メタバース×介護とは

メタバース×介護とは

メタバース×介護を解説。仮想空間で高齢者の社会参加・家族の遠隔訪問・職員研修を実現する3つの応用シーンと、CAREVERSEや認知症体験プラットフォームなど国内事例、導入の課題を整理。

ポイント

この記事のポイント

メタバース×介護とは、3D仮想空間(メタバース)を介護現場に応用する取り組みの総称です。代表的な用途は(1)高齢者の社会参加・交流、(2)離れて暮らす家族の遠隔訪問、(3)介護職員の研修・認知症体験の3領域。VR機器が不要なPC・スマホで参加できる事例も増え、2024年以降は介護施設・福祉法人での実証が広がっています。

目次

メタバースとは

メタバース(Metaverse)は、インターネット上の3D仮想空間で、利用者がアバター(自分の分身)として入り、他のユーザーと会話したりイベントに参加したりできる環境を指します。VRゴーグルを使う没入型のものから、PCやスマートフォンのブラウザで動く軽量なものまで形態は幅広く、「Second Life」や「VRChat」「cluster」などのプラットフォームが代表例です。

介護分野で注目される背景には、(1)外出が難しい高齢者の社会参加機会の確保、(2)遠方家族との心理的距離の縮小、(3)OJTで体験困難な認知症高齢者の感覚を介護職員が追体験できる教育効果、という3つの介護課題との親和性があります。経済産業省と厚生労働省は2024年6月、「ロボット技術の介護利用における重点分野」を「介護テクノロジー利用の重点分野」へ改訂し、ICT・AI・通信技術全般を含む広い概念として整理しました。メタバースもこの「介護テクノロジー」の一部として位置づけられつつあります。

ただしメタバースは介護報酬上の加算項目ではなく、現時点では補助金や実証事業ベースでの導入が中心です。VR酔いや操作習熟、通信環境、コスト負担など実装上の課題も多く、「全ての施設で標準導入される技術」ではなく「特定の目的に合致するときに有効な選択肢」と理解するのが実情に即しています。

介護現場での3つの応用シーン

  1. 高齢者の社会参加・交流 ― 二次元メタバース「CAREVERSE」のように、介護事業者が利用者の家族や地域住民とコミュニティを築けるプラットフォームが登場。福岡県の事例では、県内3カ所の会場から約10名の高齢者がメタバース上の交流会に参加し、外出困難な層にも他者とつながる場が提供された。アバターを使うことで「身体能力の差が出ない」「年齢・容姿のラベルから解放される」という効果があり、孫世代と同じ条件でイベントに参加できる点も評価される。
  2. 離れて暮らす家族の遠隔訪問 ― 施設入居中の高齢者と遠方の家族がアバターで同じ仮想空間に集まり、面会や誕生日会を行う取り組み。ビデオ通話と異なり「同じ場所にいる感覚」が生まれやすく、孫が祖父母と仮想空間で散歩する、といった体験が可能。コロナ禍で対面面会が制限された時期に注目され、その後も遠方家族との関係維持に活用が続いている。
  3. 介護職員の研修・認知症体験 ― 静岡大学とアルファコードが共同開発したPX(Patient eXperience)プラットフォームでは、認知症の人が見ている世界や感じている感覚をVRで追体験できる。「家族の顔がわからない不安」「見当識を失った混乱」などを職員が没入体験することで、利用者中心ケア(パーソン・センタード・ケア)の理解を深める教育ツールとして導入が広がる。さらに移乗介助や急変対応の手順をVR教材化する事例もあり、新人研修コストの削減に寄与する。

