
下肢静脈瘤とは
下肢静脈瘤は足の静脈弁が壊れて血液が逆流し、血管がこぶ状に膨らむ病気。立ち仕事や高齢者に多い症状、むくみや深部静脈血栓症との違い、弾性ストッキングなどのケア・受診目安を解説。
下肢静脈瘤とは(要点)
下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)とは、足の静脈にある逆流防止弁が壊れて血液が逆流し、皮膚に近い静脈がこぶ状に膨らんで浮き出る病気です。立ち仕事の人や高齢者、女性、妊娠・出産を経験した人に多く、足のだるさ・むくみ・こむら返りなどを伴います。命に直結する病気ではありませんが、進行すると色素沈着や潰瘍を起こすことがあります。
目次
下肢静脈瘤の概要と原因
下肢静脈瘤のしくみと起こる理由
足の静脈は、重力に逆らって血液を心臓へ戻す役割を担っています。立っているときでも血液が下に逆流しないよう、静脈の内側には「逆流防止弁(静脈弁)」が階段状に備わっています。さらに、ふくらはぎの筋肉が収縮するときのポンプ作用(筋ポンプ)が、血液を上へ押し上げる補助をしています。
この弁が壊れたり、ふくらはぎの筋ポンプの働きが弱まったりすると、血液が足側へ逆流して静脈にたまり続けます。たまった血液で静脈の内圧が上がると、皮膚に近い表在静脈が少しずつ太く、曲がりくねって膨らみ、こぶ状に浮き出ます。これが下肢静脈瘤です。日本血管外科学会や国立循環器病研究センターは、この弁機能の低下を主な原因として挙げています。
誘因となるのは、長時間の立ち仕事やデスクワーク、加齢、妊娠・出産、肥満などで、いずれも足の静脈や弁に負担がかかり続ける状況です。国立循環器病研究センターによると、女性は男性の2〜3倍多いとされ、家族に下肢静脈瘤の人がいることも発症のリスク因子として知られています。介護や看護の現場は立ちっぱなし・歩きっぱなしの時間が長く、職業的にリスクが高まりやすい点に注意が必要です。
下肢静脈瘤は基本的にゆっくり進行する慢性の病気で、自然に治ることはほとんどありません。一方で、命に関わる緊急性の高い病気ではないため、症状の程度に応じてケアや治療を選んでいくのが一般的です。
下肢静脈瘤の主な症状
初期は見た目の変化が中心で、進行すると皮膚の合併症が現れます。代表的な症状は次のとおりです。
- 血管がこぶ状に浮き出る:ふくらはぎや太もも、ひざ裏に、青く曲がりくねった血管や、ぼこぼこした膨らみが見える。
- 足のだるさ・重さ:夕方や立ち仕事のあとに、足が重い、だるいと感じやすい。
- むくみ(浮腫):夕方になると足首やふくらはぎがむくみ、靴下の跡が残る。
- こむら返り:夜間や明け方に、ふくらはぎがつる(こむら返り)。
- かゆみ・ほてり:膨らんだ血管の周りがかゆくなったり、ほてったりする。
- 色素沈着:進行すると、足首付近の皮膚が茶色っぽく黒ずむ。
- 皮膚炎・湿疹・皮膚硬結:皮膚が乾いて荒れたり、硬くなったりする。
- 皮膚潰瘍:さらに進むと、足首付近の皮膚がただれて治りにくい傷(潰瘍)ができることがある。
多くの人は「見た目」と「だるさ・むくみ」が主な悩みですが、色素沈着や潰瘍まで進むと治療が長引くため、早めの相談がすすめられます。
下肢静脈瘤とむくみ・深部静脈血栓症の違い
むくみ(浮腫)・リンパ浮腫・深部静脈血栓症との違い
足のだるさやむくみは、下肢静脈瘤以外でも起こります。似た症状を示す状態との違いを整理します。自己判断は禁物で、見分けには医療機関での検査が必要です。
下肢静脈瘤と「むくみ(浮腫)」の違い
むくみ(浮腫)は、皮下に水分がたまった状態を指す症状名で、心臓・腎臓・肝臓の病気、塩分の取りすぎ、長時間の同じ姿勢など、原因はさまざまです。下肢静脈瘤は「むくみを起こす原因のひとつ」であり、こぶ状に浮き出た血管という見た目の変化を伴う点が特徴です。MSDマニュアル家庭版によると、静脈瘤だけでむくみが必ず起こるわけではなく、むくみが強い場合は他の原因も考える必要があるとされています。
下肢静脈瘤とリンパ浮腫の違い
