
親の認知症診断を受け入れる|家族の心の整理・告知への対応・最初の3か月にやること
親が認知症と診断されたショックから受容までの心理プロセス、告知の場での家族の対応、最初の1週間・1か月・3か月の感情ケアと実務タスクを公的データで整理。認知症の人と家族の会の電話相談、認知症基本法の家族支援、介護うつ予防、子供・配偶者・職場への伝え方まで医師監修水準で解説。
この記事のポイント
親が認知症と診断されたとき、家族の多くは「とまどい・否定→混乱・怒り→割り切り→受容」という4段階の心理プロセスをたどります(公益社団法人 認知症の人と家族の会)。受け入れまでの平均期間には個人差がありますが、告知直後の数か月は最も揺れやすい時期です。本記事では、告知の場での家族の対応、最初の1週間・1か月・3か月にやることを感情面・実務面の両軸で整理し、認知症の人と家族の会の電話相談(0120-294-456)や地域包括支援センターなど公的相談窓口の使い方を解説します。
目次
「もしかして…」と思い始めてから検査を受け、医師から「認知症です」と告げられるまで、家族は何度も気持ちが揺れます。九州大学の研究によると、本人や家族が異変を感じてから診断に至るまでの「空白期間」は平均1年1か月、診断後に介護サービスを使い始めるまでは平均1年4か月かかります(長寿科学振興財団「認知症のケア」)。つまり、診断は長い不安の終わりではなく、家族の新しい時間の始まりです。
この最初の数か月でやってはいけないのは、悲観論に飲み込まれて急いで結論を出すことです。要介護認定の申請やケアマネジャー選びといった実務はもちろん大切ですが、それと同じくらい、家族自身の感情を整える時間が必要になります。この記事では、家族の心の動きと、感情を守りながら最初の3か月をどう乗り越えるかを、公的機関の資料と当事者団体の知見をもとに整理します。
家族がたどる4段階の心理プロセス|ショックから受容まで
公益社団法人 認知症の人と家族の会は、長年の電話相談と当事者との関わりから「介護者がたどる4つの心理的ステップ」を提唱しています。これは医学的な診断モデルではなく経験則ですが、自分の感情の現在地を知る地図として広く使われています。各段階を行きつ戻りつしながら少しずつ受容に向かうのが一般的で、まっすぐ進む人はほとんどいません。
第1段階:とまどい・否定(診断直後〜数週間)
「いやそんなはずはない」「歳のせい」「医師が間違っているのでは」と現実を遠ざける時期です。心理学では防衛機制と呼ばれる正常な反応で、ショックから自分を守るための時間です。この段階の特徴は、一人で抱え込みやすく、地域包括支援センターなど外部窓口に相談することへの心理的ハードルが高いこと。「相談=認知症を認めること」と感じてしまうためです。
第2段階:混乱・怒り・拒絶(数週間〜数か月)
同じことを何度も尋ねられる、教えても覚えてくれない、注意するとかえって興奮するといった現実に直面し、感情の起伏が激しくなる時期です。本人に怒鳴ってしまった後で自己嫌悪に陥る、夜眠れない、食欲がなくなる、といったサインが出ます。家族の苦悩が極限に達する段階で、認知症の人と家族の会は「この時期に外部支援とつながれるかどうかが、その後の介護生活の質を大きく左右する」としています。
第3段階:割り切り・あきらめ(数か月〜1年)
「叱っても効果がないどころか混乱が悪化する」と気づき、無駄な対応をやめていく段階です。「あきらめ」と聞くとネガティブに響きますが、ここでの割り切りは「変えられないものを受け入れる」ための前向きな調整であり、介護のテクニックを身につけていく時期でもあります。
第4段階:受容(個人差大)
「症状の背景にある本人の気持ちがわかる」「自分もいつかこうなるかもしれない」と人間として理解できるようになる段階です。介護を通じて家族自身が成長したと振り返れるようになりますが、ここに到達するまでの期間は人それぞれで、半年で受容する人もいれば数年かかる人もいます。到達できないことが悪いのではなく、行きつ戻りつしているうちに自然と訪れるものと理解してください。
