
DVT(深部静脈血栓症)とは
DVT(深部静脈血栓症)は下肢深部静脈に血栓ができ、肺塞栓(PTE)を起こす危険な病態。介護現場の片側下肢腫脹・Homans徴候の観察、Wellsスコア、早期離床・弾性ストッキング・IPC・水分補給など予防策を日本循環器学会GLに基づき解説。
この記事のポイント
DVT(深部静脈血栓症、Deep Vein Thrombosis)は、主に下肢の深部静脈に血の塊(血栓)ができる病態です。血栓が剥がれて肺動脈に詰まると肺血栓塞栓症(PTE)を起こし、突然死につながる危険があり、両者を合わせて「静脈血栓塞栓症(VTE)」と呼びます。介護現場では長時間臥床・術後・脱水・がん罹患・加齢などがリスク因子で、片側下肢の腫脹・発赤・熱感が観察ポイントです(日本循環器学会 肺血栓塞栓症及び深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン)。
目次
DVTとは何か|下肢深部静脈の血栓と肺塞栓のリスク
DVT(深部静脈血栓症)は、体表近くを走る表在静脈ではなく、筋肉の奥を走る深部静脈に血栓が形成される疾患です。発生部位は下腿(ふくらはぎ)から大腿、骨盤静脈にかけてが大半で、腕や首の静脈に起こる場合もあります。日本循環器学会のガイドラインでは、DVTと肺血栓塞栓症(PTE)は同じ病態の異なる現れであるとして、まとめて静脈血栓塞栓症(VTE:Venous Thromboembolism)と総称されています。
怖いのは、下肢にできた血栓が血流に乗って心臓を経由し、肺動脈に詰まる肺塞栓です。広範囲の肺塞栓は突然のショック・呼吸不全を引き起こし、発症後すぐに死亡することもある救命救急疾患です。介護現場で「昨日まで元気だった利用者が急に呼吸困難を訴えた」「離床直後にチアノーゼが出た」というケースの背景に、潜在性のDVTがあったというのは珍しくありません。
血栓ができる仕組みは、19世紀にウィルヒョウが提唱した「ウィルヒョウの3徴」で説明されます。すなわち、(1) 血流の停滞、(2) 血管内皮の損傷、(3) 血液凝固能の亢進、の3要素が重なると血栓ができやすくなる、という考え方です。長時間の臥床は(1)に、術後・カテーテル留置は(2)に、脱水・がん・妊娠は(3)に該当し、高齢者の入院・施設生活はこれらが複合的に揃いやすい環境と言えます。
症状は片側下肢の腫脹・疼痛・熱感が典型ですが、特に施設高齢者では「むくみがあっても訴えがない」「両足とも浮腫があるので比較しづらい」など発見が遅れがちです。だからこそ介護職・看護職による日常的な観察と、リスクの高い場面での予防介入が重要になります。
DVTのリスク因子とWellsスコア
日本循環器学会ガイドラインを基に、介護現場で特に意識すべきリスク因子を整理します。複数該当する場合はリスクが相乗的に上昇します。
主なリスク因子(介護現場で頻度が高い順)
- 長時間臥床・不動:寝たきり、術後の安静、骨折後のギプス固定、長距離搬送など。3日以上の連続臥床で明らかにリスク上昇。
- 高齢:60歳以上で発症率が上昇、特に70歳以上で顕著。
- 悪性腫瘍(がん):膵がん・肺がん・婦人科がん・血液腫瘍は特に血栓ができやすい。
- 術後:整形外科(人工股関節・膝関節置換術)、腹部・骨盤手術の術後数週間。
- 脱水:高齢者に多い慢性的な水分不足、夏季の発汗・利尿薬使用。
- 心不全・呼吸不全:循環うっ滞・低酸素が血栓形成を促進。
- 感染症・敗血症:炎症性サイトカインが凝固系を活性化。
- 下肢麻痺:脳卒中後の片麻痺、脊髄損傷など。
- 肥満(BMI 30以上)。
- 静脈瘤・既往のVTE。
- エストロゲン製剤・経口避妊薬、妊娠・産褥期。
- 中心静脈カテーテル留置。
DVTを疑うときのWellsスコア(臨床予測ルール)
外来・救急で広く使われるWellsスコアは、症状とリスク因子からDVTの事前確率を点数化する評価ツールです。介護施設で確定診断はできませんが、看護師が医師に状況を伝える際の共通言語として知っておく価値があります。
- 活動性のがん(6ヶ月以内の治療含む):+1
- 麻痺・不全麻痺、ギプスなどによる下肢の固定:+1
- 3日以上の臥床、または12週以内の大手術:+1
- 深部静脈走行に沿った圧痛:+1
- 下肢全体の腫脹:+1
- 無症状側より3cm以上太い下腿周囲径:+1
- 圧痕性浮腫(患側のみ):+1
- 表在静脈の側副血行(静脈瘤ではない):+1
- DVT以外の診断が同等以上に考えられる:-2
合計 2点以上で「DVTの可能性が高い」とされ、医療機関でD-ダイマー検査と下肢静脈エコーに進みます。介護現場では「Wells 2点以上に当てはまる利用者なら、たとえ症状が軽くても看護師・主治医に必ず報告する」という運用が安全です。
確定診断に使われる検査
