
バイタルサインとは
バイタルサインは体温・脈拍・血圧・呼吸・SpO2の5項目に意識を加えた生命徴候。介護現場で押さえる正常値と観察のコツをやさしく解説します。
この記事のポイント
バイタルサインは「体温・脈拍・血圧・呼吸・SpO2(酸素飽和度)」の測定値に「意識レベル」を加えた、生命徴候を示す基本指標です。介護現場では1日1〜数回測定し、平常値(個人ベースライン)からのズレを早期に発見することで、発熱・脱水・誤嚥性肺炎・心不全などの体調変化に気づく入口になります。
目次
バイタルサインの意味と介護現場での位置づけ
バイタルサイン(vital signs)は直訳すると「生命徴候」で、生きていること、そして生命活動が安定しているかを示す基本データを指します。一般的には「体温」「脈拍(心拍数)」「血圧」「呼吸(数・リズム・深さ)」「SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)」の5項目を指し、これに「意識レベル」を加えて6項目とする現場も多くあります。
医療では救急・術後・ICUで頻回に測定される情報ですが、介護現場でも特別養護老人ホーム・有料老人ホーム・グループホーム・訪問介護・デイサービスなど、ほぼすべてのサービス類型で日常的に記録されています。理由は、高齢者の体調変化が「症状を訴える前にバイタルに先に出る」ことが多いからです。発熱や脈の乱れ、SpO2の低下は、誤嚥性肺炎・心不全・脱水・低血糖など重大な疾患の前触れとなることがあり、介護職員が「いつもと違う数値」に気づけるかどうかが救急要請や受診判断の入口になります。
介護保険制度上は、訪問介護員(ヘルパー)など医療職以外の職員も、医師・看護師の指示や利用者本人・家族の依頼に基づき、自動測定器を用いた血圧・体温・脈拍・SpO2の測定や記録は「医行為に該当しない」と整理されています(厚生労働省通知)。観察と記録自体は職種を問わず行いますが、数値の医学的解釈や薬剤調整は医療職の判断領域となるため、介護職員は「平常値からのズレを正確に見つけ、看護職や家族に速やかに共有する」ことが役割の中心になります。
高齢者のバイタルサイン正常値(目安)
下表は厚生労働省「e-ヘルスネット」や日本高血圧学会のガイドラインなどで一般的に示される基準値を、高齢者向けに整理したものです。ただし正常値はあくまで集団の目安であり、利用者一人ひとりの「いつもの数値(個人ベースライン)」が最も重要です。
- 体温(腋窩):36.0〜37.0℃前後。高齢者は体温調節機能が低下し、平熱が35℃台と低めの方も多い。平熱より0.5〜1℃高ければ発熱を疑う。
- 脈拍:1分間に60〜90回が目安。100回以上は頻脈、50回未満は徐脈の可能性。リズムが不規則な場合は心房細動などを疑う。
- 血圧:診察室血圧で収縮期140mmHg未満/拡張期90mmHg未満が高血圧の境界。家庭血圧では135/85mmHg未満。高齢者は変動が大きく、起立性低血圧にも注意。
- 呼吸数:1分間に16〜20回程度。25回以上は頻呼吸、9回以下は徐呼吸の可能性。胸の上下動を1分間数えて評価する。
- SpO2:96%以上が目安。94%以下は低酸素を疑い、慢性呼吸器疾患(COPDなど)の方は90%前後を主治医が許容範囲とする場合もある。
- 意識レベル:呼びかけへの反応・見当識(時・場所・人)・受け答えの内容を観察。普段と比べて反応が鈍い、傾眠傾向は要注意。
介護現場での観察ポイント
数値だけを記録するのではなく、利用者の様子・環境とセットで観察すると変化に気づきやすくなります。
- 測定タイミングを揃える:起床時・食前・入浴後など、毎日同じタイミングで測ると比較しやすい。入浴・食事・排泄・運動の直後は数値が変動するため避けるか、状況をメモする。
- 同じ姿勢・同じ部位で測る:血圧は座位・上腕で測定するのが基本。腕を心臓の高さに保ち、足を組まない。脈拍はSpO2測定器でも確認できるが、不整脈のチェックには手首での触診が有効。
- SpO2は指先の冷感・マニキュアに注意:指が冷たいと正しく測れないため、温めてから再測定する。震えや動きでも値が乱れる。
- 「いつもと違う」を記録:顔色(蒼白・紅潮・チアノーゼ)、口唇の乾燥、呼吸の様子(肩で息をする・ゼーゼー音)、活気の有無、食事量・水分量・排尿回数なども併記すると、看護職への報告精度が上がる。
