
interRAIとは
interRAI(インターライ)は、国際非営利研究機関が開発する高齢者ケアの標準化評価ツール群。LTCF(施設)・HC(在宅)など複数バージョンと、CGA・LIFEとの関係、日本での導入状況を解説します。
この記事のポイント
interRAI(インターライ)は、カナダ・米国・欧州の研究者ネットワークが運営する国際非営利研究機関、および同機関が開発・維持する高齢者・障害者ケア用の標準化評価ツール群の総称です。施設用(LTCF)、在宅用(HC)、急性期用(AC)、メンタルヘルス用(MH)など30以上の評価バージョンを持ち、世界40か国以上で使われています。日本でもLIFE時代の科学的介護を補完する国際標準アセスメントとして、一部の老健・特養で導入研究が進んでいます。
目次
interRAIの正式名称と組織
interRAIは「International Resident Assessment Instrument」の略で、もともとは1990年代初頭に米国の介護施設(ナーシングホーム)で義務化されたRAI/MDS(Resident Assessment Instrument / Minimum Data Set)を国際化する目的で結成された研究者ネットワークが起源です。現在はカナダ・米国・欧州・オセアニア・アジアの研究者が参加する国際非営利組織(NPO)として、ウォータールー大学(カナダ)に事務局を置き、評価ツールの開発・維持・国際比較研究を行っています。
interRAIは「個人の機能・健康・社会的支援を多面的にとらえる包括的アセスメント(CGA)を、各国・各セッティングで共通のデータ項目で記録し、国際比較・エビデンス蓄積につなげる」というミッションを掲げており、評価ツールそのものは無償・オープンに公開されています(実装ソフトのみ各国でライセンス制)。
世界での普及
カナダでは全州の長期療養施設(LTC)でinterRAI LTCFが制度的に義務化されており、年間40万件以上のアセスメントが標準化データとしてCIHI(カナダ保健情報機構)に集約されています。米国・フィンランド・ベルギー・ニュージーランド・韓国などでも公的制度の一部として採用が進んでおり、国際的には介護版「電子カルテの共通言語」として機能しています。
interRAIの主要バージョン一覧
interRAIの主要バージョン一覧(ケアセッティング別)
interRAIは単一のツールではなく、ケアを提供する場面(セッティング)ごとに最適化された複数のバージョンが用意されています。代表的なものは以下のとおりです。
| 略号 | 正式名称 | 対象セッティング | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| LTCF | Long-Term Care Facilities | 長期療養施設・特養・老健相当 | 入所者の包括的アセスメント・ケアプラン策定 |
| HC | Home Care | 在宅介護・訪問サービス | 在宅利用者のADL/IADL・サービス必要度評価 |
| CHA | Community Health Assessment | 地域在住高齢者 | 地域包括ケアでの早期スクリーニング |
| AC | Acute Care | 急性期病院 | 入院時の機能評価・退院支援 |
| PC | Palliative Care | 緩和ケア・終末期 | 症状管理・QOL評価 |
| MH | Mental Health | 精神科入院 | 精神症状・行動評価 |
| CMH | Community Mental Health | 地域精神保健 | 地域精神医療・社会復帰支援 |
| ID | Intellectual Disability | 知的障害ケア | 知的障害者の支援必要度評価 |
| ChYMH | Child and Youth Mental Health | 児童・思春期精神保健 | 未成年のメンタルヘルス評価 |
多くのバージョンで評価項目の約7〜8割が共通設計(共通コア項目)となっており、セッティングが変わってもデータが連続的に追跡できるよう設計されています。たとえば韓国版の比較研究では、LTCF(274項目)とHC(267項目)のうち204項目が共通項目でした。
共通する評価ドメイン
- ADL(日常生活動作):移動・食事・排泄・更衣の自立度
