認知症の人と家族の会、介護保険改正案に緊急要望書|「人員配置基準の緩和は制度空洞化を招く」

認知症の人と家族の会、介護保険改正案に緊急要望書|「人員配置基準の緩和は制度空洞化を招く」

認知症の人と家族の会は2026年5月12日、介護保険法等改正案について緊急要望書を発出。中山間地で人員配置基準を緩和する「特定地域サービス」創設に反発し、「制度の根幹揺るがす」と国会議員に再考を訴えた。

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公益社団法人「認知症の人と家族の会」は2026年5月12日、国会で審議入りした介護保険法等改正案について「制度の根幹を揺るがしかねない」とする緊急要望書を衆参両院の全国会議員に送付した。反発の中心は、中山間・人口減少地域で管理者や夜勤体制などの人員配置基準を緩和する「特定地域サービス」の新設。和田誠共同代表理事は「一度下げた基準を元に戻すのは容易ではない」と再考を訴えている。介護職にとっては、勤務地域によって配置基準・働き方が変わる可能性を意味し、給付削減と並走する制度設計を読み解く必要がある。

目次

解説動画

2026年4月3日に閣議決定され、特別国会に提出された「社会福祉法等の一部を改正する法律案」(介護保険法など複数法を束ねる「束ね法案」)の審議が本格化するなか、利用者・家族団体から異例の緊急要望が出た。

発出したのは1980年に発足し、全国に約1万1,000人の会員を抱える公益社団法人「認知症の人と家族の会」。要望書は衆議院・参議院の厚生労働委員会と本会議で改正案を扱う全議員に送付されたうえで、報道機関にも配布された。家族の会が法案そのものに対し全国会議員へ要望を送付するのは異例の対応だ。

論点は大きく二つある。一つは、中山間・人口減少地域で人員配置基準を弾力化できる「特定地域サービス」の創設。もう一つは、住宅型有料老人ホームの中重度入居者に向けたケアマネジメントの新類型「登録施設介護支援」と、それに付随する利用者負担の導入だ。本記事では、要望書の内容と背景にある制度設計を整理したうえで、介護現場で働く読者・家族の双方にとって何を意味するかを読み解く。

家族の会が問題視する「特定地域サービス」とは

「特定地域サービス」とは何か

「特定地域サービス」は、介護保険法上の「特例介護サービス」に新たな類型として追加されるもので、都道府県が指定した「特定地域」内で全国一律の人員配置基準を弾力的に運用できる仕組みだ。対象地域は「人口の減少その他の厚生労働省令で定める基準に該当する地域として都道府県が定めるもの」と規定されている。

緩和の中身として改正案に盛り込まれているのは、(1)管理者の常勤・専従要件、(2)看護職員や生活相談員ら専門職の常勤・専従要件、(3)グループホームや特定施設等の夜勤要件——の3点を中心とした基準の見直し。詳細な基準は法律本体ではなく、厚生労働省令と社会保障審議会介護給付費分科会の議論で決められる。

対象サービスと自治体に開かれた裁量

現行の「特例介護サービス」は離島等で限定的に運用されてきたが、新類型では訪問介護・通所介護・福祉系ショートステイ・福祉用具貸与・居宅介護支援に加え、特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム)と地域密着型サービスまで対象が広がる見通しだ。

あわせて、民間事業者の参入が見込めない市町村が、給付ではなく市町村事業として居宅サービスを提供できる「特定地域居宅サービス等事業」も創設される。総務省の過疎地域指定(885市町村、全国の約51%)と完全に重なるわけではないが、人口減少地域の多くがこの枠組みに該当する可能性がある。

政府の狙いと積み残された論点

政府の説明では、生産年齢人口の急減と85歳以上人口の増加が同時進行する「2040年問題」に向け、サービスの地域差を許容することで事業所の存続を確保することが目的とされる。一方、社会保障審議会介護保険部会の議論段階から、「人員配置基準緩和や包括報酬による『サービスの低下』を防止するための市町村のチェック機能」が条件として強調されてきた。具体的な質担保策の中身は、2027年度介護報酬改定の議論に持ち越される見込みだ。

家族の会の緊急要望書が示す主張

「制度の根幹を揺るがしかねない」

家族の会の要望書は冒頭、改正案の中に「制度の根幹を揺るがしかねない懸念すべき内容」が含まれていると明記し、衆参両院の厚生労働委員会・本会議で慎重審議を行うよう求めている。とりわけ「特定地域」を設けて事業所・施設の職員数を減らす方向で制度を運用すれば、「どこで暮らしていても等しいサービスを保障する」という介護保険の理念が「なし崩しになる恐れがある」とした。

和田誠共同代表理事「下げた基準は戻せない」

和田誠共同代表理事は要望書のなかで、「深刻な人手不足を理由に人員配置基準そのものを引き下げてしまえば、安全で質の高い介護を保障する制度の空洞化が進む」と警鐘を鳴らした。続けて「一度下げられた基準を元に戻すことは容易ではなく、将来世代にわたって影響が及ぶ可能性がある」と述べ、再考を求めている。

家族の会では現代表理事として和田誠氏のほか川井元晴氏が就任しており、介護保険・社会保障専門委員会の志田信也委員長らが要望書のとりまとめにあたった。1980年の発足以来、約1万1,000人の会員を背景にした要望提出には、現場の家族の切迫感がにじむ。

2項目に集約された要望

要望書は争点を以下の2点に集約している。第一に、「特定地域」を設けて事業所・施設の職員を減らすのではなく、必要な介護職員を確保するための見直しを行うこと。第二に、居住地域や住まいの形態にかかわらず、全国の認定者に公平・平等な給付を維持すること——である。要望書は同時にマスコミ各社へも配布され、世論喚起と政治的圧力の両面から審議に影響を与える狙いがある。

