
IADL(手段的日常生活動作)とは
IADL(手段的日常生活動作)の定義、ADLとの違い、ロートン尺度の8項目(電話・買い物・調理・家事・洗濯・移動・服薬管理・金銭管理)、介護現場での観察ポイントと記録への活用を、公的資料に基づいてやさしく解説します。
IADLとは
IADL(手段的日常生活動作 / Instrumental Activities of Daily Living)とは、食事・排泄・入浴などの基本的な生活動作(ADL)の上に位置する、地域社会で自立して暮らすために必要なやや複雑な動作のことです。買い物・電話・服薬管理・金銭管理など8項目で構成され、要介護認定や在宅生活の継続可否を判断する重要な指標として活用されます。
目次
IADLの定義と位置づけ
IADL(Instrumental Activities of Daily Living、手段的日常生活動作)は、1969年にアメリカの老年医学者M.P.ロートンとE.M.ブロディによって提唱された概念です。日常生活動作(ADL)が「食事・排泄・更衣・入浴・移乗・歩行」など生命維持に直結する基本動作を指すのに対し、IADLはその上位に位置する応用的な生活動作を指します。
具体的には、買い物に出かける、電話をかける、家計を管理する、薬を決められた通りに飲む、調理する、洗濯や掃除をする、公共交通機関を使って移動する、といった動作です。これらは単独では生命に直結しないものの、地域で自立した生活を送るためには欠かせません。
厚生労働省の介護予防マニュアルでは、IADLは「高齢者の生活機能を多面的にとらえる指標」として位置づけられ、要介護認定の認定調査やケアプラン作成、地域包括ケアシステムにおける生活支援サービスの設計など、幅広い場面で活用されています。介護現場では、ADLは自立していてもIADLが低下し始めている段階で支援に介入することが、重度化予防の鍵とされます。
ロートン尺度のIADL8項目
IADLの代表的な評価尺度である「ロートンのIADL尺度(Lawton IADL Scale)」では、以下の8項目を3〜5段階で評価します。
- 電話を使う能力: 自発的にかけられるか、限られた番号のみか、応答のみか、まったく使えないかを評価します。
- 買い物: 必要なすべての買い物を自分でできるか、少額のみか、付き添いが必要か、まったくできないかを評価します。
- 食事の準備: 適切な食事を計画・調理・配膳できるか、材料があれば調理できるか、温めるだけか、準備してもらう必要があるかを評価します。
- 家事: 単独で家事を行うか、軽い作業のみか、援助が必要か、まったくできないかを評価します。
- 洗濯: すべて自分でできるか、小さなものだけか、すべて他者に依頼するかを評価します。
- 移送の形式: 公共交通機関や自家用車を1人で利用できるか、タクシー利用は可能か、付き添いが必要か、まったく移動できないかを評価します。
- 服薬管理: 正しい時間・量を自己管理できるか、事前に用意してもらえば飲めるか、まったく管理できないかを評価します。
- 金銭管理: 家計を完全に管理できるか、日常の買い物はできるが大きな取引は援助が必要か、まったく扱えないかを評価します。
原版では女性は8項目すべて、男性は「食事の準備・家事・洗濯」を除く5項目で評価することが多いですが、現代では性別を問わず8項目で評価する施設も増えています。
ADLとIADLの違い
ADL(基本的日常生活動作)とIADL(手段的日常生活動作)は、生活機能を階層的にとらえる際の2つのレイヤーです。両者の違いを整理すると次のようになります。
| 項目 | ADL(日常生活動作) | IADL(手段的日常生活動作) |
|---|---|---|
| 動作の性質 | 生命維持に直結する基本動作 | 地域生活に必要な応用動作 |
| 具体例 | 食事・排泄・更衣・入浴・移乗・歩行 | 買い物・調理・服薬管理・金銭管理・電話・交通機関利用 |
| 代表的な評価尺度 | Barthel Index、FIM、Katz Index | ロートンIADL尺度、老研式活動能力指標 |
| 低下の順序 | 後から低下する(重度化のサイン) | 先に低下する(介入の早期サイン) |
| 支援対象 | 身体介護中心 | 生活援助・見守り・訪問介護中心 |
一般に、加齢や認知症の進行に伴ってIADLから先に低下し、その後ADLが低下する経過をたどります。そのためIADLの変化は「介護予防に介入すべきタイミング」を示すサインとして重要視されます。買い物の頻度が減った、料理が単調になった、薬の飲み忘れが増えたといった変化は、まずIADLレベルの自立性が崩れ始めている兆候です。
介護現場でIADLを観察・記録するコツ
介護職員がIADLを観察するときは、「できる/できない」の二択ではなく、どの程度の支援があれば自立できるかという視点で記録することが重要です。次のポイントを押さえましょう。
- 環境込みで評価する: 自宅では薬を飲めるが入院中はできない、といった場面差を記録に残します。住み慣れた環境で発揮される能力こそ、その人の真の生活機能です。
