特定行為研修とは

特定行為研修とは

特定行為研修は、看護師が手順書により21区分38行為を実施できる研修制度です。共通科目250時間と区分別科目、パッケージ研修、在宅医療での活用まで、用語の意味と全体像をやさしく解説します。

ポイント

特定行為研修とは(要約)

特定行為研修とは、看護師が医師の作成した手順書に基づき、診療の補助として21区分38行為の特定行為を実施できるようにするための研修制度です。2015年10月に保健師助産師看護師法に基づき創設され、共通科目と区分別科目で構成されます。在宅医療や訪問看護、急性期から慢性期まで幅広い場で活用が広がっています。

目次

制度の位置づけと根拠法令

特定行為研修は、保健師助産師看護師法第37条の2に規定される「特定行為に係る看護師の研修制度」のことを指します。2014年6月の法改正で創設され、2015年10月から運用が始まりました。所管は厚生労働省医政局看護課で、研修を実施できるのは厚生労働大臣が指定した「指定研修機関」のみです。

制度の目的は、2025年以降の超高齢社会を見据えて在宅医療等を支える看護師を計画的に養成することにあります。医師の判断を待たずに、あらかじめ定められた手順書の範囲内で、看護師が一定の医療行為(特定行為)を実施できるようにすることで、医療提供体制の効率化と患者の状態に応じたタイムリーな対応を可能にします。

「特定行為」とは、診療の補助のうち、看護師が手順書により行う場合に、実践的な理解力・思考力・判断力と高度かつ専門的な知識・技能が特に必要とされる行為のこと。21の区分に整理された38行為が省令で定められており、修了した区分の特定行為に限り、医師の包括的指示と手順書に基づいて実施できます。なお、修了していない特定行為については、従来どおり医師の具体的指示が必要です。

修了者は俗に「特定行為研修修了者」「特定看護師」と呼ばれます(「特定看護師」は法的な資格名ではなく通称)。修了者には、修了した特定行為区分名を記載した修了証が指定研修機関から発行され、所属医療機関を通じて厚生労働省にも報告されます。

21区分38行為の概要

特定行為は、患者の身体機能や臨床現場の領域別に21の区分に整理されています。区分のなかに1〜複数の特定行為が含まれ、合計38行為になります。代表的な区分は次のとおりです。

  • 呼吸器(気道確保)関連:経口・経鼻気管チューブの位置調整
  • 呼吸器(人工呼吸療法)関連:侵襲的・非侵襲的陽圧換気の設定変更、人工呼吸管理下での鎮静薬投与量の調整、人工呼吸器離脱の試行ほか(計5行為)
  • 呼吸器(長期呼吸療法)関連:気管カニューレの交換
  • 循環器関連:一時的ペースメーカ・経皮的心肺補助装置の操作及び管理、大動脈内バルーンパンピング離脱の試行(計4行為)
  • 心嚢ドレーン管理関連:心嚢ドレーンの抜去
  • 胸腔ドレーン管理関連:低圧持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更、胸腔ドレーンの抜去(計2行為)
  • 腹腔ドレーン管理関連:腹腔ドレーンの抜去
  • ろう孔管理関連:胃ろうカテーテル・腸ろうカテーテル・胃ろうボタンの交換、膀胱ろうカテーテルの交換(計2行為)
  • 栄養に係るカテーテル管理(中心静脈・末梢留置型)関連:中心静脈カテーテルの抜去、末梢留置型中心静脈注射用カテーテル(PICC)の挿入(計2行為)
  • 創傷管理関連:褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去、創傷に対する陰圧閉鎖療法(計2行為)
  • 創部ドレーン管理関連:創部ドレーンの抜去
  • 動脈血液ガス分析関連:直接動脈穿刺法による採血、橈骨動脈ラインの確保(計2行為)
  • 透析管理関連:急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析濾過器の操作及び管理
  • 栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連:持続点滴中の高カロリー輸液・脱水症状に対する輸液の投与量の調整(計2行為)
  • 感染に係る薬剤投与関連:感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与
  • 血糖コントロールに係る薬剤投与関連:インスリン投与量の調整
  • 術後疼痛管理関連:硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整
  • 循環動態に係る薬剤投与関連:持続点滴中のカテコラミン・ナトリウム・カリウム・降圧剤・糖質輸液・電解質輸液・利尿剤の投与量の調整(計6行為)
  • 精神及び神経症状に係る薬剤投与関連:抗けいれん剤・抗精神病薬・抗不安薬の臨時の投与(計3行為)
  • 皮膚損傷に係る薬剤投与関連:抗癌剤等の皮下漏出時のステロイド薬の局所注射及び投与量の調整

※区分名・行為数は厚生労働省「特定行為及び特定行為区分」(保健師助産師看護師法施行規則)に基づきます。区分の追加・統合は制度見直しで議論が続いており、最新は厚生労働省サイトで確認してください。

受講ルートとパッケージ研修

特定行為研修は、共通科目と区分別科目の2階建てで構成されます。受講者は厚生労働大臣が指定する「指定研修機関」(大学院、大学病院、医療法人、看護協会等)で履修します。