- 認知機能:CPS(Cognitive Performance Scale)等の組み込みスコア
- コミュニケーション・視聴覚
- 気分・行動:DRS(Depression Rating Scale)等
- 健康状態・服薬・疼痛
- 社会的支援・参加
- サービス利用状況
interRAIとCGA・LIFEの違い
interRAIは、日本の介護現場で耳にする「CGA(高齢者総合機能評価)」「LIFE(科学的介護情報システム)」と性格が異なります。3者の位置づけを整理します。
| 項目 | interRAI | CGA | LIFE |
|---|---|---|---|
| 分類 | 標準化アセスメントツール群 | 評価の概念・方法論 | 厚労省の情報収集・フィードバック制度 |
| 提供主体 | 国際NPO interRAI | 老年医学領域の専門家 | 厚生労働省 |
| 評価項目数 | 250〜300項目(バージョン別) | 4〜10領域(実施者により可変) | 加算別の様式(数十項目) |
| 標準化レベル | 国際標準・共通項目あり | 枠組みは共通だが具体ツールは多様 | 厚労省様式で全国統一 |
| 義務化 | カナダ・米国等で公的義務 | 義務ではない | 加算取得時の提出が必須 |
| 主目的 | ケアプラン策定+データ蓄積 | 多面的な高齢者評価 | 科学的介護のPDCA |
| 国際比較 | 可能(40か国超) | 困難(ツール非統一) | 不可(日本独自) |
3者の関係
概念上は、CGAという広い枠組みの中に、その国際標準ツールの一つとしてinterRAIが位置すると理解するとわかりやすいです。CGAはADL・認知・うつ・社会的支援などを多面的に見るという「考え方」であり、それを具体的にどのチェック表で測るかは現場ごとに異なります。interRAIはその「具体ツール」のうち、国際的に標準化された包括版という位置づけです。
LIFEは日本独自の制度であり、目的は「全国の介護事業者からデータを集めて科学的介護を推進する」点にあります。interRAIが「個人の包括評価+国際比較データ」を志向するのに対し、LIFEは「日本国内の加算制度と連動した最低限のデータ収集」が中心です。両者は競合ではなく、interRAIをLIFE提出データの前段アセスメントとして使う動きも研究レベルで進んでいます。
日本での導入状況
日本では、慶應義塾大学・東京大学・国立長寿医療研究センターなどの研究者を中心に日本interRAI学会が組織されており、interRAI日本語版の標準化と実装研究が進められています。現状は制度的義務化には至っておらず、研究・実装フェーズにあります。
1. 日本interRAI学会による日本語版整備
interRAI HCおよびLTCFの日本語版が公開され、研究グループによる信頼性・妥当性検証が国際誌で報告されています。日本の介護保険制度(要介護認定)と直接の互換性はありませんが、要介護度との相関を確認した研究も複数発表されています。
2. 老健・特養での試験運用
一部の介護老人保健施設(老健)・特別養護老人ホーム(特養)で、interRAI LTCFを既存のケアプラン策定プロセスに組み込む試験運用が行われています。多くは研究プロジェクトの一環で、職員へのトレーニングと評価者間信頼性(Inter-rater reliability)の確認とセットで導入されています。
3. 在宅領域でのHC活用
訪問看護・居宅介護支援事業所で、interRAI HCをアセスメント補助ツールとして活用する事例も出てきています。とくに看護と介護の連携が重要となる訪問看護領域で、共通項目を持つことが多職種連携の言語として機能しやすい点が評価されています。
4. 制度化への課題
日本での全国展開には、(1)アセスメント時間の長さ(1ケース60〜90分程度)、(2)職員トレーニングコスト、(3)既存の要介護認定・LIFE様式との重複、という3つの実務課題があります。当面はLIFEとの併存・補完関係の中で、特定の領域(認知症ケア・複雑ケース・国際比較研究)から段階的に広がる見通しです。
現場で活かすinterRAIの視点
制度として導入していなくても、interRAIの考え方は日常のアセスメント精度を高める参考になります。介護現場で実践的に活かせる視点を3つ紹介します。
1. 「強み」も評価項目に含める
