
介護職ができる医療行為とは
介護職が業務として行える医療的ケアの範囲を、2005年厚労省通知の『医行為でないもの』16項目と、喀痰吸引等研修(第1〜3号)による特定行為まで体系的に解説します。
この記事のポイント
介護職が業務として行える医療的ケアは、(1)2005年厚労省通知で「原則として医行為ではない」と整理された16項目(血圧測定・体温測定・軟膏塗布・市販浣腸など)と、(2)喀痰吸引等研修を修了した介護福祉士等が登録特定行為事業者で行うたんの吸引(口腔・鼻腔・気管カニューレ内部)と経管栄養(胃ろう・腸ろう・経鼻)の2層で構成されます。それ以外の注射・処方・診断は医師法第17条で禁じられた医行為です。
目次
介護職と医療行為の法的な線引き
医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定め、保健師助産師看護師法第31条は看護師に同様の独占業務を認めています。介護職(介護福祉士・初任者研修修了者・無資格者を含む)が医行為を行えば、これらの法律違反となります。
ただし現場では「血圧を測ってほしい」「軟膏を塗ってほしい」といったニーズが日常的に発生します。そこで厚生労働省は2005年7月26日付 医政発第0726005号「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」を発出し、原則として医行為に該当しないと判断される行為を16項目に整理しました。これにより介護職は判断に迷うことなく日常的なケアを提供できるようになっています。
さらに2012年4月の社会福祉士及び介護福祉士法改正(第48条の2新設)により、喀痰吸引と経管栄養については所定の研修を修了した介護職に限り、医療チームの一員として実施できる制度が始まりました。これが「介護職員等による喀痰吸引等制度」です。
つまり介護職にとっての「医療行為」は、(1)そもそも医行為に該当しないから誰でも行える16項目と、(2)本来は医行為だが研修と登録によって例外的に認められる特定行為、の2階建てで理解する必要があります。
2005年通知『原則として医行為でないもの』16項目
厚生労働省医政局長通知(医政発第0726005号、2005年7月26日)で整理された、介護職が業務として実施可能な行為一覧です。状態が安定していること、医師・看護師の指導のもとで行うこと、緊急時の連絡体制があることが共通の前提条件となります。
- 体温測定(水銀・電子・耳式体温計)
- 自動血圧測定器による血圧測定(聴診器を用いた手動測定は除く)
- 新生児以外でパルスオキシメータの装着(動脈血酸素飽和度の測定)
- 軽微な切り傷・擦り傷・やけど等への処置(専門的判断を伴わないガーゼ交換等)
- 軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
- 湿布の貼付
- 点眼薬の点眼
- 一包化された内用薬の内服介助(舌下錠の使用介助を含む)
- 肛門からの坐薬挿入
- 鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助
- 爪切り・爪やすり(爪そのもの及びその周囲に異常がない場合)
- 口腔ケア(重度の歯周病等のない場合の歯ブラシ・綿棒・巻き綿子等による日常的な歯・口腔粘膜・舌の汚れ除去)
- 耳垢の除去(耳垢塞栓の除去を除く)
- ストマ装具のパウチに溜まった排泄物の廃棄(肌に接着したパウチの取り替えを除く)
- 自己導尿の補助(カテーテルの準備・体位の保持等)
- 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器による浣腸(成人で50ml/40%以下、小児で20ml/30%以下、幼児で10ml/20%以下に限る)
※16項目とは別に、同通知では「医薬品使用の介助」として軟膏・湿布・点眼・内服・坐薬・鼻腔噴霧の6行為を「原則的に医行為ではない」と整理しており、これらは患者の状態が安定していること、医師・歯科医師・看護職員による連続的な経過観察が必要でないこと、誤嚥・出血等のリスクが伴わないことが共通条件です。
喀痰吸引等研修で実施できるようになる『特定行為』
2012年4月施行の社会福祉士及び介護福祉士法第48条の2に基づき、研修修了+事業者登録の2条件を満たした介護職は次の5行為を「特定行為」として実施できます。
- STEP1: 対象となる5行為を理解する
- 口腔内のたんの吸引
- 鼻腔内のたんの吸引
- 気管カニューレ内部のたんの吸引
- 胃ろう・腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