  1. 受講要件の確認:看護師免許を保有し、おおむね3〜5年以上の実務経験があることが目安です。指定研修機関ごとに独自要件(推薦書、所属医療機関の同意など)が設定されます。
  2. 共通科目の履修(250時間):臨床病態生理学、臨床推論、フィジカルアセスメント、臨床薬理学、疾病・臨床病態概論、医療安全学、特定行為実践など全区分共通の科目を学びます。eラーニング・集合研修・実習を組み合わせる機関が多く、受講者は所属施設に在籍したまま履修するのが一般的です。
  3. 区分別科目の履修(5〜34時間/区分):希望する特定行為区分ごとに、講義・演習・実習を行います。区分により必要時間が大きく異なり、人工呼吸器離脱や循環動態に関わる区分は時間が長くなる傾向があります。
  4. 修了評価:筆記試験・実技試験・症例レポート等で評価を受け、合格後に修了証が発行されます。
  5. 所属施設での実施開始:所属施設で「手順書」を整備し、医療安全委員会等の承認を得て、修了した区分の特定行為を開始します。

パッケージ研修は、現場ニーズの高い特定行為区分を組み合わせて効率的に学べる仕組みで、2019年度から導入されました。代表的なパッケージは次のとおりです。

  • 在宅・慢性期領域パッケージ
  • 外科術後病棟管理領域パッケージ
  • 術中麻酔管理領域パッケージ
  • 救急領域パッケージ
  • 外科系基本領域パッケージ
  • 集中治療領域パッケージ
  • 精神科領域パッケージ

パッケージ研修では区分の重複部分を整理し、関連性の高い区分をまとめて履修できるため、単独で複数区分を取得するより総時間を短縮しやすい設計になっています。訪問看護や在宅医療志向の看護師は、まず「在宅・慢性期領域パッケージ」を選ぶ例が多いです。

在宅医療・訪問看護での活用と費用感

在宅医療では、医師が常駐しない環境で患者の状態が変化することが多く、特定行為研修修了者の存在が大きな価値を持ちます。たとえば胃ろうカテーテルの交換、気管カニューレの交換、脱水時の輸液量調整、褥瘡の壊死組織除去などは、訪問看護の現場で頻繁にニーズが発生する行為です。手順書があれば修了者が自律的に判断・実施できるため、医師の往診を待つ間の状態悪化を防げます。

訪問看護ステーションや在宅療養支援診療所、機能強化型訪問看護ステーションでは、特定行為研修修了者の採用ニーズが高まっています。診療報酬・介護報酬上の評価も段階的に拡充されており、令和8年度予算では指定研修機関の運営支援も強化される方向です。詳細は関連記事「特定行為研修、令和8年度予算で育成加速」で解説しています。

受講費用は指定研修機関や履修区分数によって大きく異なり、おおむね30万円〜250万円が相場です。共通科目のみで数十万円、加えて区分別科目が区分ごとに加算される構造が一般的で、複数区分やパッケージを取る場合は高額になります。一方で、所属施設による費用補助、奨学金、公的支援(医療勤務環境改善支援センター・地方自治体の補助)を活用できるケースも増えています。受講前に勤務先の支援制度と、地域の指定研修機関の費用体系を必ず確認しましょう。

キャリア面では、特定行為研修修了は看護師としての専門性を客観的に示せる強みになります。認定看護師(特定認定看護師)や専門看護師との組み合わせで活躍する例も多く、転職市場でも訪問看護・在宅医療領域では強い差別化要素になります。

よくある質問

Q. 特定行為研修を受けると「特定看護師」になれますか?

「特定看護師」は法的な資格名称ではなく、特定行為研修の修了者を指す通称です。正式には「特定行為研修修了者」と呼ばれ、修了した特定行為区分のみが手順書による実施範囲になります。米国のナース・プラクティショナー(NP)のような独立した資格制度とは異なります。

Q. 全38行為すべてを修了する必要がありますか?

必要ありません。修了したい区分(または現場ニーズに合うパッケージ)のみを選択して履修します。1区分だけの修了でも、その区分の特定行為については手順書による実施が可能になります。後から追加で他区分を履修することもできます。

Q. 認定看護師・専門看護師との違いは何ですか?

認定看護師・専門看護師は日本看護協会が認定する民間資格で、特定の分野で高度な看護実践を行う役割を持ちます。一方、特定行為研修修了は厚生労働省が定める制度で、手順書により特定行為(医行為の一部)を実施できる範囲を広げる仕組みです。両者は重なる部分もあり、特定認定看護師(特定行為研修を組み込んだ認定看護師教育)として統合する動きが進んでいます。

Q. 受講中は仕事を休む必要がありますか?

多くの指定研修機関がeラーニングと集合研修を組み合わせており、所属施設に在籍したまま履修できる設計になっています。ただし区分別科目の実習や対面演習では一定の時間を確保する必要があるため、勤務シフトの調整や勤務先の理解は不可欠です。

Q. 在宅・訪問看護に活かしたい場合、どの区分から学ぶのが良いですか?

「在宅・慢性期領域パッケージ」が代表的な選択肢です。胃ろうカテーテル交換、気管カニューレ交換、脱水時の輸液調整、褥瘡の壊死組織除去、感染徴候時の薬剤投与など、訪問現場で頻度の高い特定行為がまとまって履修できます。所属する訪問看護ステーションの利用者層に合わせて、追加区分を検討すると実務に活きます。

参考資料

まとめ

特定行為研修は、看護師が手順書により21区分38行為を実施できるようにする厚生労働省の研修制度です。共通科目250時間と区分別科目を履修し、所属施設で手順書を整備したうえで運用が始まります。在宅医療や訪問看護では、医師の往診を待たずにタイムリーな対応が可能になることから、修了者へのニーズが急速に高まっています。受講検討者は、まず勤務先の支援制度と地域の指定研修機関の費用・履修区分を確認するところから始めましょう。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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