interRAIの大きな特徴は、できないことだけでなく「残存機能」「本人の希望」「社会的支援の有無」を必ず記録する点です。ケアプラン作成時に「○○ができない」リストだけでなく、「○○なら自分でできる」「家族の訪問頻度」「趣味活動への参加」といった強み軸を1ページ目に置くだけでも、利用者中心ケア(PCC)に近づきます。
2. 同じ尺度で経時変化を追う
ADL・認知・気分について、毎回同じスコア(例:Barthel Index、HDS-R、GDS-15等)で記録すると、半年・1年単位の変化が客観的に見えるようになります。interRAIが目指す「データで状態変化を追う」発想は、LIFE加算の活用とも親和性が高いです。
3. 多職種で同じデータを見る
看護・リハ・介護で別々のアセスメント用紙を使っている事業所は多いですが、共通項目(ADL・認知・痛み・服薬数)だけでも揃えるとカンファレンスの議論が早くなります。これはinterRAIの「共通コア項目」の発想の応用です。
interRAIに関するよくある質問
Q1. interRAIは日本の介護施設で使う義務がありますか?
2026年5月時点で、interRAIの使用は日本では制度的に義務化されていません。要介護認定や介護報酬の加算様式(LIFE提出など)が公的な必須アセスメントであり、interRAIは研究・現場改善のための任意ツールという位置づけです。
Q2. interRAIとLIFEはどちらを使えばよいですか?
LIFEは介護報酬の加算取得に必須なので、加算を取る事業所は必ず提出が必要です。interRAIはそれとは独立した国際標準アセスメントで、ケアプランの質を上げたい・国際的なデータと比較したい場合の補完ツールとして使われます。両者は競合ではなく重ね合わせて使えます。
Q3. interRAIを習得するのにどれくらい時間がかかりますか?
看護・介護経験のある専門職を対象とした標準的なトレーニングは数日〜1週間程度ですが、評価者間信頼性を担保するためには、実地での評価経験と症例検討を継続的に積む必要があります。1ケースの評価所要時間は最初60〜90分程度で、慣れると30〜45分程度まで短縮されます。
Q4. interRAIのデータは厚労省に提出するのですか?
interRAIは国際NPOが管理する評価ツールであり、日本では厚労省への提出義務はありません。研究プロジェクトの一環で集約される場合や、各国のレジストリ(カナダのCIHIなど)に集まる場合はありますが、日本の事業所が単独で使う場合はあくまで内部のアセスメントツールです。
Q5. 介護職員でもinterRAIを使えますか?
項目の記入自体は介護福祉士・看護師など現場職員が行えるよう設計されています。ただし、認知機能スコアやうつ評価などは観察に一定の訓練が必要なため、所定のトレーニングを受けた上で多職種チームとして実施するのが標準的な使い方です。
出典
- interRAI公式|Instruments(評価ツール一覧)
- interRAI公式トップページ
- CIHI(カナダ保健情報機構)|Understanding interRAI LTCF, HC and CA
- Kim H et al. (2015)「Reliability of the interRAI LTCF and HC」Geriatrics & Gerontology International(評価項目の信頼性研究)
- Optimizing the InterRAI Assessment Tool in Care Planning Processes for Long-Term Residents(PMC スコーピングレビュー)
- 厚生労働省|科学的介護情報システム(LIFE)について(比較対象としてのLIFE)
まとめ
interRAIは、施設・在宅・急性期・精神保健など多様なケアセッティングをカバーする国際標準の高齢者ケア評価ツール群です。日本では制度的義務化には至っていませんが、CGAの具体ツールの一つとして、またLIFEを補完する国際標準アセスメントとして老健・特養・訪問看護で導入研究が進んでいます。ケアの質を客観的に評価し、多職種で同じデータを見るという発想は、制度導入の有無にかかわらず日々のアセスメントに活かせます。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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