
特定処遇改善加算(介護職員等特定処遇改善加算)とは
特定処遇改善加算とは、経験・技能のある介護職員に月8万円相当または年収440万円超の処遇改善を目的に2019年10月に創設された加算。2024年6月の介護報酬改定で介護職員等処遇改善加算へ一本化・廃止された制度の沿革・要件I/II・配分ルール・新加算への移行までを用語集として整理します。
この記事のポイント
特定処遇改善加算(正式名称:介護職員等特定処遇改善加算)とは、勤続10年以上の介護福祉士を中心とした「経験・技能のある介護職員」に月8万円相当の賃金改善または年収440万円超の処遇を実現することを目的に、2019年10月に創設された介護報酬の加算です。2024年6月の介護報酬改定で、従来の処遇改善加算・ベースアップ等支援加算とともに「介護職員等処遇改善加算」へ一本化され、独立した加算としては廃止されました。
目次
特定処遇改善加算が生まれた背景と2024年の廃止
特定処遇改善加算は、2019年10月の消費税率引き上げ(8%→10%)にあわせて、その増収分の一部を介護人材確保に充てる「新しい経済政策パッケージ」(2017年閣議決定)の流れで創設されました。当時の介護職員の平均年収は全産業平均より約100万円低く、特にリーダー級・中核人材の処遇が他産業に追いつかないことが慢性的な離職要因として指摘されていました。
そこで、すでに存在していた「介護職員処遇改善加算」(2012年度創設)に上乗せする形で、勤続10年以上の介護福祉士を中心とした経験・技能のある介護職員に重点的に賃金改善が回るよう設計されたのが本加算です。月額8万円の改善または年収440万円超を、事業所内の1名以上で達成することが配分ルールの軸に据えられました。
しかし、2024年6月の介護報酬改定で、現場から「3加算(処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算)の事務負担が重い」「対象職員区分が複雑で職員に説明しにくい」という声を受け、3加算が「介護職員等処遇改善加算」へ統合・一本化されました。経過措置として2024年5月までは旧加算が継続され、同年6月から新加算へ完全移行しています。求人票や賃金規程に「特定処遇改善手当」「特定処遇改善加算」と書かれている場合は、2024年5月以前の文言が残っている可能性が高く、現在の正式な制度名は「介護職員等処遇改善加算」である点に注意が必要です。
区分I・IIの加算率と3グループの配分ルール
特定処遇改善加算は、サービス提供体制強化加算などの算定状況に応じて区分Iと区分IIに分かれ、サービス種別ごとに加算率が定められていました。
主なサービス別加算率(廃止直前時点)
- 訪問介護:区分I 6.3% / 区分II 4.2%
- 通所介護:区分I 1.2% / 区分II 1.0%
- 介護老人福祉施設(特養):区分I 2.7% / 区分II 2.3%
- 介護老人保健施設(老健):区分I 2.1% / 区分II 1.7%
- 認知症対応型共同生活介護(グループホーム):区分I 3.1% / 区分II 2.3%
- 特定施設入居者生活介護:区分I 1.8% / 区分II 1.2%
配分ルール(A・B・Cグループ)
事業所は職員を3つのグループに分けて配分する必要がありました。
- Aグループ:経験・技能のある介護職員(勤続10年以上の介護福祉士が基本/法人裁量で経験を通算可)
- Bグループ:その他の介護職員(A以外の介護職員)
- Cグループ:その他の職種(事務職・看護職・リハ職など、年収440万円未満)
配分ルールの中核は次の3点です。
- Aグループのうち1人以上は、月8万円の改善または年収440万円超を達成すること
- Aグループの平均改善額はBグループより高いこと
- Cグループの平均改善額はBグループの2分の1を上回らないこと
つまり「経験・技能のある介護職員を最も厚く、次に他の介護職員、その他職種は介護職員の半分以下まで」という傾斜配分が義務付けられていました。これにより、リーダー級介護福祉士へのピンポイント処遇改善が制度の特徴となっていました。
3加算統合の流れ:処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の一本化
特定処遇改善加算は、独立した加算として存在したのは2019年10月から2024年5月までの約4年半でした。以下が一本化までの流れです。
- 2012年度:介護職員処遇改善加算が創設(介護職員全体の賃金改善が目的)