リンパ浮腫は、リンパ液の流れが滞って起こるむくみです。MSDマニュアル家庭版では、静脈性のむくみは指で押すと跡が残る「圧痕性浮腫」、リンパ浮腫は指で押しても跡が残りにくい「非圧痕性浮腫」と説明されています。リンパ浮腫は足の甲や太もも・下腹部にも広がりやすく、皮膚が赤く腫れて熱を伴う蜂窩織炎を合併することがある点も異なります。
下肢静脈瘤と深部静脈血栓症(DVT)の違い
下肢静脈瘤は皮膚に近い「表在静脈」の病気であるのに対し、深部静脈血栓症(DVT)は足の深い場所を通る「深部静脈」に血のかたまり(血栓)ができる病気です。DVTは血栓が肺に飛んで肺血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)を起こすと命に関わるため、緊急性が大きく異なります。片足だけが急に強く腫れて痛む、皮膚が赤黒くなるといった場合はDVTの可能性があり、すぐに受診が必要です。下肢静脈瘤がある人はない人に比べてDVTを起こしやすいとも言われており、急な腫れや痛みには注意します。
下肢静脈瘤のケアと治療
下肢静脈瘤のセルフケア・治療法
下肢静脈瘤は、症状の程度によって「日常のセルフケア」「弾性ストッキングによる圧迫療法」「医療機関での治療」を組み合わせて対応します。治療方針は検査結果をもとに医師が判断します。
1. 日常のセルフケア(保存的ケア)
国立循環器病研究センターは、長時間の立ちっぱなし・座りっぱなしを避ける、休憩時に足を心臓より高く上げる、適度な運動でふくらはぎの筋ポンプを働かせる、といったケアを挙げています。ふくらはぎのマッサージや、肥満があれば体重管理も役立ちます。介護・看護職のように立ち仕事が長い人は、こまめに足首を動かす、休憩中に足を上げるなどの習慣が予防につながります。
2. 弾性ストッキング(圧迫療法)
弾性ストッキングは、足首側を強く、上にいくほど弱く圧迫する医療用ストッキングです。日中に着用して足を適切に圧迫することで、静脈にたまった血液の流れを助け、だるさやむくみといった症状をやわらげます。圧迫療法は下肢静脈瘤を根本的に治すものではなく、症状をコントロールする目的の保存的ケアです。圧迫の強さや適否は人によって異なり、動脈の病気などがある場合は使えないこともあるため、購入・使用前に医師や薬剤師に相談すると安心です。
3. 医療機関での治療
症状が強い場合や見た目の改善を希望する場合は、次のような治療が行われます。
- 硬化療法:静脈瘤に硬化剤を注射して血管を閉じる方法。比較的軽い静脈瘤に用いられます。
- 血管内焼灼術(レーザー・高周波):静脈の中に細いカテーテルを入れ、熱で静脈を内側から閉じる方法。国立循環器病研究センターによると現在の主流で、日帰りや一泊入院で受けられます。2011年以降、レーザー焼灼術は保険適用になっています。
- ストリッピング手術・高位結紮術:逆流している伏在静脈を引き抜く、あるいは縛る従来の手術。
どの治療が向くかは静脈瘤のタイプや進行度によって変わるため、血管外科や循環器科で検査を受けたうえで選択します。
下肢静脈瘤の受診の目安
受診の目安と介護現場での見方
下肢静脈瘤は急いで治療しなければならない病気ではありませんが、次のようなときは血管外科・循環器科などへの受診を検討します。
- 足のだるさ・むくみ・こむら返りが続き、生活に支障が出ている。
- こぶ状の血管が目立ってきた、見た目が気になる。
- 足首付近の皮膚が黒ずんできた(色素沈着)、湿疹や硬さが出てきた。
- 皮膚がただれて治りにくい傷(潰瘍)ができた。
一方で、片足だけが急に強く腫れて痛む、皮膚が赤黒くなる、息苦しさや胸の痛みを伴うといった場合は、深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症など緊急性の高い状態の可能性があり、すぐに医療機関を受診します。
介護・看護の現場では、利用者の足を観察する機会が多くあります。こぶ状の血管や色素沈着、治りにくい足の傷に気づいたら、自己判断でケアを進めず、看護師や医師に情報を共有することが大切です。本記事は一般的な情報提供であり、診断・治療を保証するものではありません。気になる症状があるときは医療機関に相談してください。
