
強度行動障害とは
強度行動障害とは、自傷・他害・こだわり・睡眠の乱れなど著しい行動上の困難が高頻度で出現し、特別な配慮ある支援が必要な状態。定義・判定基準・支援者養成研修や加算まで一次資料で解説します。
強度行動障害の定義(answer capsule)
強度行動障害とは、自分を叩く・危険な飛び出しといった本人の健康を損ねる行動や、他人を叩く・物を壊す・大泣きが何時間も続くなど周囲のくらしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、特別に配慮された支援が必要になっている状態を指します。生まれつきの障害そのものではなく、知的障害や自閉スペクトラム症のある人に、環境や周囲のかかわりが合わないことで「状態」として現れると整理されています。
目次
強度行動障害の概要と法令上の位置づけ
強度行動障害の概要と全体像
「強度行動障害」という名称は、1988年に発足した「行動障害児(者)研究会」で名づけられました。頻繁な自傷や他害などの行動のために、強度に適応行動上の困難を示す状態という意味です。厚生労働省の調査研究では、研究者の飯田雅子氏による「直接的他害(噛みつき、頭突きなど)や間接的他害(睡眠の乱れ、同一性の保持〔場所・プログラム・人へのこだわり〕、多動、飛び出し、器物破損など)や自傷行為などが、通常考えられない頻度と形式で出現し、その養育環境では著しく処遇の困難なもの」という定義が引用されています。
重要なのは、強度行動障害が「もともとの障害」ではなく「その人の状態」だという点です。国立障害者リハビリテーションセンターや国立のぞみの園の研修資料では、強度行動障害は生まれつきのものではなく、周囲の環境や関わりによって現れる状態であり、適切な支援によって予防・改善が可能なものと説明されています。背景には、自閉スペクトラム症や知的障害のある人が「自分の気持ちや要求をうまく伝えられない」状況(未学習)や、不適切なかかわりによって激しい行動が固定化していく(誤学習)プロセスがあると考えられています。
制度上は、知的障害・発達障害のある人を支える障害者総合支援法のもとで支援が組み立てられます(高齢者の介護保険制度とは別の制度体系です)。1993年の「強度行動障害特別処遇事業」を起点に、現在では行動援護などの在宅サービスや、施設・グループホームでの加算へと支援の枠組みが広がっています。
強度行動障害の判定基準と行動関連項目
判定基準:どのように評価されるのか
強度行動障害には、歴史的に複数の評価のものさしがあります。支援の対象を見極めるために、現在は主に次の2つの指標が使われています。
- 強度行動障害判定基準表(行動障害の支援尺度):1993年に厚生労働省が示した尺度。「ひどい自傷」「強い他傷」「激しいこだわり」「激しい器物破損」「睡眠の乱れ」「食事関係の強い障害」「排泄関係の強い障害」「著しい多動」「著しい騒がしさ」「パニックへの対応困難」「粗暴で恐怖感を与える」などの行動について、過去6か月間の状態を頻度(1点・3点・5点など)で評価し合計点を出します。歴史的には20点以上が特別処遇事業の対象でした。障害児支援の加算では、児基準20点以上・30点以上が要件として使われています。
- 行動関連項目(障害支援区分の調査項目):障害者総合支援法の障害支援区分認定で用いる調査項目のうち、行動上の困難に関する11項目を抜き出して点数化したもの。合計10点以上が行動援護などのサービス対象の目安となり、令和6年度報酬改定では18点以上を手厚い支援が必要な層として位置づける評価が新設されました。
これらはいずれも「過去6か月間の状態」を、できるだけ複数の支援者で評価することが推奨されています。点数はあくまで支援の必要度をはかる目安であり、本人を序列づけるためのものではありません。
強度行動障害とBPSD・問題行動の違い
BPSDや「問題行動」との違い
似た言葉と混同されやすいため、整理しておきましょう。
- 強度行動障害:主に知的障害や自閉スペクトラム症のある人に、自傷・他害・こだわりなどが著しく高い頻度で現れている「状態」。障害者総合支援法(障害福祉)の枠組みで支援され、年齢は子どもから大人まで含みます。
- BPSD(認知症の行動・心理症状):認知症にともなって現れる徘徊・興奮・不安などの症状。背景にあるのは認知症であり、主に介護保険制度のもとで高齢者ケアとして対応します。
