若年性認知症の家族の支え方|診断・仕事継続・経済支援・若年性ならではの社会資源
ご家族・ご利用者向け

若年性認知症の家族の支え方|診断・仕事継続・経済支援・若年性ならではの社会資源

65歳未満で発症する若年性認知症で家族が直面する仕事継続・経済問題・子育てを、若年性認知症コールセンター・支援コーディネーター・障害年金・介護保険など若年性特有の社会資源と合わせて厚労省データに基づき解説。

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若年性認知症とは65歳未満で発症する認知症の総称で、厚生労働省の2020年調査では全国に約3.57万人と推計されます(平均発症年齢54.4歳)。家族の支え方の核心は、(1)若年性認知症コールセンター(0800-100-2707、月〜土10〜15時、年末年始除く)と各都道府県に配置された若年性認知症支援コーディネーターに最初に相談する、(2)在職中の早めの受診で障害年金の受給要件(初診日に厚生年金加入)を確保する、(3)40歳以上は介護保険の特定疾病「初老期における認知症」で利用できる、の3点です。

目次

「配偶者が物忘れで仕事に支障が出ている」「親が50代でアルツハイマーと診断された」「住宅ローンが残っているのに退職することになりそう」――若年性認知症と家族が直面する課題は、高齢者の認知症とは質が大きく異なります。働き盛り・子育て世代・配偶者の親の介護期に発症するため、本人と配偶者の二人分の収入が同時に失われる、子どもがヤングケアラー化する、住宅ローンや教育費が圧し掛かる、配偶者一人に介護負担が集中する、といった複合的な困難が生じます。

本記事では厚生労働省「若年性認知症支援ガイドブック」「若年性認知症実態調査結果概要(令和2年3月)」、若年性認知症コールセンター、公益社団法人認知症の人と家族の会など一次資料に基づき、若年性認知症の特徴と高齢者の認知症との違い診断までの道筋と若年性認知症コールセンター・支援コーディネーターの使い方仕事継続と退職判断・障害者雇用への切り替え障害年金・自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳・傷病手当金・介護保険など経済支援制度の全体像子どもへの伝え方と配偶者のレスパイトまでを整理します。専門医・若年性認知症支援コーディネーターへの相談を必ず前提とし、ご家族が「次に何をすべきか」が見える状態を目指します。

若年性認知症とは|定義・人数・高齢者の認知症との違い

若年性認知症は18〜64歳で発症する認知症の総称です。「若年期認知症」(18〜39歳)と「初老期認知症」(40〜64歳)に分けることもありますが、現在は両者を合わせて「若年性認知症」と呼ぶのが一般的です。介護保険法上の特定疾病でも「初老期における認知症」として規定されています。

厚生労働省の最新推計(令和2年調査)

厚生労働省「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システムの開発」(日本医療研究開発機構認知症研究開発事業、令和2年3月)によれば、若年性認知症の実態は以下の通りです。

  • 全国の若年性認知症者数:約35,700人(3.57万人)(前回平成21年調査:3.78万人)
  • 18〜64歳人口10万人あたりの有病率:50.9人(前回47.6人)
  • 平均発症年齢:54.4歳(前回51.3歳)
  • 男女比:男性に多い傾向(前回調査と同様)

実数は減少しているように見えますが、これは18〜64歳人口そのものが減少しているためで、人口あたり有病率は上昇しています。働き盛り世代に確実に一定数存在する病気と言えます。

高齢者の認知症との5つの違い

同じ「認知症」と名前がついていても、若年性認知症は社会的影響の質が大きく異なります。家族の支え方を考えるうえで、この違いを理解しておくことが出発点になります。

  1. 就労中の発症が多い:仕事のミス・対人関係の摩擦から気づかれることが多く、退職を余儀なくされて世帯収入が大幅に減少します。厚労省調査では発症後に収入が減少した人が約6割、家計の苦しさを自覚している人が約4割に上ります。
  2. 住宅ローン・教育費が重い:30〜50代は住宅ローン返済中・子どもの教育費負担中の世帯が多く、退職と医療介護費の二重ダメージを受けます。
  3. 子どもへの影響:思春期から大学生・社会人になりたての子どもが、親の認知症の進行を間近で見ることになり、進学・就職・結婚といったライフイベントに影響します。ヤングケアラー化のリスクもあります。
  4. 配偶者が現役世代:配偶者も働き盛りで、介護のために仕事を縮小・退職すると世帯収入がさらに減ります。介護休業・介護休暇の活用が必須となります。
  5. 地域に同年代の仲間が少ない:介護保険デイサービスは高齢者中心で、40〜50代の本人が居づらいことが多く、若年性専用のサービスや家族会への参加が重要になります。