メタバース×介護に関する主要データ

項目数値・内容出典
「介護テクノロジー利用の重点分野」改訂2024年6月、経産省・厚労省が従来の「ロボット技術」枠を撤廃し、ICT・AI・通信を含む広義の介護テクノロジーへ拡張経済産業省(2024)
福岡県のメタバース交流会参加県内3会場から約10名の高齢者が参加(株式会社シティアスコム)事例公開資料(2023)
認知症VR体験プラットフォーム静岡大学×アルファコードが共同開発、介護職・医療職向けに提供アルファコード プレスリリース(2023)
VRゴーグルなしで参加可能なプラットフォームcluster・CAREVERSE等はPC・スマホブラウザのみで利用可能、機器コスト負担を低減各プラットフォーム公式
導入時の主な課題VR酔い、高齢者の操作習熟、通信環境、初期投資(VR機器1台あたり3〜10万円程度)福祉×メタバース実証事業報告(複数)

※介護報酬上の専用加算はないため、補助金(IT導入補助金、介護ロボット導入支援事業の一部)や法人独自予算での導入が中心。

導入を検討する施設・職員への実務ヒント

  • 小さく始める ― VRゴーグルを大量導入する前に、PC・タブレットで参加できる軽量メタバース(cluster等)で体験会を実施し、利用者の反応を確認する。
  • 「目的→技術」の順で検討 ― 「メタバースを使いたい」ではなく「外出困難な利用者の社会参加機会を増やしたい」「新人の認知症理解を深めたい」など、解決したい課題を先に定義する。
  • VR酔い対策 ― 短時間(10〜15分)から開始、座位で体験、移動を伴う場面はテレポート操作にする等の配慮で初心者の脱落を防ぐ。
  • 家族との合意形成 ― 遠隔面会で利用する場合、家族側のデバイス準備や操作レクチャーが必要。導入前に家族会で説明会を開く。
  • 補助金活用 ― IT導入補助金、介護テクノロジー導入支援事業(自治体ベース)の対象になる場合がある。事前に都道府県・市区町村の福祉課に確認する。

よくある質問

Q. 高齢者がVRゴーグルを使うのは難しくないですか?

A. VRゴーグル型は確かに装着や操作に慣れが必要ですが、近年はPC・スマートフォン・タブレットのブラウザだけで参加できるメタバースが増えています。施設では職員が操作補助に入る前提で、まずは机上のタブレット参加から始めるのが現実的です。

Q. メタバース導入に介護報酬の加算はありますか?

A. 2026年5月時点で、メタバース導入を直接の算定要件とする介護報酬加算はありません。介護テクノロジー全般の導入補助としてIT導入補助金や自治体の介護テクノロジー導入支援事業の対象になる場合があるため、各都道府県の福祉課に確認が必要です。

Q. 家族の遠隔訪問はビデオ通話と何が違いますか?

A. ビデオ通話は「顔が映る平面の窓」ですが、メタバースは「同じ空間に立っている感覚」を得やすく、孫と仮想空間で散歩する・一緒にイベントに参加するなど、共同体験を共有できる点が異なります。一方で導入コストや操作習熟は通話より高いため、目的に応じた使い分けが重要です。

Q. 認知症VR体験は職員研修にどう役立ちますか?

A. 認知症の方の見えている世界・感じている感覚を疑似体験することで、「なぜ夕方になると落ち着かないのか」「なぜ同じ質問を繰り返すのか」を頭ではなく身体で理解できる効果が報告されています。パーソン・センタード・ケアやユマニチュード研修の補完教材として導入する施設が増えています。

まとめ

メタバース×介護は、外出困難な高齢者の社会参加・遠方家族との心理的距離の縮小・認知症体験を含む職員研修という3つの介護課題と高い親和性があります。2024年の経産省・厚労省による「介護テクノロジー利用の重点分野」改訂で、メタバースを含む広義のテクノロジー活用が政策レベルで後押しされる流れが強まりました。一方で介護報酬上の専用加算はまだなく、VR酔いや操作習熟、コストなど現場実装の課題も残ります。「全施設標準」ではなく「目的に合致するときに有効な選択肢」と位置づけ、補助金や軽量プラットフォームから小さく試すアプローチが現実的です。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

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