- STEP2: 自分に必要な研修区分を選ぶ
- 第1号研修:不特定多数の対象者に上記5行為すべてを実施できる(基本研修50時間+全行為の実地研修)
- 第2号研修:不特定多数に対し、選択した一部の行為のみ実施できる(基本研修50時間+選択行為の実地研修)
- 第3号研修:特定の利用者(重度障害児・者等)に対してのみ実施。基本研修8時間+特定の人を対象とした実地研修
- STEP3: 都道府県の登録研修機関で受講:基本研修(講義+演習)と実地研修を修了し、都道府県に申請して「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受ける
- STEP4: 勤務先が『登録特定行為事業者』であることを確認:実施には事業所側の都道府県登録が必須。未登録事業所では研修修了者でも実施できない
- STEP5: 医師の指示書と看護師との連携体制のもとで実施:個別の医師指示書、看護師による状態確認、緊急時対応マニュアルが整備された環境で初めて実施可能
なお2016年以降、介護福祉士養成課程に医療的ケアの科目(50時間)が組み込まれており、新カリキュラム修了の介護福祉士は基本研修部分が免除され、実地研修のみで特定行為に従事できます。
現場で判断に迷ったときの実務ポイント
- 「状態が安定している」は医師・看護師の判断が前提:介護職が独自に「大丈夫だろう」と判断して16項目を実施するのではなく、必ずカンファレンスや看護師からの事前共有で状態確認を済ませる
- 褥瘡処置は16項目に含まれない:軟膏塗布は「褥瘡の処置を除く」と明記されており、ステージI以上の褥瘡には介護職は触れない。観察と報告のみが役割
- インスリン注射・血糖測定は医行為:糖尿病利用者の自己注射の見守りはOKだが、介護職が代行注射することは医師法違反になる
- 市販浣腸の容量制限を覚える:成人50ml/40%以下が条件。これを超える医療用浣腸(グリセリン浣腸液120ml等)は医行為に該当するため看護師に依頼する
- 喀痰吸引は『事業所登録』も必須:認定証を持っていても勤務先が登録特定行為事業者でなければ実施できない。転職時は求人票で必ず確認する
よくある質問
- 無資格・初任者研修修了者でも16項目はできますか?
- はい、2005年通知は資格要件を定めておらず、介護福祉士・初任者研修修了者・無資格者でも実施できます。ただし事業所の業務手順書と医師・看護師の指示・状態確認が前提です。
- 看護師がいない夜勤帯にたんの吸引が必要になったらどうしますか?
- 喀痰吸引等研修修了者かつ事業所が登録特定行為事業者であれば、医師指示書と看護師との連絡体制のもとで実施できます。未修了者は看護師のオンコールや救急搬送で対応します。
- 『医療的ケア』と『医行為』はどう違いますか?
- 医療的ケアは在宅・施設で日常的に必要な医療的支援の総称(喀痰吸引・経管栄養等)を指し、医行為は医師法第17条で医師の独占業務とされる行為を指します。介護福祉士の特定行為は「本来は医行為だが法律で例外的に介護職に解禁された医療的ケア」という位置づけです。
- 第1号研修と第2号研修はどちらを選ぶべきですか?
- 特養・有料老人ホーム等で複数利用者に複数の特定行為を行う可能性があるなら第1号、訪問介護で特定の利用者に1〜2行為のみなら第2号で十分です。受講時間と費用に差があるため事業所と相談して決めます。
- 介護福祉士養成校を2016年以降に卒業しました。研修は不要ですか?
- 養成課程で医療的ケア科目(50時間の講義・演習)を修了しているため、基本研修部分は免除されます。ただし実地研修は別途必要で、事業所での指導者のもとで規定回数を経験する必要があります。
参考資料
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- [2]
- [3]
- [4]
まとめ
介護職にとっての医療行為は「2005年通知の16項目」と「喀痰吸引等研修による特定行為5項目」の2階建てで理解します。前者は資格を問わず実施できる一方、後者は研修修了+事業所登録+医師指示書+看護師連携の4条件が揃って初めて実施可能です。境界線を正しく把握しておくことで、医師法違反のリスクを避けつつ利用者に必要なケアを安全に提供できます。看護師との連携体制が整った職場を選ぶことが、介護職としてのキャリアを伸ばす重要な要素です。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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