず、2人介助か手すり活用に切り替える
- めまい・ふらつきを訴えたらすぐ椅子に座らせ、しばらく休憩
- 所要時間の目安は5〜10分。長引くと本人が疲労するので手早く済ませる
座位での着替え介助手順|ベッド端・椅子で安定姿勢を作る
立位がとれない、または立ち上がるとふらつく方は、ベッドの端(端座位=たんざい)または椅子に座った状態での着替えが基本になります。座位介助は寝たまま介助よりも本人の参加を引き出しやすく、家族の腰への負担も軽減できます。
端座位(ベッド端に座る)での準備
- ベッドの高さを本人の足底が床にしっかりつく高さに調整する(介護用ベッドの高さ調節機能を活用)。
- 本人をベッドサイドに座らせる。片麻痺の方は健側を窓側・壁側に向け、家族は患側に立つと支えやすい。
- 背中側にクッション・枕を当てて、後ろに倒れないよう支える。バランスが不安定なら、ベッド柵(サイドレール)に手を添えてもらう。
- 足元にすべり止め付きマットを敷く。スリッパは脱がせ、必要なら滑り止め靴下を履かせる。
上着(かぶり式Tシャツ)の着替え手順
- 裾をたくし上げる:本人に裾を持ってもらい、胸元までたくし上げる。本人が動かしにくければ家族が補助。
- 頭を抜く:「頭を少し前に倒しますね」と声かけし、家族が後ろから襟を広げて頭を抜く。耳・鼻が引っかからないよう注意。
- 袖を抜く:健側→患側:健側の腕を肘から手首の順に抜く。続いて患側の袖を、肩・肘・手首を支えながら抜く。
- 新しい上衣を着せる:患側から:袖をあらかじめ蛇腹(じゃばら)状にまとめておくとスムーズ。患側の手を袖口から肩まで通す。
- 頭を通す:襟を広げて頭を通す。本人が前かがみになれれば作業しやすい。
- 健側の腕を袖に通す:最後に裾を腰まで下ろし、シワを整える。
下衣(ウエストゴムのズボン)の着替え手順
- 左右に体重移動しながら下ろす:本人に「左にお尻を浮かせてください」と声かけし、右側のウエストを引き下げる。次に右に体重を移して左側を引き下げる、を交互に繰り返してお尻の下まで下ろす。
- 膝まで下ろす:本人にズボンのウエストを持ってもらいながら、膝まで一気に下ろす。
- 足を抜く:片足ずつ抜く。家族は本人のかかと・つま先を支えて、つま先がズボンに引っかからないようにする。
- 新しいズボンを通す:片足ずつ膝まで通す(患側の足から)。
- ウエストまで上げる:再び体重移動しながら、片側ずつ引き上げる。背中側のシワを整えて終了。
所要時間の目安は10分前後。座位保持に疲れた様子があれば、いったん寝かせて休憩を挟みます。
寝たままでの着替え介助手順|側臥位を活用して家族の腰を守る
座位の保持が難しい寝たきりの方には、ベッド上で側臥位(そくがい=横向き)と仰臥位(ぎょうがい=上向き)を組み合わせた介助を行います。家族にとって最も負担が大きい場面ですが、「持ち上げず、転がす」の原則を守れば腰への負担を大きく減らせます。
準備
- ベッドの高さを家族の腰の高さに上げる(中腰での作業は腰痛の最大原因)。介護用ベッドがない場合は、ベッドの脇に座って作業する。
- サイドレールを片側だけ外し、家族側の作業スペースを確保。
- 掛け布団を足元までたたみ、タオルケットで下半身を覆ってプライバシーを保つ。
- 新しい上衣は「裏返し・袖を肩までまくった状態」で枕元に準備しておくと、後の作業が楽。
上着(前開きパジャマ)の着替え
- 仰臥位でボタンを外す:本人ができればボタンを外してもらう。難しければ家族が外す。
- 健側を下にして側臥位に:本人を健側を下にした横向きにする。家族は患側に立ち、患側の身頃を背中の下まで丸めて押し込む。
- 反対に向ける:今度は患側を下にした側臥位にし、背中側に押し込んだ身頃を健側から引き出す。これで上衣が身体から完全に外れる。
- 仰臥位に戻して袖を抜く:健側の袖を抜き、続いて患側の袖を支えながら抜く。
- 皮膚観察と保清:背中・脇・腰の皮膚を観察。汗をかいていれば乾いたタオルで拭く。褥瘡好発部位(仙骨・かかと・肘)の発赤チェックも忘れずに。
