
生活保護とは
生活保護は最低生活を保障する公的扶助制度。介護保険サービス利用時は介護扶助で自己負担1割が公費負担となり、利用者負担は実質ゼロになります。
この記事のポイント
生活保護とは、生活保護法(昭和25年法律第144号)に基づき、生活に困窮する人に対し最低限度の生活を保障し自立を助長する公的扶助制度です。生活・住宅・医療・介護・教育・出産・生業・葬祭の8扶助で構成され、介護保険サービスを利用する受給者には「介護扶助」が適用されて自己負担1割分が公費から給付され、本人負担は原則ゼロになります(厚生労働省「生活保護法による介護扶助」)。2024年度の被保護者数は約201万人、うち65歳以上が55%超を占めます。
目次
生活保護の8扶助と申請の流れ
生活保護は日本国憲法第25条「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を具体化する最後のセーフティネットで、生活保護法第11条に8つの扶助が定められています。
- 生活扶助:日常生活費(食費・被服費・光熱費等)。年齢・世帯人数・地域級地別に基準額が決まっており、東京23区の単身高齢者で月7〜8万円が目安。
- 住宅扶助:家賃・地代の実費(地域別の上限あり)。
- 医療扶助:医療保険と同水準のサービス。本人負担なしで指定医療機関を受診可能。
- 介護扶助:介護保険サービスの利用者負担(1割)と、40〜64歳で医療保険未加入者の介護保険給付相当額。
- 教育扶助:義務教育に必要な学用品費・給食費等。
- 出産扶助/生業扶助/葬祭扶助:出産・就労準備・葬儀費用。
申請窓口は住所地の福祉事務所(市・特別区は市・区が、町村は都道府県が設置)。申請後14日以内(最長30日)に資産調査・収入調査・扶養義務者照会を経て決定通知が出されます(生活保護法第24条)。預貯金・不動産・自動車等の保有制限、稼働能力の活用、扶養義務者からの援助の優先など「補足性の原理」が運用されており、ハードルは低くありませんが、近年は厚生労働省も「生活保護は権利です」と申請を呼びかけています。
介護現場では、ケアマネジャーが利用者の経済状況を把握する過程で生活保護該当の可能性に気づき、福祉事務所への相談につなぐ場面が多くあります。要介護高齢者の単身世帯・無年金・低年金世帯では特に重要な制度です。
介護扶助の対象範囲と負担関係
介護扶助の対象範囲と負担関係|年齢で適用が変わる
介護扶助は生活保護受給者の年齢と医療保険加入の有無で適用範囲が変わります(生活保護法第15条の2、介護保険法)。
- 65歳以上の受給者:介護保険の第1号被保険者として加入。介護保険料は生活扶助の中で「介護保険料加算」として支給され、市区町村に代理納付されるため本人の手出しなし。サービス利用時の自己負担1割は介護扶助で全額給付され、利用者負担は原則ゼロ。
- 40〜64歳で医療保険加入者(第2号被保険者):特定疾病で要介護認定を受けた場合、介護保険サービスを利用可能。自己負担1割は介護扶助で給付。
- 40〜64歳で医療保険未加入者(みなし2号):介護保険の被保険者にはならないが、特定疾病該当時は介護保険給付相当のサービスを介護扶助で全額(10割)給付。
- 居住費・食費の取扱い:施設入所時の居住費・食費は生活扶助・住宅扶助から計算され、自己負担なし。ただし日用品費等は自己負担となるケースあり。
介護扶助で給付されるサービスは、介護保険法に基づく指定居宅サービス・地域密着型サービス・施設サービスのほぼ全てが対象で、給付水準は介護保険と同等です。指定介護機関(生活保護法による指定)として認可された事業所のみが介護扶助分を請求できます。原則、介護保険の指定事業所は同時に介護扶助の指定機関になっています。
生活保護受給者の介護サービス利用の流れ
受給中の方が新たに介護が必要になった場合、または介護保険認定者が生活保護受給者になった場合、以下の流れでサービス利用につなげます。
- 福祉事務所に相談:担当ケースワーカーに身体状況の変化・サービス利用希望を伝える。介護保険未認定なら市区町村の介護保険担当へ要介護認定申請を案内される。
- 要介護認定を受ける:市区町村に申請 → 認定調査・主治医意見書 → 介護認定審査会 → 要支援1〜要介護5の認定(または非該当)。標準処理期間は30日。
- ケアプラン作成:居宅介護支援事業所のケアマネジャーに依頼してケアプラン作成。利用者負担なし(介護保険から10割給付)。
- サービス事業所と契約:訪問介護・通所介護・短期入所等の事業所と利用契約を締結。生活保護指定機関であることを確認。
- 福祉事務所への報告:ケアプラン・契約書を福祉事務所に提出し介護券(毎月発行)を受け取る。事業所はこの介護券に基づいて介護扶助を請求する。
- サービス利用開始:本人負担はゼロ。事業所は介護保険9割+介護扶助1割で全額が支払われる。
すでに介護保険サービス利用中に生活保護を申請した場合は、決定後すぐに福祉事務所が事業所へ連絡し、決定日以降の自己負担分が介護扶助に切り替わります。継続性に支障は出ません。
