排痰ケアとは

排痰ケアとは

排痰ケアとは痰を出しやすくする呼吸ケアの総称。体位ドレナージ・スクイージング・ハフィング・加湿の手技、誤嚥性肺炎やCOPDでの意義、たんの吸引が医行為である線引きを解説します。

ポイント

排痰ケアの定義

排痰ケア(はいたんケア)とは、のどや気道にたまった痰を口から出しやすくするための呼吸ケアの総称です。重力を使って痰を移動させる体位ドレナージ、呼気に合わせて胸を軽く圧迫するスクイージング、強く速く息を吐くハフィングといった手技に、加湿・水分補給・離床などを組み合わせて行います。誤嚥性肺炎やCOPDで痰がからみやすい高齢者の呼吸を楽にし、肺炎を防ぐことを目的とします。なお、機械でのどから痰を吸い取る「たんの吸引」は医行為であり、研修を受けた介護職か医療職が行います。

目次

排痰ケアの概要と位置づけ

排痰ケアの全体像と目的

痰は、気道に入ったほこりや細菌、分泌物をからめ取って体外へ運び出す体の防御反応です。健康な人は咳の力で自然に痰を出せますが、加齢や病気で咳の力(呼出力)が弱くなったり、寝たきりで動けなかったりすると、痰が気道の奥にたまって出せなくなります。痰がたまると、息苦しさや酸素の取り込み低下、さらに細菌が増えて誤嚥性肺炎や肺炎を起こす原因になります。

排痰ケアは、こうした「自力で痰を出しにくい人」の排痰を助けるケアの総称です。痰を出す流れは、おおまかに「(1)末梢(肺の奥)にたまった痰を太い気道(中枢気道)へ移動させる」「(2)中枢気道まで来た痰を咳やハフィングで口の方へ出す」の2段階に分かれます。体位ドレナージやスクイージングは(1)を、咳嗽介助やハフィングは(2)を担う手技です。

排痰ケアは理学療法士(PT)や看護師が中心となって計画し、介護職は声かけ・体位の保持・水分補給・離床の支援など、医行為にあたらない範囲で日常的に関わります。痰そのものを器具で吸い取る「たんの吸引」は医行為にあたるため、後述の線引きを正しく理解しておくことが大切です。

排痰ケアの主な手技

排痰ケアは複数の手技を組み合わせて行います。代表的なものを、痰を動かす段階ごとに整理します。

1. 体位ドレナージ(重力を使って痰を移動させる)

痰がたまった部位を上にする体位をとり、重力で痰を肺の奥(末梢)から太い気道(中枢)へと移動させる方法です。聴診などで痰のたまった部位を確認したうえで、その区域に合った体位をとります。臥床がちな人は背中側に痰がたまりやすいため、前傾側臥位や腹臥位が有用です。1回あたり20分程度を目安に、1日2〜6回程度行うのが一般的です。血圧などが不安定な人には行わず、実施中はパルスオキシメータで酸素飽和度(SpO₂)を見守ります。

2. スクイージング(呼気に合わせて胸郭を圧迫する)

痰がたまっている胸の部位に手を当て、患者の息を吐くタイミング(呼気)に合わせて、痰を中枢気道へ絞り出すように胸郭を圧迫する手技です。体位ドレナージと組み合わせることで排痰効果が高まります。息を吸うとき(吸気)は胸の動きを妨げないようにするのがポイントです。

3. ハフィング(強制呼出法)と咳嗽介助

ハフィングは、口を「ハ」の形にして「ハッハッ」と強く速く息を吐き、呼気の流れを速くして痰を出す方法です。咳がうまくできない人でも痰を出しやすくなります。咳の力が弱い場合は、息を吐くタイミングに合わせてお腹を圧迫する咳嗽介助で自己排痰を助けます。

4. 加湿・水分補給・離床などの環境づくり

痰が硬いと出しにくいため、部屋の加湿や水分補給で痰をやわらかく保つことも排痰ケアの一部です。日中に体を起こす(離床)、車いすに移って活動する、深呼吸を促すといった働きかけも、痰の貯留を防ぎ排出を助けます。これらは介護職が日常的に担いやすい支援です。

排痰ケアとたんの吸引(医行為)の線引き

排痰ケアと「たんの吸引」の線引き

排痰ケアと混同されやすいのが「たんの吸引(喀痰吸引)」です。両者は目的が近くても、法律上の扱いがまったく異なります。

たんの吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部の吸引)と経管栄養は、厚生労働省により「医行為」と整理されており、原則として医師・看護師等のみが行えます。一方、体位ドレナージ・スクイージング・ハフィング介助・加湿・水分補給・離床といった排痰ケアの多くは、痰を器具で吸い取る行為ではないため、介護職も日常のケアとして関わることができます(ただし手技そのものはPT・看護師の指導のもとで行うのが原則です)。