- 新しい上衣を着せる:患側の袖から:袖を肩まで上げておく。健側の腕を袖に通す。
- 健側を下にして側臥位:上衣の患側の身頃を背中の下に丸めて入れる。
- 反対側に向ける:丸めた身頃を引き出して身体全体を覆う。仰臥位に戻し、襟元・脇・腰のシワを整える。
下衣(ウエストゴムパンツ)の着替え
- 仰臥位で膝を立ててもらう:本人ができなければ家族が両膝を立てて支える。
- 腰を浮かせてもらいウエストを下ろす:「腰を少し浮かせていただけますか」と声かけ。本人ができれば腰を浮かせてもらい、その間にウエストをお尻の下まで下ろす。
- 膝まで下ろす:膝まで一気に下ろし、片足ずつ抜く。
- 新しいズボンを通す:片足ずつ膝まで通す(患側の足から)。
- 腰を浮かせてもらいウエストを上げる:再度腰を浮かせてもらい、ウエストまで一気に引き上げる。背中側のシワを整える。
所要時間と注意点
慣れていない家族で15〜20分、慣れれば10分程度。途中で本人が疲れた様子(呼吸が荒い、顔色が悪い)が見られたら、いったん仰臥位に戻して掛け布団を掛け、5分ほど休憩を入れてください。家族1人で行うのが難しい場合は、訪問介護のヘルパーに身体介護として依頼するか、家族2人で介助するのが安全です。
状態別の介助のコツ|片麻痺・拘縮・認知症・失禁時の対応
片麻痺がある方|「脱健着患」を徹底
脳卒中(脳梗塞・脳出血)後遺症や脊髄損傷などで片半身に麻痺がある方の着替えは、必ず脱ぐときは健側、着るときは患側から行います。患側の関節は本人の意思で動かしにくく、引っ張ると肩関節脱臼や皮膚剥離のリスクが高いため、必ず肩・肘・手首を介助者の手のひらで包むように支えてゆっくり動かしましょう。
片麻痺の方は、健側の手足を使えばかなりの動作を本人で行えるケースが多いです。「ボタンは片手でも留められる」「靴下はかかとを支えれば自分で履ける」など、できる動作を見極めて自立支援につなげてください。退院前に病院の作業療法士(OT)から家族向けに着替え動作の指導を受けておくと、自宅でのスタートがスムーズになります。
関節可動域制限・拘縮(こうしゅく)がある方|無理に伸ばさない
関節リウマチ、長期の寝たきり、脳性麻痺などで関節が固まっている(拘縮している)方の場合、絶対に無理に伸ばそうとしないでください。痛みを与えるだけでなく、関節の脱臼・骨折を引き起こす危険があります。
対応の基本は次の3つです。
- 関節可動域を事前に把握する:作業療法士・理学療法士・訪問リハビリスタッフに「肩はどこまで上がるか」「肘はどこまで曲がるか」を確認し、家族で共有しておく。
- 衣類を工夫する:かぶり式ではなく前開き、ボタンではなくワンタッチテープ(マジックテープ)、袖が広く伸縮性のあるものを選ぶ。介護用衣類(ケアファッション・キアレッタなど)の活用も検討。
- 衣類のリフォームを依頼する:マジックミシンなど洋服のお直し店では、既存の服に「裾から袖下を開閉できる切れ込み」「マグネット式ボタン」「股下ファスナー」などを後付けしてくれます。
認知症の方|選択肢を残し、無理強いしない
認知症の方は「いま何をされているか分からない」「服を脱ぐことに恐怖や羞恥心を感じる」ことから、着替えを拒否することがあります。家族が「早くしないと」と焦ると拒否はさらに強まる悪循環に陥ります。
対応のコツは次の通り:
- 選択肢を2つに絞って示す:「白いシャツと青いシャツ、どちらにしますか」と聞くと、本人の選択意欲を引き出せる。3つ以上は混乱の原因になる。
- 動作を1つずつ予告する:「次は袖を通します」「次はボタンを留めます」と次の動きを毎回伝える。
- 拒否されたら時間を空ける:30分〜1時間ほど別のこと(お茶、テレビ、散歩)をして気分転換してから再度試みる。無理強いはBPSD(行動・心理症状)の悪化を招く。
- 馴染みの服を使う:本人が若い頃から好きだった色・柄・ブランドの服を着てもらうと、安心感から協力が得られやすい。
失禁時の対応|清拭と皮膚保護をセットで