- 夜間と日中の差を見る:高齢者は夜間に血圧が下がりすぎる、SpO2が低下するなど、時間帯で変化することがある。夜勤帯の数値も継続して記録する。
異常値を見つけたときの対応フロー
- 再測定する:測定機器・部位・姿勢を見直し、5〜10分安静にしてから再測。1回目だけ高値・低値が出ることはよくある。
- 本人の自覚症状を確認:胸痛・息苦しさ・めまい・冷汗・手足のしびれ・吐き気・頭痛などの有無を聞き、観察する。
- 看護職員・サービス提供責任者へ報告:数値(再測定値も含む)、自覚症状、いつから・直前に何があったかをセットで伝える。施設なら看護職員、訪問介護ならサ責または連携医療機関へ連絡。
- 家族・主治医へ連絡:看護職の判断のもと、ケアマネ経由で家族・主治医に共有。受診や往診の調整が必要かを確認する。
- 緊急性が高い場合は救急要請:意識がもうろうとしている、呼吸が極端に浅い/速い、SpO2が90%を切って戻らない、収縮期血圧が80mmHg以下など、生命に関わる徴候があれば119番。施設の急変時マニュアルに従う。
- 記録を残す:時間・数値・症状・対応した相手・指示内容を介護記録に記載。後日のケアプラン見直しや受診時の情報共有にも使われる。
よくある質問
- Q. 介護職員でもバイタル測定はしてよいのですか?
- A. 自動血圧計・電子体温計・パルスオキシメーターを用いた測定や、その記録は、医師や利用者本人・家族の依頼に基づき行う場合「医行為に該当しない」と厚生労働省通知で整理されています。聴診器を用いた血圧測定や、解釈・処置などは医療職の領域となります。
- Q. 平熱が35℃台でも問題ないでしょうか?
- A. 高齢者は基礎代謝の低下や体温調節機能の衰えにより、平熱が低めになる方が多くいます。重要なのは「その方のいつもの平熱との差」で、平熱より0.5〜1℃高いだけでも感染症初期のサインの場合があります。
- Q. SpO2が95%でした。様子を見てよいですか?
- A. 96%以上が一般的な目安ですが、95%は95%でも下降傾向か安定かで意味が変わります。直前の活動・指の冷感を確認し、再測定して傾向を看護職へ共有してください。COPDなど慢性呼吸器疾患の方は主治医が許容ラインを別途設定していることがあります。
- Q. 血圧は朝・昼・夜のいつ測ればよいですか?
- A. 家庭血圧は「朝(起床後1時間以内・排尿後・服薬前)」と「就寝前」の1日2回が日本高血圧学会で推奨されています。施設では生活リズムに合わせて固定し、毎日同条件で測ることが大切です。
- Q. 認知症で安静が保てない方の測定はどうすれば?
- A. 落ち着いた環境で声かけしながら短時間で測る、好きなテレビや音楽を流して気を逸らす、本人が信頼している職員が測るなどの工夫が有効です。難しい場合は時間帯を変える、家族の協力を仰ぐといった対応も検討します。
参考資料
- 厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」(医政発第0726005号) — 自動血圧計等によるバイタル測定が「医行為に該当しない」と整理された通知。
- 厚生労働省 e-ヘルスネット — 高血圧・脈拍・呼吸など各バイタル指標に関する一般向け解説。
- 日本心臓財団/日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン」関連資料 — 診察室血圧・家庭血圧の基準値、高齢者高血圧の考え方。
- 日本内科学会雑誌「バイタルサインの考え方」 — 救急・内科領域でのバイタルサイン評価の総説(J-STAGE収載)。
- 日本呼吸器学会 — SpO2・呼吸数評価、COPD患者の目標値などに関する公式情報。
まとめ
バイタルサインは数値そのものよりも「その方の平常値からの変化」を読み取るための情報です。介護職員は医療職と同じ解釈や処置を求められるわけではなく、毎日同じ条件で正確に測り、いつもと違うときに看護職へ素早く共有することが最大の価値です。日々の記録を積み重ねて利用者一人ひとりのベースラインを把握しておくことが、急変対応や受診判断のスピードを大きく左右します。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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