
不感蒸泄とは
不感蒸泄とは、汗以外に皮膚や呼気から自然に失われる水分のこと。常温安静時の成人で1日約900mL、発熱で増えます。高齢者の脱水管理・水分出納の見落としやすいポイントまで定義特化で解説します。
不感蒸泄の定義(answer capsule)
不感蒸泄(ふかんじょうせつ)とは、汗をかかなくても皮膚や呼気から自然に失われていく水分のことです。発汗以外の皮膚および呼気からの水分喪失を指し、常温で安静にしている健常な成人でも1日に約900mL(皮膚から約600mL、呼気から約300mL)が本人の自覚なく失われています。発熱や乾燥した環境で増えるため、高齢者の脱水管理では見落とせない要素です。
目次
不感蒸泄とは何かの概要
不感蒸泄とは何か
不感蒸泄は「不感蒸散」とも呼ばれ、英語では transepidermal water loss(TEWL)に対応します。ポイントは「汗を除く」という点です。私たちの体からは、目に見える尿や汗(これらは有感蒸泄と呼ばれます)だけでなく、皮膚の表面からじわじわ蒸発していく水分と、呼吸のたびに吐く息に含まれて出ていく水分があります。この2つを合わせたものが不感蒸泄で、本人がまったく意識しないうちに失われ続けています。
日本救急医学会の医学用語解説集では、不感蒸泄を「発汗以外の皮膚および呼気からの水分喪失」と定義し、その量は条件により大きく変動するものの、常温安静時には健常成人で1日に約900mL(皮膚から約600mL、呼気による喪失分が約300mL)程度としています。皮膚からの蒸発が3分の2、呼吸からが3分の1というおおまかな内訳を覚えておくと、季節や呼吸状態で量が変わる理由がイメージしやすくなります。
不感蒸泄が大切なのは、体に入る水分(飲水・食事・代謝水)と出ていく水分(尿・便・不感蒸泄)の収支、いわゆる水分出納(イン・アウト)を考えるときに、目に見えない「アウト」として必ず差し引かなければならないからです。飲んだ量と尿量だけを見ていると、実際にはもっと多くの水分が体から抜けていることを見落とします。
不感蒸泄の量と計算式のポイント
不感蒸泄の量と目安・計算式
不感蒸泄の量は環境や体格によって変わりますが、臨床でよく使われる目安と計算式は次のとおりです。
- 常温安静時の成人:1日およそ900mL前後(皮膚から約600mL、呼気から約300mL)。日本救急医学会の医学用語解説集による標準値です。
- 体重あたりの目安:体重1kgあたり約15mL/日。体重60kgの人ならおよそ900mL、体重50kgなら約750〜1000mLが計算上の不感蒸泄量になります。
- 計算式:15(mL)×体重(kg)+200×(体温−36.8℃)。日本静脈経腸栄養学会のテキストブックで示されている式で、体温が上がるほど不感蒸泄が増える仕組みを反映しています。
- 発熱時の増加:体温が1℃上がるごとに約15%増えるとされます。平熱より体温が高い状態が続くと、見えない水分喪失が積み重なります。
- 環境の影響:気温が高い・湿度が低い(乾燥した)環境ほど増える。冬の乾燥した室内や暖房使用時も不感蒸泄が増えることが知られています。
水分出納の全体像としては、一般成人で1日のIN(飲水・食事・代謝水)とOUT(尿・便・不感蒸泄)がそれぞれ約2.5Lで釣り合うとされ、そのうち不感蒸泄は無視できない割合を占めます。
不感蒸泄と発汗(有感蒸泄)の違い
似た言葉と混同しやすいので、整理しておきます。
| 項目 | 不感蒸泄 | 発汗(有感蒸泄) |
|---|---|---|
| 失われる経路 | 皮膚表面からの蒸発・呼気 | 汗腺から出る汗 |
| 自覚 | 自覚できない(無自覚) | 濡れる・流れるなど自覚できる |
| 主な役割 | 常時の水分喪失(体温調節への寄与は限定的) | 体温を下げる体温調節 |
| 含まれる成分 | ほぼ水分のみ(電解質をほとんど含まない) | 水分とナトリウムなどの電解質 |
| 量の目安 | 成人で1日約900mL | 環境・活動で大きく変動 |
大切な違いは、汗は電解質(ナトリウムなど)を一緒に失うのに対し、不感蒸泄はほぼ水分だけが失われる点です。そのため大量に汗をかいた脱水では水と電解質の両方を補う必要がありますが、不感蒸泄による喪失が中心の場面では、まず水分そのものを十分に補うことが基本になります。なお尿も「目に見える排泄」という意味で有感蒸泄に含めて説明されることがあります。
