異食とは

異食とは

異食(いしょく)とは食べ物でない物を口に入れる行為。認知症などで起こる背景、危険な誤飲、環境調整による予防、誤飲時の応急対応(中毒110番・119番)を家族と現場の双方向けに解説します。

ポイント

異食の定義

異食(いしょく)とは、食べ物ではない物を口に入れたり飲み込んだりする行為です。認知症などで「食べられる物かどうか」の判断が難しくなることで起こりやすく、ティッシュや石けん、観葉植物の土、ボタン電池や医薬品まで対象はさまざまです。本人を責めても止まりにくいため、置く物を見直す環境調整と、危険な物を飲み込んだときの落ち着いた対応を知っておくことが大切です。

目次

異食の概要と背景

異食とは何か

異食とは、食べ物として扱うべきでない物を口に入れる行動を指します。高齢者では認知症にともなって現れることが多く、認知症の行動・心理症状(BPSD)の一つとして語られます。幼児期にも見られる行動ですが、2歳を過ぎても1か月以上続く場合や、高齢者で繰り返し見られる場合は、健康を害するおそれがあるため注意が必要です。

なぜ異食が起こるのか

異食には複数の背景が重なっていることが多く、本人の意思の弱さが原因ではありません。主な背景には次のようなものがあります。

  • 失認・記憶障害(認知症の中核症状):目の前の物が「食べ物ではない」と認識できなくなる。味覚や嗅覚の低下も重なり、口に入れても食べ物でないと気づきにくい。
  • 満腹中枢の機能低下:脳が満腹を感じにくくなり、強い空腹感から手近な物を口に入れてしまう。
  • 「食べる状況」の誤認:いつも食事をする席に着くと、食卓の花や薬の包装などを食べ物と思って口に運ぶ。
  • 不安・ストレス:口に物を入れる行為そのものが安心につながり、落ち着かないときに起こりやすい。

前頭側頭型認知症では、こだわりや行動の抑制がきかなくなる特徴から、特定の物を繰り返し口に入れる行動が目立つことがあります。原因物質や起こった時間・状況を記録しておくと、背景を探り対策を立てる手がかりになります。

異食で特に危険な物(誤飲)

特に危険な誤飲物と注意点

異食で口にする物のなかには、少量でも命に関わる物があります。公的機関の情報をもとに、特に注意が必要な物と対応の原則をまとめます。いずれも自己判断で吐かせず、まず専門機関へ相談するのが基本です。

  • ボタン電池・コイン形リチウム電池:粘膜に触れると化学やけど(化学熱傷)を起こし、短時間で食道や胃に穴をあけることがある。飲んだ疑いがあれば症状がなくてもすぐ受診。受診まで何も飲ませず、無理に吐かせない。
  • 医薬品:他人に処方された薬や大量服用で重い中毒を起こすことがある。お薬手帳があれば持参。無理に吐かせない。
  • 洗剤・漂白剤(酸性・アルカリ性、界面活性剤):のどや消化管の粘膜がただれる。口をすすぎ、少量の水や牛乳を飲ませる場合もあるが、吐かせると損傷が悪化するため吐かせない。
  • 灯油・除光液などの石油製品:吐かせると気管に入り化学性肺炎を起こす危険があるため絶対に吐かせない。
  • 防虫剤(しょうのう・ナフタリンなど):けいれんを起こす可能性があり吐かせない。牛乳は吸収を早めるため飲ませない。
  • 水で膨らむビーズ・高吸水性樹脂:体内で膨らみ腸閉塞や窒息のおそれ。
  • たばこ・吸い殻を浸した水:ニコチン中毒の危険。水を飲むと吸収が早まるため何も飲ませない。

消費者庁によると、高齢者の中毒事故は20〜64歳と比べ80歳代で約3倍、90歳以上で約6倍に増え、症状も重くなりやすいと報告されています。芳香剤をゼリー、乾燥剤や保冷剤を調味料、食器用洗剤をジュースと思い込む「見た目の誤認」が多いことも知られています。

異食と誤飲・誤嚥・盗食の違い

異食と似た言葉の違い

現場や家庭では「異食」「誤飲」「誤嚥」「盗食」が混同されがちですが、意味が異なります。違いを押さえると、起きた出来事を正確に記録・共有できます。

言葉意味
異食食べ物でない物を「食べ物として」口に入れる行為そのもの。背景に認知機能の低下があることが多い。
誤飲食べ物以外の物を誤って飲み込んでしまうこと。異食の結果として起こることがある。
誤嚥(ごえん)食べ物や飲み物、唾液などが食道ではなく気管に入ること。窒息や誤嚥性肺炎の原因になる。
盗食(とうしょく)他人の食事や食品を本人が無断で食べてしまうこと。対象は「食べ物」である点が異食と異なる。

異食によって硬い物や鋭利な物を飲み込むと誤飲・窒息につながり、慌てて飲み込ませた物が気管に入れば誤嚥のリスクも高まります。これらは連続して起こりうるため、ひとまとめに「食にまつわる事故」として備えておくと安全です。

