
死後事務委任契約とは
死後事務委任契約は、本人の死後に発生する葬儀・行政手続き・遺品整理などを第三者に委任する契約。委任内容・費用相場(20〜50万円+預託金)・遺言や任意後見との違いを介護現場目線で解説します。
この記事のポイント
死後事務委任契約とは、本人が生存中に、死亡後に発生する葬儀・行政手続き・遺品整理などの事務を、信頼できる第三者(受任者)に委任する契約のこと。民法上の準委任契約として位置づけられ、相続財産の分配を扱う遺言とは別の契約として、おひとりさまや身寄りのない高齢者の終活で活用が広がっています。
目次
死後事務委任契約の定義と法的位置づけ
死後事務委任契約は、本人(委任者)が生前のうちに、自分が亡くなった後に必要となる各種事務手続きを、信頼できる個人や法人(受任者)に委ねるために結ぶ契約です。民法上は「準委任契約」(民法第656条)の一種として扱われ、本人の死亡によって委任契約が終了する原則(民法第653条)に対して、特約で「死亡後も契約の効力を継続させる」と定めることで成立します。
従来、死後の手続きは家族や親族が当然に行うものとされてきましたが、近年は単身高齢者(おひとりさま)、子のない夫婦、親族と疎遠な高齢者の増加を背景に、第三者に手続きを託すニーズが急増しています。厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、65歳以上の単独世帯は2022年時点で約873万世帯に達し、過去最多を更新。死後事務委任契約は、こうした「死後を頼める家族がいない」高齢者の安心を支える法的ツールとして注目されています。
介護現場でも、入所中の利用者が「自分の葬儀や荷物の片付けを誰に頼めばよいか分からない」と相談するケースは増加傾向にあり、ケアマネジャーや施設相談員がこの契約の概要を理解しておくことは、家族支援・終末期支援の質を高めるうえで重要です。
委任できる事務内容・委任できないこと
委任できる主な事務
- 死亡届の提出(戸籍法第87条で同居人・家主・後見人等のほか、任意で受任者も可能)
- 葬儀・火葬・埋葬の手配と費用支払い
- 納骨・永代供養の手続き
- 医療費・入院費・施設費の精算
- 公共料金(電気・ガス・水道・通信)の解約
- 賃貸住宅の解約・明け渡し、施設の退去手続き
- 遺品整理と居室の原状回復
- SNS・メール・サブスクリプションなどデジタル遺品の削除
- ペットの引き渡し(事前に引取先を指定)
- 関係者への死亡通知(友人・元同僚など、相続人以外への連絡)
- 年金・健康保険・介護保険の資格喪失届
委任できないこと(要注意)
- 相続財産の分配(預貯金の解約・分配、不動産売却など)
- 遺言執行に該当する行為(特定の人への財産遺贈など)
- 本人の身分行為(婚姻・離婚・養子縁組など、そもそも死後に成立しないもの)
相続財産の処分や分配を希望する場合は、遺言書(公正証書遺言が推奨)を別途作成し、遺言執行者を指定する必要があります。死後事務委任契約と遺言書は「両輪」で備えるのが終活実務の基本です。
契約の手順と相手方の選び方
契約手順(4ステップ)
- 専門家への相談:弁護士・司法書士・行政書士・NPO法人・信託銀行などに相談し、自分のケースで委任すべき事務を整理する。
- 委任内容の決定:葬儀の規模、納骨先、遺品の処分方針、デジタル遺品の扱いなどを具体的に決め、財産目録・関係者リストを作成する。
- 契約書の作成:受任者と委任者で契約書を作成。報酬・実費の支払い方法、預託金の有無、契約解除条件を明記する。
- 公正証書化:公証役場で公正証書として作成することで、契約の真正性が担保され、銀行・自治体・葬儀社などへの提示時にスムーズに受け入れられる。
契約の相手方
- 弁護士・司法書士・行政書士:法的トラブルへの対応力が高く、遺言書作成と併せて依頼できる。
- NPO法人・一般社団法人:身元保証・任意後見と組み合わせた包括的サービスを提供。費用は比較的抑えやすい。
- 信託銀行:高額な預託金管理と組み合わせた商品があるが、最低契約額が高め。
- 民間の身元保証会社:賃貸契約・入院・入所の身元保証とセット提供が中心。
費用相場(2026年時点の目安)
- 契約書作成費用:数万円〜30万円程度(専門家への報酬)
- 公正証書化手数料:1万1,000円〜(公証人手数料)
- 受任者への執行報酬:基本20万円〜50万円、包括的に依頼すると50万〜100万円