米国の精神科医エリザベス・キューブラー=ロスが提唱した「死の受容5段階」(否認→怒り→取引→抑うつ→受容)と構造が似ていますが、認知症の受容では本人がまだ生きていて関係性が続くという点が決定的に違います。家族は喪失と継続を同時に抱える特殊な状況に置かれることを知っておきましょう。
認知症の人と家族の数|2025年で65歳以上の認知症患者は約472万人
厚生労働省「認知症施策推進大綱」関連資料および2024年公表の九州大学久山町研究によると、2025年時点で65歳以上の認知症の人は約472万人、軽度認知障害(MCI)は約564万人と推計されています。65歳以上人口の約13%、つまり7〜8人に1人が認知症、MCIを含めると4人に1人が該当します。
誰にとっても他人事ではない数字
この数字が意味するのは、認知症は「特別な病気」ではなく加齢に伴い誰にでも起こりうる状態だということです。診断を受けた家族が「うちだけがこんな目に」と孤立感に襲われる必要はなく、同じ立場の家族が全国に数百万人いる前提で支援制度や相談窓口が整備されています。
家族介護者の年齢層も高齢化
厚生労働省「2022年国民生活基礎調査」では、要介護者を主に介護している家族の年齢は60歳以上が78.9%、70歳以上が48.6%。配偶者や子(多くは50〜60代)が中心介護者となるケースが大半で、介護者自身が体力・認知機能の衰えと向き合う「老老介護」「認認介護」も珍しくありません。診断を受け入れる段階から「家族だけで抱え込まない設計」が前提です。
告知の場での家族の対応|寄り添う・否定しない・メモを取る
診断告知の場では本人も家族も大きなショックを受けます。この場での家族の振る舞いが、その後の本人との関係性と治療への向き合い方を大きく左右します。国立長寿医療研究センターと認知症の人と家族の会の家族向け資料を参考に、3つの基本動作を整理します。
1. 本人の隣に座り、寄り添う姿勢を見せる
医師と本人の正面に家族が座ると、本人は「裁かれている」感覚を持ちやすくなります。本人の隣または斜め後ろに座り、肩や手に触れられる距離で診察を受けるのが基本です。告知の言葉を聞いた瞬間に本人がうつむいたり涙を流したりしたら、無理に励まさず黙って手を握る、背中をさするといった非言語の支えを優先してください。
2. 本人の前で「ショック」を言葉にしない
「どうしよう」「困ったわね」「うちはもう終わりだ」といった言葉を本人の前で口にすると、本人は「自分が家族を不幸にした」と自責の念を抱きます。家族の動揺は当然ですが、その場では「先生、ありがとうございました」「これからどうすればいいか教えてください」と前を向く姿勢を見せ、家族同士の本音は別室や帰宅後に共有しましょう。
3. メモを取る・録音許可を取る
告知直後の家族は医師の説明をほとんど覚えていないのが普通です。診断名(アルツハイマー型・レビー小体型・血管性など)、進行段階、処方薬、次回受診日、紹介される連携機関の名前を必ず書き留めてください。可能であれば医師に「録音してもよいですか」と許可を取り、後で家族間で共有できるようにしておくと、説明のばらつきや言った言わない問題を避けられます。
4. その場で結論を迫らない
医師から「ご家族としてはどうされますか」「施設も検討しますか」と問われても、その場で答える必要はありません。「いったん持ち帰って家族で相談します」と伝えるのが正しい対応です。告知直後の意思決定は冷静さを欠きやすく、後で後悔する選択につながります。
告知直後にしてはいけない5つのこと
診断直後の家族が陥りやすい行動パターンの中には、本人との関係性を損ない、後で取り返しがつかなくなるものがあります。認知症の人と家族の会の電話相談に寄せられる「後悔の声」から整理した、最初の数週間は避けたい5つの行動です。
- 本人を抜きにして人生の重大決定をする:施設入居・自宅売却・運転免許返納など、本人の生活を一変させる決定を本人不在で進めない。軽度の段階では本人の意思決定能力は十分残っており、後で「勝手に決められた」と関係が悪化します。
- 親戚一同に一斉に伝える:心配からくる電話・訪問が殺到し、本人も家族も対応で疲弊します。まずは同居家族または最も近い兄弟姉妹だけで共有し、伝える範囲と順序を相談してから広げます。
