
甲状腺機能低下症とは
甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの分泌不足で全身の代謝が低下する疾患。倦怠感・浮腫・物忘れ等の症状は加齢と紛らわしく、高齢者で見逃されがち。治療可能。
この記事のポイント
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモン(T3・T4)の分泌が不足し、全身の代謝が低下する内分泌疾患です。倦怠感・寒がり・浮腫・体重増加・徐脈・便秘・物忘れなど多彩な症状を呈し、高齢者では加齢や認知症と紛らわしいため見逃されがちですが、血液検査(TSH高値・FT4低値)で診断でき、レボチロキシン補充療法で改善が期待できる治療可能な疾患です。
目次
甲状腺機能低下症の基礎知識
甲状腺は喉仏の下にある蝶ネクタイ型の臓器で、甲状腺ホルモン(T3:トリヨードサイロニン、T4:サイロキシン)を分泌し全身の代謝を調節します。これらのホルモンが不足する状態が甲状腺機能低下症です。
原因は橋本病(慢性甲状腺炎)が最多で、自己免疫機序により甲状腺組織が破壊されます。日本人女性の有病率は推定2〜3%、男性は0.2%程度で、加齢とともに増加します。70歳以上では女性の10%程度に潜在性機能低下症が認められるとする報告もあります。
高齢者では症状が「年齢のせい」「認知症の進行」と片付けられ診断が遅れることが多く、日本甲状腺学会は65歳以上の倦怠感・浮腫・物忘れ症例に対しTSH測定を推奨しています。
高齢者に出やすい症状7つ
- 倦怠感・易疲労感:「最近やる気がない」「動きたがらない」と家族に訴える
- 浮腫(粘液水腫):顔・手足のむくみ。指で押しても凹まない非圧痕性浮腫が特徴
- 寒がり:冷房・冬の寒さに対する耐性低下。手足の冷えを訴える
- 便秘:腸蠕動の低下による頑固な便秘
- 徐脈・低血圧:心拍数が60を下回り、起立性低血圧をきたす
- 物忘れ・思考力低下:認知症と紛らわしい症状
- 抑うつ気分:意欲低下、抑うつ症状
これらの症状が複数同時に出現する場合は内科でTSH・FT4の血液検査を依頼します。
診断と治療の流れ
甲状腺機能低下症は血液検査で確定診断でき、内服薬で良好にコントロール可能な疾患です。
1. 血液検査
TSH(甲状腺刺激ホルモン)が高値、FT4(遊離サイロキシン)が低値であれば顕性機能低下症。TSHのみ高値の場合は潜在性機能低下症と判断します。橋本病の鑑別には抗甲状腺抗体(TgAb・TPOAb)を測定します。
2. レボチロキシン補充療法
レボチロキシン(チラーヂンS)を朝食前に内服します。開始量は12.5〜25μgと少量からで、4〜6週間ごとにTSHを再測定し用量を調整します。高齢者・心疾患合併例ではゆっくりした増量が原則です。
3. 長期フォロー
橋本病による機能低下症は基本的に終生服薬。半年〜1年ごとのTSH測定で用量を維持します。妊娠・体重変動・併用薬で用量調整が必要なことがあります。
甲状腺機能低下症のよくある質問
Q. 認知症と思っていた症状が治る可能性はありますか?
A. はい。「認知症の影に甲状腺機能低下症」が隠れているケースは少なくありません。レボチロキシン補充で2〜3か月後に意欲・思考速度・記憶力が改善する例が報告されています。認知症診断の前にTSH測定を含む「治療可能な認知症の除外検査」を行うことが推奨されています。
Q. 介護現場で気づくきっかけは?
A. 「以前より動きが遅くなった」「顔がむくんでいる」「便秘が頑固」「寒がりになった」などの変化が複数同時に出ているケースは、まず医療職に相談しTSH測定を主治医に提案してもらう流れが現実的です。
Q. 食事で改善できますか?
A. 食事だけで治癒することはありませんが、ヨウ素過剰摂取(海藻類の大量摂取)は甲状腺機能を悪化させることがあります。橋本病患者は昆布だしや海藻の摂りすぎに注意が必要です。
参考文献・出典
- [1]甲状腺機能低下症(橋本病)診療ガイドライン- 日本甲状腺学会
- [2]高齢者甲状腺疾患診療マニュアル- 日本老年医学会
- [3]治療可能な認知症(Treatable Dementia)- 国立長寿医療研究センター
- [4]認知症診療ガイドライン- Minds
- [5]e-ヘルスネット 甲状腺の働き- 厚生労働省
まとめ
甲状腺機能低下症は、加齢や認知症と紛らわしい多彩な症状を呈する一方、血液検査で確実に診断でき内服薬で良好にコントロールできる「治療可能な疾患」の代表です。介護現場で「最近活気がない」「むくみがある」「寒がる」「便秘が頑固」といったサインを複数認めたら、医療職と連携し甲状腺機能検査を提案する視点が、利用者の隠れた疾患を救う鍵になります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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