異食の予防(環境調整)

環境調整で異食を予防する

異食は本人の意思で止めにくいため、「口に入れられる物を周りから減らす」環境調整が予防の基本です。叱る・取り上げるといった対応は混乱や興奮を招きやすく、慌てて飲み込んで窒息する危険もあるため避けます。

  1. 危険な物を生活空間から遠ざける:ボタン電池・医薬品・洗剤・乾燥剤・たばこなどは鍵付きの棚や本人の生活範囲外へ。リモコンなどの電池ボックスはテープで固定する。
  2. 食卓まわりを整理する:食事の席に薬の包装、おしぼりの袋、花や飾りなど食べ物と紛らわしい物を置かない。
  3. 見た目の誤認を防ぐ:芳香剤・乾燥剤・洗剤を食品の近くや食品容器に保管しない。
  4. 空腹・不安をやわらげる:小分けの間食を用意する、一緒に調理や皮むきをする、好きな音楽や手作業など食べる以外の楽しみを増やす。
  5. 起きたときの対応を共有しておく:「強く取り上げない」「お茶や本物の食べ物にそっと交換する」など、家族・職員で対応を統一する。
  6. 記録して専門職に相談する:口にした物・時間・状況を記録し、かかりつけ医やケアマネジャーに相談して背景を一緒に探る。

異食で誤飲したときの応急対応

危険な物を口にしたときの対応

異食で危険な物を飲み込んでしまったときは、慌てて自己判断で対処すると症状を悪化させることがあります。次の順序で落ち着いて行動します。

  1. 意識・呼吸を確認する:意識がない、けいれんしている、声が出せない・呼吸が苦しそう・顔色が青白いなど窒息や重い症状があれば、ただちに119番に通報します。
  2. 何をどれだけ口にしたか確認する:飲んだ物・量・時間を把握します。残った量や空き容器、製品名・会社名がわかると相談時に役立ちます。
  3. 口の中の物を取り除く:口に残っている物があれば取り除き、口をすすぐ・うがいをします(難しければ濡れガーゼでふき取る)。
  4. 自己判断で吐かせない:日本中毒情報センターは、家庭で吐かせることは勧めていません。吐いた物が気管に入る危険があり、石油製品・酸性/アルカリ性の製品・防虫剤などは吐かせると症状が悪化します。
  5. 専門機関に相談する:飲んだ物によって対応が異なるため、中毒110番や医療機関に相談して指示を仰ぎます。

相談先(公益財団法人 日本中毒情報センター 中毒110番)

  • 大阪中毒110番:072-727-2499(365日24時間・情報提供料無料)
  • つくば中毒110番:029-852-9999(365日9〜21時・情報提供料無料)

緊急性が高いときや判断に迷うときは、無理をせず119番・医療機関を優先してください。ボタン電池・磁石・鋭利な物・洗剤などは症状がなくても受診の対象になります。

異食のよくある質問

異食に関するよくある質問

異食は認知症が原因ですか

高齢者の異食では認知症が背景にあることが多いですが、それだけではありません。失認や記憶障害、満腹中枢の機能低下、空腹、不安やストレスなどが複数重なって起こります。前頭側頭型認知症で目立つこともあります。原因は人によって異なるため、状況の記録と専門職への相談が役立ちます。

異食を見つけたとき、すぐに取り上げてよいですか

無理に取り上げるのは避けます。本人は食べ物と思っていることが多く、取られまいと慌てて飲み込んで窒息する危険や、興奮・被害妄想につながることがあります。お茶を勧めて気をそらす、本物の食べ物とそっと交換するなど、落ち着いた声かけで回収します。

飲み込んでしまったら、まず吐かせるべきですか

自己判断で吐かせてはいけません。日本中毒情報センターも家庭で吐かせることは勧めていません。吐いた物が気管に入ったり、石油製品や酸性・アルカリ性の製品では症状が悪化したりします。中毒110番や医療機関に相談し、窒息など重い症状があれば119番に通報します。

ボタン電池を飲んだかもしれないときはどうすればよいですか

症状がなくてもすぐに受診してください。ボタン電池は粘膜で化学やけどを起こし、短時間で食道や胃に穴をあけることがあります。受診までは何も飲ませず、無理に吐かせないようにします。

異食を完全になくすことはできますか

背景が多様なため完全に防ぐのは難しい場合があります。ただし、危険な物を生活空間から減らす環境調整と、空腹・不安への配慮で起こりにくくすることはできます。一人で抱え込まず、医師やケアマネジャーと一緒に対策を続けることが大切です。

異食の参考資料

異食のまとめ

まとめ

異食は、食べ物でない物を食べ物として口に入れる行為で、認知症の失認や満腹中枢の機能低下、不安などが背景にあります。本人を責めても止まりにくいため、危険な物を生活空間から減らす環境調整と、空腹・不安への配慮が予防の基本です。万一危険な物を飲み込んだときは、自己判断で吐かせず、中毒110番や119番に相談しましょう。一人で抱え込まず、かかりつけ医やケアマネジャーと連携して対応を続けることが大切です。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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