- 本人の前で「もう何もできない」と扱う:「お父さんは座ってて、私がやるから」と本人の役割を奪うと、自尊心が傷つき症状進行を早めるという報告があります(国立長寿医療研究センター)。できることは続けてもらう姿勢が基本です。
- SNSや知人に詳細を公開する:本人の同意なく診断名・症状を発信すると、本人の社会的尊厳を損ないます。情報共有は必要な範囲(医療・介護関係者、近親者)に限定してください。
- 「治る薬」を求めて自費医療にすぐ走る:根治薬は2026年時点で限定的(レカネマブ等は早期アルツハイマー型の進行抑制で適応条件が厳格)。藁にもすがる気持ちはわかりますが、まずは標準的な保険診療と介護サービス整備を優先しましょう。
最初の1週間にやること|感情の整理と情報の一元化
告知から1週間は、実務よりも家族自身のメンタルケアと情報の整理を優先する時期です。慌てて要介護認定申請に走るよりも、まず立ち止まる時間を作ってください。
Day1-3:家族内で気持ちを言語化する
同居家族や中心介護者になりそうな人とだけで、まずは「今どんな気持ちか」を率直に話す場を持ちます。子供(兄弟姉妹)が複数いる場合でも、最初は全員集合より少人数で。感情を吐き出すだけで結論は出さなくて構いません。涙が出ること、怒りが湧くこと、何も感じないこともすべて正常な反応です。
Day3-5:診断資料を一冊にまとめる
診断書、処方薬の説明書、医師から渡された家族向けパンフレット、お薬手帳を1冊のクリアファイルに集約します。後で要介護認定の主治医意見書や、ケアマネジャーとの面談で参照する基礎資料になります。家族間で内容を共有しておくと、誰が同行しても説明できるようになります。
Day5-7:相談窓口を1か所だけ決める
地域包括支援センター(高齢者の総合相談窓口、市区町村が設置)に電話して、「親が認知症と診断されました」とだけ伝え、初回面談を予約します。複数の窓口に同時に相談すると情報が錯綜するため、まずは1か所に絞り、そこから必要に応じて医療連携室・若年性認知症支援コーディネーターなどへ展開していくのが効率的です。
最初の1か月にやること|要介護認定申請と専門職とのつながり
感情の最初の波が少し落ち着く2〜4週目は、公的支援の入り口に立つ時期です。完璧に進める必要はなく、「申請を出す」「相談予約を取る」だけでも十分前進です。
要介護認定の申請を提出する
市区町村の介護保険窓口または地域包括支援センターで、要介護認定の申請書を提出します。費用は無料、本人の同席は不要で家族や代理人でも可能です。申請から認定結果(要支援1〜要介護5)が出るまでは原則30日ですが、申請日に遡って介護保険サービスを暫定利用できます。診断書(主治医意見書)は市区町村から医療機関に直接依頼されるため、家族が手配する必要はありません。
認知症の人と家族の会の電話相談を一度かける
公益社団法人 認知症の人と家族の会の電話相談(フリーダイヤル0120-294-456、平日10〜15時、土曜10〜15時)は、介護経験のある家族や看護・福祉専門職が応じる無料相談です。同じ立場の人と話せるだけで気持ちが軽くなったという声が多く、第1段階(とまどい・否定)を抜けるきっかけになります。話す内容を整理する必要はなく、「親が認知症と診断されてつらい」だけで構いません。
かかりつけ医とのつながりを整理する
認知症の主治医(脳神経内科・精神科・もの忘れ外来など)と、生活習慣病など他疾患のかかりつけ医を整理し、お薬手帳を一本化します。複数医療機関で重複処方が起きると認知症症状を悪化させる薬(抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系睡眠薬等)が出ることがあるため、薬剤師にも認知症の診断を伝えてください。
キーパーソンを決める
家族の中で医療・介護の窓口になる「キーパーソン」を1人決めます。複数人が窓口だと連絡が錯綜し、ケアマネジャーや医師から「家族の意向が見えない」と思われがちです。キーパーソンは中心介護者と同じでなくても構わず、連絡調整役と実介護役を分担するのも有効です。
