認知症の親を在宅介護|BPSDへの対応・徘徊対策・限界を見極める判断軸
ご家族・ご利用者向け

認知症の親を在宅介護|BPSDへの対応・徘徊対策・限界を見極める判断軸

認知症の親の在宅介護で家族が直面するBPSD(暴言・徘徊・妄想)への対応、住環境調整、認知症対応サービスを厚労省データと共に解説。在宅介護の限界サインと入所判断の指針も紹介。

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認知症の親の在宅介護では、BPSD(行動・心理症状)への対応が最大の壁になります。在宅高齢者の約79%にBPSDが認められており(厚労省)、徘徊・暴言・もの盗られ妄想・夕暮れ症候群への対応を一人で抱え込むと、家族が介護うつや虐待リスクに追い込まれます。本記事では、BPSDの代表5症状への対応、住環境調整とGPS活用、認知症対応型通所介護や認知症初期集中支援チームなど活用したい公的サービス、そして「主介護者の睡眠不足」「暴力リスク」「経口摂取困難」という3つの限界サインと入所判断の考え方を、厚労省・公的データに基づき整理します。医療判断はかかりつけ医・認知症サポート医への相談が前提です。

目次

「夜中に何度も起き上がって出かけようとする」「『財布を盗られた』と毎日責められる」「日が暮れると不穏になる」――認知症の親を自宅で介護する家族は、こうした行動・心理症状(BPSD)と日々向き合いながら、自分の生活も仕事も維持しなければなりません。

厚生労働省「認知症の人を介護する家族等に対する効果的な支援のあり方に関する調査研究」では、在宅で介護を受ける認知症高齢者の約79%に何らかのBPSDが認められ、家族介護者の約45%が「非常に負担」または「まぁまぁ負担」と回答しています。Zarit介護負担尺度(短縮版)の平均は17.0点と、軽度負担の閾値を超える水準です。

本記事では、認知症の在宅介護を続けるための実践的な対応と、限界が来る前に頼るべきサービス、そして「いつまで在宅で続けるか」という難しい判断軸を、厚生労働省・国立長寿医療研究センターなどの一次情報をもとに整理します。本記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療・薬物療法の指示ではありません。症状や対応に迷ったら必ずかかりつけ医・認知症サポート医・地域包括支援センターへ相談してください。

認知症の在宅介護が「一般の在宅介護」と異なる3つの特徴

同じ要介護度でも、認知症のある親を在宅で支えるのと、身体の不自由さが中心の親を支えるのとでは、家族にかかる負担の質がまったく違います。違いを言語化しておくと、必要な準備や頼るべき人が見えてきます。

1. 介護の主戦場が「身体介助」から「行動・心理面の対応」に移る

身体介護中心の在宅介護では、移乗・排泄・入浴など「動作の介助」が課題の中心です。一方、認知症の在宅介護では、見当識障害や判断力低下によって本人が「自分の状況を理解できない」状態が続き、家族は本人の不安・焦り・恐怖を24時間受け止める役割を担います。BPSD(行動・心理症状)が出ると、暴言・徘徊・拒否などにエネルギーを奪われ、身体介助よりも精神的消耗が先に来ます。

2. 「夜間も気を抜けない」介護になりやすい

厚労省の調査では、認知症の在宅介護で夜間の介護が必要なケースは約44%にのぼります。夜間の徘徊、夕暮れ症候群、せん妄により、家族の睡眠が分断されることが大きな特徴です。日中はデイサービスで休めても、夜が休めない状態が続くと、主介護者の心身がもちません。

3. 介護期間が長引きやすい

認知症の在宅介護は、診断から終末期まで平均6〜7年、ケースによっては10年以上続くことが知られています。身体機能はある程度保たれたまま認知機能だけが低下していく時期が長く、「まだ歩ける・話せるから施設は早い」と判断を先送りにしがちです。長期戦を前提に、早い段階から地域包括支援センター・ケアマネジャー・かかりつけ医とのチームを作っておく必要があります。

