
介護施設のクラスター対応とは
介護施設でクラスター(5人以上の感染者)が発生した際の対応手順を、48時間タイムライン・ゾーニング・職員シフト再編の3軸で解説します。
この記事のポイント
介護施設のクラスター対応とは、施設内で同一感染症の患者が5人以上発生した場合に行う組織的な感染拡大防止活動です。発生から48時間以内の初動対応(保健所連絡・ゾーニング・職員シフト再編)が収束スピードを左右します。
目次
介護施設のクラスターの定義と主な原因感染症
厚生労働省は「クラスター(集団感染)」を同一の感染源から派生した5人以上の患者集団と定義しています。介護施設では高齢の入居者が密集して生活する構造上、ひとたび感染症が持ち込まれると爆発的に広がりやすく、職員の中で感染が連鎖すれば「ケア提供そのものが止まる」という事業継続上の危機につながります。
介護施設で特に注意すべきクラスター原因感染症は次の4種類です。
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19):5類移行後も高齢者施設では依然として致死率が高く、最も警戒すべき感染症です。
- インフルエンザ:冬季の流行期に集団感染を起こしやすく、抗インフル薬の早期投与と職員予防内服がカギを握ります。
- ノロウイルス感染性胃腸炎:嘔吐物処理を誤ると一気に拡大します。次亜塩素酸ナトリウムでの環境消毒が必須です。
- 疥癬(特にノルウェー疥癬):寝具・衣類を介して職員と入居者の双方に広がります。発見時は個室隔離と全寝具の高温乾燥が必要です。
感染症の種類によって潜伏期間・感染経路・予防策が異なるため、クラスター対応マニュアルも感染症別に整備するのが望ましい運用です。
クラスター発生時の48時間タイムライン
クラスターの収束速度は、発生から最初の48時間で何をしたかでほぼ決まります。施設管理者と感染対策委員会が並行して動くべきタスクを時系列で整理します。
0〜6時間:初動・情報集約
- 発症者の症状・検査結果・居室番号をリスト化し、ホワイトボードや感染対策ファイルに掲示
- 施設長・看護師・感染対策担当者で緊急ミーティング(電話会議含む)
- すべての入居者の体温・症状チェックを臨時実施し、新規発症者をスクリーニング
- 未感染入居者の居室移動を最小化するため、現在の動線を地図上にマッピング
6〜24時間:保健所連絡・疫学調査
- 管轄保健所へクラスター発生報告(同一感染症5人以上が目安)
- 保健所による疫学調査の受け入れ準備(職員シフト表・面会記録・入居者の交流範囲を提示)
- 協力医療機関・嘱託医へ連絡し、入院判断が必要なケースを洗い出し
- 家族への第1報を統一フォーマットで発信(感染者数・施設対応・面会制限の3点)
24〜48時間:ゾーニング・シフト再編
- レッド/イエロー/グリーンのゾーニングを物理的に区画(テープ・パーテーション)
- 感染対応専従チームを編成し、非感染エリアとの動線を完全分離
- 無症状職員のみで通常ケアを継続できるシフトを72時間先まで仮組み
- BCP(事業継続計画)を発動し、応援職員の派遣要請を都道府県・系列法人へ提出
この48時間で初動を整えれば、その後の対応はマニュアル化された継続業務に落とし込めます。逆にここで遅れると、職員感染の連鎖や入居者の重症化を招きかねません。
ゾーニング・職員シフト・医療連携の実務
ゾーニングの3区分
| ゾーン | 対象 | 主な対応 |
|---|---|---|
| レッドゾーン | 感染者・濃厚接触者の居室 | 個人防護具(PPE)フル装着で入室、退室時に着脱 |
| イエローゾーン | PPE脱衣・着衣エリア(緩衝帯) | 使用済みPPEの廃棄、手指消毒、ガウンテクニックの徹底 |
| グリーンゾーン | 非感染エリア(職員休憩室・事務所・未感染入居者の居室) | 感染対応職員は立ち入り禁止、清潔区域として維持 |
ユニット型施設や多床室では物理的な区画が難しいケースが多く、その場合は「時間的ゾーニング」(同じ職員が感染エリアと非感染エリアを行き来する順番を固定し、必ずグリーン→イエロー→レッドの一方通行にする)で代替します。
職員シフトの再編
- 感染対応専従チーム:レッドゾーン専任の介護職員・看護師を2〜3人ずつ固定配置。シフト交代時の引継ぎは電話・チャットで実施し、対面接触を避ける
- 無症状職員の通常勤務:濃厚接触者でも無症状なら、感染対策を徹底したうえで通常勤務を継続(厚労省の現行運用)
- 応援職員の受け入れ:都道府県の応援派遣スキーム、系列法人からの応援、人材紹介会社のスポットなど複数ルートを並行
- 夜勤の最低人員確保:BCPで定めた最低基準(多くは通常の50〜70%)を下回らないようシフト調整
入院判断と医療連携
入院判断は嘱託医・協力医療機関と都道府県の入院調整本部が連携して行います。判断基準の目安は次の通りです。
- SpO2 93%以下、または安静時の呼吸数24回/分以上