不感蒸泄を踏まえた高齢者の水分管理のコツ
高齢者の脱水管理で不感蒸泄が見落とされやすい理由
高齢者の脱水を考えるとき、不感蒸泄は特に注意したい「見えないアウト」です。理由は次のとおりです。
- 飲水量と尿量だけで判断しがち:水分出納を「飲んだ量」と「尿量」で見ていると、皮膚や呼気から抜けている約900mLを差し引き忘れ、実際より水分が足りていると錯覚しやすくなります。
- 発熱で静かに増える:体温が1℃上がるごとに不感蒸泄は約15%増えます。微熱が続くだけでも、見えない水分喪失がじわじわ積み上がります。発熱時は意識して補給量を増やす必要があります。
- 呼吸が速いと呼気からの喪失が増える:発熱や肺の状態で呼吸数が増えると、呼気として失われる水分が増えます。
- 乾燥した環境で増える:冬の暖房やエアコンで室内が乾燥すると不感蒸泄が増えます。汗をかかない季節でも油断できません。
- 高齢者はもともと脱水になりやすい:加齢で体内の水分量が減り、のどの渇きも感じにくくなるため、不感蒸泄ぶんの喪失が脱水に直結しやすくなります。
実務では、平熱・室内の湿度・呼吸の様子も合わせて観察し、発熱時や乾燥時には「いつもより多めの水分補給」を意識すると、見えない喪失分を補いやすくなります。水分制限の指示がある方は、指示の範囲内で調整します。
不感蒸泄のよくある質問
不感蒸泄に関するよくある質問
不感蒸泄は1日にどれくらいですか
常温で安静にしている健常な成人で、1日およそ900mL前後が目安です。内訳は皮膚から約600mL、呼気から約300mLとされます。体重1kgあたり約15mLで概算でき、体重60kgなら約900mLになります。
発熱すると不感蒸泄はどれくらい増えますか
体温が1℃上がるごとに約15%増えるといわれます。計算式「15×体重(kg)+200×(体温−36.8)」でも、体温が高いほど量が増える形になっています。発熱時はその分、水分補給を増やすことが大切です。
不感蒸泄と汗(発汗)は何が違いますか
不感蒸泄は皮膚や呼気から自覚なく失われる水分で、ほぼ水分のみです。一方、汗(発汗)は汗腺から出る目に見える水分で、ナトリウムなどの電解質も一緒に失われ、体温を下げる役割があります。
なぜ高齢者の脱水管理で不感蒸泄が重要なのですか
飲水量と尿量だけを見ていると、皮膚や呼気から抜ける約900mLを見落とし、水分が足りていると錯覚しやすいためです。発熱や乾燥で不感蒸泄は増え、もともと脱水になりやすい高齢者では喪失が脱水に直結しやすくなります。
水やお茶だけで補えばよいですか
不感蒸泄はほぼ水分だけの喪失なので、その分を補うだけなら水やお茶で対応できます。ただし大量の発汗や下痢・嘔吐をともなう場合は電解質も失われるため、経口補水液など電解質を含む補給が望ましくなります。状況に応じて使い分けます。
不感蒸泄の参考資料・出典
- [1]脱水症・水分摂取に関する資料(不感蒸泄の定義と量)- 総務省消防庁
成人の1日水分出納と、不感蒸泄=発汗以外の皮膚・呼気からの水分喪失、常温安静時で健常成人約900mL(皮膚約600mL・呼気約300mL)、発熱等で増加すると明記。
- [2]高齢者の脱水(日本看護協会・全国訪問看護事業協会 監修)- 一般社団法人 全国訪問看護事業協会
皮膚や呼吸から失われる不感蒸泄、体重1kg当たり約20mL、1日の水分収支がIN/OUTそれぞれ約2.5Lであることを解説。
- [3]高齢者の水代謝と排泄―体内水分量の変化における加齢の影響- 日本生理人類学会誌(J-Stage)
不感蒸泄は皮膚から600mL・呼気から400mLで計1000mL、便100mLを含め合計2500mL/日となる水分出納と、加齢による脱水リスクを論述。
- [4]
不感蒸泄のまとめ
まとめ
不感蒸泄とは、汗以外に皮膚や呼気から自覚なく失われる水分のことで、常温安静時の成人で1日およそ900mLにのぼります。発熱で体温が1℃上がるごとに約15%増え、乾燥した環境でも増加します。飲水量と尿量だけを見ていると見落としやすい「目に見えないアウト」であり、高齢者の脱水管理では、不感蒸泄ぶんも織り込んだ水分出納の意識が欠かせません。発熱時や乾燥時には補給を多めにすることを覚えておきましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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