主な原因疾患

若年性認知症の原因疾患は高齢者の認知症よりバリエーションが多く、診断とケアの方針も疾患別に異なります。厚労省ガイドブックが整理する主な原因疾患は以下です。

原因疾患特徴初期に目立つ症状
アルツハイマー型認知症若年性認知症で最多。脳の萎縮が進行記憶障害、物忘れ、見当識低下
血管性認知症脳梗塞・脳出血が原因。発症が階段状麻痺・歩行障害と認知機能低下が併発
前頭側頭型認知症40〜60代に多い。性格・行動の変化が前面万引き・暴言・社会的逸脱行動、無関心
レビー小体型認知症幻視・パーキンソン症状を伴う具体的な幻視、調子の波、転倒
頭部外傷後遺症交通事故・スポーツ外傷後に発症記憶障害、性格変化、注意力低下
アルコール性長年の大量飲酒が原因記憶障害(コルサコフ症候群)、作話

特に前頭側頭型認知症は40〜60代に多く、本人の人格変化・社会的逸脱行動から「うつ病」「双極性障害」「人格障害」と誤診されやすい疾患です。アルコール多飲歴がある場合はアルコール性認知症の可能性も考慮します。診断の確定には専門医療機関(もの忘れ外来、若年性認知症疾患医療センター、認知症疾患医療センター)の受診が不可欠です。

気づきから診断まで|若年性認知症コールセンターの使い方

若年性認知症の診断は、初期症状がうつ病・更年期障害・職場ストレスと誤診されやすく、平均して気づきから診断まで2〜3年かかると言われています。早期診断は治療開始の早期化に加え、後述する障害年金の初診日要件・在職中の制度活用の可否を左右します。

家族が気づきやすい初期症状

  • 仕事のミス・遅れ:以前は問題なくこなしていた業務でミスが増える、報告書の作成に時間がかかる、約束を忘れる
  • 対人関係のトラブル:同僚・上司との衝突、客先での失言、感情のコントロールが効かない
  • 性格の変化:温厚だった人が怒りっぽくなる、几帳面だった人が無頓着になる、社交的だった人が引きこもる
  • 家事の段取り失敗:料理の手順が混乱する、複数の家事を同時に進められない、買い物で同じ物を何度も買う
  • 運転の異変:軽い接触事故、信号無視、車線変更ミス、慣れた道で迷う
  • 身だしなみの変化:以前と違い、同じ服を続けて着る、入浴を嫌がる、化粧をしなくなる
  • うつ症状・意欲低下:仕事や趣味への関心を失う、外出を嫌がる、笑顔が減る(前頭側頭型認知症の初期に多い)

これらが3か月以上続き、複数同時に現れる場合は受診を強く検討します。「うつかも」と精神科だけ受診すると認知症のスクリーニングが行われないことがあるため、もの忘れ外来・神経内科・脳神経外科を必ず候補に入れてください。

最初の相談先:若年性認知症コールセンター

どこに行くか分からない段階での最初の相談先として、厚生労働省が認知症介護研究・研修大府センターに委託して運営する全国若年性認知症支援センター 若年性認知症コールセンターがあります。

  • 電話番号:0800-100-2707(通話料無料)
  • 受付時間:月〜土曜日 10:00〜15:00(年末年始・祝日除く)
  • 2009年10月、厚生労働省「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」に基づき開設
  • 本人・家族・職場の同僚・支援者からの相談に対応
  • 診断前の相談(医療機関の探し方)、診断後の生活相談、就労相談、家族会の紹介などをワンストップで受けられる
  • 2023年度の相談件数は約3,000件(全国若年性認知症支援センター報告書より)