介護職がたんの吸引を行うには

2012年(平成24年)4月施行の社会福祉士及び介護福祉士法の改正により、一定の研修を修了した介護職員等は、医療・看護との連携など一定の条件のもとでたんの吸引等を実施できるようになりました。具体的には、(1)喀痰吸引等研修(第1号〜第3号研修)を修了して知識・技能を身につけ、(2)都道府県から「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受け、(3)勤務先が「登録特定行為事業者」として登録していること、の3つがそろって初めて実施できます。介護福祉士は養成課程で医療的ケアを学ぶため、実地研修の修了などの要件を満たせば実施可能です。

つまり、研修や認定を受けていない介護職は、たんの吸引そのものは行えません。痰がからんで吸引が必要なときは、看護師など医療職に速やかにつなぐのが正しい対応です。排痰ケアで痰を出しやすくしておくことは、吸引の回数を減らし利用者の負担を軽くするうえでも役立ちます。

排痰ケアで介護職が押さえるポイント

介護現場で排痰ケアに関わるときのポイント

  • 食後すぐは体位ドレナージを避けます。経管栄養も含め、食事から2時間以上あけてから行うのが目安です(嘔吐・逆流による誤嚥を防ぐため)。
  • 実施前後は、顔色・表情・呼吸の苦しさ・SpO₂などのバイタルサインを観察し、変化があれば看護師に伝えます。
  • 痰が硬くて出しにくいときは、加湿と水分補給で痰をやわらかく保つことが助けになります(水分制限のある人は指示を確認)。
  • 日中はできるだけ体を起こす・離床する・深呼吸を促すことが、痰の貯留予防につながります。
  • 体位ドレナージには頭頸部外傷後や循環動態が不安定な人など禁忌があります。手技の実施はPT・看護師の指示・計画にもとづいて行います。
  • 痰がからんで吸引が必要なサインがあれば、自己判断で吸引せず、医療職に速やかに連絡します。

排痰ケアのよくある質問

排痰ケアに関するよくある質問

Q. 排痰ケアと「たんの吸引」は同じものですか?

いいえ、別のものです。排痰ケアは体位ドレナージやスクイージング、ハフィングなどで痰を出しやすくするケアの総称です。たんの吸引は、機械でのどや気管から痰を直接吸い取る行為で、医行為にあたります。たんの吸引は医師・看護師、または研修を修了して認定を受けた介護職が、登録事業者の体制のもとで行います。

Q. 介護職でも排痰ケアに関われますか?

はい。加湿・水分補給・離床の支援、体位の保持、深呼吸の声かけなど、医行為にあたらない範囲で日常的に関わることができます。体位ドレナージやスクイージングといった手技は、理学療法士や看護師の指導・計画のもとで行うのが原則です。

Q. 体位ドレナージはどのくらいの時間・回数行いますか?

一般的には1回あたり20分程度を目安に、1日2〜6回程度行います。ただし対象者の状態や計画によって異なるため、医療職の指示に従います。実施中は酸素飽和度(SpO₂)などを見守ります。

Q. 痰が出せないと、なぜ肺炎になりやすいのですか?

痰には気道に入った細菌やほこりが含まれます。痰がたまったままだと細菌が増えやすく、また誤嚥した内容物とともに肺に入ると、誤嚥性肺炎を起こす原因になります。排痰ケアで痰を出しておくことは、肺炎の予防にもつながります。

Q. COPDの人にも排痰ケアは行いますか?

はい。COPD(慢性閉塞性肺疾患)では痰がからみやすく、息切れの原因にもなります。口すぼめ呼吸などの呼吸法とあわせて、ハフィングや咳嗽介助などの排痰ケアが取り入れられることがあります。

排痰ケアの参考資料

排痰ケアのまとめ

まとめ

排痰ケアは、体位ドレナージ・スクイージング・ハフィングといった手技に加湿や離床を組み合わせ、自力で痰を出しにくい高齢者の排痰を助けるケアの総称です。誤嚥性肺炎やCOPDの悪化を防ぐうえで重要な役割を持ちます。手技はPTや看護師の計画のもとで行い、痰を器具で吸い取る「たんの吸引」は医行為であるため、研修を受けた介護職か医療職が担うという線引きを正しく理解しておくことが、安全なケアの第一歩です。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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