- D-ダイマー:血栓の分解産物。陰性ならDVTをほぼ除外できるが、陽性は他疾患でも上昇するため特異度は低い。
- 下肢静脈エコー(圧迫法):第一選択の画像検査。被曝なし・ベッドサイドで施行可能。
- 造影CT:肺塞栓合併が疑われるときに肺動脈造影CTを行う。
介護現場の観察→看護師→医師連絡フロー
DVTは「気づいた人がいたから救えた」という疾患です。介護職・看護職・医師の連携手順を時系列で整理します。
Step 1:日常の観察ポイント(介護職)
更衣・入浴・排泄介助の場面で、次のサインを意識的にチェックします。両下肢を必ず比較する習慣をつけることが鍵です。
- 片側下肢の腫脹(左右の太さ・むくみが明らかに違う)
- 発赤・熱感(触ると熱い・赤みがある)
- 歩行時・安静時の痛み、特にふくらはぎの張り感
- 表在静脈の怒張(皮膚表面の静脈が目立つ)
- Homans徴候:足首を背屈させるとふくらはぎに痛みが出る(陽性率は高くないが補助所見として有名)
異常を見つけたら自己判断でマッサージをしてはいけません。血栓を剥がしてしまい肺塞栓を誘発する恐れがあります。
Step 2:看護師への報告(介護職→看護師)
SBAR形式で簡潔に伝えます。
- S(状況):「○号室の□□さん、右ふくらはぎが左より明らかに腫れています」
- B(背景):「先週から発熱で臥床がち、水分摂取量も少ない状態でした」
- A(評価):「片側の腫脹・熱感があり、DVTの可能性を考えました」
- R(提案):「下肢の確認と医師への報告をお願いします」
Step 3:看護師のアセスメント
- 両下腿周囲径を膝下10cmの位置で計測し、左右差を記録(3cm以上で要注意)
- Wellsスコアの該当項目をチェック
- バイタル(特にSpO2・呼吸数)を測定し、肺塞栓を示唆する所見(突然の呼吸困難・胸痛・頻脈・SpO2低下)がないか確認
- 主治医または嘱託医へ電話報告
Step 4:医師連絡時に伝えるべき内容
「片側下肢腫脹あり/Wellsスコア○点/呼吸状態は安定/既往はがん治療中/抗凝固薬は内服なし」のように、ガイドライン語彙で短く伝えると指示が早く出ます。多くの場合「下肢静脈エコーが可能な医療機関への受診」「採血でD-ダイマー測定」「離床は当面中止」などが返ってきます。
Step 5:肺塞栓を疑う緊急サイン
次の症状が出たら、肺塞栓を強く疑い救急要請(119番)します。介護現場で待っていてはいけない状況です。
- 突然の呼吸困難・浅速呼吸
- 胸痛・胸の圧迫感
- 失神・意識低下
- 頻脈(100/分以上)・血圧低下
- SpO2の急低下・チアノーゼ
介護現場でできるDVT予防策
DVTは「予防できる急変」の代表格です。日本循環器学会ガイドラインで推奨されている対策のうち、介護現場で実践できるものを整理します。
1. 早期離床と下肢運動
もっとも基本かつ強力な予防策が早期離床です。術後・発熱後でも、状態が許せば翌日から座位・立位・歩行を促します。臥床期間でも、足関節の底背屈運動(足首を上下に動かす)を1時間に1回・10回程度行うだけで、ふくらはぎの筋ポンプ作用が働き静脈血の停滞を防げます。介助者が他動的に行ってもよいですが、自動運動の方が効果が高いとされます。
2. 弾性ストッキング
足首から大腿にかけて段階的に圧迫する医療用の弾性ストッキングは、静脈還流を補助しDVT発症率を下げます。サイズ選定・装着方向(しわなく密着)・観察(皮膚障害・しびれの有無)が重要で、装着前に必ず足背動脈の触知(ABI評価)を行います。動脈疾患(PAD)患者では血流障害を悪化させるため禁忌です。
3. 間欠的空気圧迫法(IPC)
下肢に巻いたカフを機械で周期的に膨張・収縮させ、静脈をマッサージする装置です。術後・ICU・寝たきり利用者に用いられ、弾性ストッキングと併用すると効果がさらに高まります。施設に機器がある場合、看護師の指示で装着します。
4. 十分な水分補給
脱水は血液濃縮を起こし血栓ができやすくなります。目安として体重1kgあたり25〜30mL/日(成人)の水分摂取が推奨され、高齢者は喉の渇きを感じにくいため、こまめな声かけ・タイミング介助が大切です。発熱・嘔吐・利尿薬使用時はさらに増量を検討します。
5. 薬物予防
高リスク患者には医師の指示で抗凝固薬(ヘパリン、エノキサパリン、DOACなど)の予防投与が行われます。介護現場では出血傾向(皮下出血・歯ぐきからの出血・血便)の観察が大切で、転倒予防が通常以上に重要になります。
6. 「やってはいけないこと」
- DVTが疑われる下肢をマッサージしない(血栓遊離→肺塞栓のリスク)
- 長時間の座位(特に膝裏圧迫)を避ける
- 動脈疾患の有無を確認せず弾性ストッキングを装着しない
- 下肢腫脹を「ただの浮腫」と決めつけない
DVTに関するよくある質問
Q1. Homans徴候が陰性ならDVTは否定できますか?