若年性認知症支援コーディネーター

厚生労働省の認知症施策推進大綱に基づき、各都道府県・指定都市に1名以上の若年性認知症支援コーディネーターが配置されています。本人・家族からの相談を入り口に、医療・介護・就労・経済支援の各機関を横断してコーディネートする専門職です。

  • 診断初期の生活設計の相談(仕事継続か退職か、家計の組み立て直し)
  • 障害年金・自立支援医療など制度申請の伴走支援
  • 職場との就労継続交渉の同席・調整
  • 本人の居場所(若年性向けデイサービス、ピアサポート)の紹介
  • 家族会・配偶者支援グループへのつなぎ

配置先は都道府県によって異なります(県庁高齢福祉課直営、認知症疾患医療センター内、若年性認知症総合支援センター等)。お住まいの都道府県名と「若年性認知症支援コーディネーター」で検索するか、若年性認知症コールセンターに問い合わせれば連絡先を案内してもらえます。

医療機関を受診するときの準備

診察は本人と家族(できれば同居家族)が一緒に行きます。本人だけでは症状の自覚が乏しく、医師が症状経過を把握しにくいためです。受診前に以下を準備しておくと診断精度が上がります。

  • 症状経過メモ:いつから・どんな症状が・どのくらいの頻度で出ているか、時系列で記載
  • 生活歴・職歴・既往歴:頭部外傷、過去の精神疾患、家族歴(親兄弟の認知症の有無)、飲酒量
  • 服用中の薬:お薬手帳を持参(薬剤性認知機能低下の鑑別に必要)
  • 仕事への影響メモ:上司・同僚から指摘された具体的なエピソード
  • 運転の異変:事故・違反・道迷いの有無(運転免許の継続可否の判断材料)

初診時にはMMSE(30点満点の認知機能スクリーニング)、HDS-R(改訂長谷川式)、頭部MRIまたはCT、必要に応じてSPECTやアミロイドPETなどの検査が行われます。診断確定までに数回の通院が必要なケースもあります。

仕事を続けるか・辞めるか|就労継続と退職の判断軸

診断直後、家族と本人が最も悩むのが「仕事をどうするか」です。結論から言えば、いきなり退職せず、職場の合理的配慮・障害者雇用への切り替え・休職を順番に検討するのが原則です。退職してしまうと傷病手当金や障害厚生年金など在職中の制度が使えなくなる場合があるためです。

判断ステップ1:診断を職場に開示するか

診断を職場に開示するメリット・デメリットを整理します。本人の意思を最優先に、家族と若年性認知症支援コーディネーターが一緒に考えます。

  • 開示するメリット:業務量・内容の調整、ミス時のフォロー体制、合理的配慮(障害者差別解消法)の対象になる、傷病手当金・休職制度の利用、産業医・人事との連携が取れる
  • 開示しないリスク:ミスが続き能力評価が下がる、対人関係の悪化、懲戒対象となるリスク、結果的に望まない退職に追い込まれる
  • 段階的開示:まず信頼できる上司・産業医にのみ伝え、徐々に必要な範囲を広げる方法もある

就業規則の「健康診断」「私傷病休職」「定期面談」の規定を事前に人事担当者または産業医経由で確認しておきます。

判断ステップ2:合理的配慮の検討

2024年4月から民間事業主にも合理的配慮の提供が義務化されました(障害者差別解消法改正)。診断書の提出を前提に、以下のような調整を職場に求めることができます。

  • 業務内容の見直し(複雑な判断業務から定型業務へ)
  • 業務量の調整、納期の延長
  • マニュアル化・チェックリスト化による補助
  • 勤務時間の短縮、フレックスタイム導入
  • 運転業務・危険業務からの配置転換
  • 同僚への状況共有とサポート体制

判断ステップ3:休職制度の活用

多くの企業に「私傷病休職」制度があり、就業規則に基づき最大6か月〜2年程度休職できます。休職期間中は健康保険から傷病手当金(標準報酬日額の3分の2、最大通算1年6か月)が支給されます。休職中に体調・症状を整え、復職か退職かを判断する時間を確保できます。