最初の3か月にやること|ケアマネジャー選定と長期計画の素案づくり
診断から3か月の節目は、要介護認定結果が出てケアプランが動き始める時期です。ここで長期目線の生活設計に少しずつ着手します。
ケアマネジャー(介護支援専門員)を選ぶ
認定結果が要介護1以上であれば、居宅介護支援事業所のケアマネジャーと契約します。地域包括支援センターから複数の事業所を紹介してもらい、「認知症ケアの経験」「家族支援への姿勢」「連絡の取りやすさ」で比較してください。相性が合わなければ途中変更も可能なので、最初から完璧を求めず、まずは始めることを優先します。
本人の意思を文書化しておく
軽度のうちに本人と話し合い、今後の医療・介護・財産管理について意向を残します。具体的には(1)延命治療の希望(ACP:人生会議)、(2)介護を受ける場所の希望(自宅・施設)、(3)財産管理(任意後見契約・日常生活自立支援事業)、(4)運転免許の返納時期、の4点。厚生労働省「人生会議」のリーフレットや、認知症の人と家族の会の意思決定支援ツールが参考になります。
家計の棚卸しと介護費用シミュレーション
本人の年金・預貯金・不動産、医療費・介護費の毎月の支出見込みを書き出します。在宅介護の自己負担は要介護度と所得で異なりますが、要介護3で1割負担の場合、月3〜5万円が目安(区分支給限度額の7〜8割利用時)。施設入居を検討する場合は、特別養護老人ホームで月7〜15万円、介護付き有料老人ホームで月15〜30万円と幅があります。高額介護サービス費・高額医療合算介護サービス費の上限制度も忘れずに調べてください。
仕事との両立体制を整える
働きながら介護する家族は、勤務先に「家族の認知症診断」を伝え、介護休業(最大93日、3回まで分割可)や介護休暇(年5日、対象家族2人以上で年10日)の取得条件を確認しておきます。すぐ取得しなくても、いざという時の選択肢として把握しておくことが重要です。
家族の感情ケア|介護うつを予防するセルフチェック
厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」によれば、家族介護者の約4人に1人が抑うつ状態にあるとされています。特に診断から1年以内の家族と、認知症ケアを担う家族は介護うつのリスクが高いことが知られています。次のサインが2週間以上続いている場合は、精神科・心療内科の受診を検討してください。
- 朝起きるのがつらい、夜眠れない・早朝に目が覚める
- 食欲がない、または過食気味になっている
- 本人に対して感情のコントロールができない(怒鳴る・物に当たる)
- 「自分がいなくなれば楽になる」という考えがよぎる
- 趣味や楽しみだったことに興味を持てない
- 休んでも疲れが取れない、頭痛・腰痛が続く
「自分が頑張らないと」と思い詰めず、まずはかかりつけ医や産業医に相談を。介護うつは本人の症状進行を悪化させる最大要因の一つで、家族の心の健康を守ることが本人を守ることに直結します。地域包括支援センター・認知症の人と家族の会・電話相談窓口「よりそいホットライン」(0120-279-338、24時間無料)も活用できます。
家族が使える相談窓口一覧|全国対応・無料中心
診断後の家族が利用できる相談窓口を、運営主体・対応時間・特徴とともに整理します。複数の窓口を併用するのも有効です。
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会 電話相談:フリーダイヤル 0120-294-456/平日10〜15時・土曜10〜15時/無料/介護経験者や専門職が対応。同じ立場の人と話したい時の第一選択。
- 地域包括支援センター:市区町村が中学校区ごとに設置/平日日中/無料/保健師・社会福祉士・主任ケアマネが常駐し、介護保険手続きから医療連携まで総合相談。最寄りの所在地は市区町村ホームページで検索。
- 若年性認知症支援コーディネーター:都道府県ごとに配置/無料/18歳以上65歳未満で発症した若年性認知症の本人・家族向けに就労・経済的支援を含む専門相談。
