
嚥下機能評価とは
嚥下機能評価とは、飲み込みの障害を見つけ重症度を判定する一連の検査の総称。簡易スクリーニング(RSST・改訂水飲みテスト等)と精密検査(VE:嚥下内視鏡/VF:嚥下造影)の役割と違いを整理します。
この記事のポイント
嚥下機能評価(えんげきのうひょうか)とは、食べ物や飲み物をうまく飲み込めない「嚥下障害」の有無・程度・原因を見きわめるために行う一連の検査の総称です。特別な機器を使わずベッドサイドで行うスクリーニング検査(反復唾液嚥下テスト=RSST、改訂水飲みテストなど)と、専門機器を使う精密検査(VE:嚥下内視鏡検査/VF:嚥下造影検査)の2段階で構成され、誤嚥性肺炎の予防や安全な食事方法の決定につなげます。
目次
嚥下機能評価の全体像|「ふるい分け」と「精密検査」の2段階
嚥下機能評価は、ひとつの検査を指すのではなく、目的の異なる複数の検査を組み合わせた評価の流れ全体を指します。一般的な進め方は「主訴・病歴の聴取 → 身体所見の確認 → スクリーニング検査 → 必要に応じて精密検査」という順序です。
飲み込みの一連の動き(摂食嚥下)は、食べ物を認識する先行期、噛んで食塊をつくる準備期、舌で咽頭へ送る口腔期、飲み込みの反射が起こる咽頭期、食道を通過する食道期の5段階(嚥下5期モデル)に分けて考えます。嚥下機能評価では、このどの段階に問題があるかを推測しながら検査を選びます。
スクリーニング検査は、嚥下障害や誤嚥が疑われる人を「ふるい分ける」ための簡易な検査です。特別な機器を必要とせず、医師の指示のもとで看護師や言語聴覚士などがベッドサイドや在宅でも実施できます。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の『嚥下障害診療ガイドライン2024年版』でも、VEやVFをただちに行えない場合に簡易検査でスクリーニングすることが推奨されています。
スクリーニングで異常が疑われたら、原因や重症度を詳しく調べるために精密検査へ進みます。精密検査には、内視鏡で咽頭を直接観察する嚥下内視鏡検査(VE)と、X線透視下で造影剤入りの検査食を飲み込む様子を撮影する嚥下造影検査(VF)があります。VEとVFは「どちらが優れている」というものではなく、観察できる範囲や実施環境が異なるため、患者さんの状態に応じて使い分け、あるいは組み合わせて行います。
なお、嚥下機能評価は医療職が中心に行う検査ですが、ご家族や介護職が食事中の「むせ」「のどに残る感じ」「声の変化」「食事に時間がかかる」といったサインに気づくことが、評価の入り口になります。最終的な診断や検査方法の判断は医師が行います。
主なスクリーニング検査の種類と内容
スクリーニング検査には、自分で記入する質問紙法と、実際に飲み込みを観察する実測法があります。実測法は1つだけで判断せず、複数を組み合わせて総合的に評価するのが基本です。日本看護科学学会のアセスメントガイドラインでは、実測法を行う順序として「まずRSST、次に改訂水飲みテストおよびフードテスト、その後に頸部聴診法など」を推奨しています。
- 質問紙法(EAT-10・聖隷式嚥下質問紙):飲み込みに関する症状を自記式で回答。EAT-10は合計3点以上で嚥下障害の疑いとされます。
- 反復唾液嚥下テスト(RSST):のど仏(甲状軟骨)に指を当て、30秒間に空嚥下(からえんげ)を何回できるかを数えます。3回未満で嚥下障害の可能性ありと判定。安全で簡便ですが、指示が伝わりにくい認知症の方では実施が難しい場合があります。
- 改訂水飲みテスト(MWST):冷水3mLを口の中に入れて飲み込んでもらい、むせ・呼吸の変化・声のかすれ(湿性嗄声)を5段階で評価します。少量のため比較的安全な検査です。
- フードテスト(FT):プリンやお粥などをスプーン1杯飲み込んでもらい、口の中の残留やむせを観察します。少量でも食物を使うため、誤嚥や窒息のリスクに注意が必要です。
- 頸部聴診法:聴診器を首に当て、飲み込む際の音(嚥下音)や前後の呼吸音を聞き、誤嚥や咽頭残留を推測します。
- パルスオキシメーター:食事中の血中酸素飽和度をモニターし、低下の有無を誤嚥の指標のひとつとして用います。
これらのスクリーニングは介護報酬の算定時にも利用されており、介護・看護の現場で広く使われています。ただし、あくまで「疑いを見つける」ための検査であり、嚥下障害の詳しい病態までは判定できません。
VE(嚥下内視鏡検査)とVF(嚥下造影検査)の違い
精密検査の2本柱がVE(嚥下内視鏡検査)とVF(嚥下造影検査)です。どちらも嚥下機能評価の「標準検査」とされますが、観察できる範囲と実施環境が大きく異なります。
VE:嚥下内視鏡検査(Videoendoscopic examination of swallowing)
鼻から細い内視鏡(ファイバースコープ)を挿入し、咽頭や喉頭を直接観察する検査です。2010年に「内視鏡下嚥下機能検査」として保険収載されています。被ばくがなく、内視鏡が持ち運べるためベッドサイドや在宅でも実施でき、普段の食事をそのまま使って評価できるのが大きな利点です。唾液や痰のたまり具合、咽頭の残留の観察に優れます。一方で、観察できるのは咽頭期が中心で、飲み込む瞬間(嚥下反射の瞬間)は内視鏡の視野が一時的に閉じる「ホワイトアウト」で見えにくく、口の中の動きも観察できません。
