脳血管性認知症とは

脳血管性認知症とは

脳血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因で起こる認知症で、アルツハイマー型に次いで多い原因疾患の一つです。「まだら認知症」と呼ばれる症状の差、階段状の進行、感情失禁、麻痺・嚥下障害などの神経症状、高血圧・糖尿病など生活習慣病との関係、介護現場での観察ポイントまで、用語の意味と仕組みをやさしく解説します。

ポイント

この記事のポイント

脳血管性認知症とは、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳血管障害(脳卒中) が原因で起こる認知症で、アルツハイマー型に次いで多い原因疾患の一つです。脳の障害部位により症状の出方にムラがある「まだら認知症」、再発のたびに段階的に悪化する「階段状の進行」、麻痺・嚥下障害・感情失禁などの神経症状の合併が特徴で、高血圧・糖尿病などの生活習慣病との関係が深い疾患です。

目次

脳血管性認知症の病態と疫学

脳血管性認知症(Vascular dementia, VaD)は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで脳の一部が壊死し、その結果として認知機能が低下する認知症です。アルツハイマー型認知症のような神経変性疾患ではなく、「血流障害」が直接の原因となります。

原因となる脳血管障害には、脳梗塞(脳の血管が詰まる)・脳出血(脳の血管が破れる)・くも膜下出血などがあります。とくに大脳の白質を多発的に侵す「ビンスワンガー型(皮質下虚血性血管性認知症)」、脳の重要部位への単発の梗塞による「戦略的梗塞型」、多発性ラクナ梗塞による「多発梗塞型」など、複数の病型があります。

日本では認知症の原因疾患としてアルツハイマー型に次いで多く、認知症全体の約20%を占めるとされてきましたが、近年は脳卒中治療の進歩により純粋な血管性認知症の比率は低下傾向にあります。一方で、アルツハイマー型病理と血管性病理が併存する「混合型」が高齢者では非常に多いことが分かってきています。

男性に多く、発症のピークは70歳代以降ですが、生活習慣病のコントロール不良な人では60歳台でも発症します。介護保険上は「脳血管疾患」が特定疾病に含まれるため、40〜64歳の第2号被保険者でも要介護認定が可能です。

脳血管性認知症の主な症状

  • 1. まだら認知症:脳のどの部位が障害されたかによって、できることとできないことの差が大きくなる。「物忘れは激しいのに、計算や専門的な話は理解できる」「朝はしっかりしていたのに夕方は混乱する」など機能のムラが特徴。
  • 2. 階段状の進行:脳血管障害の発作が起こるたびに認知機能が一段ずつ悪化する。アルツハイマー型のように一定速度で進む「直線型」とは異なり、安定期と急激な悪化を繰り返す。再発予防が進行抑制の鍵。
  • 3. 神経学的所見の合併:手足の麻痺、構音障害(呂律困難)、嚥下障害、歩行障害、排尿障害(夜間頻尿・失禁)など、認知症以外の神経症状が早期から出現する。
  • 4. 感情失禁・自発性低下:感情のコントロールが難しくなり、ささいなきっかけで泣いたり怒ったりする「感情失禁」、活動への意欲が低下する「アパシー(無気力・無関心)」が現れやすい。
  • 5. 抑うつ・夜間せん妄:抑うつ症状の合併が多く、夜間に意識が混濁・興奮する「夜間せん妄」も初期から出現することがある。

記憶障害は出現するものの、アルツハイマー型に比べると初期は判断力・人格・病識が比較的保たれることも多く、本人が自分の変化を自覚して苦しむケースもあります。

アルツハイマー型認知症との違い

特徴脳血管性認知症アルツハイマー型認知症
原因脳梗塞・脳出血など脳血管障害神経変性(アミロイドβ蓄積など)
進行のしかた階段状(再発のたびに悪化)直線的(緩やかに進行)
症状の現れ方まだら(できる/できないの差が大きい)全般的に均一に進行
性別差男性に多い女性にやや多い
記憶障害あるが、判断力は保たれやすい近時記憶から障害
麻痺・嚥下障害早期から合併進行期に出現
感情感情失禁・抑うつ・自発性低下不安・取り繕い・易刺激性
病識初期は保たれることが多い失われやすい
予防策生活習慣病管理・脳卒中予防が有効確立された予防法は限定的

大きな違いは「進行を止める手段がある」点。脳梗塞・脳出血の再発を予防すれば階段状の悪化を抑えられるため、血圧・血糖・脂質・心房細動の管理が予防と進行抑制の両方の鍵になります。

あなたに合った介護の働き方は?

簡単な質問に答えるだけで、ピッタリの施設タイプがわかります

1分で診断する

介護現場で押さえるケアの工夫

  • 「できる時間帯」を見つけて活かす:まだら症状の特徴を逆手に取り、調子の良い時間にレク・入浴・面談を集中させる。本人の自尊心を保ち、できる活動を増やすことが進行予防につながる。
  • 感情失禁への対応:泣き出したり怒り出したりしても「感情失禁という症状」と理解し、騒がず落ち着いた声で話題を変える。「悲しいのですね」「少し休みましょう」と寄り添う。
  • 麻痺・嚥下障害のケア:片麻痺がある場合は健側からの介助・トイレ動線の調整。嚥下機能評価を受け、食形態(とろみ・刻み・ミキサー)を本人に合わせる。誤嚥性肺炎の早期発見が命を左右する。
  • 血圧管理を共有:再発予防が最重要。血圧・血糖・服薬の自己管理が難しい場合、訪問看護や家族と連携してチェック体制を作る。日々の血圧記録は家族にとっても安心材料になる。
  • 抑うつ・無気力への対応:本人を責めず、簡単な役割(食器を運ぶ、洗濯物をたたむ)を持ってもらう。生活リハビリと位置づけて成功体験を積み重ねる。
  • 夜間せん妄の予防:日中の活動量を増やし、室内を明るくし、就寝前の刺激(テレビ・カフェイン)を減らす。再発・脱水・感染症のサインを見逃さない。