- 預託金:葬儀費用・遺品整理費用として100万〜200万円程度
合計で50万〜300万円程度が目安。預託金の管理方法(信託・別口座管理など)は契約時に必ず確認しましょう。
活用のポイントと注意点
任意後見・遺言・家族信託との関係
死後事務委任契約は、生前から死後までを連続的にカバーする「終活4点セット」の一部として設計するのが望ましいです。
- 任意後見契約:判断能力が低下した後の財産管理・身上監護を委任(生前)
- 見守り契約・財産管理委任契約:判断能力が低下する前のサポート(生前)
- 死後事務委任契約:死後の各種手続き(死後)
- 遺言書:相続財産の分配(死後)
これらを同じ専門家・事業者にまとめて依頼することで、生前から死後までシームレスに対応できる体制が整います。
自治体の支援も広がっている
近年は自治体や社会福祉協議会が、低所得・身寄りのない高齢者向けに死後事務委任の支援を実施するケースも増えています。横須賀市の「エンディングプラン・サポート事業」、神戸市の「神戸市わたしの終活支援事業」、東京都豊島区の「終活あんしんセンター」などが代表例。費用負担が難しい人は、まず地域包括支援センターや市区町村の福祉相談窓口に相談すると、利用可能な公的支援が見つかる場合があります。
契約時の注意点
- 意思能力があるうちに契約する:認知症発症後は契約自体が無効になるリスクがある
- 相続人との事前共有:契約の存在を相続人に伝えておかないと、死後に「勝手な手配」と紛争になる
- 受任者の継続性:個人より法人受任者の方が、自分より先に亡くなるリスクが低い
- 預託金の保全:受任者の倒産・横領リスクに備え、信託や別口座管理を明記する
- 定期的な見直し:希望する葬儀形式や連絡先は変わるため、5年に1回は契約内容を更新する
よくある質問
Q1. 家族がいても死後事務委任契約は必要ですか?
家族がいても、遠方に住んでいる、関係が疎遠、高齢で動けない、認知症で対応できないなどの事情があれば有効です。家族の負担を減らす目的で契約するケースも増えています。
Q2. 介護施設の入居中でも契約できますか?
判断能力があれば可能です。施設の相談員やケアマネジャーを介して、提携している弁護士・司法書士・NPOを紹介してもらえる場合もあります。入居者本人と公証人が公証役場へ行けない場合は、公証人の出張対応(要追加費用)も利用できます。
Q3. 費用が払えない場合はどうすればよいですか?
自治体の終活支援事業や、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を活用できる場合があります。生活保護受給者向けに葬祭扶助制度(自治体が葬儀費用を支給)もあるため、まず地域包括支援センターや市区町村の福祉窓口へ相談してください。
Q4. 受任者が先に亡くなったらどうなりますか?
個人を受任者にした場合、その人が先に亡くなると契約は履行できなくなります。法人(NPO・士業法人・信託銀行)を受任者にする、あるいは予備の受任者を契約書に明記しておくと安心です。
Q5. 死後事務委任契約と遺言書、どちらを優先すべきですか?
両方必要です。死後事務委任契約は葬儀や手続きを、遺言書は財産の分配を扱います。役割が違うため、片方だけでは死後の希望をすべて実現できません。終活では両方をセットで準備するのが基本です。
参考文献
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- [4]
- [5]
まとめ
死後事務委任契約は、おひとりさま高齢者や子のない夫婦が、自分の死後を安心して託すための重要な備えです。葬儀・行政手続き・遺品整理・デジタル遺品の処理など、相続財産の分配以外の幅広い事務を委任でき、遺言書と組み合わせることで死後の希望をほぼ網羅できます。費用は契約形態によって50万〜300万円程度かかりますが、自治体の支援事業も拡大中。介護職・ケアマネジャーは、利用者から終活相談を受けたとき、まず地域包括支援センターや市区町村の福祉窓口、弁護士会・司法書士会の無料相談を案内できると、利用者と家族の安心感が大きく変わります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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