介護職員が現場で押さえておくべきポイント
生活保護受給者の利用者対応では、通常利用者と異なる事務処理と配慮が求められます。
- 介護券の確認:受給者は毎月福祉事務所から「介護券」が発行され、有効期間・自己負担額(受給者は0円)が記載される。事業所は受給確認のために月初に介護券の写しを保管する。
- 限度額管理:介護保険の区分支給限度基準額を超えた利用分は介護扶助の対象外となり全額自己負担になる。受給者は支払えないため、ケアマネジャーは限度額内でケアプランを組む必要がある。
- 福祉用具・住宅改修:介護保険対象の福祉用具購入費・住宅改修費の自己負担分も介護扶助対象。事前にケースワーカーへ申請して給付決定を受けることが必要。
- 緊急時の対応:受給開始決定前に緊急で介護サービスが必要な場合、事後に申請日に遡って介護扶助が適用されるケースがある。福祉事務所と事業所の連絡が重要。
- 個人情報の取扱い:受給者であることは慎重に扱う情報。ケアプラン・記録に明記する場合も、他職員・他利用者の前で口にしないなど配慮が求められる。
- 無料・低額診療事業との違い:医療機関が独自に行う「無料低額診療事業」(社会福祉法第2条)と生活保護の医療扶助は別制度。生活保護受給時は医療扶助が優先される。
受給者の中には申請時の経済状況が改善せず長期受給となる方も多く、自立支援プログラム(就労支援・健康管理支援等)と並行してサービスが提供されます。介護職員は「最低生活の保障」という制度趣旨を理解した上で、利用者の尊厳を守る関わりが求められます。
生活保護と介護に関するよくある質問
Q. 生活保護受給者は介護保険料を払っていますか?
65歳以上の受給者は介護保険の第1号被保険者として保険料の負担義務がありますが、生活扶助に「介護保険料加算」が上乗せ支給され、福祉事務所が市区町村に代理納付します。実質的な本人の手出しはありません(生活保護法施行令)。
Q. 親が生活保護を受けながら有料老人ホームに入れますか?
住宅扶助の上限額内かつ受け入れ可能な施設であれば入居可能です。実際には、家賃が住宅扶助上限を超える有料老人ホームは選択しづらく、軽費老人ホーム(ケアハウス)・養護老人ホーム・特別養護老人ホーム・グループホーム等の利用が中心となります。
Q. 申請したら親族に連絡が行きますか?
3親等以内の扶養義務者には原則として「扶養照会」が行われます。ただし2021年の運用見直しにより、長年連絡がない・関係が悪化している・DV等の事情がある場合は照会を行わない運用が認められました(厚生労働省局長通知)。
Q. 介護施設に入所すると生活保護はどうなりますか?
受給は継続されます。施設入所中は生活扶助が「入院・入所基準」に切り替わり減額されますが、居住費・食費・介護扶助は別途給付されるため施設費の支払いは賄われます。
Q. 通所介護のおやつ代・行事費は介護扶助に含まれますか?
介護保険サービス対象外の実費(おやつ代・レク行事費・理美容代等)は介護扶助の対象外で、生活扶助の中からまかなう必要があります。事業所は実費の説明と同意を丁寧に行うことが求められます。
参考資料
- e-Gov 法令検索「生活保護法」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000144
- 厚生労働省「生活保護制度」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo.html
- 厚生労働省「生活保護法による介護扶助の運用について(局長通知)」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb1493&dataType=1
- 厚生労働省「被保護者調査(月次・年次)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/74-16.html
- 厚生労働省「生活保護制度における扶養義務履行に関する取扱いについて(局長通知 令和3年)」https://www.mhlw.go.jp/content/000770297.pdf
まとめ
生活保護は最低生活を保障する公的扶助で、8扶助のうち「介護扶助」が介護保険サービスの自己負担1割を肩代わりするため、受給者の利用者負担は実質ゼロになります。介護現場ではケースワーカー・福祉事務所・ケアマネジャーの3者連携で、限度額内のケアプラン・介護券による事務処理・実費の説明と配慮が求められます。生活保護は「最後のセーフティネット」であり、申請は受給者の権利です。経済的困窮を抱える利用者・家族には、ためらわず福祉事務所への相談を案内しましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
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