尿失禁・便失禁で衣類が汚れた場合は、着替えと同時に陰部清拭・おむつ交換・皮膚保護を行います。手順は次の通り:
- 使い捨て手袋とエプロンを装着
- 汚れた衣類・おむつを脱がせ、ビニール袋に入れる(後で密閉して廃棄)
- 陰部清拭:ぬるま湯で湿らせたタオル、または市販の清拭シートで前から後ろへ拭く(女性は尿道感染予防のため必ずこの方向)
- 皮膚の状態を観察(発赤・かぶれ・湿疹)。気になる症状があれば訪問看護師・かかりつけ医に相談
- 市販の皮膚保護クリーム(亜鉛華軟膏、ワセリンなど)を薄く塗布
- 新しいおむつ・下着を装着
- 新しい衣類を着せる
頻繁な失禁は紙パンツ+尿取りパッドの組み合わせで対応量を増やせます。皮膚トラブルが続く場合は、訪問看護や訪問診療の相談対象です。
衣類と自助具の選び方|ワンタッチテープ介護服・前開き・伸縮素材
家族の介助負担と本人の自立度を大きく左右するのが、衣類の選び方です。「いつも着ているお気に入りの服」が、必ずしも介護に向いているとは限りません。状態に合わせて買い替え・リフォームを検討しましょう。
シーン別・おすすめの衣類と特徴
| 状態・シーン | おすすめ衣類 | 特徴・メリット | 入手先の例 |
|---|---|---|---|
| 立位が取れる方の日中 | 前開きシャツ+ウエストゴムパンツ | かぶる動作が不要、トイレ介助も楽。市販の服でも対応可 | ユニクロ、無印良品、しまむら |
| 片麻痺・関節リウマチの方 | ワンタッチテープ式介護服 | ボタンを留める動作が不要。マグネット式もあり | ケアファッション、キアレッタ、フランドル |
| 寝たきりの方のパジャマ | 前全開ワンタッチパジャマ | 横向きで脱がせる必要がなく介助時間が短縮 | ケアファッション、ニッセン、楽天介護 |
| 失禁が頻繁な方 | 股下ファスナー付きズボン/介護用下着 | おむつ交換時に下衣全体を脱がせなくてよい | ケアファッション、フットマーク |
| 胃ろう・経管栄養の方 | 胸元・腹部にアクセスできるスナップ式 | 経管栄養剤投与時に衣類をめくる手間がない | 介護用衣類専門店、リフォーム店 |
| 夏場の在宅 | 吸汗速乾素材・接触冷感素材 | 汗ばみによる皮膚トラブルを予防 | ユニクロエアリズム、ベルメゾン |
| 冬場の在宅 | 裏起毛・保温素材+重ね着 | 1枚で暑ければ脱げる、寒ければ重ねられる調整しやすさ | 市販の保温肌着+カーディガン |
避けたほうがよい衣類
- 細かいボタン・ホック:指先の細かい動きが難しい高齢者には介助負担が大きい
- ぴったりサイズ:脱ぎ着しにくく、皮膚摩擦・剥離のリスク
- かぶり式の厚手ニット:頭を抜くときに首が伸びにくく、認知症の方は混乱しやすい
- ボディスーツ・タイトな下着:おむつ交換の妨げになる
自助具・道具の活用
本人ができる動作を増やすため、自助具(じじょぐ=自立を助ける道具)の活用も検討してください。代表的なものは:
- ボタンエイド:握力が弱くてもボタンを留められる手動具。介護用品店・通販で500〜2,000円程度
- ソックスエイド:腰を曲げず靴下を履ける道具。リウマチ・腰痛がある方に有効
- 長柄付き靴ベラ:かがまずに靴が履ける
- マグネット式ボタン:見た目は普通のボタンだが、磁石で着脱できるリフォーム部品
これらの自助具・介護用衣類は、介護保険の福祉用具レンタル対象外(購入のみ)です。ただし、介護保険の特定福祉用具購入費(年間10万円まで支給対象、自己負担1〜3割)として認められる場合もあるため、ケアマネジャーに相談しましょう。
介助者の腰痛予防|ベッド高さ・体重移動・福祉用具で身体を守る
在宅で着替え介助を毎日行う家族介護者の最大のリスクは、腰痛とそれによる介護離職です。厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査」では、保健衛生業(医療・福祉)の腰痛発生件数は全業種で最多。介護現場では「持ち上げない介助(ノーリフティングケア)」の考え方が浸透しており、家庭でも同じ原則が役立ちます。