判断ステップ4:障害者雇用への切り替え

同じ会社で精神障害者保健福祉手帳を取得し、障害者雇用枠に切り替えて働き続ける選択肢もあります。業務内容・労働時間が本人の状態に合わせて調整され、企業側も法定雇用率の算定対象になります。ジョブコーチ(地域障害者職業センター配置)の支援を受けながらの就労継続も可能です。

判断ステップ5:退職を決める場合

進行が早く就労継続が困難な場合は退職を選びます。その際、以下の制度・手続きの順序を意識します。

  1. 退職前に初診日を確認し、診断書を確保しておく(障害年金申請の根拠書類)
  2. 退職時に離職票を受け取る(雇用保険・国民健康保険手続きに必要)
  3. 傷病手当金は退職後も継続可能(在職中1年以上加入、退職時受給中の要件)
  4. 健康保険の任意継続か国民健康保険か比較検討(最大2年、保険料は全額自己負担)
  5. 失業給付の傷病による受給期間延長申請(最大4年延長可能)
  6. 退職後すぐに障害年金申請に着手

退職判断は本人・家族・若年性認知症支援コーディネーター・産業医・社会保険労務士と相談し、感情ではなく制度活用順を踏まえて決定することが重要です。

復職・再就職を考える場合

退職後に状態が安定し、再就職を検討する場合は以下の支援機関を活用します。

  • ハローワーク(障害者専門窓口):障害者雇用枠の求人紹介、職業相談
  • 地域障害者職業センター:職業評価、ジョブコーチ派遣、職業準備支援
  • 障害者就業・生活支援センター:就業面と生活面を一体的に支援する全国窓口
  • 就労継続支援B型:雇用契約を結ばず体調に合わせて作業に従事できる福祉サービス

若年性認知症で使える経済支援制度の全体像(6制度比較)

若年性認知症で家族の生活を守る経済支援制度は複数あり、組み合わせて使うことで世帯収入の落ち込みをかなりの程度まで補えます。在職中・退職後・年金開始後の各局面で使える制度の早見表です。

制度窓口給付内容(概要)主な要件・タイミング
傷病手当金 協会けんぽ・健康保険組合 標準報酬日額の3分の2(通算最大1年6か月) 在職中の連続3日間休業+4日目以降。退職後継続も条件付き可
障害年金 年金事務所・市区町村国保年金課 障害基礎年金(1〜2級)/障害厚生年金(1〜3級+障害手当金) 初診日に年金加入+保険料納付要件+初診から1年6か月後の認定日
自立支援医療(精神通院) 市区町村障害福祉課 精神科外来・薬の自己負担を1割に軽減+月額上限 主治医の診断書、世帯所得に応じた上限額設定
精神障害者保健福祉手帳 市区町村障害福祉課 所得税・住民税控除、公共料金割引、NHK受信料減免、障害者雇用対象 初診から6か月経過後に申請可、1〜3級判定
介護保険 市区町村介護保険課・地域包括支援センター 要介護認定後、訪問介護・デイサービス・福祉用具等を1〜3割負担で利用 40〜64歳は特定疾病「初老期における認知症」で利用可
失業給付(受給期間延長) ハローワーク 基本手当(雇用保険)+傷病による受給期間延長 退職後すぐ働けない場合、最大4年延長申請

使う順序の目安(在職時に発症した場合)

  1. 在職中:自立支援医療+傷病手当金(休職)+精神障害者保健福祉手帳(取得後は障害者控除)
  2. 退職時:傷病手当金継続+健康保険任意継続/国保切替+失業給付受給期間延長
  3. 退職後〜障害認定日:傷病手当金(1年6か月まで)+自立支援医療継続
  4. 障害認定日以降:障害年金開始+介護保険(40歳以上)+障害者総合支援法サービス
  5. 住宅ローン:団体信用生命保険の高度障害特約該当の有無を契約書で確認

住宅ローンの取り扱い

住宅ローン契約時に加入した団体信用生命保険に「高度障害特約」が付いている場合、若年性認知症が「高度障害状態」と認定されると残債が免除される可能性があります。認定基準は保険会社により厳格に異なります(食事・排泄・歩行等すべてに介助が必要、回復の見込みがない等)が、診断書を取得して保険会社に必ず照会してください。生命保険の高度障害保険金についても同様です。

