
副業・兼業とは
副業・兼業は本業のほかに別の仕事を持つ働き方です。雇用契約であれば労働基準法38条1項により労働時間が事業場をまたいで通算されます。介護施設が就業規則で定めるべき届出制、禁止できる例外、厚生労働省が示す管理モデルまでガイドラインにもとづき整理します。
この記事のポイント
副業・兼業とは、本業のほかに別の仕事を持つ働き方の総称で、正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業による自営業主など形態はさまざまです。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、労働時間以外の時間をどう使うかは基本的に労働者の自由であるという裁判例の立場を出発点に置いています。実務上の分かれ目は雇用契約かどうかで、両方が雇用なら労働基準法第38条第1項により事業場をまたいで労働時間が通算されます。
目次
副業・兼業の法的な位置づけと制限できる4つの場合
副業・兼業を正面から禁止する法律はありません。厚生労働省のガイドラインは、副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であり、各企業がそれを制限できるのは限られた場合に限られると整理しています。平成30年1月に改定された厚生労働省のモデル就業規則にも、労働者は勤務時間外において他の会社等の業務に従事することができる、という規定が置かれました。
禁止・制限できるのは4つの場合
ガイドラインが挙げる制限できる場合は次の4つです。第1に労務提供上の支障がある場合、第2に業務上の秘密が漏洩する場合、第3に競業により自社の利益が害される場合、第4に自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合です。介護施設の実務では、夜勤明けに別の施設で長時間働き翌日の勤務に支障が出る、利用者の個人情報が別法人へ流れる、同一商圏の同種サービスへ利用者を誘導する、といった懸念がこれに当たります。逆に言えば、これらに当たらない副業を就業規則で一律に禁止する規定は、実効性が弱いと考えておく必要があります。
手続違反だけで懲戒処分は難しい
ガイドラインは、就業規則で許可等の手続を求めて違反を懲戒事由としている場合でも、裁判例は、形式的に規定に抵触したとしても職場秩序に影響せず労務提供に支障を生じない程度・態様のものは禁止違反に当たらないとして懲戒処分を認めていない、としています。届出を忘れていたという事実だけを理由に処分するのではなく、職場秩序に影響が及んだかどうかを実質的に見て慎重に判断することが求められます。
なぜ介護分野で論点になりやすいか
介護は資格と経験がそのまま他の事業所でも通用する分野で、登録ヘルパー、夜勤専従、単発の入浴介助のように短時間・短期間の仕事が成立しやすい構造があります。一方で夜勤や早番を含む変則シフトが本業側にあるため、労働時間の通算と健康確保が同時に問題になります。制度としては原則自由でも、シフトを組む側が仕組みを持たなければ回らないのが実情です。
副業・兼業で労働時間が通算される範囲
労働基準法第38条第1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。ガイドラインは、この「事業場を異にする場合」には事業主を異にする場合も含まれる(昭和23年5月14日付け基発第769号)と説明しています。つまり、別法人の施設で働いても労働時間は合算されます。
通算されるケースとされないケース
通算されるのは、複数の事業場のいずれでも労働基準法の労働時間規制が適用される労働者に該当する場合です。逆に、次の場合は通算されません。
- 労働基準法が適用されない場合(フリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事など)
- 労働基準法は適用されるが労働時間規制が適用されない場合(農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度)
介護職の副業でよく見られる訪問系事業所への登録は、多くが雇用契約であるため通算の対象になります。一方、講師業や執筆を業務委託で受ける場合は通算されません。ただしガイドラインは、通算されない場合も、過労等により業務に支障を来さないよう就業時間を把握して長時間にならないよう配慮することが望ましいとしています。
通算される規定と、されない規定
| 項目 | 通算の扱い |
|---|---|
| 法定労働時間(第32条) | 通算する |
| 時間外・休日労働の単月100時間未満、複数月平均80時間以内(第36条第6項第2号・第3号) | 通算する |
| 36協定で延長できる限度時間(第36条第4項) | 通算しない。事業場ごとに判断 |
| 特別条項による1年の延長時間の上限(第36条第5項) | 通算しない。事業場ごとに判断 |
| 休憩(第34条)・休日(第35条)・年次有給休暇(第39条) | 通算しない |
誤解が多いのは年次有給休暇です。副業先で働いた時間は本業の年次有給休暇の付与日数には影響しません。それぞれの事業場での勤務実績にもとづいて別々に付与されます。
副業・兼業の労働時間を通算する手順と管理モデル
ガイドラインが示す原則的な通算の手順は2段階です。順序を間違えると、割増賃金をどちらが払うのかを取り違えます。
1. 副業を始める前に、所定労働時間を通算する
まず、自らの事業場の所定労働時間と、他の使用者の事業場の所定労働時間を通算します。通算の順序は労働契約を締結した先後です。先に契約していた事業場の所定労働時間から順に積み上げ、法定労働時間を超える部分が生じたら、その部分は後から契約した使用者にとっての時間外労働になります。
2. 副業を始めた後は、所定外労働時間を発生順に通算する
所定労働時間の通算に加えて、実際に発生した所定外労働時間を、所定外労働が行われる順に通算します。契約の先後ではなく、発生した順である点が要注意です。自らの事業場に所定外労働がなく、他の使用者の事業場にだけ所定外労働がある場合は、他社分を通算する必要はありません。
3. 割増賃金は「自らの事業場で働かせた時間」について支払う
各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間のうち、自らの事業場において労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払います。他社で働いた時間そのものに対して自社が支払うわけではありません。
簡便な方法としての管理モデル
