
嚥下おでこ体操・頭部挙上訓練(シャキア法)とは
嚥下おでこ体操と頭部挙上訓練(シャキア法)は、飲み込みに関わる舌骨上筋群を鍛える嚥下訓練。喉頭挙上と食道入口部の開きを助け誤嚥を防ぐ目的・やり方・回数・注意点を解説します。
嚥下おでこ体操・シャキア法の定義
嚥下おでこ体操と頭部挙上訓練(シャキア法)は、いずれも飲み込みに関わるのどの筋肉(舌骨上筋群)を鍛える嚥下訓練です。おでこ体操は、額に手を当てておへそをのぞき込むように下を向き、手と額で押し合う簡便な方法。シャキア法(頭部挙上訓練)は、仰向けでつま先を見るように頭を持ち上げる本格的な方法です。喉頭の挙上と食道入口部の開きを助け、誤嚥を防ぐことを目的とします。
目次
嚥下おでこ体操・シャキア法の概要
嚥下おでこ体操・頭部挙上訓練(シャキア法)の概要
食べ物を飲み込むとき、のど仏(喉頭)はいったん前上方に持ち上がり、その動きに連動して食道の入り口(食道入口部)が開きます。この喉頭の引き上げを担っているのが、あごの下からのど仏にかけて付いている「舌骨上筋群」と呼ばれる筋肉のまとまりです。加齢や脳卒中などでこの筋力が弱まると、喉頭の上がりが不十分になり、食道入口部の開きが小さくなって、飲み込んだ後にのどに食べ物が残ったり、むせて誤嚥(食べ物や唾液が気管に入ること)を起こしやすくなります。
嚥下おでこ体操と頭部挙上訓練(シャキア法)は、この舌骨上筋群を直接鍛えることで、喉頭の前上方への動きを改善し、食道入口部が開きやすい状態をつくることを目的とした訓練です。食べ物を使わずに行う「間接訓練(基礎訓練)」に分類され、むせやすい高齢者や、嚥下後にのどの残留感がある人が主な対象になります。
もともとは、米国のシャキア(Shaker)らが高齢者の食道入口部の開きを運動で改善できることを報告した「頭部挙上訓練(Shaker exercise)」が原型です。ただし仰向けで頭を持ち上げ続ける原法は、円背(背中が丸くなった姿勢)の高齢者には負担が大きく、寝た姿勢が取りにくいという課題がありました。そこで日本では、座ったまま手軽に行える変法として「嚥下おでこ体操」が考案され、介護や歯科の現場で食前の体操として広く取り入れられています。
嚥下おでこ体操のやり方
嚥下おでこ体操のやり方と回数の目安
嚥下おでこ体操は、座ったままできる手軽な方法です。次の手順で行います。
- 椅子に浅めに腰かけ、背すじを軽く伸ばします。
- 額に手のひらの付け根(手根部)を当てます。
- おへそをのぞき込むように強く下を向きながら、額と手で押し合います。額は前に下を向こうとし、手はそれを押し返すイメージです。
- このとき、あごの下(のどの周りの筋肉)がぐっと硬くなるのを意識します。指であごの下に触れると、筋肉の収縮が確認できます。
押し合いには2つのやり方があります。
- 持続訓練:ゆっくり5つ数えながら、力を入れ続けて押し合います。
- 反復訓練:1から5まで数を唱えながら、その数に合わせて下を向くように力を入れ、リズミカルに繰り返します。
回数の目安は施設や指導者によって幅がありますが、おおむね1回あたり5〜10回程度を、食事の前を中心に1日数回行う形が一般的です。嚥下おでこ体操には即時効果(その場で喉頭が上がりやすくなる効果)があるとされており、食前に行うことで食道の入り口が開きやすくなり、食事の通りがよくなると説明されています。
頭部挙上訓練シャキア法のやり方
頭部挙上訓練(シャキア法)のやり方と原法の回数
頭部挙上訓練(シャキア法)は、仰向けで頭だけを持ち上げる本格的な方法です。シャキアらが報告した原法では、次の2つの運動を組み合わせます。
- 挙上位の保持(等尺性運動):仰向けで両肩を床につけたまま、頭だけをつま先が見えるところまで高く持ち上げます。その姿勢を1分間保ち、そのあと1分間休みます。これを3回繰り返します。
- 反復挙上運動(等運動性運動):同じく仰向けで、頭の上げ下げを30回連続して繰り返します。
原法では、この2つを1日3回、6週間続けるとされています。ただし日本人の高齢者には負荷が大きすぎる場合が多いため、実際の現場では、本人が頭を持ち上げていられる最大時間や最大回数をあらかじめ測り、その50%程度を負荷の目安に設定するなど、個人に合わせて強度を調整する方法が提案されています。負荷を上げる場合でも、原法の「1分間保持」「30回反復」を上限とします。
肩は床につけたまま頭だけを上げるのがポイントで、上半身ごと起き上がってしまうと狙った筋肉に効きません。仰臥位が取れない円背の人や、頭を持ち上げ続けるのが難しい人には、座ったままでもできる嚥下おでこ体操が適しています。
おでこ体操とシャキア法の違い
どちらも舌骨上筋群を鍛えて喉頭挙上と食道入口部の開きを改善する点は共通していますが、姿勢と手軽さに違いがあります。
| 項目 | 嚥下おでこ体操 | 頭部挙上訓練(シャキア法) |
|---|---|---|
| 姿勢 | 座位(座ったまま) | 仰臥位(仰向け) |
| 動作 | 額に手を当て、おへそをのぞき込むように下を向いて押し合う | 肩を床につけたまま、頭だけをつま先が見えるまで持ち上げる |
| 負荷・手軽さ | 軽め。場所を選ばず食前にも行いやすい | 本格的で負荷が大きい。原法は高齢者には強いことが多い |