BPSDの代表的な5症状と家族の対応の基本

BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症の行動・心理症状)は、記憶障害や見当識障害などの「中核症状」に、本人の不安・体調・環境ストレスが重なって生じる二次的な症状です。厚労省の研究班では、BPSDを「認知症本人にとってのSOSサイン」「満たされないニーズ(アンメットニーズ)の表出」と位置づけており、症状を抑え込むよりも背景にある不安・困りごとを取り除く視点が基本になります。在宅でよく出会う5症状について、家族のとっさの対応をまとめます。

① 不穏・興奮:「落ち着かない」「怒りっぽい」

「そわそわして同じ場所を行ったり来たりする」「些細なことで急に怒り出す」状態です。背景には身体的不快(便秘・痛み・かゆみ・空腹)、環境の刺激過多(テレビの音・人の出入り)、見当識障害による混乱があります。

  • まず体調チェック:排便の有無・水分摂取・痛みの訴え・体温
  • 静かで見慣れた場所へ誘導し、刺激を減らす
  • 正面から制止せず、横並びの位置で穏やかに声をかける
  • 頻発・長時間化する場合はかかりつけ医に相談(薬の見直しや身体疾患の鑑別が必要なことがあります)

② 徘徊(ひとり歩き):「外に出ていなくなる」

本人にとっては「家に帰る」「仕事に行く」など目的のある行動であることが多く、近年は「徘徊」ではなく「ひとり歩き」と呼ぶ自治体も増えています。アルツハイマー型認知症で特に多い症状です。

  • 外出を強引に止めると興奮を増幅させるため、まず一緒に歩いて気持ちを受け止める
  • 玄関ドアの色を変える・鍵の位置を本人視野の外にする・人感センサーを設置する
  • 服や靴に氏名と連絡先を縫い付ける、見守りシール・GPS端末を活用する
  • 地域包括支援センター・近所・交番・新聞配達・コンビニに事情を伝え、見守りネットワークを作る(多くの自治体で「徘徊高齢者SOSネットワーク」を運営)

③ 暴言・暴力:「怒鳴る」「叩く」「物を投げる」

本人の不安・恐怖・自尊心が傷ついた感情の表出として現れます。介護拒否(入浴・服薬・着替えを嫌がる)と連動することも多く、家族にとって最も消耗する症状です。

  • 正面・至近距離から声をかけず、斜め前方や横から落ち着いたトーンで話す
  • 本人が興奮しているときは一旦距離を取り、お互いがクールダウンする時間を作る
  • 叩かれそうになったら「逃げる」を最優先に。家族が安全を守ることが先です
  • 暴力が頻発・継続する場合は、かかりつけ医・認知症サポート医に必ず相談する(後述の限界サインに該当)

④ もの盗られ妄想:「財布を盗られた」「嫁が財布を隠した」

女性に多く、最も身近で世話をしてくれる家族(とくに同居の嫁や娘)が「犯人」にされやすいという特徴があります。記憶障害で置き忘れたものを「自分は置いていない=誰かが盗った」と解釈することで生じます。

  • 「盗ってない」と否定すると関係が悪化する。まず「困りましたね、一緒に探しましょう」と寄り添う
  • 本人が「見つけた」体験を作るのが解決の近道。本人の手で発見できる位置に置く
  • 毎回同じ場所に置く習慣(財布専用の小箱・通帳定位置)を本人と決める
  • 言われた家族が一人で抱え込まないよう、ケアマネジャー・主治医に必ず情報共有する

⑤ 夕暮れ症候群:「日が暮れると不穏になる」

夕方から夜にかけて落ち着きがなくなり、「家に帰る」と言い出したり、不安・興奮が強まる現象です。光量の変化、疲労の蓄積、体内リズムの乱れが関与すると考えられています。

  • 夕方に本人がリラックスできる「予定」を作る(散歩・お茶・好きな番組)
  • 日中に光を浴び、適度な活動量を確保して夜間の睡眠リズムを整える
  • 夕方の照明を早めに点け、暗さによる不安を減らす
  • ご家族だけで対応が難しいときは、認知症対応型通所介護(後述)の延長利用や認知症初期集中支援チームへの相談を検討