どちらも「行動として表れる困りごと」という共通点はありますが、背景にある障害も、支援の制度も、評価のものさしも異なります。また、強度行動障害は本人を指す呼び名ではなく、あくまで「いまの状態」を表す言葉です。「問題行動」という言い方は本人に原因があるかのような印象を与えるため、近年は「本人が困って出しているサイン」「環境との不適合」として捉え直す考え方が広がっています。
強度行動障害の支援のポイントと支援者養成研修
支援の基本:構造化・コミュニケーション・環境調整
強度行動障害への支援は、激しい行動を力で抑え込むのではなく、本人が安心して見通しを持てる環境を整えることが柱になります。研修資料で重視されているのは次のような考え方です。
- 構造化:スケジュールを視覚的に示す、活動の場所と意味を分かりやすく区切るなど、自閉スペクトラム症の特性に合わせて「いつ・どこで・何を・どれだけ・次は何か」を伝わる形にする工夫。
- コミュニケーションの保障:本人が要求や不快を適切に伝えられる手段(絵カード・写真・道具など)を用意し、行動でしか伝えられない状況を減らす。
- 機能的アセスメントと環境調整:その行動が本人にとって「どんな意味(機能)」を持つのかを観察・分析し、引き金になっている環境要因を調整する。令和5年の検討会報告書で公的に位置づけられた標準的な支援の考え方です。
支援者養成研修と人材育成
支援の質を担保する仕組みとして、2013年度から強度行動障害支援者養成研修が始まりました。入門の基礎研修と、初歩的な支援計画づくりを学ぶ実践研修の2本立てで、いずれも障害福祉サービスに携わるあらゆる職員が対象です。さらに、チーム支援をまとめる中核的人材、地域を支える広域的支援人材の育成も進められています。研修修了者の配置は、後述する各種加算の算定要件にもなっており、介護・福祉の現場ではキャリアの幅を広げる専門研修として位置づけられています。
強度行動障害のよくある質問
よくある質問
強度行動障害は治る・なくなるのですか?
強度行動障害は固定した障害ではなく「状態」です。本人に合った構造化やコミュニケーション支援、環境調整によって、激しい行動が大きく軽減した例も報告されています。最終的なゴールは行動を消すこと自体ではなく、本人が地域のなかで安心して暮らせるようになることだと整理されています。
強度行動障害は介護保険の対象ですか?
いいえ。強度行動障害は主に知的障害・発達障害のある人の状態で、障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービス(行動援護、生活介護、共同生活援助、施設入所支援、短期入所、障害児の通所・入所支援など)で支援されます。高齢者の介護保険制度とは別の制度です。
支援にかかわるのに資格は必要ですか?
必須の国家資格はありませんが、強度行動障害支援者養成研修(基礎研修・実践研修)の修了が、多くの加算や行動援護のサービス提供責任者要件の前提になっています。基礎研修はどなたでも受講でき、実践研修は基礎研修修了が条件です。
「行動関連項目10点以上」とは何を意味しますか?
障害支援区分の調査項目のうち行動上の困難に関する項目を点数化したもので、合計10点以上が行動援護などのサービス対象の一つの目安です。令和6年度の報酬改定では、より手厚い支援が必要な層として18点以上を評価する仕組みも新設されました。点数は支援の必要度をはかる目安であり、本人の価値を測るものではありません。
強度行動障害の参考資料
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]状態の悪化した強度行動障害を有する児者への集中的支援の実施に係る事務手続等について- 厚生労働省・こども家庭庁
令和6年度新設の集中的支援加算(広域的支援人材による訪問・受入)の趣旨と手続を示した通知。
- [5]
強度行動障害のまとめ
まとめ
強度行動障害は、本人の特性と環境がうまくかみ合わないことで、自傷・他害・こだわりなどが著しく高い頻度で現れている「状態」を指します。生まれ持った性質ではなく、構造化・コミュニケーション支援・環境調整といった本人に合ったかかわりによって、軽減や予防が期待できると整理されています。支援者養成研修や令和6年度に新設された集中的支援加算など、支援の質を高める仕組みも広がっています。介護・福祉の現場で行動上の困りごとに向き合う際は、本人を「困った人」ではなく「困っている人」として捉え、専門的な学びを積み重ねていくことが大切です。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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