労働時間の適正把握とは

労働時間の適正把握とは

労働時間の適正把握とは、使用者が労働日ごとの始業・終業時刻を客観的な方法で確認し記録することです。平成29年のガイドラインと労働安全衛生法66条の8の3という2つの根拠、自己申告制の要件、賃金台帳と記録の保存期間を介護現場の実務に沿って整理します。

ポイント

労働時間の適正把握とは

労働時間の適正把握とは、使用者が労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録することを指します。厚生労働省は平成29年1月20日付けで「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を定め、原則としてタイムカードなどの客観的な記録によることを求めています。さらに2019年からは労働安全衛生法66条の8の3により、医師による面接指導を実施するための「労働時間の状況の把握」も事業者の義務となりました。

目次

労働時間の適正把握には2つの根拠がある

1. 労働基準法上の責務としてのガイドライン

ガイドラインは、労働基準法が労働時間・休日・深夜業について規定を設けていることから、使用者は労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していると述べたうえで、具体的に講ずべき措置を明らかにしたものです。対象は労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用されるすべての事業場で、対象労働者は労働基準法41条に定める者(管理監督者など)とみなし労働時間制が適用される労働者を除くすべての者とされています。

2. 労働安全衛生法66条の8の3による把握義務

一方、労働安全衛生法66条の8の3は「事業者は、(中略)面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならない」と定めています。厚生労働省令にあたる労働安全衛生規則52条の7の3は、その方法を「タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法」と規定しています。

この2つは目的が異なります。ガイドラインは賃金計算の前提となる労働時間の把握、労働安全衛生法66条の8の3は長時間労働者の健康確保のための把握です。後者は管理監督者や裁量労働制の対象者も含めて把握しなければならない点が大きな違いです。介護施設では施設長やフロアリーダーが管理監督者として扱われている場合がありますが、その場合でも労働時間の状況の把握義務からは外れません。

ガイドラインが定める労働時間の考え方と把握の方法

そもそも労働時間とは何か

ガイドラインは、労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たるとしています。そのうえで、次の時間は労働時間として扱わなければならないと明記しています。

  • 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替えなど)や、業務終了後の業務に関連した後始末(清掃など)を事業場内で行った時間
  • 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機している時間(いわゆる手待時間)
  • 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習などを行っていた時間

労働時間に当たるかどうかは、労働契約や就業規則の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかによって客観的に定まる、とされています。

原則的な確認・記録の方法

  • 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること
  • タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること

自己申告制による場合の措置

上記の方法によらず自己申告制で行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずるとされています。労働者への十分な説明、労働時間を管理する者への十分な説明、必要に応じた実態調査と労働時間の補正、事業場内にいた時間との乖離理由の確認、そして労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設けて上限を超える申告を認めないなど、適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと、の5点です。特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など事業場内にいた時間がわかるデータがあり、自己申告との間に著しい乖離が生じているときは、実態調査を行って補正することが求められます。

賃金台帳の記入事項と記録の保存期間

賃金台帳に何を書くか

労働基準法108条は、使用者は各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項および賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を、賃金支払のつど遅滞なく記入しなければならないと定めています。ガイドラインは、労働基準法108条と同法施行規則54条により、労働者ごとに労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないとしたうえで、これらを記入していない場合や故意に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法120条に基づき30万円以下の罰金に処されるとしています。

3つの保存期間が併存する理由

記録の保存については、数字が3種類あるため混乱しやすい部分です。

  • 労働基準法109条: 労働者名簿、賃金台帳および雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存。
  • 同法附則143条1項: 109条の適用について、当分の間、5年間を3年間と読み替える。したがって実務上は3年が現行の下限です。
  • 労働安全衛生規則52条の7の3第2項: 労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための必要な措置を講じること。

平成29年のガイドライン本文が「3年間保存」と書いているのは、策定時点の労働基準法109条が3年だったためです。ガイドラインは、労働者名簿や賃金台帳だけでなく、出勤簿やタイムカードなどの労働時間の記録に関する書類も保存対象になるとしています。

介護現場で把握漏れが起きやすい時間

厚生労働省が介護分野向けに作成した資料は、労働時間とは使用者の指揮監督の下にある時間であり、単に介護サービスを提供している時間だけとは限らないとしたうえで、次のような時間が労働時間に該当するとしています。

  • 交代制勤務における引継ぎ(申し送り)の時間
  • 業務報告書などの作成時間(介護保険制度や業務規定により義務付けられているものを、事業者の指揮監督に基づいて作成する場合)
  • 業務に関する打合せや会議などの時間
  • 施設行事などの準備と実施に係る時間
  • 使用者の指示に基づく研修の時間
  • 訪問介護における移動時間や待機時間(事業者が業務に必要な移動を命じ、その時間の自由利用が保障されていない場合)

シフト時刻ではなく実績で記録する

介護施設で把握漏れが起きやすいのは、勤怠記録がシフト表の予定時刻のまま固定され、実際の始業・終業が反映されないケースです。夜勤の申し送りが定時前に始まっている、記録の入力を勤務終了後に行っている、といった実態があれば、その時間は労働時間として記録する必要があります。ガイドラインが求めているのは労働日ごとの実際の始業・終業時刻の確認と記録であり、シフト表の転記では要件を満たしません。

職員が自分で確認できること

給与明細に記載された時間外労働時間数と、自分の勤務実績の記録を突き合わせるのが第一歩です。差が出る場合、いつからいつまで何をしていたかを日々メモに残しておくと、事業所への申し出や労働基準監督署への相談の際に根拠になります。

労働時間の適正把握のよくある質問

Qタイムカードがない事業所は違法ですか。

ガイドラインは、使用者が自ら現認する方法か、タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録による方法を原則としています。どちらも取らず自己申告制による場合は、実態調査と補正を含む所定の措置を講ずることが求められます。方法そのものより、実際の始業・終業時刻が適正に記録されているかが問われます。

Q管理職には労働時間の把握は不要ですか。

賃金計算のためのガイドラインの対象からは労働基準法41条に定める管理監督者が外れますが、労働安全衛生法66条の8の3による労働時間の状況の把握は管理監督者も対象です。健康確保の観点からの把握義務は残ります。

Q申し送りの時間は労働時間ですか。

厚生労働省の介護分野向け資料は、交代制勤務における引継ぎ時間について、利用者の介護に関する情報を複数の職員が共有するなど業務上必要であり事業者の指揮監督に基づき実施する場合は労働時間に該当するとしています。

Q残業を申請しなければ労働時間になりませんか。

なりません。ガイドラインは、使用者が労働者の自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めないなど、適正な申告を阻害する措置を講じてはならないとしています。また、休憩や自主的な学習として報告されていても、実際には指揮命令下に置かれていたと認められる時間は労働時間として扱わなければなりません。

Q勤怠記録は何年保存すればよいですか。

労働基準法109条は5年間と定めていますが、同法附則143条1項により当分の間3年間と読み替えられています。これとは別に、労働安全衛生規則52条の7の3第2項が労働時間の状況の記録について3年間の保存措置を求めています。

労働時間の適正把握の参考資料

労働時間の適正把握のまとめ

労働時間の適正把握は、賃金計算の前提としての労働基準法上の責務と、健康確保のための労働安全衛生法66条の8の3の義務という2本立てで求められています。原則は使用者による現認か、タイムカードなどの客観的な記録です。介護現場では、申し送り・記録作成・研修・移動といった、サービス提供そのもの以外の時間が漏れやすいのが特徴です。シフト表の予定時刻をそのまま勤怠記録にしていないか、まず自施設の記録方法を点検することが出発点になります。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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