在宅で工夫できる環境調整|居場所の見える化・転倒予防・GPS活用

BPSDの多くは「本人が混乱している環境」がトリガーになります。家族が日中の対応に追われる前に、住環境を整えるだけで症状が軽くなるケースは少なくありません。

居場所と動線の「見える化」

  • トイレ・寝室・ダイニングのドアに大きな貼り紙やイラストサインを貼り、文字が読みづらい場合はピクトグラムで示す
  • 夜間も足元灯やセンサーライトを点けて、寝室からトイレまでの動線を常に「見える」状態にする
  • 本人の使う場所(食卓の席・ベッド・椅子)はできるだけ動かさない。配置を変えるとそれだけで混乱の原因になる
  • カレンダーや日めくりを見やすい場所に置き、「今日が何日か」をいつでも確認できるようにする

薬の管理:飲み忘れ・飲みすぎを防ぐ

認知症が進むと、本人が薬を管理することは安全面・治療効果の両面でリスクになります。家族がすべての薬を管理する前提で動きましょう(具体的な薬剤名・用量はかかりつけ医・薬剤師の指示に従ってください)。

  • 朝・昼・夕・寝る前に分けられる「お薬カレンダー」「ピルケース」で1週間分をまとめてセット
  • 飲んだかどうか不安な時は薬局で「一包化」を依頼。日付・時間帯入りも可能
  • 訪問看護・訪問薬剤管理指導を活用すると、薬剤師が自宅で残薬・服薬状況を確認してくれる
  • 「薬を飲んでくれない」「同じ薬を何度も飲もうとする」状態が続く場合はかかりつけ医に相談し、剤型・服用回数の見直しを検討してもらう

転倒予防:骨折=寝たきりへの最短ルートを断つ

認知症の方は、判断力低下と注意力散漫が重なるため転倒リスクが高く、骨折は寝たきり・誤嚥性肺炎・施設入所のきっかけになりやすい重大イベントです。

  • 段差解消・手すり設置・滑り止めマットなどは介護保険の住宅改修費(生涯20万円まで・原則1割負担)福祉用具貸与・購入で対応可能
  • 夜間の足元灯、ベッドからトイレまでの動線確保、コード類の床固定
  • スリッパは脱げやすく転倒リスクを上げるため、滑り止め付きのルームシューズや靴下を検討
  • 本人の「歩く力」を維持するため、デイサービスや訪問リハビリを活用

GPS・見守り機器の活用

ひとり歩きへの対策として、GPS端末・見守りシール・通信機能付きの福祉用具を組み合わせるのが現実解です。2026年の社会保障審議会介護給付費分科会でも、通信機能を備えた福祉用具を介護保険の対象に整理する議論が進んでいます。

  • キーホルダー型・靴に内蔵するタイプのGPS端末で、家族のスマホから現在地を確認できる
  • 見守りシール(衣類・持ち物に貼るQRコード)は、発見者がスマホでスキャンすると家族に通知が届く
  • 多くの自治体が、認知症高齢者向けGPS機器の購入・レンタル助成制度を運営している(地域包括支援センターに確認)
  • 玄関や寝室のドア開閉センサー、人感センサーで夜間の動きを検知する「見守りカメラ」も普及

火の元・水の出しっぱなし対策

  • ガスコンロをIHに切り替える、立ち消え安全装置付きに替える
  • マイコンメーターで一定時間以上使用すると自動停止する設定にする
  • 蛇口はレバー式・センサー式に変えて、「ひねる」動作の混乱を減らす
  • 給湯器の温度設定を低めに固定して、やけどを防ぐ

認知症の在宅介護で活用したい4つの公的サービス

一般的な訪問介護・通所介護に加えて、認知症に特化した公的サービスがあります。「うちの親はまだ軽いから」と利用をためらっているうちに、家族の負担だけが増えていくケースが多いため、早めに地域包括支援センターで相談しましょう。

