喀痰吸引(医療的ケア)とは
喀痰吸引とは、痰を機器で吸い取り気道を確保する医療的ケア。社会福祉士及び介護福祉士法の改正により、研修修了の介護職員も実施可能に。1〜3号研修の違い、実地研修、対象部位(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内)まで用語集形式でやさしく解説。
この記事のポイント
喀痰吸引(かくたんきゅういん)とは、自力で痰を排出できない人の口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内に吸引チューブを入れ、機器で痰を取り除く医療的ケアです。本来は医行為ですが、2012年の社会福祉士及び介護福祉士法改正により、所定の喀痰吸引等研修(1号・2号・3号)を修了した介護職員も、医師の指示と看護師との連携のもとで実施できます。経管栄養と並ぶ介護現場の代表的な医療的ケアです。
目次
喀痰吸引とは|介護現場での位置づけ
喀痰吸引(かくたんきゅういん)とは、加齢・疾病・障害などにより自力で痰を出せない人に対し、吸引器と専用カテーテル(チューブ)を用いて気道内の分泌物を取り除く処置です。痰が貯留したままだと窒息や誤嚥性肺炎のリスクが高まるため、利用者の呼吸を守る重要なケアとして位置づけられています。
もともとは医行為
喀痰吸引は本来、医師法第17条で定める「医行為」にあたり、原則として医師・看護師など医療職にしか実施できませんでした。しかし在宅・施設での介護現場では、24時間体制の医療職配置が難しく、家族やヘルパーが「やむを得ず」吸引を行ってきた歴史があります。
2012年の法改正で介護職員にも解禁
こうした実態を踏まえ、2012年(平成24年)4月施行の「社会福祉士及び介護福祉士法」改正により、一定の研修を修了した介護職員等が、医師の指示・看護師との連携のもと、業務として喀痰吸引と経管栄養(あわせて「特定行為」)を実施できるようになりました。これが現在の喀痰吸引等制度です。
「医療的ケア」という呼称
介護現場では、喀痰吸引と経管栄養を合わせて「医療的ケア」と呼びます。介護福祉士の養成課程にも医療的ケア(50時間)が必修科目として組み込まれており、介護職に求められる基本スキルへと位置づけが変わってきています。
介護職員が実施できる行為の範囲
研修を修了した介護職員が実施できる「特定行為」は、以下の喀痰吸引3行為+経管栄養2行為に限定されています。
喀痰吸引(3部位)
- 口腔内吸引:口の中(咽頭手前まで)にたまった痰・唾液を吸引
- 鼻腔内吸引:鼻の穴から咽頭手前までの分泌物を吸引
- 気管カニューレ内吸引:気管切開している人のカニューレ内部の痰を吸引(最も難度が高い)
経管栄養(2経路)
- 胃ろう・腸ろうによる経管栄養:腹部に造設した瘻孔から栄養剤を注入
- 経鼻経管栄養:鼻から胃まで通したチューブで栄養剤を注入
いずれも「咽頭の手前まで」「カニューレの内部まで」など、深さ・範囲が明確に制限されている点がポイントです。深部の吸引や挿入操作は引き続き医療職の業務範囲となります。
1号・2号・3号研修の違い
喀痰吸引等研修は、対象とする利用者の範囲と実施できる行為によって、第1号〜第3号の3区分に分かれています。
| 区分 | 対象利用者 | 実施できる行為 | 主な現場 |
|---|---|---|---|
| 第1号研修 | 不特定多数の利用者 | 喀痰吸引3部位(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内)+ 経管栄養2経路(胃ろう/腸ろう・経鼻)のすべて | 特養・老健・障害者施設など |
| 第2号研修 | 不特定多数の利用者 | 1号のうち必要な行為のみを選択(例:気管カニューレ内吸引と経鼻経管栄養を除く範囲) | 特養・老健・在宅サービスなど |
| 第3号研修 | 特定の利用者(ALS等の重度障害者など) | その利用者に必要な行為のみ | 重度訪問介護・障害者支援など |
1号と2号の違いをひと言で
1号・2号はいずれも「不特定の利用者」が対象で、研修内容もほぼ共通です。違いは「すべての行為を網羅するか(1号)/必要な行為だけを取得するか(2号)」という点にあります。気管カニューレ内吸引まで対応したい施設は1号、口腔・鼻腔吸引と胃ろうだけで足りる施設は2号、というイメージです。
3号研修の特徴
3号研修はALS(筋萎縮性側索硬化症)や重度障害のある特定個人に対し、その人に必要な行為だけを実施するための研修です。基本研修が短く(8〜9時間程度)設計されており、当該利用者専属の支援者を養成する位置づけになっています。
基本研修と実地研修の流れ
喀痰吸引等研修は「基本研修」+「実地研修」の2段構成。両方を修了して初めて、現場で喀痰吸引・経管栄養を実施できます。
STEP1:基本研修(講義+演習)
- 講義(50時間/3号は8〜9時間):人体の構造、感染予防、喀痰吸引・経管栄養の基礎、緊急時対応、関連制度などを学ぶ
- 演習:シミュレーター人形を使い、各行為について規定回数以上の演習を実施。指導看護師の評価で合格水準に達する必要があります
STEP2:実地研修(現場実習)
