
遅発性ジスキネジアとは
遅発性ジスキネジアとは、抗精神病薬などドパミン受容体を遮断する薬の長期使用後に現れる口・舌・顔・手足の不随意運動です。症状・原因・可逆性・介護職の観察と医療連携の役割を解説します。
遅発性ジスキネジアの定義(要約)
遅発性ジスキネジアとは、抗精神病薬などドパミン受容体を遮断する薬を長い期間使った後に現れる、自分の意思とは関係のない繰り返しの動き(不随意運動)です。口をもぐもぐさせる、舌を出し入れする、しかめ面をするといった顔まわりの症状が代表的で、手足や体幹に出ることもあります。原因となる薬を見直すことが基本ですが、自己判断での中断は危険です。改善することもあれば症状が残ることもあり、早く気づくほど回復が期待できます。
目次
遅発性ジスキネジアの概要
遅発性ジスキネジアの基礎知識
「ジスキネジア」とは、自分の意思とは無関係に体が勝手に動いてしまう不随意運動の総称です。そのうち「遅発性」と呼ばれるタイプは、名前のとおり薬を使い始めてすぐではなく、ある程度の期間飲み続けた後から遅れて現れます。原因の多くは、統合失調症などの治療に使う抗精神病薬です。抗精神病薬は脳内のドパミンという物質の働きを抑える(ドパミン受容体を遮断する)作用を持ち、この種類の薬を長期間使うことで遅発性ジスキネジアが起こると考えられています。
原因となる薬は抗精神病薬だけではありません。吐き気止めとして使われるメトクロプラミドやプロクロルペラジン、スルピリドなど、ドパミン受容体を遮断する薬(DRBA)も同じ症状を引き起こすことがあります。高齢者では、胃腸の不調や精神症状に対してこうした薬が処方されている場合があり、介護の現場でも無関係ではありません。
典型的な症状は、口や舌、顔まわりに現れます。繰り返し唇をすぼめる、舌を左右に動かす、口をもぐもぐさせる、口を突き出す、歯を食いしばる、しかめ面をするといった動きが代表的です。舌を出したり引っ込めたりする動きは、その様子からハエ取り(fly-catcher)と表現されることもあります。症状は顔まわりだけでなく、手足が勝手に動く、体幹がよじれるなど全身に及ぶこともあります。
遅発性ジスキネジアには、これだけで診断できる検査やバイオマーカーはありません。原因となりうる薬を一定期間(おおむね1か月から数か月以上)使ってきた経過と、特徴的な不随意運動の様子、ほかの病気の除外をあわせて、医師が臨床的に診断します。緊張したり本人が意識したりすると動きが止まることがあり、診察室では症状が出にくいこともあるため、日常の様子を知る人の情報が診断の助けになります。
遅発性ジスキネジアで介護職が気づきやすいサイン
介護の場面で気づきやすいサイン
遅発性ジスキネジアは、本人が気づいていなかったり、高齢者では「よくあること」として見過ごされたりしやすい症状です。生活に大きな支障がない軽いうちは見逃されがちですが、日常をそばで支える介護職だからこそ気づける変化があります。
- 口を絶えずもぐもぐ動かす、唇をすぼめる、舌を出し入れする動きが食事以外のときにも見られる
- しかめ面や、目を強く閉じてなかなか開かない動きが繰り返される
- 義歯(入れ歯)が合わなくなった、外れやすくなったと訴える、または見られる
- 食べこぼしが増える、口から食べ物がこぼれる、飲み込みにくそうにする
- 発音がはっきりしない、話しづらそうにするなど会話への影響がある
- 手が勝手に動く、足が突っ張る、歩きにくそうにするなど手足の動きの変化がある
これらは認知症の症状や加齢による変化と紛らわしいこともあります。動きそのものが異常というより、考えられないほど何度も同じ動きを繰り返すことが手がかりになります。気になる動きに気づいたら、いつ・どこに・どんな動きが出ているかを記録し、医療職へ伝えることが大切です。
遅発性ジスキネジアへの対応と治療の考え方
対応と治療の基本的な考え方
遅発性ジスキネジアの治療では、まず原因となっている薬の減量や中止、ほかの薬への変更が検討されます。薬の見直しは早いほど改善の可能性が高いとされ、早期発見が重要になります。ただし、ここで注意したいのは、減量や中止はあくまで医師の判断のもとで行うものだという点です。
原因薬を急に中断すると、もともと治療していた精神症状が再発・悪化したり、かえってジスキネジアが強まったりする危険があります。そのため、薬を減らす場合も数週間から数か月かけて少しずつ調整されます。本人や家族、介護職の自己判断で服薬をやめさせることは避け、必ず主治医に相談することが原則です。
原因薬の調整だけでは対応が難しい場合や、精神症状の安定のために減量できない場合には、症状そのものを抑える薬による治療が検討されます。日本では2022年に、遅発性ジスキネジアを効能・効果とする治療薬(バルベナジン、商品名ジスバル)が承認されました。どの治療を選ぶかは、本人の病状や生活への影響を踏まえて医師が判断します。
介護職に求められるのは、治療を選ぶことではなく、症状の変化に気づいて記録し、医療へつなぐことです。とくに口や舌の動きは誤嚥のリスクと関わるため、食事の様子や食べこぼし、むせの有無を観察し、看護師や主治医、必要に応じて歯科とも情報を共有することが、安全な生活を支えることにつながります。
遅発性ジスキネジアのよくある質問
よくある質問
遅発性ジスキネジアは治りますか
原因となる薬を早めに見直すことで改善することもありますが、薬を中止した後も症状が長く続いたり、残ったりすることもあります。回復の度合いは重症度や対応の早さによって変わるとされ、早く気づいて対応を始めることが大切です。
抗精神病薬を飲んでいる人は必ず発症しますか
いいえ。遅発性ジスキネジアは、薬を使う人すべてに起こるわけではなく、まれな副作用です。一方で、気づかずに放置すると重くなることもあるため、長期に服用している場合は普段から動きの変化に注意しておくことがすすめられます。
抗精神病薬以外でも起こりますか
起こることがあります。吐き気止めとして使われるメトクロプラミドやプロクロルペラジン、スルピリドなど、ドパミン受容体を遮断する薬でも現れることがあります。気になる症状があるときは、どんな薬を飲んでいるかを医師や薬剤師に伝えて相談しましょう。
気づいたら薬をやめさせたほうがよいですか
自己判断で薬をやめさせるのは危険です。急な中断は精神症状の再発や悪化、症状の増悪につながることがあります。気になる動きに気づいたら、やめさせるのではなく、様子を記録して主治医に相談してください。
介護職はどう関わればよいですか
診察室では症状が止まってしまい、医師が気づきにくいことがあります。日常の様子を知る介護職が、いつ・どんな動きが出ているか、食事や義歯への影響はあるかを観察して記録し、看護師や主治医へ伝える役割が重要です。
遅発性ジスキネジアの参考資料
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遅発性ジスキネジアのまとめ
まとめ
遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬などドパミン受容体を遮断する薬を長く使った後に現れる不随意運動です。口や舌、顔まわりの繰り返しの動きが代表的で、義歯が合わなくなる、食べこぼし、発音への影響など生活への支障につながることもあります。改善することもあれば残ることもあり、早く気づくほど対応の幅が広がります。原因薬の見直しは医師の判断のもとで慎重に行うもので、自己判断での中断は危険です。介護職は、見過ごされやすい変化に気づき、記録して医療へつなぐ大切な役割を担っています。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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