サービス名対象家族にとっての価値費用感
認知症対応型通所介護(認知症デイ)要介護1以上で認知症の診断あり少人数(定員12名以下)で個別対応。BPSDがある方も受け入れやすい介護保険1〜3割負担
認知症初期集中支援チーム40歳以上の在宅で認知症が疑われる方医師・看護師・社会福祉士が訪問し、本人と家族をおおむね6か月集中支援。診断・サービス導入まで伴走無料(市区町村事業)
認知症地域支援推進員地域の認知症の方と家族すべて各市区町村に配置。医療・介護の連携、家族の相談、認知症カフェの運営など、地域の認知症ケアの「司令塔」無料
認知症カフェ(オレンジカフェ)本人・家族・地域住民・専門職同じ立場の家族と話せる場。専門職に気軽に相談できる。2024年時点で全国約8,500か所(厚労省)無料〜数百円

認知症対応型通所介護(認知症デイ)

定員12名以下の少人数制で、認知症の特性に配慮したプログラムを行うデイサービスです。一般のデイサービスではBPSDがある方の受け入れが難しい場合でも、認知症デイなら個別対応してもらえます。スタッフの認知症ケアに関する研修受講率も高く、家族の悩みを聞いてもらえる貴重な場でもあります。

認知症初期集中支援チーム(オレンジチーム)

市区町村が設置する多職種チームで、認知症が疑われるけれどまだサービスにつながっていない方の自宅を訪問してくれます。「病院に連れて行きたいが本人が拒否する」「介護保険申請のきっかけがない」といった初期段階の壁を突破するための仕組みです。2023年時点で全国に2,543チーム(員17,066人)配置されています。

認知症地域支援推進員

あまり知られていませんが、各市区町村に必ず配置されている専門職です。「認知症かもしれない」「どこに相談したらいいかわからない」段階で最初に頼れる窓口で、医療機関・ケアマネジャー・家族の会につなぐハブの役割を担います。地域包括支援センター経由で連絡できます。

認知症カフェ

認知症の本人・家族・地域住民・専門職が集まる交流の場で、月1〜2回開催されることが多いです。「同じ症状で悩んでいる家族」と顔を合わせて話せること自体が大きな救いになります。多くは公民館・カフェ・地域包括支援センターなどで運営され、参加費は無料か数百円程度です。

認知症介護を続ける家族のメンタルケア|頼れる場所をいくつ持つか

認知症介護で家族が追い詰められる最大の理由は、「相談相手がいない」「気持ちを言葉にする場がない」ことです。厚労省調査では、認知症介護家族のZarit負担尺度(短縮版)平均は17.0点で、「介護うつ」の発症リスクが指摘されています。介護を長く続けるために、頼れる場所を複数持つ準備を意識的に行いましょう。

1. 認知症の人と家族の会(公益社団法人)

全国47都道府県に支部があり、毎月の「つどい」や電話相談(0120-294-456/平日10:00〜15:00)を運営しています。同じ立場の家族と話せる場として、半世紀近くの歴史があります。匿名でも参加でき、入会は任意です。「自分だけがつらいわけじゃない」と気づけることが、最初の救いになります。

2. 地域包括支援センターの家族向け相談

各中学校区に1か所程度設置され、社会福祉士・保健師・主任ケアマネジャーが配置されています。介護サービスの調整だけでなく、家族の悩みも聞いてくれます。来所が難しい場合は電話・訪問対応もしてくれるので、まず連絡を入れてみるところから始めましょう。

3. SNSコミュニティ・オンラインの家族会

仕事や育児と並行して在宅介護をしている世代は、リアルの会に出る時間を取りにくいのが現実です。X(旧Twitter)やオンラインの認知症介護コミュニティで、夜中に投稿された一言が支えになることもあります。匿名で愚痴・困りごとを共有でき、距離を保ちながら情報交換できる利点があります。情報の正確さを確認するために、医療・介護の判断は必ず公的機関や専門職に確認してください。