- 2019年10月:消費税率10%引き上げを財源に、特定処遇改善加算が創設。経験・技能のある介護職員へ重点配分する仕組みが追加
- 2022年2月〜9月:コロナ禍対応として「介護職員処遇改善支援補助金」(月額9,000円相当)が時限措置として支給
- 2022年10月:上記補助金が「介護職員等ベースアップ等支援加算」として加算化され、3加算体制が完成
- 2024年6月:3加算が「介護職員等処遇改善加算」へ統合・一本化。区分はI~IVの4区分に再編成され、加算率も上乗せされた
- 2024年4月〜5月:旧3加算の経過措置期間(同年5月分の介護報酬請求まで旧加算で算定可)
新加算(介護職員等処遇改善加算)への移行で何が変わったか
新加算では、旧3加算の取得実績に応じて区分I~IVが自動的に決まる「移行特例」が用意されました。たとえば、旧特定処遇改善加算Iを算定していた事業所は、新加算でも比較的高い区分(IやII)を取得しやすい設計になっています。配分ルールも「介護職員へ少なくとも2/3を配分」へ簡素化され、職員区分のA/B/C分けは廃止されました。経験・技能のある介護職員への重点配分という思想は新加算の「キャリアパス要件V(月額8万円改善または年収440万円超の介護福祉士を1人以上)」に引き継がれています。
処遇改善加算・ベースアップ等支援加算との違い
2024年5月まで併存していた3つの加算は、目的・対象・配分ルールがそれぞれ異なります。違いを整理すると次の通りです。
3加算の比較
- 介護職員処遇改善加算(2012年度〜):介護職員「全体」の賃金改善が目的。キャリアパス要件I・II・III・職場環境等要件を満たすことで区分I~Vを取得。対象は介護職員のみ(医療職・事務職は対象外)。
- 特定処遇改善加算(2019年10月〜2024年5月):勤続10年以上の介護福祉士など「経験・技能のある介護職員」への重点配分が目的。A・B・C 3グループ配分ルールあり。A1人以上に月8万円改善または年収440万円超を実現。区分は2段階(I・II)。
- ベースアップ等支援加算(2022年10月〜2024年5月):「賃上げに直結する処遇改善」が目的で、加算額の2/3以上を基本給または毎月決まって支払う手当に充てる縛りあり。一時金中心の配分は認められない。区分なしで一律加算率。
新加算「介護職員等処遇改善加算」(2024年6月〜)との関係
新加算は3加算の機能を引き継いだ統合版で、区分I~IVに再編成。旧3加算の取得実績に応じて区分が決まる「経過措置」と、新規取得時は最低区分から順に上げる「ステップアップ方式」のいずれかを選びます。旧特定処遇改善加算の「経験・技能のある介護職員への重点配分」は、新加算の月額賃金改善要件(月8万円改善または年収440万円超の介護福祉士1人以上)として残されています。
求人票・賃金規程で「特定処遇改善加算」を見つけたときの読み方
2024年6月以降、正式には廃止された加算ですが、求人票や事業所の賃金規程・パンフレットには「特定処遇改善加算(手当)」「特定処遇改善手当」という表記がまだ残っているケースがあります。応募・転職活動の際は以下の観点で確認すると安心です。
- 2024年6月以降の最新版か:求人票の更新日が2024年5月以前のままなら、賃金規程の改定漏れの可能性があります。「介護職員等処遇改善加算(新加算)」での記載に切り替わっているか確認しましょう。
- 支給形態は月額固定か一時金か:特定処遇改善加算は配分の自由度が高く、年2回の賞与配分でも構いませんでした。新加算ではベースアップ要件で月額化が進んでいますが、事業所によって運用は様々です。
- 「経験・技能のある介護職員」の社内定義:勤続10年以上の介護福祉士は法令上の基本ですが、事業所裁量で別法人での経験を通算したり、社内評価で短い勤続でも対象に含めたりできます。自分のキャリアが対象範囲に入るかは面接で確認できます。
- 「年収440万円超」の現実性:A区分1人以上で達成すればよい目標値であり、事業所の全介護福祉士が達成できるわけではありません。月8万円相当の賃金改善が自分に回ってくるかは加算配分計画書で個別判断されます。
賃金規程の閲覧や、転職前の処遇改善加算の取得状況は、介護サービス情報公表システムでも確認できます。求人票の数字を鵜呑みにせず、可能であれば配分計画の概要も尋ねておくと判断材料が増えます。
よくある質問
Q1. 特定処遇改善加算は今でも取得できますか?