基本研修を修了した受講者が、実際の利用者に対して指導看護師の立ち会いのもとで吸引・経管栄養を行う研修です。
- 口腔内吸引:10回以上
- 鼻腔内吸引:20回以上
- 気管カニューレ内吸引:20回以上
- 胃ろう・腸ろうによる経管栄養:20回以上
- 経鼻経管栄養:20回以上
評価は累積成功率70%以上かつ最終3回連続成功が合格基準です(行為ごと)。
STEP3:認定証の交付・登録
研修修了後、都道府県に申請して「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受けます。さらに、勤務先事業所が「登録特定行為事業者」として都道府県に登録されている必要があります。
介護福祉士養成課程との関係
2015年度以降の介護福祉士養成課程には、「医療的ケア(50時間)」が必修科目として組み込まれています。これにより、介護福祉士として登録される際、養成校で履修した医療的ケアが基本研修に相当する扱いとなります。
養成校ルートの介護福祉士の場合
養成校で医療的ケアを履修済みであっても、実地研修は別途修了する必要があります。実地研修を修了したうえで、公益財団法人社会福祉振興・試験センターに「実地研修を修了した喀痰吸引等行為」を届け出ると、介護福祉士登録証に当該行為が記載されます。
実務経験ルートの介護福祉士の場合
実務者研修や旧課程出身の介護福祉士は、医療的ケアを履修していないため、別途、喀痰吸引等研修(1号・2号)を受講する必要があります。「介護福祉士=自動的に喀痰吸引ができる」わけではない点に注意が必要です。
実務者研修との違い
実務者研修にも医療的ケアの講義・演習(50時間)が含まれますが、実地研修は含まれません。そのため、実務者研修を修了しただけでは現場で吸引行為を実施できません。喀痰吸引等研修の実地研修を別途受ける必要があります。
実施できる事業所の要件
介護職員が喀痰吸引を業務として行うには、勤務先の事業所も都道府県への登録が必要です。これを「登録特定行為事業者」と呼びます。
- 医療関係者との連携体制:医師の文書による指示、看護師による指導・連携が確保されていること
- 安全確保措置:感染症対策、ヒヤリハット報告体制、緊急時の対応マニュアル整備
- 記録の整備:実施時の利用者状態、実施者氏名、行為内容を記録・保管
- 業務方法書の作成:手順、責任者、関係機関との連絡体制を文書化
- 従事者の認定証保有:従事する介護職員が認定特定行為業務従事者認定証を保有
登録対象となる事業所は、特養・老健・有料老人ホーム・グループホーム・訪問介護・障害者施設など、介護保険・障害福祉サービス事業所が中心です。
よくある質問
Q. 介護福祉士なら誰でも喀痰吸引ができますか?
A. いいえ。養成課程で医療的ケアを履修し、かつ実地研修を修了して登録している場合のみ可能です。実務経験ルートで2015年度以前に介護福祉士になった方は、別途喀痰吸引等研修を受ける必要があります。
Q. 初任者研修や実務者研修だけで吸引できますか?
A. できません。実務者研修には医療的ケアの講義・演習は含まれますが、実地研修が含まれないため、現場で実施するには喀痰吸引等研修の実地研修を別途修了する必要があります。
Q. 1号と2号、どちらを取るべきですか?
A. 勤務先で気管カニューレ内吸引や経鼻経管栄養を行う利用者がいるかで判断します。これらに対応する施設なら1号、口腔・鼻腔吸引と胃ろうのみで足りる施設なら2号で十分です。迷う場合は、応用範囲が広い1号研修を選ぶケースが一般的です。
Q. 研修費用はどのくらいかかりますか?
A. 1号・2号研修の相場は10万〜20万円程度。期間は基本研修+実地研修で8〜10日間が目安です。事業所が費用を負担するケースや、都道府県の助成制度を活用できるケースもあります。
Q. 喀痰吸引と経管栄養はどちらか片方だけ取得できますか?
A. 第2号研修であれば、必要な行為のみを選択して受講・登録することが可能です。第1号は5行為すべてが対象、第3号は当該利用者に必要な行為のみです。
参考文献・出典
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まとめ
喀痰吸引は、自力で痰を出せない利用者の呼吸を守る大切な医療的ケアです。本来は医行為ですが、社会福祉士及び介護福祉士法の改正により、所定の研修を修了した介護職員も実施できるようになりました。
- 介護職員ができるのは口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内の3部位(+経管栄養2経路)
- 研修は1号(全行為)/2号(必要な行為のみ)/3号(特定利用者向け)の3区分
- 基本研修+実地研修の両方を修了し、認定証+事業所登録が必須
- 介護福祉士でも、実地研修と登録を経なければ現場で実施できない
具体的な資格取得方法・費用・期間については、関連記事の喀痰吸引等研修とは?資格の取り方・費用・1号2号3号の違いもあわせてご覧ください。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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