4. カウンセリング・産業医・かかりつけ医への相談

「眠れない」「食欲がない」「些細なことで涙が出る」「死にたいと思うことがある」――これらは介護うつの初期サインです。我慢せず、自分のかかりつけ医や勤務先の産業医、保健所のメンタルヘルス窓口に相談してください。医療機関では介護家族向けのカウンセリング・服薬支援を行っているところもあります。

5. レスパイトケア(介護者の休息のための一時預かり)

ショートステイや小規模多機能型居宅介護の「泊まり」を計画的に使い、家族が確実に眠れる夜・自分の予定を入れられる週末を作りましょう。「親に申し訳ない」と感じる家族が多いですが、家族が倒れたら介護そのものが続けられなくなるのが現実です。レスパイトは「家族のため」ではなく「介護を続けるため」に必要な仕組みと考えてください。

在宅介護の限界を見極める3つのサイン

「いつまで在宅で頑張るか」は、認知症介護で最も難しい判断です。多くの家族は「もう少し頑張れる」「施設に入れたら申し訳ない」と限界を超えてから決断しますが、それでは家族の心身が壊れ、本人にとっても良い選択にはなりません。医療・介護現場で「在宅継続が困難」と判断される代表的な3つのサインを示します。これは在宅介護をやめる「ゴーサイン」ではなく、医師・ケアマネジャー・家族で「次の選択肢」を本格的に話し合うべきタイミングの目安として見てください。

サイン①:主介護者の睡眠が「4時間未満」が続く

厚労省調査では、認知症介護で「主介護者の睡眠時間が4時間未満」「夜中に何度も起きる」「深夜の徘徊への対応がある」場合、家族の負担感(Zarit総得点)が有意に上昇することが示されています。睡眠不足は判断力・感情コントロール・免疫機能をすべて低下させ、家族側の心身を壊します。

  • 1〜2週間以上、まとまった睡眠が取れていない
  • 日中に強い眠気・集中力低下があり、家事や仕事に支障が出ている
  • レスパイト(ショートステイ)を入れても、戻ってきた数日後にまた睡眠が崩れる

このサインが出たら、ショートステイの定期利用、夜間対応型訪問介護、小規模多機能型居宅介護への切り替えなど、夜間負担を減らす策をケアマネジャーと至急相談してください。

サイン②:暴力・転倒・けがのリスクが現実化している

「叩かれた」「物を投げつけられた」「介助中に振り払われて家族が転倒・けがをした」状態は、家族にも本人にも危険なサインです。厚労省研究では、行動症状(暴言・暴力等)が見られるケースでZarit負担尺度の総得点が有意に高くなることが報告されています。

  • 本人が家族を叩く・蹴る・物を投げる行動が週に複数回ある
  • 家族側に身体的なけが、もしくは「叩かれそうで怖い」という恐怖が常態化している
  • 家族が「いつかカッとなって手を上げてしまうかも」と感じる(虐待のリスクサイン)

このサインは「家族が我慢する問題」ではなく、医療的介入(薬物療法の見直し・身体疾患の鑑別)と環境変更(認知症デイ強化・施設入所)の両面で対応が必要な状態です。かかりつけ医・認知症サポート医に必ず相談してください。

サイン③:経口摂取が困難になり、誤嚥・脱水が頻発する

認知症が進行すると、嚥下機能の低下、食べ物を認識できない、「食べることを忘れる」などで経口摂取が難しくなります。誤嚥性肺炎・脱水を繰り返すようになると、医療的ケアの密度が在宅では維持できなくなることが多いです。

  • 食事介助に1食1時間以上かかり、それでも十分に摂れていない
  • むせ込みが頻発し、誤嚥性肺炎で入退院を繰り返している
  • 体重が短期間で5%以上減少している、脱水で点滴が必要になることがある

このサインが出たら、看取りや終末期も含めた療養の場の選び方を、本人の意向(事前にACP=アドバンス・ケア・プランニングで話していた内容)と医療者の意見をもとに検討するタイミングです。

