
介護保険事業計画とは
介護保険事業計画は市町村が3年ごとに策定する介護サービス基盤の整備計画です。都道府県の支援計画との役割分担、第9期(2024-2026年度)の改定ポイント、地域包括ケアシステムとの関係を整理します。
この記事のポイント
介護保険事業計画とは、介護保険法に基づき市町村が3年を1期として策定する、介護サービスの見込み量と基盤整備の方針を示す計画です。都道府県は「介護保険事業支援計画」を策定して市町村を後方支援し、両計画は厚生労働大臣が定める基本指針に即して作成されます。2024〜2026年度は第9期に当たり、地域包括ケアシステムの深化と人材確保が中心テーマです。
目次
介護保険事業計画の位置づけと法的根拠
介護保険事業計画は、介護保険法第117条に基づき市町村(特別区・広域連合を含む)が策定する計画で、地域の高齢者数や要介護認定者数の見込みを踏まえ、必要となる介護サービス量を3年単位で算定し、それを支える基盤整備と保険料設定の根拠を示します。都道府県は同法第118条に基づく「都道府県介護保険事業支援計画」を策定し、広域的なサービス量調整・介護人材確保・施設整備の方針を定めることで市町村計画を支援します。
両計画の上位文書として、厚生労働大臣が同法第116条に基づき定める「介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針」(基本指針)があります。基本指針は3年ごとに見直され、サービス提供体制確保の基本事項、サービス種類ごとの見込み量を定める際の参酌標準、その他保険給付の円滑な実施に必要な事項を規定しており、市町村・都道府県はこの指針に即して計画を作成しなければなりません。
当初の計画期間は5年でしたが、2005年の介護保険法改正で3年1期に短縮されました。介護報酬改定が3年ごとに行われるため、保険料設定や報酬改定の議論と整合的に進められる仕組みになっています。第1期(2000〜2002年度)から始まり、2024〜2026年度が第9期です。計画は単なる行政文書ではなく、第1号被保険者(65歳以上)の保険料額を3年間固定する根拠資料でもあり、サービス見込み量の精度がそのまま保険料の高低に直結します。
市町村介護保険事業計画と都道府県介護保険事業支援計画の違い
名称が似ていて混同されがちですが、策定主体・対象範囲・記載事項が明確に分かれています。
| 項目 | 市町村介護保険事業計画 | 都道府県介護保険事業支援計画 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 介護保険法第117条 | 介護保険法第118条 |
| 策定主体 | 市町村・特別区・広域連合(=保険者) | 都道府県 |
| 対象範囲 | 地域密着型サービス・在宅サービス全般・保険料設定 | 広域型サービス(特養・老健・介護医療院など施設整備)・人材確保・市町村支援 |
| 主な記載事項 | サービス種類ごとの見込み量、地域支援事業、第1号保険料、認知症施策、自立支援取組 | 区域ごとの施設定員総数、人材確保・資質向上方策、市町村との連絡調整事項 |
| 計画期間 | 3年1期(基本指針に従う) | 3年1期(市町村計画と同期) |
| 住民への効果 | 保険料額・利用できるサービス量に直接影響 | 特養待機解消・施設新設許可など中長期の供給に影響 |
市町村計画はその自治体に住む被保険者の保険料額を決める文書、都道府県計画は圏域(複数市町村にまたがるエリア)全体の供給バランスを調整する文書、と覚えると整理しやすいです。両者は別個に作られるのではなく、都道府県は市町村計画の集計値を踏まえて支援計画を作り、市町村は都道府県が示す施設整備方針を前提に在宅サービス計画を立てる、という双方向の関係にあります。
第9期介護保険事業計画(2024-2026年度)の3つの柱
厚生労働省が示した第9期基本指針では、2025年(団塊世代が全員75歳以上に到達)と2040年(高齢者人口がピーク、生産年齢人口の減少が加速)を見据えた以下3つの重点事項が掲げられています。
- 介護サービス基盤の計画的整備
中長期の人口動態と介護ニーズの見込みに基づくサービス整備が必須化。既存施設の協働化・大規模化を促進し、医療・介護連携を強化、定期巡回・随時対応型訪問介護看護や小規模多機能型居宅介護など地域密着型サービスの普及拡大を図る。 - 地域包括ケアシステムの深化・推進
「住み慣れた地域で自分らしい人生を最後まで」を実現するため、地域共生社会への接続を進める。具体的には介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の充実、認知症の人と家族への支援、ヤングケアラー対策、デジタル技術(科学的介護情報システムLIFE等)を活用した医療・介護情報基盤の整備が含まれる。 - 介護人材の確保と生産性向上
2025年度に約32万人、2040年度に約69万人の介護職員不足が見込まれることを前提に、処遇改善・働きやすい職場づくり・ハラスメント対策・外国人材の定着支援・経営の協働化大規模化・文書標準化と電子申請普及・要介護認定の簡素化などを盛り込む。
計画策定から運用までの基本フロー
- 厚生労働大臣による基本指針の告示(計画期間開始の約1年前)
社会保障審議会介護保険部会の議論を経て、次期計画の方向性と参酌標準を示す。 - 都道府県・市町村による地域分析
高齢者人口推計、要介護認定率の見通し、サービス利用実績、施設整備状況などをデータで把握。「地域包括ケア『見える化』システム」が活用される。 - サービス見込み量の算定