脳血管性認知症に関するよくある質問

Q. 「まだら認知症」とは何ですか?
A. 脳のどの部位が障害されたかにより、できることとできないことの差が大きくなる状態を指します。「物忘れは激しいのに難しい計算ができる」「朝は混乱しているのに夕方はしっかりしている」など、機能のムラが大きいことが特徴です。脳血管性認知症の代表的な症状像として知られています。
Q. 進行は止められますか?
A. 脳血管障害の再発を予防すれば、階段状の悪化を抑えられます。高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理、禁煙、心房細動の治療、抗血小板薬の継続が進行抑制に直結します。アルツハイマー型より「予防可能な認知症」と言えます。
Q. 介護保険は使えますか?
A. 65歳以上は通常の要介護認定を受けられます。40〜64歳でも介護保険の特定疾病「脳血管疾患」に該当するため、第2号被保険者として認定を受けることができます。
Q. アルツハイマー型と合併することはありますか?
A. はい。「混合型認知症」と呼ばれ、高齢者では純粋な血管性認知症より混合型の方が多いとされています。両方の特徴が現れるため、症状像も多様になります。
Q. 治療薬はありますか?
A. 脳血管性認知症そのものを治す薬はありません。認知機能低下に対してアルツハイマー型治療薬(ドネペジルなど)が使われることがありますが、保険適用は限定的です。再発予防薬(降圧薬・抗血小板薬など)と生活習慣の改善が主な治療になります。

参考文献・出典

まとめ

脳血管性認知症は、脳梗塞・脳出血などの脳血管障害が原因で起こる認知症で、まだら症状・階段状の進行・神経学的所見の合併が特徴です。アルツハイマー型と異なり「予防可能な認知症」とも言われ、生活習慣病の管理と脳卒中の再発予防が進行抑制の鍵となります。介護現場では、できる時間帯を生かしたケア、麻痺・嚥下障害への配慮、感情失禁への寄り添い、再発予防のための健康管理が、本人と家族の生活を支える要になります。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。

最新の介護業界ニュース

すべて見る →
看護師等養成所の遠隔授業推進事業、令和8年度公募|地方の人材確保と介護現場への波及

2026/5/1

看護師等養成所の遠隔授業推進事業、令和8年度公募|地方の人材確保と介護現場への波及

厚労省が令和8年度予算で1.21億円を計上した「人口減少社会の看護師等養成所における遠隔授業推進支援事業」の概要と、地方の養成所閉校・定員割れが介護施設の看護師確保に及ぼす影響を解説。

居宅介護支援に処遇改善2.1%、6月施行直前ガイド|ケアマネの給料はいくら上がる?

2026/5/1

居宅介護支援に処遇改善2.1%、6月施行直前ガイド|ケアマネの給料はいくら上がる?

2026年6月から居宅介護支援・介護予防支援に処遇改善加算(2.1%)が新設。ケアマネ事業所が初めて対象に。算定要件はケアプー加入か加算IV準拠の二択、届出は4月15日締切、月額換算では一人あたり約7,000〜10,000円の賃上げ見込み。算定方法・配分ルール・特定事業所加算との関係まで施行直前の実務ガイド。

第2回・2040年看護職員養成検討会|実習・供給推計・資質の3論点と介護現場への波及

2026/5/1

第2回・2040年看護職員養成検討会|実習・供給推計・資質の3論点と介護現場への波及

厚労省は2026年5月8日、第2回「2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」を開催。看護学生実習・供給推計・看護職員の資質という3論点を議論する。第1回の論点と介護現場への影響を解説。

介護人材確保のリアル|2040年57万人不足と求職者の交渉力(2026年最新)

2026/5/1

介護人材確保のリアル|2040年57万人不足と求職者の交渉力(2026年最新)

2026年度に約25万人、2040年度に約57万人の介護職員が不足する見通しです。有効求人倍率4倍超の売り手市場の構造的要因、国の5本柱対策、特定技能介護の拡大、倒産176件の経営インパクト、そして求職者にとっての交渉力と戦略を一次データで解説します。

LIFE第2回説明会の動画・資料が公開(vol.1498)|介護現場が押さえる入力フローと加算の関係

2026/5/1

LIFE第2回説明会の動画・資料が公開(vol.1498)|介護現場が押さえる入力フローと加算の関係

厚労省が4月28日にvol.1498を発出し、3月開催のLIFE第2回説明会の動画・資料を公開。令和6年度改定後の新フィードバック画面の見方、ブラウザ閲覧化、都道府県・要介護度での絞り込み、活用事例の概要を整理し、科学的介護推進体制加算など関連加算と現場の入力フローへの影響まで読み解きます。

介護現場の省力化補助金、4機種が出揃う|vol.1499が示す飲料ディスペンサー・再加熱カートの申請開始

2026/5/1

介護現場の省力化補助金、4機種が出揃う|vol.1499が示す飲料ディスペンサー・再加熱カートの申請開始

厚労省老健局は2026年4月30日付介護保険最新情報vol.1499で、中小企業省力化投資補助金の介護業向け対象機器に「飲料ディスペンサー/とろみ給茶機」「再加熱キャビネット/カート」が加わり申請可能になったと通知。清掃・配膳ロボットと合わせ4機種が出揃った仕組みと現場への影響を解説。

このテーマを深掘り

関連トピック