3つのサインが重なったときが「決断の時」

1つだけでは「もう少し頑張れる」と思えても、2つ以上が同時に出ている状態が1か月以上続いたら、在宅継続は危険水域と判断してよいでしょう。次章で、入所判断と罪悪感への向き合い方を整理します。

入所判断のタイミングと「罪悪感」への向き合い方

限界サインが出た後、もしくは出る前から、家族は「施設入所を検討する自分は、親を見捨てるのではないか」という強い罪悪感に苦しみます。これは認知症介護を担う家族のほぼ全員が通る感情で、特別なことではありません。罪悪感そのものを消すことはできませんが、判断の軸を持っておくと、決断の質と納得感は変えられます。

「在宅継続のメリット/施設入所のメリット」を分けて考える

項目在宅継続のメリット施設入所のメリット
本人の生活慣れた環境・物・においの中で暮らせる。家族との距離が近い専門スタッフによる24時間ケア。BPSD対応のノウハウがある
家族の生活本人と過ごす時間を選べる家族が主介護者ではなくなり、「家族としての関係」を取り戻せる
医療・夜間対応訪問医療と組み合わせれば看取りも可能医療・介護職が常駐し、夜間も即応できる
費用住居費は不要。介護保険サービス費中心月10〜30万円程度(施設種類による)
緊急時家族が即対応する必要がある家族が遠方でも安心できる

「家族としての関係」を守るという発想

在宅介護を続けるうちに、家族の関係性が「親と子」から「介護される人と介護する人」に固定されていきます。施設入所を選ぶことは、「介護の役割」を専門職に渡し、「家族としての関係」を取り戻すことでもあります。週に数回面会に行き、季節の話をしたり、好物を一緒に食べたりする時間が持てるようになる家族は少なくありません。「最期まで自宅で」だけが愛情の形ではない、という視点を持っておきましょう。

入所先選びのチェックポイント

  • 本人の認知症の重症度・BPSDの有無を受け入れられる施設か(特養・グループホーム・介護付き有料老人ホームなどで違う)
  • 看取り対応の方針(最期まで看てもらえるか、終末期は病院に移るのか)
  • 家族の自宅から面会に行ける距離か
  • BPSDが出たときの対応方針(抑制・薬物療法の方針を見学時に必ず確認)
  • 入所一時金・月額費用と、自分の家計で何年支えられるか

罪悪感への向き合い方

「施設に入れた自分はひどい家族だ」という気持ちは、認知症の人と家族の会の電話相談・地域包括支援センター・かかりつけ医のカウンセリング・同じ立場の家族との対話の中で、少しずつ言語化して整理していくしかありません。「申し訳ない」と思える優しさがある人ほど、限界を超えて頑張ってしまうという事実を覚えておいてください。あなたが倒れたら、本人の生活そのものが続けられなくなります。「自分の生活と健康を守る決断は、本人の生活を守る決断でもある」という視点が、罪悪感と共存しながら前に進む助けになります。

認知症の在宅介護に関するよくある質問

Q1. 認知症の親がデイサービスに行きたがりません。どうすればよい?

「行きたくない」の背景には、見当識障害による不安、過去の集団生活の苦手意識、新しい環境への警戒があります。「楽しいよ」と説得するより、ケアマネジャー・デイの相談員と相談して初回は短時間(午前のみ・体験利用)から始める、なじみの職員を固定してもらう、本人が好きな趣味(園芸・歌・将棋など)が活動に組み込まれている認知症対応型デイを選ぶ、という工夫が有効です。それでも難しい場合は、認知症初期集中支援チームに相談してみてください。

Q2. 暴言・暴力がひどく、家族の心が折れそうです。薬で何とかなりますか?