- 「している活動」と「できる活動」を分けて見る: 評価場面でできても、日常生活で実行していなければ支援が必要です。普段の様子から行動レベルを把握します。
- 本人と家族双方から聞き取る: 本人は過大評価、家族は過小評価しがちなので、両者の認識の差そのものが支援設計の手がかりになります。
- 変化を時系列で記録する: 半年前と比べて買い物の回数が減った、調理が単純化した、といった変化はケアプラン見直しのトリガーになります。
- 認知機能との関連を意識する: 服薬管理や金銭管理の低下は、身体機能ではなく認知機能の低下を反映している場合が多く、認知症初期発見の手がかりになります。
記録は、要介護認定の認定調査票やLIFE(科学的介護情報システム)への提出データの基礎となるため、客観的な事実と支援の有無をセットで残しましょう。
IADLに関するよくある質問
Q1. IADLとADLはどちらが先に低下しますか
多くの場合、IADLが先に低下します。買い物・調理・金銭管理など複雑な認知機能を伴う動作のほうが繊細で、加齢や軽度認知障害(MCI)の段階で影響が出やすいためです。ADLの低下は、より重度化が進んだ段階で見られます。
Q2. ロートン尺度以外にIADLの評価指標はありますか
はい。日本では「老研式活動能力指標」が広く使われています。手段的自立・知的能動性・社会的役割の3領域13項目で構成され、地域在住高齢者の生活機能をスクリーニングする目的で活用されます。介護予防事業の基本チェックリストにも一部の項目が組み込まれています。
Q3. IADLは要介護認定にどう関係しますか
要介護認定の認定調査では、IADL関連の項目が「身体機能・起居動作」「生活機能」「認知機能」などの複数群にまたがって含まれます。特に「金銭の管理」「日常の意思決定」「集団への不適応」などは認知症高齢者の日常生活自立度の判定にも関わり、要介護度の決定に影響します。
Q4. IADLが低下し始めたら何をすればよいですか
地域包括支援センターに相談することが最初の一歩です。介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の通所型・訪問型サービス、配食サービスや見守り、家事援助の生活援助サービスなど、IADL段階で利用できる支援は多数あります。早期介入により要介護状態への移行を遅らせることが期待できます。
Q5. 一人暮らしの高齢者でIADLを維持するポイントは
「使い続けることが最大のリハビリ」です。買い物・調理・洗濯などを丸ごと代行してしまうと能力低下が加速するため、難しい部分のみ援助し、本人ができる部分は時間がかかっても本人にやってもらう設計が望ましいとされています。訪問介護では、生活援助のなかで自立支援の視点を持つことが求められます。
参考文献
- 厚生労働省「介護予防マニュアル(改訂版)」https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.html
- 厚生労働省「要介護認定 認定調査員テキスト2009改訂版」https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/gaiyo3.html
- 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット「IADL(手段的日常生活動作)とは」https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rouka/iadl.html
- Lawton M.P., Brody E.M.「Assessment of older people: self-maintaining and instrumental activities of daily living」The Gerontologist, 1969;9(3):179-186.
- 東京都健康長寿医療センター研究所「老研式活動能力指標」(地域在住高齢者の生活機能評価尺度)
まとめ
IADL(手段的日常生活動作)は、買い物・電話・服薬管理・金銭管理など、地域で自立して暮らすために必要な8つの応用動作を指します。ADLよりも先に低下するため、IADLの変化に気づくことは介護予防への早期介入のサインです。介護現場では「できる/できない」の二択ではなく、どんな環境でどの程度の支援があれば自立できるかという視点で観察し、本人の力を引き出すケアにつなげることが求められます。要介護認定・ケアプラン・LIFEなど、評価結果を活かす場面は多岐にわたります。日々の記録のなかでIADLの観点を意識することが、利用者の在宅生活継続を支える第一歩となります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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