
取り繕い反応とは
取り繕い反応とは、認知症の人が記憶障害を指摘された際にもっともらしい言い訳でその場を取り繕う反応。アルツハイマー型に特徴的で、鑑別や要介護認定での見落としにも関わります。
取り繕い反応の定義
取り繕い反応とは、認知症の人が記憶障害によって答えられない場面で、もっともらしい言い訳や受け答えをしてその場を上手に取り繕う反応のことです。物忘れを指摘されても「年のせいだ」「忙しくて見ていない」などとはぐらかし、忘れていないかのように振る舞います。とくにアルツハイマー型認知症で多くみられる特徴的なコミュニケーションのパターンとして知られています。
目次
取り繕い反応の概要
取り繕い反応とは何か
取り繕い反応(とりつくろいはんのう、英語では saving appearance response)とは、認知症によって記憶障害が起きているにもかかわらず、相手に上手に話を合わせ、忘れてしまったことを覚えているかのように振る舞う態度を指します。認知症の治療やケアに関わる専門職のあいだでは古くから知られた反応のひとつで、診察や認知機能検査の場面でしばしば観察されます。
たとえば「今日は何日ですか」と尋ねられた人が「この歳になると日にちは関係ないからね」と答えたり、「忙しくて新聞もテレビも見ていないから分からない」と説明したりするのが典型例です。答えられないことそのものを隠し、会話としては自然に成立しているように見せるのが特徴です。
背景には、自分の認知機能の低下を周囲に気づかれたくない、これまでの自分を保ちたいという心理的な葛藤があると考えられています。取り繕い反応は「ごまかし」や「うそ」ではなく、不安や自尊心を守ろうとする防衛的な反応として理解することが大切です。
なぜアルツハイマー型で特徴的なのか
熊本大学の研究チーム(松下正輝特任助教ら)は、アルツハイマー病107名、脳血管障害を伴うアルツハイマー病16名、レビー小体型認知症30名、軽度認知障害(MCI)55名を対象に、認知機能検査の際にみられる取り繕い反応の出現頻度を比較しました。その結果、アルツハイマー病では半数以上にこの反応がみられ、レビー小体型認知症や軽度認知障害と比べて統計的に有意に多いことが示されています。性別・推定罹病期間・前頭葉機能などを統計的に調整しても、アルツハイマー病ではレビー小体型認知症の約4.24倍、軽度認知障害の約3.48倍の頻度で取り繕い反応がみられたと報告されました。この成果は2018年に科学誌 PLOS ONE に掲載されています。
取り繕い反応の典型例
取り繕い反応の典型的なあらわれ方
- 日付・場所をはぐらかす:「今日は何日?」に「もう歳だから日にちは気にしない」と返す
- 理由づけで回避する:「忙しくて新聞もテレビも見ていないから」と答えられない理由を説明する
- 家族に話を振る:質問されると同席する家族のほうを見て「ねえ?」と確認を求める
- 一般論にすり替える:具体的な記憶を問われても「最近は誰でも忘れっぽくなるよ」と話を広げる
- 笑顔や社交辞令でかわす:「いやあ、それはどうかな」と穏やかに受け流す
いずれも会話としては自然に流れるため、短時間の面談や初対面では「しっかりしている」と受け取られやすく、記憶障害が見えにくくなる点に注意が必要です。
取り繕い反応と作話・物盗られ妄想の違い
似た言葉との違い
取り繕い反応は、認知症でみられる他の言動と混同されがちですが、意味合いは異なります。
- 作話(さくわ):記憶の欠落を埋めるために、本人は事実だと思い込んだ内容を語ること。取り繕い反応は「答えられない場面を社会的にかわす」点に重きがあり、作話は「空白を別の記憶で埋める」点に重きがあります(重なる場合もあります)。
- もの盗られ妄想:財布などを「盗まれた」と訴える被害的な妄想で、BPSD(行動・心理症状)の一つ。取り繕い反応は妄想ではなく、自尊心を守ろうとする防衛的なコミュニケーションです。
- 否認(病識の低下):自分の障害そのものを認識していない状態。取り繕い反応では、本人がうすうす低下を感じているからこそ隠そうとする、という点が指摘されています。
これらは厳密に切り分けられるものではなく、同じ人に併存することもあります。ラベルを貼ることより、その人が何を守ろうとしているかを理解する視点が大切です。
取り繕い反応への現場での関わり方
介護・看護の現場でどう関わるか
取り繕い反応は、本人が不安や自尊心を守ろうとしている表れです。無理に正したり問い詰めたりすると、関係づくりがかえって難しくなります。現場では次のような関わり方が手がかりになります。
- 間違いを正そうとしない:「違いますよ」と訂正するより、本人の感情に寄り添い会話を続けることを優先する
- 面子をつぶさない:人前で記憶を試すような質問を避け、できている部分を認める
- 家族・多職種で情報を共有する:取り繕いによって生活上の困りごとが見えにくくなるため、自宅での様子や複数の場面の情報を持ち寄る
- 背景の不安を見る:取り繕いが強い場面はその人が緊張・不安を感じているサインと捉え、安心できる環境を整える
なお、取り繕い反応は要介護認定の認定調査や診察の場面で「実際よりしっかりしている」と評価され、生活上の困難が過小評価されてしまうことがあります。普段の困りごとは具体的なエピソードとしてメモにまとめ、調査員や医師に伝えると実態が伝わりやすくなります。診断や治療方針は医師が総合的に判断するものであり、ここでの説明は現場での関わりの一般的な考え方です。
取り繕い反応のよくある質問
よくある質問
取り繕い反応は認知症のサインですか?
取り繕い反応そのものは病名ではなく、認知症(とくにアルツハイマー型)でみられやすいコミュニケーションのパターンです。高齢で物忘れを取り繕う様子があっても、それだけで認知症と判断はできません。気になる場合は医療機関で相談してください。
なぜアルツハイマー型で多いのですか?
熊本大学の研究では、アルツハイマー病で半数以上にみられ、レビー小体型認知症や軽度認知障害より統計的に有意に多いと報告されています。記憶障害が中心となる一方で、社会的な受け答えを保つ力が比較的残りやすいことが背景にあると考えられています。
取り繕われると介護で何が困りますか?
診察や要介護認定の調査で「実際よりしっかりしている」と受け取られ、生活上の困りごとが過小評価されることがあります。普段の具体的なエピソードを家族や担当者が共有することが大切です。
取り繕いを正したほうがよいですか?
無理に訂正したり問い詰めたりすると、不安や反発を強めることがあります。間違いを正すより、本人の感情や自尊心に寄り添う関わりが推奨されます。
取り繕い反応の参考資料
- [1]
- [2]
- [3]Are saving appearance responses typical communication patterns in Alzheimer's disease?- PLOS ONE
取り繕い反応の疾患特異性を報告した原著論文(松下正輝ら, 2018)。
- [4]
取り繕い反応のまとめ
まとめ
取り繕い反応は、認知症の人が記憶障害を指摘された場面で、もっともらしい受け答えでその場を取り繕う反応です。アルツハイマー型認知症に特徴的にみられ、自尊心や不安を守ろうとする防衛的なコミュニケーションとして理解することが大切です。診察や要介護認定で実態が見えにくくなることもあるため、普段の困りごとを具体的に共有し、本人の気持ちに寄り添う関わりを心がけましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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