BPSDに対する薬物療法は、医師が他の対応策(環境調整・心理的アプローチ・身体疾患の鑑別)を踏まえたうえで判断するもので、本記事では具体的な薬剤名・用量は扱いません。重要なのは、「家族が我慢する問題ではない」ということです。かかりつけ医・認知症サポート医に「家族の安全が脅かされている」と率直に伝え、診療・治療の方針を一緒に検討してもらってください。家庭内暴力のリスクが高い場合は、地域包括支援センターと市区町村の高齢者虐待相談窓口にも早めに連絡を。

Q3. 仕事と認知症介護の両立が限界です。介護離職した方がよい?

厚労省は介護離職を防ぐ立場で、「介護休業(最長93日・3回まで分割可)」「介護休暇(年5〜10日)」「短時間勤務」などの制度を整備しています。介護離職は経済的にも復職面でも家族のリスクを高めるため、まず勤務先の人事・産業医に相談し、これらの制度を活用しながら、ケアマネジャーと組み合わせるサービスを再設計することを優先してください。本サイトでは家族向けの両立支援に関する記事もあわせて参照できます。

Q4. もの盗られ妄想で「嫁が財布を盗った」と毎日言われ、家族関係が崩壊しそうです

これは妄想を直接訂正しても解決しない症状です。まず一人で抱え込まず、ケアマネジャー・主治医・他の家族(子・きょうだい)に状況を伝えるのが先決です。介護分担の見直し、認知症デイの利用拡大、ショートステイで距離を取るなど、対応者と本人の物理的距離・心理的距離を調整することで症状が落ち着くことがあります。

Q5. 認知症の親がお金の管理ができなくなりました。何から始めればよい?

軽度の段階で成年後見制度(任意後見・法定後見)や日常生活自立支援事業の利用を検討してください。任意後見は本人に判断能力があるうちに将来の後見人を決めておく制度で、家族・専門職(弁護士・司法書士・社会福祉士)どちらも候補になります。地域包括支援センター、市区町村の社会福祉協議会、家庭裁判所が相談窓口です。

Q6. 「認知症初期集中支援チーム」はどうやって依頼できますか?

お住まいの市区町村の地域包括支援センターまたは市区町村の介護保険担当窓口に「認知症初期集中支援チームに相談したい」と伝えてください。本人がまだ介護保険を使っていなくても、医療機関にかかっていなくても利用できます。「病院に行くのを嫌がる」「介護保険申請のきっかけがない」段階の家族にとって、最初の伴走者になる存在です。

参考文献・出典

認知症の在宅介護を「持続可能」にするために

認知症の親の在宅介護は、本人の人格・身体機能・行動が長い時間をかけて変わっていく過程に、家族が一緒に伴走する営みです。何を頑張れば正解か、いつまで続ければよいか、誰も明確には教えてくれません。だからこそ、判断の軸を持っておくことが家族を守ります。

  • BPSDは「症状」ではなく「本人のSOSサイン」と捉え、背景の不安・痛み・環境を整えることから始める
  • 住環境の見える化・薬の管理・転倒予防・GPS活用で、日常の負担とリスクを下げる
  • 認知症対応型通所介護・認知症初期集中支援チーム・認知症地域支援推進員・認知症カフェなど、認知症に特化した公的支援を早めに使う
  • 認知症の人と家族の会・地域包括支援センター・SNS・カウンセリング・レスパイトケアで、家族が頼れる場所を複数持つ
  • 「主介護者の睡眠不足」「暴力リスク」「経口摂取困難」の3つのサインを目安に、医師・ケアマネジャーと早めに話し合う
  • 施設入所は「介護の役割を専門職に渡し、家族としての関係を取り戻す」選択でもある。罪悪感と共存しながら判断する

本記事は情報提供を目的とした一般的な解説であり、診断・治療・薬物療法の指示ではありません。具体的な医療判断は必ずかかりつけ医・認知症サポート医に、介護サービスの選択は地域包括支援センターやケアマネジャーに相談してください。あなたが一人で抱え込まないことが、本人と家族双方にとって最善の在宅介護の出発点です。

執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

介護保険、施設選び、在宅介護など、介護を受ける方・ご家族が判断に迷いやすいテーマを、公的情報と実務上の確認ポイントに沿って解説しています。

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