| 向いている人 | 円背で寝た姿勢が取りにくい人、集団体操で取り入れたい人 | ある程度体力があり、しっかり筋力強化したい人 |
嚥下おでこ体操は、もともとシャキア法(頭部挙上訓練)の変法として、仰臥位が取りにくい高齢者でも自分でできるように日本で考案されたものです。そのため、現場ではまず取り組みやすいおでこ体操から始め、本人の状態に応じて使い分けるとよいでしょう。いずれの場合も、嚥下障害がある場合は言語聴覚士(ST)など専門職の評価を受けたうえで、適切な強度で行うことが大切です。
高血圧頸椎症の注意と介護現場での取り入れ方
高血圧・頸椎症のある人への注意と介護現場での取り入れ方
これらの訓練は安全性の高い体操ですが、首やのどに力を入れて頭を持ち上げる動作のため、いくつか注意点があります。
- 頸椎症や高血圧のある人は注意が必要です。頭を持ち上げたり強く下を向いたりする動作は首に負担がかかり、血圧の上昇を招くことがあります。とくにシャキア法(頭部挙上訓練)では、運動前後にバイタルサインを測り、収縮期血圧が安静時より大きく上がらないか(目安として20mmHg以上の上昇や180mmHgを超えないか)、脈拍が上がりすぎないかを確認しながら、安全な範囲に負荷を抑えます。
- 痛みやめまいがあれば中止します。首や肩に痛みが出る、息が苦しい、ふらつくといった場合は無理をせず、その場で中止して様子を見ます。
- 嚥下障害がある人は専門職の評価のもとで行います。むせや飲み込みにくさが続く場合は、自己判断せず医師や言語聴覚士(ST)に相談し、適応や強度を確認してから行うことが望まれます。
介護現場では、嚥下おでこ体操を「食前の準備体操」として取り入れるのが定番です。食事前に座ったまま数回行うことで、その場で喉頭が上がりやすくなり、食べ始めの誤嚥リスクを下げる助けになります。口腔体操やパタカラ体操などと組み合わせ、食事前のルーティンとして毎日続けることで、舌骨上筋群の筋力維持と食事の安全性向上の両方が期待できます。一人ひとりの姿勢保持能力や持病に合わせて、座位のおでこ体操か仰臥位のシャキア法かを選び、無理のない回数から始めましょう。
嚥下おでこ体操シャキア法のよくある質問
嚥下おでこ体操・シャキア法のよくある質問
Q. 嚥下おでこ体操とシャキア法はどう違いますか?
A. 鍛える筋肉(舌骨上筋群)と目的(喉頭挙上・食道入口部の開きの改善)は同じです。違いは姿勢で、おでこ体操は座ったまま額に手を当てて下を向く軽めの方法、シャキア法(頭部挙上訓練)は仰向けで頭を持ち上げる本格的な方法です。おでこ体操は、仰向けが取りにくい高齢者向けにシャキア法を応用して考案されたものです。
Q. 1日何回くらい行えばよいですか?
A. おでこ体操は1回5〜10回程度を食前を中心に1日数回が一般的な目安です。シャキア法の原法は、頭を1分間持ち上げて1分休むのを3回、加えて頭の上げ下げを30回、これを1日3回6週間続けるとされますが、高齢者には負荷が大きいため、本人の体力に合わせて回数や時間を減らして行います。
Q. いつ行うのが効果的ですか?
A. おでこ体操には即時効果があるとされ、食事の前に行うと喉頭が上がりやすくなり、食道の入り口が開いて食べ物が通りやすくなります。介護現場では食前の準備体操として取り入れられています。
Q. 高血圧や首に持病がある人がやっても大丈夫ですか?
A. 頸椎症や高血圧のある人は注意が必要です。頭を持ち上げる動作は首に負担がかかり血圧が上がることがあるため、医師に相談し、強度を抑えて行います。シャキア法では運動前後に血圧や脈拍を確認しながら安全な範囲で行います。
Q. 誰が指導してくれますか?
A. 嚥下障害がある場合は、言語聴覚士(ST)が嚥下機能を評価したうえで、適応や強度を判断して指導します。むせや飲み込みにくさが続くときは自己判断せず専門職に相談しましょう。
嚥下おでこ体操シャキア法の参考資料
- [1]訓練法のまとめ(2014版)- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
頭部挙上訓練(シャキア・エクササイズ)の原法(挙上1分保持→1分休む×3回、上げ下げ30回、1日3回6週間)と、変法としての嚥下おでこ体操の手技・負荷調整・注意点(頸椎症・高血圧)を示した学会の公的資料。
- [2]嚥下障害のリハビリテーション(基礎訓練)- 健康長寿ネット(長寿科学振興財団)
食べ物を使わない間接訓練(基礎訓練)としての嚥下訓練の位置づけと、舌骨上筋群を鍛える訓練の目的を解説した公的財団のページ。
- [3]
- [4]
- [5]
- [6]
嚥下おでこ体操シャキア法のまとめ
まとめ
嚥下おでこ体操と頭部挙上訓練(シャキア法)は、飲み込みに関わる舌骨上筋群を鍛え、喉頭の挙上と食道入口部の開きを助けて誤嚥を防ぐ嚥下訓練です。おでこ体操は座ったまま額と手で押し合う手軽な方法、シャキア法は仰向けで頭を持ち上げる本格的な方法で、円背や体力に応じて使い分けます。即時効果を活かして食前の準備体操として続けるのが効果的ですが、頸椎症や高血圧のある人は強度に注意し、嚥下障害がある場合は言語聴覚士など専門職の評価を受けて行いましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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