子どもの教育資金

世帯収入が減少した場合、市区町村の就学援助制度(小中学校)、高校・大学の奨学金(日本学生支援機構)、母子父子寡婦福祉資金(ひとり親世帯)、生活福祉資金貸付制度の「教育支援資金」等が利用できます。子どもが進学を諦めずに済むよう、市町村窓口に早めに相談してください。

障害年金の申請|在職中の早めの受診が最大のカギ

若年性認知症で家族の生活を支える最も大きな経済支援が障害年金です。要件のうち最重要なのが初診日要件で、在職中の早期受診が後の受給額を左右します。家族が押さえておくべきポイントを社会保険労務士・年金事務所への相談実例に基づき整理します。

障害年金の2種類

項目障害基礎年金障害厚生年金
対象国民年金加入中/20歳前/60〜65歳未満で初診日があった人厚生年金加入中(在職会社員・公務員)に初診日があった人
等級1級・2級のみ1級・2級・3級+障害手当金(一時金)
年額目安(2025年度)1級:約103万円/2級:約83万円+子加算報酬比例部分+障害基礎年金(1・2級)/3級:最低保障約62万円
3級該当の可否×(基礎年金には3級なし)○(軽度でも厚生年金加入中なら受給可能)

つまり会社員・公務員として厚生年金に加入している間に受診(初診日)を済ませておけば、3級でも障害厚生年金が受給できるという点が決定的に重要です。退職して国民年金に切り替わった後の初診日では、3級は対象外となり、2級以上の重度判定が必要になります。

3つの受給要件(すべて満たす必要)

  1. 初診日要件:障害の原因となった傷病(若年性認知症)について、初めて医師の診療を受けた日(初診日)が、国民年金または厚生年金の被保険者期間中にあること
  2. 保険料納付要件:初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの公的年金加入期間のうち、保険料納付済期間と免除期間が3分の2以上あること(または直近1年間に未納がない特例)
  3. 障害認定日要件:初診日から1年6か月経過した日(障害認定日)における障害の状態が、政令で定める障害等級に該当すること(事後重症請求も可)

初診日の証明が難航しやすい理由

若年性認知症は初期にうつ病・更年期障害・職場ストレスと診断されることが多く、認知症と確定診断されるまで複数の医療機関を転々とするケースが少なくありません。障害年金の初診日は「現在の症状の原因となった最初の受診日」であり、後にうつ病が認知症に診断変更された場合も、最初のうつ病受診日が初診日になることがあります。

カルテの保存期間は5年(医師法)で、それを過ぎると初診日の証明が困難になります。家族としてできる対策は以下です。

  • 家族・職場同僚に当時の状況を「第三者証明」として書面で残してもらう(医療機関のカルテがなくても認められる場合がある)
  • 当時のお薬手帳、診察券、診療明細書、健康診断結果を保管
  • 初診の医療機関に早めに受診状況等証明書を依頼(社労士・年金事務所に同行依頼すると確実)

認知症の障害等級認定基準(精神の障害)

認知症は障害年金の認定上「症状性を含む器質性精神障害」として扱われ、日常生活能力の判定で等級が決まります。目安は以下です(実際の判定は診断書と病歴・就労状況等申立書を総合)。

  • 1級:高度の知能障害があり、常時の介護が必要(食事・入浴・排泄等すべてに介助が必要)
  • 2級:知能障害により日常生活が著しい制限を受ける(買い物・服薬管理・清潔保持等に支援が必要)
  • 3級:労働が著しい制限を受ける(厚生年金のみ。仕事に著しい支障がある状態)

申請のステップ

  1. 年金事務所で初診日を相談(必要書類の案内を受ける)
  2. 初診医療機関から受診状況等証明書を取得
  3. 診断書(精神の障害用)を主治医に依頼(認定日時点の症状を記載)
  4. 病歴・就労状況等申立書を作成(家族が本人の代わりに作成可。発症から現在までの経過・仕事や生活の支障を時系列で記入)
  5. 年金事務所または市区町村国保年金課に提出
  6. 結果通知(3〜4か月後)

申請手続きは社会保険労務士(特に障害年金専門社労士)の支援を受けると認定率と等級が上がる傾向があります。若年性認知症支援コーディネーターが地域の社労士を紹介してくれる場合もあります。