家族の腰を守る7つのコツ
- ベッドの高さを腰の位置に:寝たまま介助のときは、ベッドを介助者の腰の高さに上げる。中腰での作業は腰痛の最大原因。介護保険レンタルの特殊寝台(介護用ベッド)は高さ調節機能付きが標準。
- 「持ち上げる」ではなく「転がす」:本人を仰臥位から側臥位、側臥位から仰臥位へと体位変換することで、衣類の脱ぎ着がしやすくなる。重さを支えるのではなく、本人の身体の重心移動を活用する。
- 足を肩幅に開いて重心を低く:介助のときは前後または左右に足を開き、膝を軽く曲げて重心を下げる。腰だけで身体を支えない。
- 本人と密着して介助:本人と自分の間に隙間があるほど腰に負担がかかる。身体を密着させ、てこの原理を使う。
- 声かけで本人の協力を引き出す:「腰を浮かせてください」「右にお尻を傾けてください」と本人にできる動作を任せることで、介助者の負担が大幅に減る。
- 福祉用具を活用する:スライディングシート(体位変換用の滑るシート、レンタル対応)を使えば、引きずる動作が摩擦なくできる。腰が悪い家族には必須の道具。
- 無理なら2人介助か外部サービス:1人で抱え込むと共倒れになる。家族や近隣の助けを借りるか、訪問介護のヘルパーに依頼する。
在宅で頼れる職種・サービス
家族だけで完結させようとせず、次の専門職を味方につけてください。
- ケアマネジャー:着替えに困っていることをケアプランに反映してもらう。週何回、何時に訪問介護に着替えを依頼するか、福祉用具レンタルに何を追加するかを一緒に検討。
- 訪問介護のヘルパー:更衣介助は身体介護として算定(厚労省 老計第10号)。週1回でも入浴日に合わせて依頼すれば、家族の負担と本人の清潔保持を両立できる。
- 訪問入浴介護:寝たきりで自宅の浴室での入浴が困難な方向け。3人スタッフが訪問し、入浴と着替えをセットで行う。
- 作業療法士(OT)・理学療法士(PT):通所リハビリ・訪問リハビリで、本人の関節可動域・自立度を評価し、家族に着替え動作の指導をしてくれる。退院前カンファレンスで家族向け指導を依頼するのもおすすめ。
- 福祉用具専門相談員:介護用ベッド、スライディングシート、手すりなど、家庭にフィットする福祉用具を提案。介護保険レンタル・購入の手続きも代行。
- 洗濯代行・宅配クリーニング:失禁などで増える洗濯量に対応。介護保険外サービスだが、家族の負担軽減に大きく寄与する。
介護保険サービスでの着替え介助の費用目安
訪問介護の身体介護として更衣介助を依頼した場合の料金目安(2024年度介護報酬・1単位10円換算・自己負担1割の場合):
- 20分未満:167単位=1,670円(自己負担167円)
- 20分以上30分未満:250単位=2,500円(自己負担250円)
- 30分以上1時間未満:396単位=3,960円(自己負担396円)
※地域加算・処遇改善加算・夜間早朝加算などで増減します。ケアマネジャーに正確な金額を確認してください。
着替え介助のよくある質問
Q. 1日に何回、着替えをすべきですか?
最低でも朝(部屋着・外出着への着替え)と夜(パジャマへの着替え)の2回が基本です。これに加えて、汗・尿・便で汚れた場合は都度交換します。デイサービス・通院の日は外出着への着替えも入るため、1日3〜4回になることもあります。「めんどうだから1日同じ服で」となりがちですが、皮膚トラブル・体温調節・生活リズムの観点から、最低2回は守りたいところです。
Q. 拘縮(こうしゅく)が強くて袖に腕が入りません。どうすれば?
無理に伸ばすのは絶対にやめてください。関節脱臼・骨折・皮膚剥離のリスクがあります。対応策は3つ:(1) 前開き・ワンタッチテープ式の介護用衣類に変える、(2) 洋服のお直し店(マジックミシンなど)で「袖下が開く」「股下が開く」リフォームを依頼する、(3) 訪問リハビリの作業療法士(OT)に関節可動域訓練を依頼し、可動域を少しずつ広げる。市販の伸縮性のあるストレッチ素材の服も負担が少なく済みます。
