
褥瘡(じょくそう)予防とは
褥瘡予防は、OHスケールでリスクを評価し、体位変換(2時間ルール)と予防的スキンケアで皮膚損傷を未然に防ぐケアです。看護師と介護職が連携して取り組む医療安全の基本を解説します。
褥瘡予防とは
褥瘡(じょくそう/床ずれ)予防とは、長時間の圧迫・摩擦・湿潤などで皮膚や皮下組織が損傷する前に、リスクをスケールで評価し、体位変換(標準2時間ルール)・予防的スキンケア・体圧分散寝具の3本柱で発症を防ぐケアの総称です。日本褥瘡学会のガイドラインに基づき、看護師と介護職が連携して計画的に実施します。
目次
褥瘡予防の定義と発生メカニズム
日本褥瘡学会は褥瘡を「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる」と定義しています。仙骨部・踵部・大転子部・肩甲骨部など、骨が皮膚に近い部位(骨突出部)で発生しやすいのが特徴です。
褥瘡予防は、発生する前にリスク要因を取り除く一次予防の取り組みを指します。主な要因は以下の4つに分類されます。
- 圧迫:同一部位への持続的な体重負荷(仰臥位での仙骨部圧は60〜100mmHg)
- 摩擦・ずれ:ベッド上の引きずり、ギャッチアップ時の身体のずり下がり
- 湿潤:失禁・発汗・滲出液による皮膚の浸軟(ふやけ)
- 低栄養:アルブミン3.0g/dL未満、BMI18.5未満で発生リスクが上昇
予防は「リスクアセスメント → 個別予防計画 → 実施 → モニタリング → 再評価」というPDCAサイクルで運用するのが標準です。診療報酬上も褥瘡対策に関する診療計画書の作成が入院基本料の算定要件となっており、すべての医療機関・多くの介護保険施設で必須業務となっています。
OHスケール3項目とリスク判定
OHスケールは大浦・堀田が日本人の体格・寝たきり高齢者の特性に合わせて開発した褥瘡発生リスク評価ツールで、急性期から介護施設まで広く使われています。3項目を点数化し合計で4段階リスク判定します。
- 自力体位変換能力(0点:できる/1.5点:どちらでもない/3点:できない)
自力で寝返りが打てるかを評価。完全に介助が必要な寝たきり状態は3点。 - 病的骨突出(0点:なし/1.5点:軽度・中等度/3点:高度)
仙骨・大転子・踵などの骨突出度を視診・触診で評価。やせ細った高齢者は高度になりやすい。 - 浮腫(0点:なし/3点:あり)
下腿・足背の浮腫を圧痕の有無で判定。あれば一律3点で重み付け。
合計点で 0点=危険要因なし/1〜3点=軽度/4〜6点=中等度/7〜10点=高度リスク と判定し、点数が高いほど体圧分散マットレスや栄養介入などの予防策を強化します。簡便で介護職でも評価可能なため、入所時アセスメントや週次モニタリングで活用されています。より包括的に評価したい場合はブレーデンスケール(6項目・カットオフ14点以下)と併用します。
体位変換とスキンケアの実施手順
褥瘡予防の中核は体位変換と予防的スキンケアです。日本褥瘡学会ガイドラインに沿った標準フローを示します。
- 体位変換の頻度を寝具で決める
標準マットレス使用時は2時間ごと、ウレタンフォームや圧切替型エアマットレスなど体圧分散寝具を使用している場合は4時間ごとまで延長可能(学会ガイドライン推奨度B)。夜間も省略せず、記録に残します。 - 30度側臥位を基本にする
90度側臥位は大転子部に荷重が集中するため避け、背中・腰の下にクッションを入れた30度側臥位で殿筋全体に分散させます。仰臥位ではギャッチアップ角度を30度以下に抑え、ずれを防ぎます。 - ポジショニング後の確認
体位変換のたびに発赤・熱感・湿潤の有無を確認。消えない発赤(ステージⅠ)があれば即報告し、その部位の除圧を強化します。 - 洗浄:弱酸性の洗浄剤を泡立て、こすらずに優しく洗い、ぬるま湯(37℃前後)で洗い流す
- 保湿:入浴・清拭後5分以内にセラミドや尿素配合の保湿剤を塗布し、皮膚バリア機能を維持
- 排泄ケア:失禁時は早期に交換し、撥水性のある皮膚保護クリーム(ジメチコン等)でバリア形成。長時間のパッドは避ける