40〜64歳の介護保険利用|特定疾病「初老期における認知症」

40歳以上であれば、介護保険の特定疾病「初老期における認知症」として要介護認定を受け、訪問介護・通所介護(デイサービス)・福祉用具・短期入所などのサービスを1〜3割負担で利用できます。若年性認知症の家族が知っておきたい運用上のポイントを整理します。

申請の流れ

  1. 市区町村介護保険課または地域包括支援センターで要介護認定を申請
  2. 主治医意見書を医師に依頼(若年性認知症の診断名を明記)
  3. 認定調査員が自宅訪問し74項目の聞き取り調査
  4. 介護認定審査会で要支援1〜要介護5を判定(30日以内)
  5. ケアマネジャー(要介護)または地域包括支援センター職員(要支援)がケアプランを作成
  6. サービス事業所と契約し利用開始

若年性認知症ならではの運用課題

介護保険サービスは高齢者中心に設計されているため、若年性認知症の本人が利用すると以下のミスマッチが起きやすくなります。

  • デイサービスでの居場所感の欠如:利用者の平均年齢が80代の場で、50代の本人が「自分の場所ではない」と感じる
  • プログラムのギャップ:童謡・体操・塗り絵中心のプログラムが、現役感のある本人にとって苦痛になる
  • 身体機能は元気:身体は若く動けるため、高齢者向けの動作介助が合わない
  • 進行スピードへの対応:若年性は進行が早い傾向があり、ケアプランを頻繁に見直す必要がある

若年性向けに配慮されたサービス

  • 若年性認知症対応型デイサービス:都市部を中心に少数だが存在。仕事に近い軽作業・趣味活動・本人交流会を組み込む
  • 就労継続支援B型(障害者総合支援法):介護保険デイサービスより本人の自尊心が保たれやすい
  • 地域支援事業(介護予防):通いの場や住民主体のサロンを若年性向けに調整できる場合あり
  • 若年性認知症支援コーディネーター推奨:地域で利用可能な若年性向け資源を一覧化して案内してもらえる

介護休業・介護休暇の活用

配偶者・親が若年性認知症と診断された家族(働く側)は、育児・介護休業法に基づき以下の制度を職場で利用できます。職場への申請は権利として認められます。

  • 介護休業:対象家族1人につき通算93日(3回まで分割可)、雇用保険から賃金の67%の介護休業給付金
  • 介護休暇:年5日(対象家族2人以上は10日)、時間単位で取得可
  • 短時間勤務制度:3年以上、原則6時間勤務に短縮
  • 所定外労働の制限:残業を制限できる
  • 深夜業の制限:深夜勤務を制限できる

働く家族が介護のために離職する「介護離職」を防ぐため、これらの制度を組み合わせて使うことが推奨されます。職場の人事担当者または社内産業医に早めに相談してください。

子ども・配偶者・家族会|心理社会的サポートの組み立て方

若年性認知症の家族支援は、経済支援・介護サービスだけでは完結しません。子どもや配偶者が抱える心理的負担、社会的孤立、ヤングケアラー化のリスクへの対応が同じ重みで必要です。公益社団法人認知症の人と家族の会・若年性認知症コールセンターが繰り返し強調している論点を整理します。

子どもへの伝え方

親が若年性認知症と診断されたとき、子どもへの説明は年齢と理解度に応じて段階的に行います。隠すと信頼関係が崩れ、子どもが「自分のせいで親が変わってしまった」と誤解するリスクがあります。

  • 小学校低学年まで:「お父さん/お母さんはちょっと忘れっぽい病気になったの。怒っているのはあなたのせいじゃないよ」と短く伝える
  • 小学校高学年〜中学生:病名を伝え、進行することも含めて説明。「家族でできることを一緒に考えよう」と話し合いに参加させる
  • 高校生・大学生:制度・経済面まで共有。本人の進路を変えさせず、家族会の同世代の子のグループとつなぐ
  • 成人後の子:医療判断・介護判断に参画してもらう。同居しない子にも定期的に情報共有