Q. 認知症の母が着替えを拒否します。無理にでも着替えさせるべき?
無理強いは絶対に避けてください。本人の不安・恐怖が増し、BPSD(行動・心理症状)の悪化につながります。対応のコツは「時間を空ける」「声のかけ方を変える」「選択肢を2つに絞って提示する」「お気に入りの服を準備する」「家族以外(ヘルパー)が介助する」など。汚れた服を1日着続けても命に関わるわけではないので、本人のペースに合わせる柔軟さが必要です。何日も拒否が続く場合は、認知症対応型通所介護(認知症デイ)やケアマネジャーに相談を。
Q. 寝たきりの父の着替え、毎日30分以上かかります。短縮するには?
短縮の鍵は3つ:(1) 前開きワンタッチパジャマに変えるだけで5〜10分短縮できる、(2) ベッドの高さを介助者の腰の高さに上げて中腰作業をなくす、(3) スライディングシート(介護保険レンタル対応)で体位変換を楽にする。これらを揃えれば、慣れたご家族で10〜15分に短縮可能です。それでも難しい場合は、週1〜2回でも訪問介護のヘルパーに着替えを依頼し、家族の負担を分散しましょう。
Q. 介護で増えた洗濯量に対応できません。どうしたら?
失禁・嘔吐・食事汚れで介護開始後の洗濯量は2〜3倍に増えるご家庭が一般的です。対応策は、(1) 洗濯機を大容量・乾燥機能付きに買い替える、(2) 洗濯代行サービス(リネット・WASHandFOLDなど)を週1回利用する、(3) 紙パンツ・尿取りパッドの活用で布製下着の洗濯回数を減らす、(4) 介護用衣類は形状記憶素材を選ぶ(アイロン不要)。これらは介護保険外ですが、家族の負担軽減と本人の清潔保持に大きく寄与します。
Q. 入浴の前後の着替えが大変です。コツはありますか?
入浴介助はもっとも体力を使う場面なので、着替えで疲弊しないよう次の工夫を:(1) 脱衣所と浴室の温度を23度以上に揃える、(2) バスタオル2枚(身体を拭く用・身体を覆う用)を準備、(3) 入浴後すぐに着られるようパジャマ・下着を脱衣所に並べておく、(4) 1人での入浴介助が難しいなら訪問入浴介護(介護保険対応)を検討。3人スタッフが訪問し、入浴・着替えを30〜40分でまとめて行ってくれます。
Q. 着替えのたびに「もういらない」と本人が言います。どう対応すれば?
「もういらない」の背景には、(1) 介護される側のしんどさ・申し訳なさ、(2) 身体的な痛み・不快感、(3) 認知症による意欲低下などがあります。まず痛みがないかを確認し(皮膚の発赤・関節の痛み)、ある場合はかかりつけ医・訪問看護師に相談。心理的な背景なら、本人のペースで時間をかける、「今日はパジャマだけ替えませんか」と妥協案を提示する、好きな音楽をかけながら行うなど、本人の気持ちを汲み取る工夫を。地域包括支援センター・認知症カフェなど、家族が相談できる場も活用してください。
参考資料・一次ソース
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まとめ|着替えは本人の自立と尊厳を守る毎日のケア
着替え介助は、毎日数回必要になる地味で重い在宅介護の中核ケアです。「脱ぐときは健側、着るときは患側」の脱健着患を守り、室温23〜25度の準備を整え、関節を支えながらゆっくり進める——これが安全な介助の基本です。立位・座位・寝たままで手順は変わりますが、共通するのは「本人にできる動作は残す」「関節を引っ張らない」「皮膚を観察する」の3点。
家族の負担を減らす最大の鍵は、衣類の見直しと専門職との連携です。前開き・ワンタッチテープ式の介護用衣類に切り替えるだけで介助時間は5〜10分短縮できますし、訪問介護のヘルパーに身体介護として更衣を依頼すれば、家族の腰と心の負担が大きく軽減されます。作業療法士(OT)に関節可動域を確認してもらい、福祉用具専門相談員に介護用ベッドやスライディングシートを提案してもらえば、自宅環境そのものを介助しやすく整えられます。
ひとりで抱え込まないこと——これが在宅介護を長く続けるための最大の秘訣です。ケアマネジャー、訪問介護、訪問入浴、訪問リハビリ、福祉用具レンタル、洗濯代行など、使えるサービスをすべて検討し、本人の自立と尊厳、そしてご家族自身の健康を両立できる介護を組み立ててください。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。
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