下肢静脈瘤のよくある質問
下肢静脈瘤に関するよくある質問
Q. 下肢静脈瘤は自然に治りますか?
A. 自然に治ることはほとんどありません。ゆっくり進行する慢性の病気のため、症状が強い場合はセルフケアや弾性ストッキング、医療機関での治療で対応します。
Q. 下肢静脈瘤は命に関わりますか?
A. 下肢静脈瘤そのものが命に直結することはまれです。ただし、足の深い静脈に血栓ができる深部静脈血栓症は別の病気で、肺血栓塞栓症を起こすと命に関わります。片足が急に強く腫れて痛むときはすぐ受診してください。
Q. むくみがあると下肢静脈瘤ですか?
A. むくみ(浮腫)は下肢静脈瘤以外にも、心臓・腎臓の病気やリンパ浮腫など多くの原因で起こります。下肢静脈瘤ではこぶ状に浮き出た血管を伴うことが多く、見分けには医療機関での検査が必要です。
Q. 弾性ストッキングは市販品でもよいですか?
A. 圧迫の強さや適否は人によって異なり、動脈の病気などがあると使えないこともあります。使い始める前に医師や薬剤師に相談すると安心です。
Q. 立ち仕事だと必ずなりますか?
A. 立ち仕事は誘因のひとつですが、必ずなるわけではありません。こまめに足首を動かす、休憩時に足を上げる、適度に歩くなどで負担を減らすことが予防につながります。
下肢静脈瘤の参考資料
- [1]
- [2]
- [3]
- [4]
下肢静脈瘤のまとめ
まとめ
下肢静脈瘤は、足の静脈弁が壊れて血液が逆流し、皮膚に近い血管がこぶ状に膨らむ慢性の病気です。立ち仕事の多い人や高齢者、女性に多く、足のだるさ・むくみ・こむら返り・色素沈着・潰瘍といった症状が段階的に現れます。むくみやリンパ浮腫、命に関わる深部静脈血栓症とは異なる病気のため、見分けには医療機関での検査が必要です。日常のセルフケアや弾性ストッキングで症状をやわらげつつ、症状が強い場合は血管外科・循環器科で治療を検討します。介護・看護の現場では利用者の足の変化に気づきやすい立場にあり、気になる所見は早めに医師・看護師へ共有することが大切です。
この用語に関連する記事

病院のICT導入に最大8000万円補助、業務効率化が努力義務に|医療従事者の負担軽減へ厚労省が新事業
厚労省が病院のICT導入を最大8000万円補助する新事業を令和8年度に実施。健康保険法等改正案では医療機関の業務効率化が努力義務に。看護師ら医療従事者の負担軽減・働き方改革に何をもたらすか、対象や時期を一次資料で整理します。

在宅酸素療法・COPDの利用者を施設で支える|介護職の観察・呼吸介助・火気管理と看護連携
在宅酸素療法(HOT)やCOPDのある利用者を介護施設で支える介護職向け実務ガイド。SpO2の見方と医行為の境界、増悪サインの観察と記録、呼吸を楽にする体位・介助、火気と感染の管理、息切れに合わせた活動調整、看護師への報告と多職種連携を一次ソースで解説。

インスリン療法の利用者の介護|介護職ができること・できないこと
インスリン療法を受ける高齢者の介護で、介護職ができること・できないこと(厚労省令和4年通知の医行為線引き)を解説。低血糖・高血糖の観察と補食対応、シックデイ、看護師への報告・連携まで現場目線でまとめます。

看護師の不足感、病院・介護施設の77.3%に|SMS調査「働き方改革は約5割が未着手」
株式会社エス・エム・エスが2026年5月に公表した調査で、病院や介護施設など事業者の77.3%が看護師の不足感を回答。働き方改革・定着の取り組みは約5割が未着手。介護現場の医療連携・夜間対応への影響と業務設計の打ち手を読み解きます。
執筆者
介護のハタラクナカマ編集部
編集部
介護業界の転職・キャリア情報を発信。厚生労働省の公的データと現場の声をもとに、介護職で働く方・転職を検討する方に役立つ情報をお届けしています。