いいえ、2024年6月以降は取得できません。2024年5月分の介護報酬請求までは旧加算で算定でき、同年6月以降は「介護職員等処遇改善加算」へ完全移行しています。経過措置として、旧加算の取得実績に応じて新加算の区分(I~IV)が決まる仕組みが用意されました。
Q2. 「月8万円アップ」「年収440万円」は廃止後どうなりましたか?
新加算(介護職員等処遇改善加算)の月額賃金改善要件として引き継がれています。新加算の区分I~IIIを取得する事業所は「経験・技能のある介護職員のうち1人以上は月8万円改善または年収440万円超」を満たす必要があります。配分ルールは緩やかになりましたが、リーダー級介護福祉士への重点配分の思想は残されています。
Q3. 求人票に「特定処遇改善加算あり」と書いてありますが、信用してよいですか?
2024年5月以前の表記が更新されていない可能性があります。「新加算(介護職員等処遇改善加算)」での記載に切り替わっているかを面接時に確認しましょう。実質的な賃金改善が継続しているなら、表記の遅れだけで判断する必要はありません。
Q4. 介護福祉士の資格がなくても対象になりますか?
原則は勤続10年以上の介護福祉士が対象(Aグループ)でしたが、各事業所の判断で「他法人での経験を通算」「社内評価で対象に含める」などの柔軟な運用が認められていました。新加算でも介護福祉士は重要な要件ですが、すべての介護職員へ加算原資の2/3以上を配分するルールが導入されたため、無資格・経験年数が浅い職員にも一定の改善が回りやすくなっています。
Q5. 障害福祉サービスにも同じ加算がありましたか?
はい、障害福祉サービス向けに「福祉・介護職員等特定処遇改善加算」が同時期に存在し、同様の3グループ配分ルールが適用されていました。こちらも2024年6月に「福祉・介護職員等処遇改善加算」へ一本化されています。
参考資料
- [1]
- [2]令和6年度介護報酬改定における処遇改善加算等の見直しについて(第243回介護給付費分科会資料)- 社会保障審議会介護給付費分科会
- [3]
- [4]
- [5]介護人材の処遇改善について(第217回・第220回介護給付費分科会資料)- 社会保障審議会
- [6]介護職員処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算 解説資料- 独立行政法人福祉医療機構 WAM NET
まとめ
特定処遇改善加算は、2019年10月に経験・技能のある介護職員への重点配分を目的に創設され、2024年6月に介護職員等処遇改善加算へ一本化されて廃止された制度です。月8万円改善・年収440万円超・3グループ配分ルールという特徴は、新加算の月額賃金改善要件として一部引き継がれており、リーダー級介護福祉士の処遇改善という政策思想は現在も継続しています。求人票で旧名称を見かけても、現行の介護職員等処遇改善加算がどう運用されているかを確認することが、転職時の給与判断のポイントです。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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