副業の日数が多い場合や双方に所定外労働がある場合、毎回の申告と通算管理は現実的でなくなります。そこでガイドラインは、簡便な労働時間管理の方法として管理モデルを示しています。時間的に先に労働契約を締結していた使用者を使用者A、後から締結した使用者を使用者Bと呼び、Aの事業場における法定外労働時間とBの事業場における労働時間(所定労働時間と所定外労働時間)の合計が、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲で、それぞれの上限をあらかじめ設定します。AとBはその範囲内で働かせている限り、相手方の実労働時間を把握しなくても労働基準法を守れる形になります。割増賃金は、Aが自らの事業場の法定外労働時間について、Bが自らの事業場の労働時間について支払います。
ガイドラインは、上限の合計を80時間を超える設定にすると翌月以降の調整が必要になり得るため、そうした調整が生じないように労使の合意で上限を定めることが望ましいとしています。
介護施設が副業・兼業について就業規則で定めること
施設側が就業規則で整えておくこと
ガイドラインは、副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うため、届出制など有無・内容を確認する仕組みを設けておくことが望ましいとしています。就業規則には、原則として副業・兼業を行うことができること、例外的に禁止・制限できる4つの場合に該当するときは制限できること、届出の手続を定めるのが基本形です。届出時に確認する事項としては、相手先の事業内容、従事する業務内容、労働時間の通算の対象になるかどうか、所定労働日と所定労働時間、始業・終業時刻などが挙げられています。
シフトを組む側の実務
介護施設で現実的に効くのは、夜勤明けの当日に副業を入れない、週の通算労働時間の上限をあらかじめ合意しておく、副業先の勤務が確定したら月初にシフト調整を行う、という3つの運用です。管理モデルを採用すると相手先の実労働時間を毎回確認せずに済むため、複数事業所を掛け持ちする職員が複数いる施設ほど負担が下がります。
職員側が知っておきたい保険と税の扱い
労災保険は、副業・兼業をしているかにかかわらず、労働者を1人でも雇用していれば加入手続が必要です。令和2年法律第14号による改正で、災害が発生していない就業先の賃金額も合算して労災保険給付を算定し、複数の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行う扱いになりました。両方で雇用されている場合、一方の就業先から他方への移動中の災害は通勤災害の対象になります。
雇用保険は、複数の事業主に雇用され、それぞれで被保険者要件を満たす場合、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。令和4年1月からは、65歳以上の労働者本人の申出を起点に、2つの事業所の労働時間を合算して適用する制度が試行的に始まっています。
厚生年金保険と健康保険は事業所ごとに適用要件を判断します。どちらの事業所でも要件を満たさない場合は、労働時間を合算しても適用されません。両方で被保険者要件を満たす場合は、いずれかの事業所を選択して届け出て、各事業所の報酬月額を合算して標準報酬月額を算定し、各事業主が報酬額で按分した保険料を納付します。
副業・兼業のよくある質問
Q就業規則で副業を全面禁止にしてもよいですか。
厚生労働省のガイドラインは、裁判例の立場として労働時間以外の時間の使い方は基本的に労働者の自由であり、制限できるのは労務提供上の支障、業務上の秘密の漏洩、競業による自社の利益の侵害、名誉・信用の毀損や信頼関係の破壊の4つの場合とされていると整理しています。全面禁止の規定は、これらに当たらない副業まで縛るため実効性が弱いと考えるべきです。
Q別の法人の施設で働く場合も労働時間は通算されますか。
通算されます。労働基準法第38条第1項の「事業場を異にする場合」には事業主を異にする場合も含まれると解されており、ガイドラインも昭和23年5月14日付け基発第769号を引いて明示しています。
Q業務委託で講師や執筆の仕事をする場合はどうなりますか。
労働基準法が適用されない働き方は労働時間の通算の対象外です。ガイドラインはフリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事などを例示しています。ただし過労で本業に支障が出ないよう、就業時間を把握して配慮することが望ましいとされています。
Q副業先で働いた分だけ本業の有給休暇は増えますか。
増えません。年次有給休暇は労働時間に関する規定ではないため通算されず、それぞれの事業場での勤務実績にもとづいて別々に付与されます。休憩と休日も同様に通算されません。
Q36協定の限度時間も合算して考えるのですか。
36協定で延長できる限度時間と特別条項による1年の延長時間の上限は、事業場ごとの協定の内容を規制するものなので通算しません。一方、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内という要件は労働者個人の実労働時間に着目するため通算されます。
Q届出を忘れていた職員を懲戒処分できますか。
慎重な判断が必要です。ガイドラインは、形式的に就業規則の規定に抵触しても、職場秩序に影響せず労務提供に支障を生じない程度・態様のものは禁止違反に当たらないとして懲戒処分を認めなかった裁判例を紹介しています。まず実質的な支障の有無を確認するのが先です。
Q管理モデルを使うと何が楽になりますか。
あらかじめ設定した上限の範囲内で働かせている限り、相手先の実労働時間を毎回把握しなくても労働基準法を守れる形になります。上限は、先に契約した使用者の法定外労働時間と後から契約した使用者の労働時間の合計が単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲で設定します。
副業・兼業の参考文献・出典
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副業・兼業のまとめ
副業・兼業は原則として認める方向で制度が整理されており、制限できるのは労務提供上の支障、秘密の漏洩、競業、名誉・信用の毀損という4つの場合に限られます。実務の中心は、雇用契約どうしの場合に労働時間が通算されるという労働基準法第38条第1項の扱いです。所定労働時間は契約の先後、所定外労働時間は発生順という順序を押さえ、負担が重ければ管理モデルに切り替えます。年次有給休暇と休憩・休日は通算されないこと、労災は複数就業先の賃金を合算して算定されることも、施設側と職員側の双方が知っておきたい点です。介護は掛け持ちが成立しやすい分野だからこそ、届出制と上限の合意という仕組みを先に作っておくと現場が回ります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。