
ペットセラピーとは
ペットセラピー(動物介在介入)の定義をAAT・AAA・AAEの3区分で整理。介護施設での効果、衛生管理、ロボットペット比較まで公的資料に基づき解説します。
この記事のポイント
ペットセラピーとは、犬や猫などの動物と触れ合うことで心身の健康やQOL(生活の質)の向上を図る取り組みの総称です。専門的には目的別に動物介在療法(AAT)・動物介在活動(AAA)・動物介在教育(AAE)の3つに区分され、介護施設で実施されるのは主にAAA(レクリエーション型)です。
目次
ペットセラピーの定義と歴史的背景
ペットセラピーは和製英語で、国際的には「動物介在介入(Animal-Assisted Intervention, AAI)」と総称されます。動物との相互作用を通じて、人間の身体的・精神的・社会的健康の向上を図る幅広い実践を指し、介護・医療・教育・福祉のさまざまな現場で導入されています。
歴史は18世紀の英国・ヨーク療養所での精神疾患患者と動物の触れ合い実践に遡るとされ、現代的なAATの体系化は1960年代の米国の児童精神科医ボリス・レビンソンの研究から本格化しました。日本では1986年に公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)が「CAPP(Companion Animal Partnership Program、人と動物のふれあい活動)」を開始し、約40年にわたり全国の高齢者施設・病院・学校で活動を継続しています。
介護領域でペットセラピーが注目される背景には、(1) 認知症高齢者のBPSD(行動・心理症状)緩和エビデンスの蓄積、(2) 施設入居者の社会的孤立・抑うつ対策ニーズの高まり、(3) 五感刺激による非薬物療法としての位置づけ、があります。日本認知症予防学会の論文でも、犬とのふれあい後に抑うつ・不安・興奮・攻撃性が和らぐ効果が報告されています。
なお、介護報酬上でペットセラピーそのものを評価する加算は存在せず、施設の自主事業またはレクリエーション活動の一環として実施されるのが一般的です。
AAT・AAA・AAEの違い
「ペットセラピー」という言葉は広義の総称で、目的・実施者・評価方法によって以下3つに区分されます。介護現場で「アニマルセラピー」「ペットセラピー」と呼ばれるものの多くは、厳密にはAAA(動物介在活動)に該当します。
| 区分 | 正式名称 | 目的 | 実施者 | 主な現場 |
|---|---|---|---|---|
| AAT | 動物介在療法 (Animal-Assisted Therapy) |
疾患の治療・リハビリ。治療計画と評価が必須 | 医師・作業療法士など医療専門職が主導、訓練された動物とハンドラーが協働 | 病院・リハビリ施設(一部介護老人保健施設) |
| AAA | 動物介在活動 (Animal-Assisted Activity) |
QOL向上・情緒安定・レクリエーション。治療目的ではない | 獣医師・愛玩動物看護師・認定ボランティアが訪問 | 特養・有料老人ホーム・グループホーム・デイサービスなど介護施設全般 |
| AAE | 動物介在教育 (Animal-Assisted Education) |
命の大切さ・動物との正しい接し方の学習 | 教員・ハンドラー・獣医師 | 小学校・幼稚園など教育機関 |
介護職が押さえるべき実務的な違い: AATは医師の指示と評価記録が必要なため一般介護施設では実施しづらい一方、AAAは「ふれあいによる癒し」を主目的とするため、自治体の動物指導センターやJAHA-CAPP、NPO日本アニマルセラピー協会などへの依頼で比較的導入しやすい構造です。記録上も「治療」ではなく「レクリエーション・生活支援活動」として位置づけます。
類似概念としてロボットペット(PARO、aiboなど)を活用した取り組みもあり、生体動物のリスク(アレルギー・感染症・噛みつき)を回避できる代替手段として施設導入が広がっています。
介護現場での効果と導入のコツ
期待される効果(認知症ケアを含む)
- BPSDの緩和: 抑うつ・不安・興奮・攻撃性の軽減(日本認知症予防学会の研究で報告)
- コミュニケーション活性化: 発語量の増加、表情の豊かさ、職員・他利用者との会話のきっかけ
- 離床・活動意欲の向上: ベッドから出る動機づけ、リハビリ参加意欲の向上
- 生理的指標の安定: 血圧・心拍の安定、ストレスホルモン(コルチゾール)低下の報告
- 回想法の補助: かつてペットを飼っていた利用者の昔話を引き出す