- 食事・水分摂取が著しく低下し脱水のリスクが高い
- 意識レベルの低下、新規発症のせん妄
- 解熱薬を使用しても38.5度以上の発熱が48時間以上持続
軽症例は施設内療養が基本ですが、その場合も嘱託医の往診とパルスオキシメーターによる継続モニタリングが必須となります。
現場で効くクラスター対応のコツ
家族への連絡・面会制限
家族対応は感染拡大期に最も労力を割かれる業務のひとつです。次の3点で運用負荷を下げられます。
- 第1報は全家族へ一斉メール:個別電話は重症化リスクの高い入居者の家族のみに絞る
- 面会はオンラインに切り替え:タブレット2〜3台を共有して時間予約制に
- 差し入れの受付窓口を一本化:玄関での受け渡し時間を午前と夕方の各30分に限定
BCP(事業継続計画)との連動
2024年4月から介護事業所のBCP策定は完全義務化されています。クラスター対応は感染症BCPの発動条件そのものなので、平時から次の項目をBCPに織り込んでおきましょう。
- クラスター発生時の意思決定者と代理者の順序(施設長→副施設長→看護主任)
- 最低限維持すべきケア業務の優先順位(食事・排泄・服薬は維持、入浴・レクは中止)
- 応援職員の受け入れ手順と宿泊先の確保
- 備蓄品(PPE・消毒液・経口補水液)の使用基準と発注ルート
収束後の振り返り・再発防止
クラスター収束(新規感染者が潜伏期間の2倍以上発生しない状態)を確認したら、必ず振り返り会議を開きます。チェックすべきポイントは次の通りです。
- 感染経路の推定(持ち込み元の特定が次回の予防策に直結)
- 初動の遅れがなかったか(最初の発症者から保健所連絡まで何時間?)
- ゾーニングの実効性(職員が動線を守れていたか)
- 家族からの苦情・要望(説明のタイミング・内容)
- 備蓄品の消費量と次回発注タイミング
振り返り結果はマニュアルに反映し、年1回の感染症研修で全職員に共有することで「組織の記憶」として定着させます。
よくある質問
Q1. クラスターは何人から?
厚生労働省の定義では同一感染源から5人以上がクラスターとされます。ただし高齢者施設では感染症発生報告基準が別途あり、2人以上の感染者が出た時点で都道府県・保健所への報告が必要なケースが多いため、5人を待たずに早期報告するのが実務上の鉄則です。
Q2. 5類移行後も保健所は対応してくれる?
はい。新型コロナが5類に移行した2023年5月以降も、高齢者施設のクラスターは引き続き重点対象として保健所が対応します。多くの都道府県でクラスター対策アドバイザー(感染管理認定看護師など)の派遣制度が継続しています。
Q3. 濃厚接触者となった職員は出勤停止?
5類移行後は濃厚接触者という概念が公式には外れ、無症状であれば通常勤務が可能です。ただし施設独自に「症状が出るまで業務を限定する」など内部基準を設けているケースもあり、運用は施設ごとに異なります。
Q4. 入院できないときはどうする?
地域の病床がひっ迫した場合は施設内療養が基本になります。嘱託医の往診頻度を増やす、酸素濃縮器をリースする、点滴指示を看護師が継続実施するなど、施設内での医療提供体制を強化します。看護師配置が薄い施設では、訪問看護ステーションと臨時契約を結ぶ選択肢もあります。
Q5. クラスター対応で職員のメンタルケアはどうすべき?
感染対応の専従チームは身体的・精神的負担が大きく、燃え尽き症候群のリスクが高まります。シフト交代を3日以内で回す、産業医面談を週1回設定する、外部のEAP(従業員支援プログラム)を活用するなどの対策が有効です。
参考資料
- [1]介護現場における(施設系通所系訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版- 厚生労働省老健局(令和5年9月)
- [2]
- [3]5類移行後のクラスター発生施設に対する県の対応について(高齢者施設等への応援職員に係る感染対策研修会資料)- 千葉県健康福祉部(令和5年度)
- [4]新型コロナウイルス感染症 高齢者福祉施設における対応の手引き 第7版- 神奈川県(2024年4月)
- [5]クラスター発生防止と発生時対応 ゾーニング・防護具着脱- 滋賀県感染制御ネットワーク
まとめ
介護施設のクラスター対応は、発生から48時間の初動と物理的なゾーニング、感染対応専従チームの編成という3点が収束スピードを決めます。BCPに具体的な発動条件と意思決定者を書き込み、年1回の感染症研修で全職員に共有することが、いざというときの行動を支えます。クラスター収束後の振り返り会議で次回への学びを蓄積し、組織として感染対応のレベルを段階的に引き上げていきましょう。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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