- 認知症カフェ(オレンジカフェ):全国に約8,000か所(厚労省2024年集計)/月1〜2回開催/参加費数百円程度/本人・家族・専門職・地域住民が集う交流の場。孤立感解消と情報交換に。
- 認知症疾患医療センター:都道府県・指定都市が指定する医療機関/専門医による鑑別診断、BPSD(行動・心理症状)対応、医療相談。地域包括支援センターから紹介も可。
- よりそいホットライン:0120-279-338/24時間365日無料/介護に限らず生活全般の悩みに対応。深夜のつらさを話したい時に。
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556/都道府県の精神保健福祉センターにつながる/介護うつのサインがある時の入り口に。
子・配偶者の役割再定義|介護分担とキーパーソン
診断を機に、家族の中で誰が何をするかを意識的に再定義することが、長期介護を続けるうえで決定的に重要です。役割分担を曖昧にしたまま「気づいた人がやる」体制で進めると、特定の家族(多くは長女・同居の嫁)に負荷が集中し、家族関係そのものが崩壊するリスクがあります。
配偶者(夫または妻)の役割
配偶者は本人と最も時間を共有してきた存在ですが、同時に高齢で持病を抱えているケースも多く、無理は禁物です。配偶者がやるべきは「日常の見守り」と「医療情報の蓄積(受診同行・薬の管理)」に絞り、入浴・排泄など身体介護や金銭管理は子や外部サービスに委ねる設計が現実的です。
子(兄弟姉妹)の役割分担
同居の子は日常生活支援を担いやすいですが、遠方の子も「経済面の支援」「制度・情報収集」「定期的な帰省」など役割を持てます。「同居の自分だけが負担している」という不満は、遠方家族の関わりが見えないことから生じることが多く、月1回程度の家族会議(オンラインでも可)で情報共有することで関係が改善します。
義理の家族(嫁・婿)の役割
嫁・婿に介護を期待する慣習は今も根強いですが、法的な扶養義務はありません(民法第877条は直系血族と兄弟姉妹のみ)。義理の家族の関わりはあくまで本人の意向と相互合意に基づくべきで、「当然」と扱わない姿勢が長期的な家族関係を守ります。
仕事との両立と経済不安への対応|介護離職を避ける
総務省「2022年就業構造基本調査」によれば、介護・看護を理由に離職した人は年間約10.6万人。離職者の約7割が「両立が困難になった」と回答していますが、実際には制度を知らずに離職するケースも多く含まれます。診断後の数か月で勤務先制度と公的支援を把握しておけば、多くは離職を避けられます。
介護休業給付金(雇用保険)
雇用保険被保険者が介護休業を取得した場合、休業開始時賃金日額の67%が支給されます(最大93日、3回まで分割可)。対象家族は配偶者・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹・孫まで広く認められます。詳細はハローワークまたは厚生労働省「介護休業制度」ページで確認してください。
家族介護慰労金
市区町村によっては、要介護4以上の家族を1年間介護保険サービスを使わずに在宅介護した場合、年10万円程度の慰労金を支給する制度があります(自治体によって金額・条件が異なる)。市役所福祉課で確認を。
本人の障害者控除・医療費控除
要介護認定を受けた本人は、市区町村から「障害者控除対象者認定書」の交付を受けることで所得税・住民税の障害者控除(27万円)または特別障害者控除(40万円)の対象になります。同居老親であれば追加で控除額が増えます(特別障害者の同居老親控除75万円等)。確定申告で家族の税負担を大きく減らせる可能性があるため、ケアマネジャーまたは税理士に相談してください。
経済的に厳しい場合の追加支援
低所得世帯は介護保険負担限度額認定(施設サービスの食費・居住費軽減)、社会福祉協議会の生活福祉資金貸付、生活困窮者自立支援制度の対象になる可能性があります。「お金がないから介護できない」と諦める前に必ず窓口に相談を。
親の認知症診断を受け入れるためによくある質問
Q1. 診断を受け入れられない自分は冷たい家族なのでしょうか?