子どもの心のケアには、認知症の人と家族の会の若年性家族支部や、自治体・スクールカウンセラー・若年性認知症コーディネーター経由の同世代ピアサポートが有効です。

ヤングケアラーへの配慮

若年性認知症の親を持つ子どもは、本来大人が担うべき介護・家事を負わざるを得ないヤングケアラーになりやすい立場です。学業・友人関係・進学に支障が出るリスクがあります。家族と支援者が以下に注意します。

  • 家事・介護を子どもに過度に依存しない(介護保険・障害者総合支援法・保険外サービスでカバー)
  • 学校の担任・養護教諭・スクールソーシャルワーカーに状況を共有
  • こども家庭庁・自治体のヤングケアラー相談窓口(ヤングケアラー・コーディネーター)に相談
  • 子ども自身が同世代ピアと話せる場(オンライン含む)を確保

配偶者のレスパイトとメンタルヘルス

主介護者が配偶者になることが多く、就労・育児・介護のトリプル負担で配偶者自身がうつ・睡眠障害・体調不良になるリスクが高いとされます。家族の介護うつ予防は本人の生活を守る最重要課題です。

  • 短期入所(ショートステイ)を計画的に利用し、配偶者の休息時間を確保
  • レスパイト入院(医療機関の認知症治療病棟、若年性に対応する病院あり)
  • 配偶者自身が心療内科・精神科を受診し、必要なら治療を受ける
  • 家族会・配偶者支援グループ(認知症の人と家族の会、若年性認知症コールセンター主催の家族交流会)
  • 地域包括支援センター・若年性認知症支援コーディネーターの伴走相談

家族会・本人交流会

同じ立場の本人・家族と話せる場は、孤立感の解消と実務情報の交換に役立ちます。代表的な集まりです。

  • 公益社団法人認知症の人と家族の会(本部:京都、47都道府県に支部):電話相談(0120-294-456)、家族のつどい、若年期認知症のつどい
  • 若年性認知症コールセンター主催 オンライン本人交流会・家族交流会
  • 都道府県若年性認知症総合支援センター(東京都・愛知県等に設置)の家族交流会
  • 地域の若年性認知症本人ミーティング・配偶者の会
  • 日本認知症本人ワーキンググループ:本人が発信する場、家族が本人視点を学べる

自治体の若年性認知症支援事業

各都道府県・市町村は厚労省「認知症施策推進大綱」に基づき、若年性認知症支援事業(コーディネーター配置、専門相談、本人交流会、企業・就労支援機関への普及啓発、家族会助成)を実施しています。お住まいの自治体ホームページで「若年性認知症」と検索するか、若年性認知症支援コーディネーターに問い合わせると地域の事業一覧を案内してもらえます。

よくある質問

Q. 若年性認知症の疑いがあるとき、最初にどこへ相談すればよいですか?

A. まず若年性認知症コールセンター(0800-100-2707、月〜土10〜15時、年末年始除く)に電話し、地域の医療機関と若年性認知症支援コーディネーターを案内してもらうのが最短ルートです。医療機関はもの忘れ外来・神経内科・脳神経外科・若年性認知症疾患医療センターを候補にしてください。精神科だけだとうつ病と診断され、認知症のスクリーニングが行われないことがあります。

Q. 退職してから受診すると障害年金は不利になりますか?

A. 不利になる可能性があります。会社員・公務員として厚生年金加入中に初診日があれば3級でも障害厚生年金が受給できますが、退職して国民年金に切り替わってからの初診では3級は対象外で、2級以上の重度判定が必要になります。「仕事のミスが増えてきた」段階で早めに受診を済ませることが、後の障害年金の受給可否と等級を左右します。

Q. 40歳未満で発症した場合、介護保険は使えないのですか?

A. 介護保険は40歳以上が対象です。40歳未満の場合は障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス(居宅介護、生活介護、自立訓練、就労継続支援等)を利用します。市区町村の障害福祉課に相談し、障害支援区分の認定を受けることでサービスが利用できます。精神障害者保健福祉手帳の取得も検討してください。

Q. 住宅ローンは免除されますか?

A. 住宅ローン契約時に加入した団体信用生命保険に「高度障害特約」が付いている場合、若年性認知症が高度障害状態と認定されれば残債が免除される可能性があります。認定基準は保険会社により異なり、食事・排泄・歩行等すべてに介助が必要な状態などが条件です。契約書類を確認し、診断書を取得して保険会社に必ず照会してください。生命保険の高度障害保険金も同様に確認します。