- 記録と多職種共有:DESIGN-R®2020で発赤・浸軟・骨突出を点数化し、看護師・介護職・管理栄養士・医師で週1回カンファレンスを実施
現場で見落としやすい予防の盲点
- 踵部は最優先で除圧:仙骨部に意識が向きがちですが、踵部褥瘡は循環不全のサインで重症化しやすい。クッションで下肢を浮かせる「ヒールフロート」を徹底します。
- 医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)に注意:酸素マスクのゴム、NPPVマスク、弾性ストッキング、車いす座面の縫い目など、機器・装具による圧迫も褥瘡として扱います。装着部位の毎勤皮膚観察が必要です。
- 低栄養対策は予防の前提:1日エネルギー30kcal/kg、たんぱく質1.0〜1.5g/kg、亜鉛・ビタミンCを意識した補助食品を活用。低栄養がベースにあると、どんなにマットレスを変えても発生を防げません。
- 「2時間ルール」を機械的にしない:自力で動ける軽度リスクの利用者を無理に起こすと睡眠を妨げます。OHスケールでリスク評価し、個別の頻度を設定するのが本来の運用です。
- 多職種で「役割の谷間」を埋める:体位変換は介護職、皮膚評価は看護師、栄養介入は管理栄養士と分業しがちですが、申し送り時に発赤所見を共有しないと初期サインを見逃します。週1回の褥瘡カンファレンスをルール化しましょう。
よくある質問
Q1. 体位変換は本当に2時間ごとでないとダメですか?
標準マットレス使用時の原則が2時間です。圧切替型エアマットレスや高機能ウレタンを使えば4時間まで延長可能(日本褥瘡学会推奨度B)。OHスケールで低リスク判定の利用者は個別に頻度を緩めても問題ありません。重要なのは「機械的に2時間」ではなく、リスクに応じた個別計画です。
Q2. 消えない発赤を見つけたらどう対応しますか?
NPUAPステージⅠの褥瘡として扱い、看護師に即報告します。指で軽く押して赤みが消えない(reactive hyperemiaではない)場合は皮下組織損傷の可能性があるため、その部位の徹底除圧と体圧分散寝具への切り替えを行います。発赤の上から皮膚保護フィルムを貼る対応は推奨されません。
Q3. 褥瘡予防に有効なサプリメントはありますか?
低栄養がリスクの場合、たんぱく質・亜鉛・アルギニン・ビタミンC強化の経口栄養補助食品(ONS)が発生率を下げるエビデンスがあります。ただし主食を食べられているケースでは過剰投与に注意し、管理栄養士と相談して導入してください。
Q4. 介護職だけで褥瘡予防を完結できますか?
体位変換やスキンケアは介護職の業務ですが、皮膚状態のアセスメントと発赤の判断は看護師の責任範囲です。介護職は「見つけて報告する」、看護師は「評価して計画変更する」役割分担が基本。在宅では訪問看護師が週1〜2回入って評価する体制が望ましいとされています。
Q5. 褥瘡マネジメント加算とはどんな制度ですか?
介護老人福祉施設(特養)・地域密着型特養・老健・介護医療院で算定可能な加算で、入所時と3か月ごとにリスクアセスメント(OHスケール等)・計画作成・LIFE提出を行うことが算定要件です。2024年度改定で(Ⅰ)3単位/月、(Ⅱ)13単位/月の2区分構成となっています。施設側にとっては予防の質を保ちつつ収益に直結する重要な加算です。
参考資料
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まとめ
褥瘡予防は、OHスケールでリスクを点数化→体位変換・スキンケア・体圧分散寝具の3本柱→多職種で記録共有という標準フローで運用するのが原則です。「2時間ごとの体位変換」はあくまで標準マットレス使用時の目安であり、リスクや寝具に応じた個別計画こそが現代の予防ケアです。介護現場で看護師と介護職が連携し、初期サイン(消えない発赤)を見逃さない体制を作ることが、入居者の生活の質と施設の医療安全双方を守る基盤になります。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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