いいえ、否定できません。Homans徴候(足関節背屈時のふくらはぎ痛)は古典的所見ですが、感度・特異度ともに低く、陽性率は3割程度とされます。陰性でも片側下肢腫脹・熱感などの所見があればDVTを疑い、Wellsスコアとエコー検査で評価する必要があります。
Q2. 介護施設の利用者にも弾性ストッキングを使ってよいですか?
使えますが、装着前に医師・看護師の評価が必須です。動脈疾患(PAD)を見逃して装着すると下肢虚血を悪化させ、最悪壊死につながります。足背動脈の触知やABI測定で動脈の通り道が保たれていることを確認し、サイズと圧迫圧(軽圧・中圧)を選定したうえで使用します。
Q3. 寝たきりの利用者で下肢が両方とも腫れている場合、DVTでしょうか?
両側性の浮腫は心不全・腎不全・低タンパク血症など全身疾患が原因のことが多く、DVTより全身管理の問題が前面に出ます。ただし両側DVT(特に骨盤静脈・下大静脈血栓)の可能性もゼロではないため、急に腫れが悪化した場合や呼吸困難を伴う場合は必ず受診させます。
Q4. 抗凝固薬を内服中の利用者で気をつけることは?
出血傾向の観察が最優先です。皮下出血が広がっていないか、歯ぐきや鼻からの出血、黒色便(消化管出血)、血尿はないかを毎日確認します。転倒は頭蓋内出血のリスクを高めるため、環境整備とリハビリでの転倒予防を強化します。詳細は抗凝固薬の用語解説を参照してください。
Q5. 「肺塞栓を起こした」と聞いたとき、現場の私は何をすればよいですか?
意識・呼吸・脈拍を確認しつつ、ただちに119番通報を依頼します。仰臥位で安静を保ち、平らな床に寝かせ酸素飽和度を測定。呼吸停止があれば胸骨圧迫を開始します。AEDも準備します。DVTからの肺塞栓は数分単位で生命を奪う疾患なので、迷わず救急車を呼ぶ判断が正解です。
参考資料
- 日本循環器学会/日本肺高血圧・肺循環学会/日本血栓止血学会 他「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」
- 日本静脈学会「日本静脈学会 公式サイト」
- 厚生労働省「医療安全推進総合対策」(肺血栓塞栓症予防に関する記載)
- 日本血栓止血学会「日本血栓止血学会」
- Wells PS et al. "Value of assessment of pretest probability of deep-vein thrombosis in clinical management." Lancet 1997.
まとめ
DVT(深部静脈血栓症)は下肢深部静脈に血栓ができる病態で、肺塞栓(PTE)に進展すると突然死につながる救命救急疾患です。介護現場ではベッド長時間臥床・術後・がん・脱水・加齢が複合的に重なりやすく、片側下肢の腫脹・熱感・Homans徴候を見逃さない観察が命を守ります。Wellsスコア2点以上を1つの目安に看護師・医師へ報告し、確定診断は下肢静脈エコーとD-ダイマーで行われます。予防は早期離床・足関節運動・弾性ストッキング・IPC・水分補給・必要に応じた抗凝固薬の組み合わせが基本で、いずれも介護職と看護職の連携で実行できる介入です。「ただのむくみ」と決めつけず、左右差を比較する習慣をチームで共有することが、肺塞栓ゼロの施設運営につながります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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