
MMT(徒手筋力テスト)とは
MMT(徒手筋力テスト)は0〜5の6段階で筋力を評価する世界共通の測定法。各段階の判定基準、主要筋の評価方法、介護現場での活用、ROM訓練やFIM・Berg・TUGとの併用を解説します。
この記事のポイント
MMT(徒手筋力テスト/Manual Muscle Test)は、特別な機器を使わず検者の徒手抵抗だけで筋力を 0〜5の6段階 に評価する世界共通の測定法です。Daniels & Worthingham(1946年初版)と英国MRC(Medical Research Council)が体系化し、MMT3が「重力に抗して全可動域を動かせる」境界として日常生活動作の自立度評価に用いられます。介護現場では移乗・寝返り・起き上がりの可否予測やリハビリ進捗の共通言語として活用されます。
目次
MMTの定義と歴史
MMT(徒手筋力テスト、Manual Muscle Test)は、検者が手で抵抗を加えながら被験者の筋収縮力を確認し、定められた基準に従って0〜5の6段階で点数化する筋力評価法です。リハビリテーション・看護・介護の現場で最も広く使われる筋力指標で、日本理学療法士協会が標準化した評価手順に基づいて実施されます。
歴史的にはアメリカの理学療法士 Lucille Daniels と Catherine Worthingham が1946年に「Muscle Testing: Techniques of Manual Examination」を出版したのが起源で、現在は原著第10版まで改訂が続いています。並行してイギリスのMRC(Medical Research Council)が末梢神経損傷の評価のために同じく0〜5の6段階スケールを定め、両者が世界標準として定着しました。日本では「新・徒手筋力検査法」として津山直一・中村耕三らが翻訳・監修し、医師国家試験必修問題にも各グレードの定義が出題される基礎知識として扱われています。
MMTの特徴は機器が不要な点と、重力と徒手抵抗という共通の物理的負荷で評価するため施設間・職種間で結果を共有できる点です。一方で検者の経験や手技差が結果に影響するため、可能な限り同一検者が経時評価し、必要に応じてハンドヘルドダイナモメーター(HHD)など定量機器と併用するのが望ましいとされています。
0〜5の6段階評価基準
MMTは以下の6段階で筋力を判定します。重力に抗して動かせるかどうかを境界とする MMT3 が臨床的な分水嶺で、日常生活動作の自立度を予測する重要な指標となります。
| 段階 | 呼称 | 判定基準 | 臨床的な意味 |
|---|---|---|---|
| 5 | Normal(正常) | 最大徒手抵抗に抗して全可動域を動かし、最終域を保持できる | 健常レベル。ADLは全自立可能 |
| 4 | Good(優) | 中等度〜強度の抵抗に抗して全可動域を動かせる | 軽い負荷の動作は可能。階段昇降に注意 |
| 3 | Fair(良) | 重力に抗して全可動域を動かせるが抵抗には抗せない | ADL自立の境界。歩行・移乗の可否目安 |
| 2 | Poor(可) | 重力を除けば全可動域を動かせる | 側臥位など重力負荷を抜けば動作可能 |
| 1 | Trace(不可) | 筋収縮は触知できるが関節運動は起こらない | 収縮の維持・促通訓練の対象 |
| 0 | Zero(ゼロ) | 筋収縮が全く触知できない | 完全麻痺。受動的ROM維持が中心 |
実際の臨床ではより細かく 7段階以上(+/-付き) で記録することも多く、たとえば「4-(Good minus)」「3+(Fair plus)」のように中間段階を表します。MRC方式ではこれを「4+」「4-」「3+」「3-」で表記し、特に末梢神経損傷の経時評価で活用されます。
介護現場で評価する主要筋
移乗・歩行・寝返り・起き上がりといったADL(日常生活動作)に関連する筋群は限られています。理学療法士・作業療法士が優先的にチェックする代表的な筋と、それが関わる動作を整理します。
- 肩関節屈曲(三角筋前部・上腕二頭筋):腕を前方から挙上する動作。食事・整容・更衣の前提となる
- 肘関節屈曲(上腕二頭筋・上腕筋):食事を口元に運ぶ・歯磨き・洗顔。MMT3未満で自助具検討
- 手関節背屈(橈側手根伸筋群):杖・歩行器の把持力に直結。MMT3未満で歩行補助具の選定変更
- 股関節屈曲(腸腰筋):寝返り・起き上がり・段差越え。MMT3未満で起居動作介助レベル上昇
- 膝関節伸展(大腿四頭筋):立ち上がり・立位保持・移乗の中心。MMT3が立ち上がり可否の境界
- 足関節背屈(前脛骨筋):つま先のクリアランス。MMT3未満で躓き・転倒リスク高
- 体幹屈曲(腹筋群):起き上がり・座位保持の安定性
- 股関節外転(中殿筋):歩行時の骨盤安定。低下するとトレンデレンブルグ歩行
これら8つを優先的に評価することで、介護負荷の高い動作(移乗・トイレ動作・歩行)の自立度を効率的に見積もれます。
MMTと握力測定・HHDの違い
筋力評価には複数の方法があり、目的に応じて使い分けます。MMTは「全身の筋を網羅できる」「機器不要」が強みですが、定量性では他の方法に劣ります。
| 評価法 | 測定対象 | 機器 | 定量性 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| MMT | 個別筋の徒手抵抗下の筋力 | 不要 | 6段階の順序尺度 | 全身評価・ADL自立度予測 |