住宅型ホームのケアマネ新類型「登録施設介護支援」への反発

「登録施設介護支援」とは

家族の会の懸念は、人員配置基準だけにとどまらない。改正案には、住宅型有料老人ホームに入居する中重度の要介護者向けに、ケアプラン作成や生活相談を包括的に提供する新類型「登録施設介護支援」の創設も盛り込まれている。住宅型有料老人ホームでは長年、外部の居宅介護支援事業所のケアマネが入居者のケアプランを担当してきたが、新類型では「登録施設介護支援」を提供する事業者が施設内で一括対応する形になる。

政府の狙いは、いわゆる「囲い込み」やサービスの「使い切り」を是正することによる給付費抑制だ。だが、その引き換えとして、利用者には原則1割の自己負担が新たに課されることになる。現行の居宅介護支援は介護保険給付として10割が公費等で賄われ、利用者負担はゼロ。長年続いてきたケアマネジメント無償の原則を住宅型ホームの一類型から崩す形になる。

家族の会の反発理由

家族の会は、登録施設介護支援に対する利用者負担導入について「制度の公平性を損なう」「利用者の生活を直接的に圧迫するもの」と批判している。さらに「住まいの形態で負担に差が生じれば制度の信頼を揺るがす」と指摘した。在宅・特養・グループホーム・住宅型ホームと、住む場所の違いで自己負担構造が変わる事態を問題視する立場だ。

ケアマネジメント有料化議論への波及

登録施設介護支援の利用者負担導入は、介護保険部会で長年論争となってきた「ケアマネジメント有料化」議論の事実上の最初の一歩と位置づけられる側面がある。次期2027年度介護報酬改定では、居宅介護支援全体への自己負担導入が再び俎上に上る可能性が高く、今回の改正案で住宅型ホーム入居者から自己負担を取る前例ができれば、議論はさらに広がりかねない。家族の会の要望書は、特定地域サービスと並んでこの登録施設介護支援にも明確に反対の立場を示しており、改正案全体への抜本的な再考を国会に求める内容となっている。

介護現場で働く読者にとって何を意味するか

勤務地域で配置基準が変わる時代へ

特定地域サービスが法律として成立すれば、勤務地が「特定地域」に該当するか否かによって、人員配置基準・夜勤体制・管理者要件が変わることになる。中山間地で働く介護職にとっては、専従要件や常勤要件が緩和されることで、ICTを活用した複数事業所兼務や、隣接サービスとの職員相互応援といった柔軟な働き方が制度的に認められる可能性が出てくる。

一方で、現場の介護職一人当たりが担う業務範囲が広がり、夜勤体制が縮小すれば、安全管理の負荷は確実に増える。「人員基準が緩和されたから人手不足は解消される」という単純な構図ではなく、限られた人員で安全と質を維持する仕組み——具体的にはICT・センサー・遠隔モニタリングの体系的な導入、隣接事業所との緊急時連携プロトコルなど——が伴わなければ、現場負荷だけが増えるリスクがある。

キャリア選択と地域格差の現実

転職を考える介護職にとっては、求人票を見るときに「事業所の所在自治体が特定地域指定を受けているか」を確認する視点が新たに必要になる。同じ職種・同じサービス類型でも、配置基準や夜勤体制の前提が異なる事業所が併存する状態になるためだ。「中山間地で人員配置が薄いが運営委ねられる範囲が広い」職場と、「都市部で配置基準は厳格だが分業が進んでいる」職場とで、求められるスキルセットが分かれていく可能性がある。

家族の会が指摘するように、利用者からは「どこで暮らすかで受けられる介護が変わる」状態が生まれることが避けがたい。介護職側にも同じ構造的格差が職場として現れる。地域格差を前提に働く時代の到来を、賃金や処遇改善加算のあり方と並走させて考える必要が出てきた。

処遇改善との整合性が問われる

2026年3月には2026年度分の介護職員等処遇改善加算の取扱いが厚労省通知(介護保険最新情報Vol.1479)で示され、賃上げの方向性が示された。しかし、賃上げと並行して配置基準を緩和する制度設計が進めば、「一人あたりの賃金は上がるが、一人あたりの負荷も増える」という二律背反が現場に持ち込まれる構図になる。家族の会の要望書は、こうした人員確保策の優先順位を問い直す内容として、介護職の側からも注視すべき重要な提起となっている。

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参考文献・出典

まとめ

認知症の人と家族の会が2026年5月12日に発出した緊急要望書は、介護保険法等改正案に対し家族・利用者側から明確に「待った」をかける動きだ。論点は、(1)中山間地での人員配置基準を緩和する「特定地域サービス」、(2)住宅型有料老人ホームのケアマネ新類型「登録施設介護支援」と利用者負担導入——の二点に集約され、いずれも「居住地域・住まいの形態で給付が変わる」ことへの強い違和感が背景にある。和田誠共同代表理事の「一度下げた基準は元に戻せない」という指摘は、改正の不可逆性を端的に表している。

介護現場で働く側にとっても、特定地域サービスは勤務地域によって配置基準・夜勤体制・管理者要件が変わる新しい働き方の到来を意味する。賃上げと配置基準緩和が同時進行する構造のなかで、自分のキャリアをどの地域・どの事業所類型に置くかが問われ始めている。国会での審議を一つひとつ追い、自分の働き方や家族の介護環境への影響を読み解いていきたい。

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執筆者

介護のハタラクナカマ編集部

編集部

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