
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、一定期間を平均して週の労働時間が法定内に収まれば、特定の日や週に法定労働時間を超えて働かせられる制度です。介護の16時間夜勤を支える1か月単位・1年単位の要件と残業代の計算順序を、労働基準法の条文から整理します。
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、一定の期間を平均して1週間あたりの労働時間が法定労働時間(原則40時間)を超えなければ、あらかじめ特定した日や週については1日8時間・1週40時間を超えて働かせても時間外労働にならない、という労働基準法上の仕組みです。介護施設で16時間夜勤や早番・遅番を組めるのは、多くの場合この制度を採用しているためです。ただし「導入すれば残業代が要らなくなる制度」ではなく、シフトを事前に特定することと、期間全体の総枠を守ることが厳格に求められます。
目次
変形労働時間制が介護現場で必要になる理由
労働基準法32条は、使用者は労働者に休憩時間を除いて1週間について40時間を超えて、また1週間の各日については1日8時間を超えて労働させてはならないと定めています。この原則をそのまま当てはめると、介護施設で一般的な16時間拘束の夜勤は、その日のうちに8時間分の時間外労働が発生することになります。
「特定された日」に上限を移し替える仕組み
変形労働時間制は、この1日8時間・1週40時間という上限を、期間全体の平均で満たせばよいという形に組み替えます。労働基準法32条の2は、労使協定または就業規則その他これに準ずるものによって、1か月以内の一定期間を平均し1週間あたりの労働時間が40時間を超えない定めをしたときは、特定された週や特定された日についてはその上限を超えて労働させることができると規定しています。つまり、シフト表で「この日は16時間勤務」とあらかじめ特定しておけば、その16時間は所定労働時間として扱われ、時間外労働にはなりません。
あらかじめ特定することが絶対条件
逆に言えば、事前の特定がなければこの制度は機能しません。厚生労働省のリーフレットは、1か月単位の変形労働時間制について、対象期間すべての労働日ごとの労働時間をシフト表や施設カレンダーなどであらかじめ具体的に定める必要があり、特定した労働日または労働日ごとの労働時間を任意に変更することはできないと明記しています。人員が足りないからと当日にシフトを差し替える運用が常態化していれば、制度の前提が崩れ、法定労働時間を超えた分は本来の時間外労働として扱われます。
労働基準監督署への届出
1か月単位を労使協定で定めた場合の届出義務は労働基準法32条の2第2項に、1年単位の届出義務は同法32条の4第4項が準用する形で定められています。届出を怠った場合は労働基準法120条により30万円以下の罰金の対象です。
変形労働時間制の4類型と、介護施設で使える型
労働基準法が定める4つの型
- 1か月単位(32条の2): 1か月以内の期間を平均して週40時間以内。労使協定または就業規則で定められる。介護施設で最も広く使われる型。
- フレックスタイム制(32条の3): 始業・終業時刻を労働者本人の決定に委ねる型。清算期間は3か月以内。介護では事務職や相談員には使えても、シフトで人員配置基準を満たす必要のある現場職には向きにくい。
- 1年単位(32条の4): 1か月を超え1年以内の期間を平均して週40時間以内。繁閑の差が年単位である事業向け。労使協定が必須で、就業規則だけでは導入できない。
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制(32条の5): 1日10時間まで認められるが、労働基準法施行規則12条の5により対象事業は小売業、旅館、料理店、飲食店に限られ、常時使用する労働者数も30人未満に限られる。介護事業所は対象外。
1年単位を選ぶ場合の限度
労働基準法施行規則12条の4は、対象期間が3か月を超える場合の労働日数の限度を1年あたり280日と定め、1日の労働時間の限度を10時間、1週間の労働時間の限度を52時間としています。また、連続して労働させる日数の限度は6日、特定期間(対象期間中で特に業務が繁忙な期間)については1週間に1日の休日が確保できる日数までとされています。対象期間が3か月を超えるときは、労働時間が48時間を超える週が連続する場合の週数が3以下であることなどの条件も加わります。
1か月単位の総枠と、小規模事業場の週44時間特例
暦日数ごとの労働時間の総枠
1か月単位で対象期間を1か月とした場合、その期間に働かせられる労働時間の上限(総枠)は、週40時間を基準にすると次のとおりです(厚生労働省リーフレット「1か月単位の変形労働時間制」)。
- 暦日数28日: 160.0時間
- 暦日数29日: 165.7時間
- 暦日数30日: 171.4時間
- 暦日数31日: 177.1時間
シフトを組んだ結果この総枠を超えていれば、超えた分は時間外労働として割増賃金の対象になります。シフト作成の段階で総枠を計算しておくことが、後からの未払い発生を防ぐ最も確実な方法です。
常時10人未満の事業場は週44時間
労働基準法施行規則25条の2は、保健衛生業などのうち常時10人未満の労働者を使用する事業場について、1週間44時間・1日8時間まで労働させることができると定めています。小規模な事業所ではこの特例により総枠が広がりますが、1年単位の変形労働時間制にはこの44時間特例は適用されず、40時間で計算します(労働基準法32条の4第1項が「40時間」と明記)。
導入状況
厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、変形労働時間制を採用している企業割合は60.2%で、種類別(複数回答)では1年単位が30.3%、1か月単位が26.4%、フレックスタイム制が8.3%、1週間単位の非定型的変形労働時間制が1.1%でした。適用を受ける労働者の割合は50.5%です。同調査では医療・福祉分野の1企業平均の1日所定労働時間は7時間51分、週所定労働時間は39時間23分と、全産業平均(7時間49分、39時間24分)とほぼ同水準になっています。
変形労働時間制でも残業代が発生する3段階の判定
変形労働時間制を採用していても、時間外労働がなくなるわけではありません。厚生労働省のリーフレットは、割増賃金の対象となる時間を次の順序で判定するとしています。重複してカウントしないよう、上から順に拾っていくのが要点です。
第1段階: 1日単位
8時間を超える時間を定めた日については、その定めた時間を超えて働いた分。8時間以下を定めた日については、8時間を超えて働いた分。たとえば16時間の夜勤を特定した日に17時間働けば、超過した1時間が時間外労働です。
第2段階: 1週単位
40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える時間を定めた週はその定めた時間を超えた分、それ以外の週は40時間を超えた分。第1段階で拾った時間は除きます。
第3段階: 対象期間単位
対象期間における法定労働時間の総枠を超えて働いた分。第1段階・第2段階で拾った時間は除きます。
この3段階を経て残った時間には、労働基準法37条に基づく割増賃金を支払う必要があります。加えて、深夜(原則として午後10時から午前5時まで)の労働には変形労働時間制かどうかに関係なく25%以上の深夜割増が必要です。夜勤の大半はこの深夜帯に重なるため、変形労働時間制の採用が深夜割増を免除する理由にはなりません。
変形労働時間制を運用するときの実務チェック
管理者が確認すべきこと
- 就業規則または労使協定に、対象労働者の範囲・対象期間・起算日・労働日ごとの労働時間・(労使協定の場合は)有効期間がすべて定められているか。
- シフト表が対象期間の開始前に確定し、職員に周知されているか。事後に配布する運用になっていないか。
- 対象期間の総枠を計算し、シフト作成時点で超過していないか。
- 労働基準監督署への届出が済んでいるか。
職員側が確認できること
雇用契約書や就業規則に「1か月単位の変形労働時間制」といった記載があるか、シフト表がいつ確定するか、実際の勤務が特定された時間とどれだけずれているかの3点を押さえておくと、給与明細の時間外労働時間数が妥当かを自分で検算できます。ずれが常態化しているのに割増賃金が支払われていない場合は、勤務実績の記録を残したうえで事業所または労働基準監督署に相談する道があります。
配慮義務
厚生労働省のリーフレットは、育児を行う者、老人などの介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別の配慮を要する者について、必要な時間を確保できるよう配慮しなければならないとしています。また、妊産婦が請求した場合には、1か月単位の変形労働時間制を適用できません。
変形労働時間制のよくある質問
Q変形労働時間制なら残業代は一切出ないのですか。
出ます。1日単位・1週単位・対象期間単位の3段階で判定し、特定された時間や法定の総枠を超えた分には労働基準法37条の割増賃金が必要です。また深夜労働の割増(25%以上)は変形労働時間制でも免除されません。
Qシフトを後から変更されました。問題ないのでしょうか。
厚生労働省のリーフレットは、特定した労働日または労働日ごとの労働時間を任意に変更することはできないとしています。就業規則に定めた限定的な変更事由に該当しない差し替えが常態化している場合、変形労働時間制の前提が崩れ、法定労働時間を超えた分は時間外労働として扱われます。
Q介護施設で1週間単位の非定型的変形労働時間制は使えますか。
使えません。労働基準法施行規則12条の5により対象事業は小売業、旅館、料理店、飲食店に限られており、介護事業所は含まれていません。
Q1か月単位は就業規則だけで導入できますか。
労働基準法32条の2は、労使協定または就業規則その他これに準ずるものによる、と定めているため就業規則だけでも導入できます。ただし1年単位(32条の4)は労使協定が必須で、就業規則だけでは導入できません。
Q小さな事業所で週44時間と言われました。正しいですか。
労働基準法施行規則25条の2により、保健衛生業などで常時10人未満の労働者を使用する事業場は週44時間・1日8時間まで認められています。ただしこの特例は1年単位の変形労働時間制には適用されず、40時間で計算します。
変形労働時間制の参考資料
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変形労働時間制のまとめ
変形労働時間制は、介護の交代制勤務を法定労働時間の枠内に収めるための仕組みであり、残業代の免除装置ではありません。要点は、対象期間の労働日ごとの労働時間をあらかじめ特定すること、対象期間の総枠を守ること、そして1日・1週・期間の3段階で時間外労働を判定して割増賃金を支払うことの3つです。1週間単位の型は介護事業所では使えず、1年単位には週44時間の特例が及ばない点も、制度選択の段階で押さえておきたい違いです。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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