市町村は介護給付サービス・予防給付サービス・地域支援事業について、種類ごとに3年間の見込み量を算定。これが第1号保険料の基礎数値となる。 - 計画素案の作成とパブリックコメント
住民・事業者・関係団体から意見を聴取し、介護保険運営協議会(市町村)や老人福祉計画策定委員会(都道府県)で審議。 - 計画の議決・公表
市町村は議会の議決を経て条例で第1号保険料を確定、計画書を公表。都道府県も同様に支援計画を策定・公表。 - 運用とPDCAサイクル
毎年度、計画進捗を点検(自己評価)。中間年に必要に応じ見直しを行い、次期計画策定に向けた基礎資料とする。第9期からは「中長期的な視点に立った計画的整備」がより強く求められる。
介護現場で働く人・利用者家族が押さえるべき活用ポイント
- 事業所運営者・管理者:自治体の計画書は次の3年の「市場サイズ予測」そのもの。サービス種別ごとの見込み量・整備方針を読むと、新規参入の余地や撤退判断、職員採用計画の根拠が得られる。
- 介護職としてのキャリア戦略:「人材確保と生産性向上」が第9期の柱に位置づけられたことで、処遇改善加算の取得促進・ICT導入補助・キャリアパス整備が自治体施策として進む。働く地域の計画を読むと、勤務先選びや処遇改善の見通しが立てやすい。
- 介護サービスを利用する家族:3年ごとに第1号保険料が改定されるため、計画書の「保険料設定の考え方」を読むと値上げ理由を把握できる。また在宅サービス・地域密着型サービスの整備見込み量を見ると、地元で受けられるサービスの将来像が分かる。
- 計画書の入手方法:市町村は公式サイトに「介護保険事業計画」または「高齢者保健福祉計画」として全文PDFを公開。都道府県は「老人福祉計画」と一体化していることが多く、合冊版を確認するとよい。
よくある質問
Q1. 介護保険事業計画と老人福祉計画は別物ですか?
厳密には別の法律(介護保険法/老人福祉法)に基づく計画ですが、実務上は一体的に策定することとされています(介護保険法第117条第6項、老人福祉法第20条の8第7項)。多くの自治体は「高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画」のように合冊版として公表しています。
Q2. なぜ3年単位なのですか?
2005年の介護保険法改正で計画期間が5年から3年に短縮されました。3年は介護報酬改定サイクルと同じで、報酬改定で変動するサービス費用と、それに伴う保険料設定を整合的に運営できるようにするためです。なお、診療報酬(医療)は2年ごとなので、6年に1度は介護報酬と診療報酬の同時改定が起こり、その年度は計画策定議論が特に重要になります。
Q3. 第9期と第8期の最大の違いは何ですか?
第9期は2040年を見据えた中長期視点が前面に出された点が最大の違いです。第8期までは「2025年問題」への対応が主軸でしたが、第9期は団塊ジュニア世代が高齢者になる2040年を視野に、生産年齢人口減少下でも回るサービス供給体制(協働化大規模化・ICT活用・外国人材定着)を設計するフェーズに入りました。
Q4. 計画書はどこで読めますか?
市町村の介護保険担当課のサイト、または「(市町村名) 介護保険事業計画」で検索すると全文PDFが見つかります。厚生労働省サイトでも全国の動向資料が公開されており、社会保障審議会介護保険部会の議事録・配布資料も参照可能です。
Q5. 計画と保険料はどう連動していますか?
市町村介護保険事業計画では3年間のサービス給付見込み額を算定し、その費用の23%(2024-2026年度)を第1号被保険者(65歳以上)が保険料で負担します。総額を被保険者数で割り、所得段階別に按分したものが各人の保険料になります。計画の見込み量が大きいほど保険料も上がる仕組みです。
参考文献
- 厚生労働省「第9期介護保険事業計画期間における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について」
- 厚生労働省「第9期介護保険事業(支援)計画の作成準備について」(資料1)
- 厚生労働省老健局「介護保険制度の概要(令和7年7月版)」
- 厚生労働省「介護保険事業(支援)計画の現状と方向性について」(社会保障審議会介護保険部会資料)
- 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「介護保険事業計画作成の手引き Ver.2」(令和5年3月)
まとめ
介護保険事業計画は、市町村が3年ごとに策定する介護サービス基盤の設計図であり、保険料の根拠資料でもあります。都道府県の支援計画と組み合わせて、地域全体の介護供給バランスを調整する仕組みになっています。第9期(2024〜2026年度)は2040年を見据えた中長期視点で、地域包括ケアの深化・認知症施策・人材確保が3本柱となりました。現場で働く人にとっては自分のキャリアと処遇の動向を、利用者家族にとっては保険料と利用できるサービスの将来像を読み解く重要な文書です。住んでいる市町村の計画書を一度手に取ってみると、地域の介護の輪郭が見えてきます。
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執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
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