導入対象動物
日本の介護施設で訪問するのは犬(特にゴールデン・レトリーバー、ラブラドールなど穏やかな大型犬)が中心ですが、施設や対象者により猫・うさぎ・小鳥・モルモット・馬(ホースセラピー)なども活用されます。動物には事前の健康診断・予防接種・行動評価(人慣れ・物音耐性)が必須で、JAHA-CAPPでは認定試験を通過した犬のみが活動できます。
適応と禁忌・注意点
- 禁忌・要注意: 動物アレルギー、免疫低下状態、開放創、動物恐怖症、過去のトラウマがある利用者は除外。事前に主治医・家族・本人の意思を確認
- 感染管理: 訪問前後の手指衛生、抜け毛の清掃、動物の定期検便・ワクチン接種、人獣共通感染症(パスツレラ症等)の知識整備
- 事故防止: 噛みつき・引っかき・転倒(動物を追いかけて)に備え、ハンドラーは常時リード保持。車椅子のフットレストや酸素チューブへの絡まりに注意
施設導入の実務ステップ
- 嘱託医・家族への事前説明と同意取得(アレルギー・恐怖症スクリーニング)
- JAHA、自治体動物指導センター、NPO等の認定団体に依頼(自地域の対応可否を確認)
- 活動エリアと時間を限定(食堂や多目的室、30〜60分程度)
- 活動後の清掃・記録・効果モニタリング(バイタル・表情・発語の変化)
- 参加困難な利用者にはロボットペット(PARO、aibo、しっぽふりふり等)で代替
在宅介護での活用
家族が飼育するペットも、適切な距離感・衛生管理のもとで在宅高齢者のQOL向上に寄与します。一方、介護負担の増大や、本人が世話できなくなった際のペットの行き場(高齢者飼育のペット引取り問題)も社会課題化しており、ペット可の高齢者住宅やシニアと高齢ペットを同時にケアする「シニア向けペットシッター」サービスの活用が広がっています。
よくある質問
Q. ペットセラピーとアニマルセラピーは違いますか?
A. どちらも和製英語で、実質的にはほぼ同義です。本来の国際標準用語は「動物介在介入(AAI)」であり、その下位区分としてAAT・AAA・AAEがあります。介護現場では「アニマルセラピー」「ペットセラピー」「動物介在活動」がほぼ同じ意味で使われています。
Q. 介護施設でAATとAAAのどちらが多く実施されていますか?
A. 圧倒的にAAA(動物介在活動)です。AATは医師の指示と治療評価が必要なため、医療機関や老健の一部に限られます。一般の特養・有料老人ホーム・グループホームで実施される「ペットセラピー」は、ほぼすべてAAAに該当します。
Q. 動物アレルギーの利用者がいる場合はどうしますか?
A. 活動エリアを完全に分け、空調・動線を独立させる、またはロボットペット(PAROやaibo)で代替するのが安全です。アレルギー利用者を別室で過ごしてもらう場合は、職員配置と本人の意向確認を必ず記録に残してください。
Q. ペットセラピーに介護報酬は付きますか?
A. ペットセラピー単独の介護報酬加算はありません。施設の自主事業、レクリエーション活動、または認知症ケアプログラムの一部として実施します。費用は施設負担またはボランティア団体の無償提供が一般的です。
Q. どこに依頼すれば認定された動物に来てもらえますか?
A. 主な依頼先は (1) 公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)のCAPP活動、(2) 都道府県の動物指導センター(例:埼玉県動物指導センター)、(3) NPO法人日本アニマルセラピー協会など民間認定団体です。地域により受け入れ可否・待機期間が異なるため、複数団体に並行して問い合わせるのが現実的です。
参考資料
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まとめ
ペットセラピーは動物との触れ合いによる心身ケアの総称で、目的別にAAT(治療)・AAA(活動)・AAE(教育)の3区分に整理されます。介護施設で実施されるのは主にAAAで、認知症のBPSD緩和、コミュニケーション活性化、抑うつ改善といった効果が報告されています。一方で、アレルギー・感染症・転倒リスクへの配慮が不可欠であり、JAHA-CAPPや自治体動物指導センターなど認定団体との連携、ロボットペット(PARO・aibo)との併用も含めた総合設計が現場運用のポイントです。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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