Q. 子どもにどう伝えればよいですか?

A. 隠さず、子どもの年齢と理解度に応じて段階的に伝えます。小学校低学年までは「忘れっぽい病気」「あなたのせいじゃない」と短く、中高生以上は病名・進行・経済面まで含めて話し合いの場に参加させます。子どもの心のケアには、認知症の人と家族の会の若年性家族支部や、スクールカウンセラー・若年性認知症支援コーディネーター経由の同世代ピアサポートが有効です。子どもがヤングケアラー化しないよう、家事・介護を子どもに過度に頼らず、介護保険・障害者総合支援法・保険外サービスでカバーしてください。

Q. 主介護者の配偶者が疲れ切ってしまいました。どうすればよいですか?

A. レスパイト(休息)を計画的に確保することが最優先です。短期入所(ショートステイ)、レスパイト入院、デイサービスのフル活用、訪問介護の追加で配偶者の休息時間を作ります。配偶者自身が心療内科・精神科を受診することも遠慮せず検討してください。家族会・配偶者支援グループ(認知症の人と家族の会、若年性認知症コールセンター主催の家族交流会)で同じ立場の人と話すことも、心理的負担の軽減に大きく寄与します。地域包括支援センター・若年性認知症支援コーディネーターに「配偶者が限界に近い」と率直に伝えてください。

Q. デイサービスに行きたがりません

A. 高齢者中心のデイサービスでは50代の本人が居づらく、拒否することが多くあります。若年性認知症対応型デイサービス(都市部中心に少数存在)、就労継続支援B型(障害者総合支援法、軽作業中心で本人の自尊心が保たれやすい)、地域支援事業の通いの場など、本人の年齢層・興味に合う場を若年性認知症支援コーディネーターに紹介してもらってください。「介護を受ける場」より「役割がある場」が継続しやすい傾向があります。

Q. 若年性認知症の遺伝はありますか?

A. 一部の前頭側頭型認知症・若年性アルツハイマー型認知症には遺伝性のタイプが存在しますが、若年性認知症全体に占める遺伝性の割合は限定的です。家族歴がある場合は専門医(認知症疾患医療センター、大学病院の認知症遺伝外来)で遺伝カウンセリングを受けることができます。子どもや兄弟が「自分も発症するのではないか」と不安を抱えている場合は、専門医への相談を検討してください。

参考文献・出典

まとめ

若年性認知症は65歳未満で発症する認知症の総称で、全国に約3.57万人(厚労省令和2年調査、平均発症年齢54.4歳)と推計されます。働き盛り・子育て期・住宅ローン返済期に発症するため、本人と家族が同時に複数の困難に直面しますが、若年性専用の支援体制が整いつつあります。家族として優先したい3つの行動は次のとおりです。

第一に、若年性認知症コールセンター(0800-100-2707)と各都道府県の若年性認知症支援コーディネーターに最初に相談し、医療機関・経済支援制度・本人の居場所をワンストップで案内してもらってください。一人で制度を調べるより圧倒的に早く確実です。第二に、在職中の早めの受診を必ず行い、障害厚生年金(3級でも受給可能)の初診日要件を確保してください。退職してからでは大きく不利になります。第三に、配偶者と子どものレスパイトと心理ケアを経済支援と同じ重みで組み立ててください。介護保険ショートステイ・レスパイト入院・認知症の人と家族の会・スクールカウンセラーなど、家族側のサポート資源を躊躇なく使ってください。

診断後の全体像が見えにくい段階では、まず親が認知症と診断されたら|最初の30日でやるべき10ステップを参考に動きを整理し、初期症状の見極めは認知症の初期症状と受診タイミングを、在宅介護の進め方は認知症の親を在宅介護を併せて参照してください。経済支援の全体像と申請手続きは在宅介護のはじめ方のピラー記事から制度別の詳細記事をたどれます。介護を続ける家族の介護うつ予防は在宅介護中の介護うつ予防を参考にしてください。一人で抱え込まず、専門医・若年性認知症支援コーディネーター・家族会を必ず活用しながら、本人と家族の暮らしを守ってください。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。

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