| 握力測定 | 手指屈筋の握り込み力(kg) | 握力計 | 連続量(kg) | サルコペニア・フレイル判定 |
| ハンドヘルドダイナモメーター(HHD) | 個別筋の最大等尺性筋力(N) | HHD本体 | 連続量(N) | 研究・術後経過の定量評価 |
| 等速性筋力測定 | 関節運動中の筋出力(Nm) | Cybex等の大型機器 | 連続量(Nm) | スポーツ復帰評価・研究 |
介護現場では MMT+握力測定 の組み合わせが現実的で、握力はサルコペニア診断基準(男性28kg未満・女性18kg未満)にも採用されているためフレイル予防の経時指標として有用です。リハ専門職が在籍する場合はHHDで膝伸展筋力を定量化し、立ち上がり可否を客観的に判定することもあります。
介護現場での観察と他指標との組み合わせ
介護職員(介護福祉士・初任者研修修了者など)はMMTを単独で実施する立場ではありませんが、リハ職や看護師が記録したMMT値を読み取り、日々の介助レベル調整に活かすことが求められます。次の観察ポイントを押さえると、計画書の数値が現場の動作観察と結び付きます。
- 移乗動作で「膝伸展MMT3」を境に介助量が変わる:MMT3以上なら一部介助で立ち上がり可能、MMT2以下なら移乗リフトや2人介助を検討
- 足関節背屈MMTが2以下なら短下肢装具(AFO)の適応:歩行時の躓きが頻発するためベッド周りの段差・敷物を撤去
- 握力低下+下肢MMT低下=サルコペニア疑い:栄養士・歯科衛生士と連携し低栄養・口腔機能低下にも介入
- MMT値の経時悪化は廃用症候群のサイン:離床時間の延長、ROM訓練の併用、活動量の見直しを多職種で検討
MMTは単独指標ではなく、FIM(機能的自立度評価)でADL自立度、Berg Balance Scaleで動的バランス、TUGテストで歩行能力を組み合わせて評価することで、転倒予防・自立支援の計画立案に厚みが出ます。たとえば「膝伸展MMT3/TUG14秒/BBS40点」のように記録すれば、立ち上がりは可能だが歩行中の方向転換に転倒リスクあり、と多面的に解釈できます。
よくある質問
Q. MMTは介護職でも実施できますか?
A. MMTは医師・理学療法士・作業療法士・看護師が行う評価で、介護福祉士や介護職員が単独で実施・記録する性質のものではありません。ただしリハ職が記録したMMT値の読み取りは介助レベル判断に必須で、現場での観察と数値を結び付ける訓練を受けることが推奨されます。
Q. MMT3とMMT2の差はどう見分けますか?
A. 重力に抗して全可動域を動かせるかどうかが境界です。座位で膝を伸ばす動作を例に取ると、MMT3は座位のまま膝を完全に伸展できる、MMT2は側臥位など重力を除いた肢位でなら伸展できる、と判定します。介助者が手で支えなければ動かない場合はMMT1(収縮触知のみ)となります。
Q. +/-(プラスマイナス)はどう使い分けますか?
A. 中間段階を表す補助記号で、たとえば「4-」は「全可動域は動くが中等度抵抗にやや負ける」、「3+」は「重力に抗して動かせ、わずかな抵抗にも耐えられる」状態を示します。日本の臨床ではDaniels法のグレードを基本に、必要に応じて+/-を併用するのが一般的です。
Q. MMTとROM訓練はどう関係しますか?
A. MMTで筋力低下が判明した部位は、まず関節可動域の確保が前提となるため ROM訓練 と並行して実施します。MMT0〜1の麻痺筋は他動ROM訓練で拘縮予防、MMT2〜3の筋は自動介助運動で筋力向上を狙う、というように段階に応じてアプローチを変えます。
Q. MMTの結果はどのくらいの頻度で評価しますか?
A. 介護保険下のリハビリでは 3か月ごとのリハビリテーション計画書更新時 に再評価するのが一般的です。急性期・回復期病院では週1回程度、状態変化時は随時実施します。経時比較のため可能な限り同一検者が評価することが推奨されます。
出典・参考資料
- Hislop HJ, Avers D, Brown M. Daniels and Worthingham's Muscle Testing: Techniques of Manual Examination and Performance Testing, 10th Edition. Elsevier, 2023.
- 津山直一, 中村耕三 訳. 新・徒手筋力検査法 原著第10版(Web動画付). 協同医書出版社, 2024.
- 日本理学療法士協会「理学療法評価ガイドライン」
- Medical Research Council. Aids to the Examination of the Peripheral Nervous System. Memorandum No. 45. London: Her Majesty's Stationery Office, 1976.
- 厚生労働省「介護保険最新情報・リハビリテーション計画書様式」
まとめ
MMTは機器不要で全身の筋力を6段階で評価できる、リハビリ・介護現場の共通言語です。MMT3が日常生活動作自立の境界であることを押さえると、リハ職が記録した数値から介助レベルや福祉用具の必要性を読み取れるようになります。ROM訓練・FIM・Berg Balance・TUGなど関連評価と組み合わせ、多面的に利用者の状態を捉えることで、自立支援と転倒予防の質が高まります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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