いいえ、まったく違います。「とまどい・否定」は認知症の人と家族の会が示す第1段階で、ほぼすべての家族が通る正常な反応です。受け入れまでに数か月〜数年かかるのが標準で、早く受け入れる人が偉いわけではありません。今は自分の感情を否定せず、徐々に進む過程を信じてください。
Q2. 本人に診断名を伝えるべきですか?
原則として伝えることが望ましいとされています(国立長寿医療研究センターガイドライン)。本人が今後の人生設計に関与できるのは軽度のうちだけで、診断名を伏せると本人の意思決定機会を奪うことになります。ただし、伝え方やタイミングは主治医と相談し、本人の心理状態に配慮して進めてください。重度の場合は事実上伝えても理解が難しいケースもあります。
Q3. 兄弟姉妹で意見が割れています。どうすればいいですか?
第三者を交えた話し合いを設定しましょう。ケアマネジャー、地域包括支援センター職員、認知症の人と家族の会の電話相談員などが家族会議の進行役を引き受けてくれます。感情的になりやすいテーマほど、専門職に「介護方針の選択肢」を整理してもらってから議論する方が建設的です。
Q4. 認知症は治りますか?
2026年時点、認知症の根本的治療薬は限定的です。早期アルツハイマー型に対するレカネマブ・ドナネマブなどの抗アミロイドβ抗体薬は進行抑制効果が期待されますが、適応条件(軽度認知障害〜軽度認知症、アミロイドPET陽性等)が厳格で全員が対象ではありません。多くの認知症は「症状と上手に付き合う」ことが治療の中心であり、生活の質を保つ介護とリハビリテーションが重要です。詳細は主治医にご確認ください。
Q5. 介護に専念するため仕事を辞めるべきでしょうか?
原則として推奨されません。介護離職後は再就職が困難で経済的に追い詰められやすく、本人と家族の関係も悪化しやすいことが各種調査で示されています。まずは勤務先の介護休業制度・短時間勤務制度を活用し、デイサービスやショートステイで介護をシェアする体制を作ってから判断を。判断に迷う場合は地域包括支援センターや厚労省委託の仕事と介護の両立支援センターに相談してください。
Q6. 認知症カフェに行くハードルが高いです
初回はオンラインの認知症カフェや家族会の説明会から始めると参加しやすいです。認知症の人と家族の会の支部活動はZoom開催も増えており、自宅から匿名で参加できる場もあります。本人を連れて行く必要はなく、家族だけの参加も歓迎されています。
参考資料・一次ソース
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まとめ|診断は終わりではなく、家族の新しい時間の始まり
親が認知症と診断されたとき、家族の感情はとまどい・否定→混乱・怒り→割り切り→受容の4段階を行きつ戻りつしながら進みます。早く受け入れる必要はなく、自分の今いる場所を地図上で確認しながら、ゆっくり進んでいけば大丈夫です。
診断後3か月のロードマップ要約
- 最初の1週間:感情の整理、診断資料の一元化、地域包括支援センターへの初回連絡
- 最初の1か月:要介護認定の申請、認知症の人と家族の会への相談、キーパーソンの決定
- 最初の3か月:ケアマネジャー選定、本人の意思の文書化、家計シミュレーション、仕事との両立体制
そして何より大切なのは、家族自身が自分の心を守ることです。介護うつのサインを感じたら早めに精神科・心療内科を受診し、「自分が頑張らないと」を手放してください。家族の心の健康は、本人の症状進行を左右する最大の要因です。
診断は長く続く家族の物語の始まりにすぎません。完璧を目指さず、できなかった日があっても自分を責めず、明日また小さな一歩を踏み出す。その積み重ねが、家族にとっても本人にとっても最善のケアになります。一人で抱え込まず、認知症の人と家族の会の電話相談(0120-294-456)や地域包括支援センターを、今日の選択肢に入れてみてください。
監修者
介護のハタラクナカマ 医療・介護監修チーム
医療・介護専門職チーム(看護師/介護福祉士/ケアマネジャー)
訪問看護・介護保険・医療保険に関する制度内容を、厚生労働省・日本訪問看護財団・全国訪問看護事業協会等の一次ソースをもとに、医療・介護専門職チームが内容の正確性を確認しています。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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