VF:嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing)
X線透視室で、造影剤(バリウムなど)を混ぜた検査食を飲み込む様子を撮影する検査です。準備期から食道期まで飲み込みの一連の流れを通して観察でき、誤嚥の詳細な評価が可能なため「ゴールドスタンダード」とも呼ばれます。一方で、X線被ばくがあり、透視室という限られた場所でしか行えず、造影剤入りの検査食を用意する必要があるという制約があります。
| 比較項目 | VE(嚥下内視鏡) | VF(嚥下造影) |
|---|---|---|
| 実施場所 | ベッドサイド・在宅も可能 | X線透視室のみ |
| 被ばく | なし | あり |
| 使う食べ物 | 通常の食品が使える | 造影剤を混ぜた検査食 |
| 得意な観察 | 唾液・痰の貯留、咽頭残留 | 口腔期〜食道期、誤嚥の詳細 |
| 飲み込む瞬間 | 視野が閉じて見えにくい | 明瞭に観察できる |
| 口の中の動き | 観察できない | 観察できる |
このように両者は補い合う関係にあり、同じ患者さんにVEとVFを組み合わせて実施することで、より多くの情報が得られます。どちらの検査も検査時の環境・姿勢・検査食の条件によって結果が変わりうるため、1回の検査だけで判断せず、スクリーニングや食事観察と合わせて繰り返し評価することが重要とされています。
嚥下機能評価の進み方(評価から食事方針の決定まで)
- 主訴・病歴の聴取:むせ・飲み込みにくさ・体重減少・発熱の有無、脳卒中やパーキンソン病などの基礎疾患を確認します。
- 身体所見・全身状態の確認:口の中の状態、舌や口唇の動き、声の質、栄養状態などを観察します。
- スクリーニング検査:質問紙(EAT-10など)とRSST・改訂水飲みテスト・フードテスト・頸部聴診法を組み合わせて、嚥下障害や誤嚥の疑いを判定します。
- 精密検査(VE/VF):スクリーニングで異常が疑われた場合、医師の判断でVE(嚥下内視鏡)やVF(嚥下造影)を行い、病態と重症度、誤嚥の有無を詳しく評価します。
- 診断・食事方針の決定:評価結果をもとに、経口摂取の可否、安全な食形態(嚥下調整食のレベル)、姿勢やとろみの調整、リハビリの方針を決めます。
- 経過観察・再評価:状態は変化するため、食事の様子(ミールラウンド)を継続的に観察し、必要に応じて再評価します。
評価の結果、安全な飲み込みが難しいと判断された場合は、食形態の調整や姿勢の工夫(代償的アプローチ)、口腔・咽頭の機能を高める訓練(治療的アプローチ)などのリハビリにつなげます。
嚥下機能評価に関するよくある質問
Q. 嚥下機能評価は誰が行うのですか?
A. スクリーニング検査は、医師の指示のもとで看護師・言語聴覚士などが行えます。VEやVFといった精密検査は医師が中心となり、耳鼻咽喉科・リハビリテーション科などの専門医が担当することが一般的です。介護職やご家族は、食事中のむせや残留などのサインに気づき、医療職へ共有する役割を担います。
Q. VEとVFはどちらを受ければよいですか?
A. どちらが上位ということはなく、目的によって使い分けます。普段の食事を在宅やベッドサイドで評価したい場合や、唾液・痰の貯留を見たい場合はVE、飲み込みの一連の流れや誤嚥を詳しく見たい場合はVFが適しています。両方を組み合わせることもあります。最終的な判断は担当医が行います。
Q. スクリーニング検査だけで嚥下障害と診断できますか?
A. できません。RSSTや改訂水飲みテストはあくまで「疑いを見つける」ための検査で、感度・特異度には限界があります。異常が疑われた場合は、VEやVFなどの精密検査と合わせて総合的に判断します。
Q. 改訂水飲みテストとRSSTの違いは何ですか?
A. RSSTは水を使わず、30秒間に空嚥下(唾液の飲み込み)を何回できるかを数える検査です。改訂水飲みテストは冷水3mLを実際に飲み込んでもらい、むせや呼吸・声の変化を5段階で評価します。順序としてはRSSTを先に行い、次に改訂水飲みテストやフードテストへ進むのが推奨されています。
Q. 在宅介護でも嚥下機能評価は受けられますか?
A. はい。VEは内視鏡を持ち運べるため、訪問診療で在宅でも実施されることがあります。スクリーニング検査も訪問看護などの場面で行われます。気になる症状がある場合は、かかりつけ医や訪問看護師に相談してください。
参考・出典
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まとめ
嚥下機能評価は、ベッドサイドで行う簡易なスクリーニング検査(RSST・改訂水飲みテスト・フードテスト・頸部聴診法など)と、専門機器を使う精密検査(VE:嚥下内視鏡検査/VF:嚥下造影検査)を組み合わせた、飲み込みの安全を守るための一連の評価です。VEとVFは観察できる範囲が異なり補い合う関係にあり、患者さんの状態に応じて使い分けます。検査結果は安全な食形態の選択や誤嚥性肺炎の予防に直結します。気になる症状があるときは、自己判断せず医師や訪問看護師など医療職に相談しましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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